スクウェアは貴族でエニックスはヴァイキング? 人たらしでヒットに導く齊藤Pに見る“優秀なゲームプロデューサー”【齊藤陽介×藤澤仁×ヨコオタロウ×安藤武博:座談会】

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途中から入った『ドラクエXI』を、短期集中で立て直すためにやったこと

──齊藤さんはスクエニというパブリッシャー側のプロデューサーですが、デベロッパー側のプロデューサーと比較するとどういった違いがあるんでしょうか。

ヨコオ氏:
 スクエニさんのようなパブリッシャーのプロデューサーと、僕らのようなデベロッパーのプロデューサーでは、プロデュースワークの意味合いがちょっと違うと思うんです。

 デベロッパーのプロデューサーは、スクエニさんみたいなクライアントに仕事を売る人なんですね。それに対してパブリッシャーのプロデューサーは、社内政治みたいなところで戦って企画を通して、そこで予算を確保して当てにいく人だから、ちょっと形態が違うなと。

齊藤氏:
 そういう意味で言うと、社員プロデューサーのほうが仕事は簡単だと、個人的には思いますよ。だって銀行からお金を借りなくてもいいですから。うちで言うとスクウェア・エニックス銀行からお金を借りるだけなので(笑)。

 ただ、スクウェア・エニックス銀行からお金を借りて、それで赤字を続けたら、クビになる覚悟をしておかないと。「3アウトチェンジ制」だと、いつも思っているんですけど。
 三振や内野ゴロ、外野フライを繰り返して3アウトになったら、それはもう向いていないという判断でいいんじゃないですか。

安藤氏:
 じつは3アウトですらないんじゃないのかなと思っていて。

 サラリーマンプロデューサーの条件としては、今、齊藤さんが言ったみたいに、会社をリスクのない銀行と捉えられる人がいいと思います。起業するとやっぱり、銀行からお金を借りるのにすごく時間がかかるし、借りられても数千万円なんですね。

 どれだけキャリアがあっても与信がないから。でもスクウェア・エニックス銀行は、ゲームに対してなら数億以上でもガッと投資するし、それでコケたところで返済義務がないわけだから。そこでビビらずにお金をドーンと突っ込めるのがスゴイ人だと、今は思うんです。

齊藤氏:
 それでもヨコオさんに言わせると、まだ自分はケチくさくて。何十億も突っ込むAAAタイトルなんて、オレにはできないですよ、小心者だから。そんなのやるぐらいだったら、その金を持って逃げたほうがいい(笑)。

藤澤氏:
 『ドラゴンクエストXI』【※】も、かなりのAAAタイトルじゃないですか。

※『ドラゴンクエストXI』……正式タイトルは『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』。2017年にPS4とニンテンドー3DSで発売。PS4版ではHD画質の3Dグラフィックスでキャラクターや背景がリアルに描き出されている一方、3DS版では3Dモードと2Dモードを切り替えることが可能なほか、すれちがい通信などにも対応している。

齊藤氏:
 『XI』はもう流れ弾です。もともと『ドラクエXI』をやる予定はなかったですから。

ヨコオ氏:
 『ニーア オートマタ』をやっている最中に、途中から齊藤さんが『ドラクエXI』のプロデューサーになったんですよ。どうやらそっちがあんまり上手くいってなかったみたいで。

齊藤氏:
 出張で京都にいる時に、三宅(有)さん【※】が京都までやってきて「『ドラクエXI』をやってほしいんだけど」って。

※三宅有
『ドラゴンクエストVIII』でチーフプロデューサーを担当し、『ドラゴンクエストIX』以降、シリーズのエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。スクウェア・エニックス第6ビジネス・ディビジョンのディビジョン・エグゼクティブとして『ドラクエ』ブランド全体を統括する一方、同社の取締役兼執行役員でもある。

安藤氏:
 三宅さんがそのために京都まで来たの? 

齊藤氏:
 そう。わざわざここまで来たから「ダメだ」とは言わせない作戦か、みたいな。

──先ほど出た「夜討ち朝駆け」みたいな話ですね。

安藤氏:
 また断り切れないパターンになっちゃったんですね。

齊藤氏:
 いざ『ドラクエXI』に入ると、その段階ではいろんな問題が起きていて。じゃあそれをどうするかというのを3カ月ぐらいの短期集中で整理して、立て直していった感じですね。

──そういう立て直しは、どういった手順でやるんですか? 

齊藤氏:
 『ニーア オートマタ』を作る際に、前作で合格点じゃなかった箇所を考えたのと同じですよ。『ドラクエ』というタイトルを作るにあたって合格点ではないところを、順番に洗い出していったんです。

 リーダーが足りていなかったところには、『ドラクエX』のサブリーダークラスを連れてきて、そこのリーダーにしたりして。「現状のレポートラインを見せてください」「あっ、これは絶対にここが足りてないですね」っていうところにパッチを当てる仕事を、3~4ヵ月かけてやった感じですね。

──合格じゃないところを洗い出すのは、どうやったんですか? 

齊藤氏:
 開発会社のスタッフと直接話すんです。「何がダメだと思う?」って。毎週、毎週。開発会社の社長とは毎日(笑。もう20年ぐらいゲームを作っているので、相手の話を聞けば何がダメかというのはだいたいわかるので。

 上の人と下の人の意見を、同じスタンスで聞く感じですかね。一方通行で聞くと、それは自分の都合のいいようにしか言ってないでしょ、ってことになりますから。

──なるほど。

齊藤氏:
 そんなわけで『ドラクエXI』をやることになったんですが、自分で直接、PS4版と3DS版の両方を見られるわけがないので。「アシスタントプロデューサーをつけようか」と言われたんですけど、問題の多い状況でアシスタントプロデューサーをやれと言われても、モチベーションを持って仕事をできるヤツなんているわけがないですから。
 だったら若くても経験がなくてもいいから、APじゃなくてちゃんとしたプロデューサーとして機種ごとに1人ずつ、それぞれ立ててくださいと。それでもし問題が起きたら全部、オレがケツを拭くからと。

 PS4版は岡本岡本北斗氏【※1】)っていう、『シアトリズム ドラゴンクエスト』ぐらいしかやったことがない人間で。3DS版のヨコちゃん横田賢人氏【※2】)はそもそもドラゴンクエストの広報だし。
 本人たちにはプレッシャーがかかるかもしれないけど、ちゃんとプロデューサーというポジションで、モチベーションを持ってやったほうがいいでしょと。何か起きた時には、オレは逃げずに責任を取るからって。それで「やる?」って聞いたら、2人とも「やる」と言ってくれたので。

※1 岡本北斗
2011年にスクウェア・エニックスに入社。『スライムもりもりドラゴンクエスト3 大海賊としっぽ団』『いただきストリートWii』ニンテンドー3DS版『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』などの開発に携わった後、『ドラゴンクエストXI』PS4版のプロデューサーを務める。

※2 横田賢人
2007年にスクウェア・エニックスにアルバイトとして入社。2011年に「ドラゴンクエスト」シリーズの広報チームへと異動し、広報アシスタントを経て広報ディレクターとなる。『ドラゴンクエストXI』ではニンテンドー3DS版のプロデューサーを務める。

──その人選は誰が決めたんですか? 

齊藤氏:
 もうその2人しかいなかったんですよ。『ドラクエ』のことが好きで、現状を分かっているというのは。その2人なら一生懸命やってくれそうだったから。

『ドラクエXI』は堀井さんにケンカをなだめられながら制作された?若手ディレクター&プロデューサーが語る開発裏話【忘年会書き起こし】

安藤氏:
 普通に考えたら、ビックリするような抜擢ですよ。

藤澤氏:
 もともと『ドラクエ』のプロデューサーって、会社に入ったばかりのいちばん若いヤツがやっていた時期があるんですよ。市村市村龍太郎氏【※】)みたいに。市村を見ていたから、横田君たちがやるのを見ても「あの流れか」みたいな感じでしたよね。

※市村龍太郎
『ドラゴンクエストIV』の初代PS版リメイクでプロデューサーを担当。『ドラゴンクエストVIII』『ドラゴンクエストIX』でナンバリングタイトルのプロデューサーとなる。このほか、『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』や『超速変形ジャイロゼッター』といったアーケードタイトルや、スマホアプリの『星のドラゴンクエスト』でもプロデューサーを務めている。

齊藤氏:
 そう。エニックスのスタイルで考えると、そんなに違和感はないんです。

 『ドラクエXI』は『ドラクエ』30周年の記念作品ですから、彼らに限らず現場の個々の人たちがそれぞれ、「『ドラクエ』に携わることができるのは素晴らしいことだ」というモチベーションを持っているので。
 それがやっぱり最大限の、いい方向に働くパワーになっているんですよね。

最初に決めた着地点がスタッフ全体で共有されていれば、制作途中でねじれることはない

──人と人とのコミュニケーションであるとか、スタッフが快適に仕事できる環境づくり的な話についても伺って行こうと思うんですが、例えばプロデューサーをやっていると、その方向はどう考えても売りづらいなとか、売れないだろうなみたいな方向に向かうこともあると思うんですけど、その時はどうやって軌道修正をさせるんですか? 

齊藤氏:
 たぶんそれはきっと、最初に作ろうと思っていたものとは違うことになっちゃっているんでしょうね。最初に作ろうと思っていた着地点が、プロデューサーとディレクターの2人だけじゃなくて、スタッフ全体でビジョンとして共有できていれば、そんな曲がり方をしないはずなので。

 だからまず曲がりきる前に、元に戻そうとするんじゃないですかね。これまでのところは、そこまでねじれたことはあまりなかったかもしれないです。

藤澤氏:
 『ドラクエX』の開発初期は、オレはバトルをコマンドバトルにしたかったし、他のプレイヤーとチャットできるのを禁止しようとしていたし。

 それに対して齊藤さんは、リアルタイムバトルの面白さをオレに分かってもらいたいから、毎日「『FFXI』をやろう」と誘ってくれて(笑)。そういう時代があったんですよ。

齊藤氏:
 『クロスゲート』ってコマンドバトルなんだよね。ターン制で、30秒間ぐらいのあいだにコマンドを入れなかったら流れちゃうっていう。
 当時はそれがいいと思ってやったんだけど、時代が変わってしまって。だからそこだけは、藤澤さんに伝えなければいけない要素だと思ったから。

 チャットはわかんないね。もしかしたら、序盤は必要最低限な定型文だけでも良かったのかもしれない。

藤澤氏:
 齊藤さんは「チャットは絶対にあったほうがいい」と言ってて。でもオレは文字がいっぱいある『ドラクエ』はやりたくなかったから、「せめてチャットウィンドウだけはなくしたい」って。

齊藤氏:
 あれは逆に新しかったと思うよ。

──文字数がすごく制限されていましたよね。

齊藤氏:
 今の時代には、あっちのほうが合っていたよね。

藤澤氏:
 そう。一周回ってあれが良かった。あとは種族を出すのもイヤだったし。『ドラクエ』の主人公は人間じゃなきゃいけないと思っていたので。

齊藤氏:
 必ずしも種族じゃなくて、鳥山明さんの世界でやれればいいなと思っていた。鳥山さんの描く人間は、デブのおじさんもいれば、亀仙人みたいなおじいちゃんもいて、2頭身のスッパマンみたいなのも、アラレちゃんみたいなのもいるし。それが鳥山ワールドだと思ったので。

 そんなふうに人間だけでもいいからバリエーションを揃えたいと思っていたんだけど、堀井さんが「個性を出すなら種族のほうがいいんじゃないか」って。でも、人間がいないのはさすがになぁ……と思った時に、人間に変われるというアイデアが出てきて。

藤澤氏:
 僕はどうしても人間じゃないとイヤだった。しょうがないから最初は人間で、途中で他の種族になるっていうふうに、シナリオを変えて(笑)。

ヨコオ氏:
 『ニーア』はそこまで揉めた記憶というか、骨格から変わったという記憶はないですね。

齊藤氏:
 『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』は、『ドラッグ オン ドラグーン』がまず前提としてあって。ヨコオさんが作るものはこういうもの、というのがあったから。

 唯一ヨコオさんに言ったのは、お父さんと娘の話でもいいし、お兄ちゃんと妹の話でもいいから、「最後は美しい空の下で2人が手をつないで、笑顔で歩いているような話にしてくれ」と。
 なぜならそう言っておかないと、ヨコオさんは赤ちゃんが空から降ってきて人を食うような話【※】を書くから(笑)。最初と最後だけ言っておけば、真ん中はめっちゃ面白い話を書ける人だと思っていたので、大丈夫だろうと思ったら……。

※赤ちゃんが空から降ってきて人を食うような話
『ドラッグ オン ドラグーン』のマルチエンディングのなかには、実際にこのような展開が登場する。

ヨコオ氏:
 そのシーンは入っていましたよね? 

齊藤氏:
 フワッと入っていた(笑)。でもアレは、ハッピーエンドだと思う人もいれば、バッドエンドだと思う人もいて。オレは最上級のハッピーエンドだと思ったから、良かったなと。

ヨコオ氏:
 今、思い出した。齊藤さんはゲームの中身についてぜんぜん何も言わないんですけど、齊藤さんが唯一こだわる謎ポイントがあって。2段ジャンプのタイミングだけは、ものすごくこだわるんですよ(笑)。

齊藤氏:
 手触り感が気持ち悪いのはイヤだから。

ヨコオ氏:
 いや、前作でもそうだったんですけど、他のバトルアクションに比べて、2段ジャンプに対するこだわり方だけが、明らかにおかしいんですよ

 プラチナさんに「齊藤さんは前作で2段ジャンプにすごくこだわっていたから、今回も言ってくるんじゃないか」という話をしたら、案の定言ってきて(笑)。

齊藤氏:
 ジャンプって、ボタンを押した瞬間にジャンプするゲームと、離した瞬間にジャンプするゲームがあって。それって似ているようで、ぜんぜん違うんですよ。
 その上さらに、押した瞬間のレスポンスが良いものと悪いものがあって。そういう手触り感の部分での調整が上手くいってないと、いちばん気持ち悪く表に出てしまうのがジャンプだと思うんですね。

ヨコオ氏:
 いやでも、齊藤さんと言えば2段ジャンプの人っていう認識ですね。しかも2段目(笑)。意味が分からないと思いました。

齊藤氏:
 RPGで手持ちぶさたになったりした時に、特に意味がなくてもジャンプするじゃないですか。それで『ドラクエX』でもジャンプしたいとずっと言っていて。

藤澤氏:
 それに対してオレは最初、「ちょっとした壁も登れないジャンプなんていらない」と言っていたんだけど。

安藤氏:
 齊藤さんは『ジャンピングフラッシュ!』の森川さんとお仕事をしていましたから、ジャンプに対するこだわりがあるんじゃないですか。あと『トゥームレイダー3』【※】もありましたよね。

※『トゥームレイダー3』……『トゥームレイダー』シリーズは現在、パブリッシャーであるアイドス・インタラクティブがスクウェア・エニックス傘下になったことから、同社の発売となっている。だがそれとは別に、『トゥームレイダー3』の初代PS版が1999年に日本で発売された際には、旧エニックスがアイドスから日本国内の販売権を取得して発売元となっていた。同作はオリジナルそのままの「海外版」と、ゲームバランスなどが日本向けにローカライズされた「日本版」が同梱された2枚組で発売された。
(画像はSteam:Tomb Raider IIIより)

齊藤氏:
 『トゥームレイダー3』のジャンプが個人的にはめちゃくちゃ気持ち悪くて。でもジャンプは直せなかったので、代わりにジャンプした先の着地点を大きく伸ばしてもらったりしましたね。

ヨコオ氏:
 『トゥームレイダー』を直させた男だ(笑)。

トラブルが起きる原因は、間接的なコミュニケーションにある

藤澤氏:
 先ほど、齊藤さんはゲームを作っている時に何も口出ししないって話がありましたけど、その時にじゃあ何をやっているかというと、ひたすら部下のモチベーションを上げることに専念してたじゃないですか。

安藤氏:
 そう、齊藤さんはモチベーターでもあると思うんですよね。エニックス時代は週3で飲みに行っていました。

齊藤氏:
 オッサンたちはべつにいいんだけど、若い子たちとは一緒にお酒を飲みに行く。飲まない子たちとは一緒に『モンハン』をやる。
 『モンハン』をやらない子たちとは一緒にバスケットをやったり、バーベキューをやったり、休日をフル稼働して一緒に付き合うとか。

藤澤氏:
 齊藤さんにこちらが本気でお願いした時に、「それはダメだ」と言われたことは1回もないですから。

 オレが『ドラクエIX』を終わって『X』に戻ってきた時に、どうもバトルを含めて全部が気に食わなくて。「全部作り直したい」と齊藤さんに言って、「それはさすがに勘弁してくれ」と言われるだろうなと思っていたら、齊藤さんは3秒も待たずに「あぁいいよ」としか言わなかったので、スゴイなと。

齊藤氏:
 でもその時も、頭のなかでちゃんと電卓は叩いている(笑)。

ヨコオ氏:
 僕はモチベーションを上げられたっていうのはあんまりないですけど、モチベーションを潰されたことがほとんどないという意味では、齊藤さんは優秀なプロデューサーなのかなと。

藤澤氏:
 本気で潰しに来る人が多いからね(笑)。

ヨコオ氏:
 齊藤さんが『ドラクエXI』のプロデューサーになって、そこから何か月かのあいだは、『ニーア オートマタ』のほうに割く時間が激減したんです。『ドラクエXI』が大変すぎて。

 その時に、むしろこっちは安心だから来てないんだろうなっていう、任されている感があって。捨てられている感はなかったですね。

安藤氏:
 そういうふうに思えるのはスゴイですよね。

ヨコオ氏:
 とにかく、齊藤さんと一緒にやっていてイヤだったという記憶がないのは、この人の持っている人たらしのスゴイところだなと思いますね。

齊藤氏:
 オレは褒めるのが苦手なんです。自分が褒められるのも苦手だし、人を褒めるのも苦手。褒められても、どう返したらいいのかわからないので。

藤澤氏:
 そう言われてみると、齊藤さんに褒められた記憶はないなぁ。

齊藤氏:
 だったら人を褒めなくてもいいような状態を、常に作り続けることのほうがラクなので。相手の気持ちを高揚させるといったことを意識しなくてもいい環境を作るのに、自分の労力を使ったほうがラクだと思うんです。

──その環境を作る具体的な手段は何ですか? 

齊藤氏:
 問題が起きそうなところを早めに解決することじゃないですかね。目の前に落ちている石ころをなるべく取っておいてあげるとか。

──もちろん事前に察知できるなら、それに越したことはないと思うんですけど、普通はそれができないわけじゃないですか。それはどうやって察知するんですか?

齊藤氏:
 経験ですかね……。まぁ、ヨコオさんは突然キレるんで。

ヨコオ氏:
 キレますよ(笑)。藤澤さんはキレないんですか? 

藤澤氏:
 オレの場合は口をきかないから(笑)。

齊藤氏:
 ヨコオさんは自分がちゃんとやっているから、ちゃんとやってない人がいるとめっちゃキレるんですよ。

藤澤氏:
 オレはちゃんとやってないみたいじゃないですか(笑)。

齊藤氏:
 藤澤さんは、ちゃんとやってないヤツは放っておけばいいじゃんっていう。

藤澤氏:
 まあね。ついてくるヤツだけついてくればいいから。

齊藤氏:
 キレるほうが怖いか、放っとかれるほうが怖いか、どっちが怖いかだよね(笑)。それで夜中の2時ぐらいに、ブチ切れたヨコオさんからメッセージが届いたことがあって。

ヨコオ氏:
 僕が大阪でキレて「明日、東京に帰りますわ」って。一応、礼儀だと思って齊藤さんにメッセージを送って、そのまま帰る準備をしていたら、齊藤さんから「明日オレが行くわ」みたいな返事が来て。
 「いや来なくていいです。僕がそっちに行きます」「いやオレが行く」って。結局、齊藤さんが翌日大阪に来て、火消しに回ってくれたという。

安藤氏:
 なるほど、火消しの最後は直接のコミュニケーションなんですね。

齊藤氏:
 それは千田さんに教わったことですね。「直接面と向かっていれば起きないはずのトラブルが起きるのは、メールだったり電話だったり、間接的なコミュニケーションのせいだから。だから何も用事がなくても、週1回は絶対に顔を合わせて話せ」と。

 でも大阪だとさすがに週イチは無理なので、本当にご飯を食べに行くだけでもいいから、1カ月に1回は向こうに行くことを欠かさずやろうと思って。どうしても忙しくて行けない時は「申し訳ないけど東京に来てください」っていう話もして。

 ヨコオさんが大阪にいる時は、毎月必ず向こうに行っていましたね。でもゲームをどう作るかという話をしたのは、ふだんのSMSのほうが多かったですけど。
 それで大阪で顔を突き合わせた時には、夕方の5時ぐらいから立ち食いの串カツ屋でビールを飲んで(笑)。

ヨコオ氏:
 調子がいい時は本当に、進捗を見て「わかった」って言って、あとは飲んで帰るぐらいの感じだったんですけど。

安藤氏:
 たとえ飲んで帰るだけでも、実際に会うっていうのは大事ですね。

齊藤氏:
 それは大事。

30分ぐらい話していると、その人に仕事を任せてもいいかどうかは分かる

ヨコオ氏:
 そんなこんなで『ニーア』を作ってきましたけど、コンシューマで『ドラクエ』や『FF』みたいなIPがあって、それをソーシャルゲームで仕込むと当たるっていう構造が、ここ何年か続いているじゃないですか。

 でも『ニーア オートマタ』は誰にも何も言われないまま、ソーシャルゲームを作らないままで放置されている、という感じが面白いですよね。

齊藤氏:
 いや、違う違う。粗製乱造されるのがイヤだったので、こっちで全部止めてるの。もちろん、スゴイなと思う話が来たら、ちゃんとヨコオさんに話しますよ。
 この人なら安心して任せられそうだという人は、ヨコオさんに会わせるし。逆にコイツは金儲けのことしか考えてないなと思うんだったら、こっちで止めればいいわけだし。

ヨコオ氏:
 そういう意味ではやっぱり人を見ていますよね、齊藤さんは。

──そこもちゃんと判断するんですね。どうやって判断しているのかな、って思いますけど。

藤澤氏:
 持ち込みの企画は、どこで判断するんですか? さっきは「三顧の礼でオーケーする」と言っていましたけど。

齊藤氏:
 企画の良い悪いはともかくとして、30分とか1時間ぐらい話していると、言い方は悪いけど、その人が仕事できる人なのか、できない人なのかぐらいは分かるから。
 この人には任せられないと思うのなら、それはお断りしたほうがいい。もともと付き合いがあれば、仕方なくやるかもしれないけど。

藤澤氏:
 オレは齊藤さんほど人を見る目がないのかもしれない。30分話してこの人は大丈夫そうだなと思ったら、大丈夫じゃなかったことがたくさんあるので(笑)。

齊藤氏:
 じゃあ次は、喫茶店とかで藤澤さんとその人が話している横で、オレが新聞を読むフリをして。

藤澤氏:
 「こいつはダメだ」ってサインを送るんですか(笑)。

齊藤氏:
 「30点」「40点」とか(笑)。

安藤氏:
 面白いですね。人に関してもそういう審美眼というか、相馬眼みたいなものってあるんですね。

──そこが何なんだろうなというのが、本当に興味深いですね。

藤澤氏:
 言葉で言えない、言語化できないことなんでしょうね。

──座組むセンスみたいなものって、僕はあると思っているんです。とりあえず有名な人をただ並べるだけでは、やっぱり当たらない。
 当たる企画には明確な狙いというか、これはイケるみたいな感覚があって。それを言語化するとしたら、どういうものなんだろうと。

齊藤氏:
 絶対的なルールはたぶんなくて、マーケットはまったく意識していないと思います。ゲームを作るのって、時間がかかるじゃないですか。
 そこで自分が好きじゃないものは、最後まで好きでいられないと思うので。そもそも自分が最後まで好きでいられるかどうかということを前提にした上で。

 『クロスゲート』を作った時は、『ディアブロ』『ウルティマ・オンライン』がめっちゃ楽しくて。日本でもそういうゲームを作っている会社はないかな? と思って調べたら大阪にそういう会社があって。そこで『クロスゲート』を作りましょうと。

 『クロスゲート』はPCのオンラインゲームで、当時はダウンロード販売がなかったので、パソコンショップにゲームを買いに行くだけでもめちゃくちゃ敷居が高いから、それならブラウザとメーラーだけで遊べるRPGがあればいいなと。
 『Post Pet』なんて素晴らしいな、と思いながら見ていたので。それで『MaildeQuest』【※】っていう、Webブラウザに結果を入れたらある一定時間でその結果に対するメールが届くっていうものを、4人で数百万円使って作ったんです。それが最終的に何十億にもなって。

※『MaildeQuest』……Webブラウザでサーバーにアクセスし、作成したキャラクターの行動を1日2回指示すると、その行動の結果がメールで返信されるというシステムのオンラインRPG。最大4人のプレイヤーでパーティを組み、アイテムを交換するといった交流も可能。2001年に『Mail de Quest~虹色の夜~』のタイトルでサービスを開始した後、2002年にはタイトルが『みんなdeクエスト』に変更された。携帯電話やスマホにも対応するなど、サービス形態や物語を変更しながら15年以上に渡ってサービスを続けてきたが、2017年に惜しくもサービスを終了した。
(画像はみんなdeクエスト | SQUARE ENIX MEMBERSより)

安藤氏:
 そうですね。かなりの長寿タイトルになりましたよね。

齊藤氏:
 それもどちらかと言うと、「『クロスゲート』っていうパソコンのオンラインゲームがあるんだよ」ということを広めるための、ホップステップジャンプのステップぐらいの感じで作ったんですけど。

 あと、『ユーラシアエクスプレス殺人事件』【※】という実写ゲームは、福嶋さんから「CGは金がかかるから実写にしようぜ」と言われて。めっちゃ抵抗してイヤだって断ったんですけど(笑)、ほかにやる人がいないからやれって言われて。

※『ユーラシアエクスプレス殺人事件』……1998年に発売されたPlayStation用実写ミステリーアドベンチャーゲーム。私立探偵の主人公が、修学旅行の女子高生たちが乗る列車に同乗し、殺人事件を解決する。現在もドラマなどで女優として活躍する顔ぶれが多数登場する豪華キャストに加えて、小島秀夫氏をはじめとするゲームクリエイターのカメオ出演も見どころだ。
(画像はAmazon | ユーラシアエクスプレス殺人事件 | ゲームソフトより)

 それで、めちゃめちゃアイドルのことを勉強したんですよ、イチから。その当時、3DOでミステリー物だとか、洋ゲーで実写を使ったヤツはあったんですけど、そんなのを見たって楽しくない。テレビをつければ見られるものを、インタラクティブで操作するだけじゃつまらないと。

 当時はPC-9801で『同級生』とかのエロゲーがあった時代ですけど、アレの何が素晴らしいと思ったかというと、目線がプレイヤーに向いているということで。カメラに向かって話しかけるのは、TVドラマで乱用したらダメな演出だけど、インタラクティブならアリだと思って。

 じゃあこっちに目線を向けてくれるのは誰がいい? と思った時に、それは可愛い子がいいに決まっていると。
 でも自分が可愛いと思う子と、隣りの人が可愛いと思う子は絶対に違うはずだから、いろんな可愛い子をできるだけたくさん並べて、それでミステリーが起きたら楽しいんじゃないの、って。

ヨコオ氏:
 その結果、深田恭子さんと加藤あいさんを発掘した男ですから。齊藤さんは。

齊藤氏:
 『ユーラシア』では、事務所のほうから「まだ新人の若い子も登場させてほしい」というオーダーがあって。それで宣材がいっぱいあるなかから選んだのが、ほぼデビュー前の深田恭子さん加藤あいさんだったんです。結果論ですが、当時ゲームを作っている1年半ぐらいの過程で、2人ともすごくブレイクしたんですよ。

 それはともかく企画に関しては、2年間数年間ゲームを作る過程のなかで自分が楽しいと思えるかどうか、2年間数年間同じテンションで愛せるものなのかどうかが、重要なんじゃないかと。そこにマニュアル化できるものはない気がします。
 逆にこうすればいいというのがあったら、オレが教えてもらいたいくらいですよ。

ヨコオ氏:
 そうそう、社外でやっていると、スクエニさんに対して毎月、マイルストーンを提出しなきゃいけないんです。

 要はそれが次のお金が出るかどうかというところにつながっていくので、ものすごく大事なことなんですね。でも齊藤さんは、毎月のマイルストーンをあんまり気にしないタイプの人で。

齊藤氏:
 それはあんまり言うと会社に怒られる(笑)。

ヨコオ氏:
 齊藤さんは本質的にゴールに向かっているかどうかが大事で、ただ単に体裁を整えても、そういうのは見透かすタイプの人だから、意味がないんです。
 逆にちゃんとゴールに向かってやってさえいれば、出すものを出してなくても「いい」と言ってくれるので。「今月はないです」「あぁそうか」って。

齊藤氏:
 契約のマイルストーンごとに用意する資料なんて、そんなものは言ってしまえばムダで(笑)。
 ヘンな話、それを優先しようとしてムダな時間を使っていることも、いっぱいあるはずなので。だったら自分の責任の範疇で、ちゃんとモノが積み上がっていっているかを現場で見たほうが、よっぽど有益ですよ。

ヨコオ氏:
 それはすごく現場に近い考え方ですよね。齊藤さんは体(てい)ではなくて実(じつ)を見るプロデューサーだなと思います。

齊藤氏:
 でも会社に信用してもらえるかどうかということも、けっこう大きいから。それはお金という現実を勝ち取るためのものとしては有効に作用するんだけど、じゃあそれをちゃんとやってキレイに完成するタイトルはあるか? と言ったら、ぜんぜんそうとは限らないし。

ヨコオ氏:
 デベロッパーはウソをつきますしね。

齊藤氏:
 そう!(笑) 
 最近は共有のサーバーがあって、仕事の成果もそこに上がっているし、誰が今、何をやっているかというスケジュールも、そこにちゃんとあって。それならそのサーバーを覗ける環境を作るとか、口頭でもいいからちゃんと報告してもらうとかのほうがよっぽど有益で。

 でも会社としてはそうするわけにもいかないから、何を担保にすればいいかといったら、その毎月の報告書を担保にしてお金を払っているので。

──今のお話に関連しますけど、齊藤さんは現場の環境を作る時に、透明性やオープン性を重視します? 仕事って放っておくと、どんどんクローズドになっていくじゃないですか。それで何か問題が起きた時には、まずそこをこじ開ける作業から始まりますよね。
 僕はそれがイヤなので、基本的にオープンにしろって言っているんです。オープンにしても、それを逐一見ているわけではないんですが、現場にとっては見られているかもしれないって思うことが、けっこう重要なのかなと。

藤澤氏:
 齊藤さんは、とにかく飲み会を開いてスタッフ全員と話をしているんです。オレはディレクターでも顔と名前の一致しないスタッフがいたけど、齊藤さんは全員のプロフィールまで覚えているんですよ。

齊藤氏:
 プロジェクトが立ち上がったタイミングで、全員は無理かもしれないけど、ほぼ全員と1回は会って話をして、名前と顔を極力覚えようと思っていて。

 あと藤澤さんは覚えていないかもしれないけど、オレはスクウェアとエニックスが合併した直後の、クローズドのブースが大キライで。

藤澤氏:
 あぁ、アレね。

齊藤氏:
 総務まで行って、「もしこの次に会社が引っ越す時に、まだこの壁の高いブースのままだったら、休日にチェーンソーを持ってきて、全部のブースをローブースに変えるぞ」って脅しをかけたぐらいだから(笑)。

──実行はしなかったんでしょうけど、とんでもないですね(笑)。

齊藤氏:
 もちろんクローズドのブースも、集中しやすいとかのメリットはあると思いますよ。ただ、現場を監督する側としては1週間、下手すると2~3週間ぐらい、現場の人たちの顔色もわからない状態で仕事をして、ネットワーク経由で成果を提出されるんだったら、自分としては管理監督をできる自信がなかったので。
 だったら多少集中力は欠くかもしれないけど、少なくとも全員の顔が見られる環境にしてもらわないと。それはずっとやろうと思っているし。

 あとは、週報だけは絶対に提出しろと。それも普通の週報だったら「今週やったこと、来週やることを書きなさい」なんだけど、「困ったこと、言いたいこと、雑談をいちばん最初に書きなさい」というフォーマットを作って。
 それを読むのは今でも、毎週月曜日の午前中の自分のタスクなんです。全員分のそれを見て「子どもが生まれました」と書いてあったら、「おめでとう」と返事したりして。

──全員というのは? 

齊藤氏:
 『ドラクエX』の開発スタッフ全員ですね。

藤澤氏:
 週報はオレも読んでいましたけど。でも週報はいい効果もありつつ、ケンカの火種みたいなところもあって(笑)。

齊藤氏:
 そうそう(笑)。でも自分の中に溜め込んじゃうぐらいなら、週報に書いておけと。

──その週報は、スクウェア・エニックスのルールなんですか? 

藤澤氏:
 『ドラクエX』だけのルールですね。

齊藤氏:
 オレが単純に、みんなと話す機会がほしいっていう。

藤澤氏:
 みなさんから見たら、齊藤さんがどんなところで仕事をしているのか、イメージが湧かないと思うんですよ。エライ人部屋みたいなところに引きこもって、仕事しているような気がするじゃないですか。ところがみんなと同じところに机を並べて、きったない机で仕事していて(笑)。

──オフィスのいちばん奥とかでもないんですか? 

齊藤氏:
 階段の裏です(笑)。

ヨコオ氏:
 ぜんぜんいい席じゃない。

藤澤氏:
 いちばん悪い席と言っても過言ではないでしょ(笑)。

──それはあえて要求したんですか? 

齊藤氏:
 だって個室とかだと話しに来づらいじゃないですか。そうじゃなくても来づらいはずなのに。

安藤氏:
 普通はけっこうな広さの個室が用意されるんですけどね、齊藤さんぐらい偉くなると。

藤澤氏:
 でも、全スタッフがいるところの真ん中に齊藤さんがいて。

齊藤氏:
 しかも誰よりも机が汚いという(笑)。

僕らの預かり知らぬところで、齊藤陽介は寝ないでいろいろ活動している

齊藤氏:
 スイマセン、ちょっとお手洗いに行ってもいいですか? 

──そういえばみなさん、ここまでずっと飲み続けていましたからね。じゃあいったん休憩にしましょうか。

藤澤氏:
 ……本人がいないから言いますけど、三宅さんが齊藤さんについて、「あんなにどこに行ってもトラブルを起こさない人間はいない」と言っていて。

 どこに行っても評判が良くて、そんな人間はこの男以外にはいないから、それが彼の最高の武器なんだろう、と。それは本当にそうだなと思います。

──ドワンゴのゲーム配信チームも、みんな齊藤さんが好きなんですよ。スクエニの企画の話題になると、「じゃあ齊藤さんに相談すればいいんじゃない?」みたいな話になるんです。
 それはスゴイなと思っていて。取締役だから本当は偉い人なんだけど、なんだか気軽に出てくれそうな気がするんです。そういうふうに声がかかりやすいというのを、齊藤さんは意識的にやっているんじゃないかと。

安藤氏:
 これだけ好かれているということは、逆に齊藤さんをすごく嫌ってる人もいるのかな? 

藤澤氏:
 聞いたことないですね。齊藤さんをキライって言うと、その人のほうが問題あるんじゃないかという気にさせるぐらいですから。

──かといって、いわゆる世渡りが上手いというのとも、ちょっと違う雰囲気なんですよね。見るところを見ているし、芯もあるし。

安藤氏:
 あと、めっちゃド根性ですから。誰よりも早く来るとか、誰よりも遅くいるとか、メチャやりますからね。

藤澤氏:
 いちばん最後に帰って、次の日はいちばん最初にいるとか、どうなっているんだろうと(笑)。

──昔の話でも出ていましたけど、齊藤さん寝てない説はありますよね。でも、齊藤さんみたいな働き方をする人が上にいると、「自分もそうしなきゃいけない」みたいな感じにはならないんですか? 

安藤氏:
 それは無理なので(笑)。

ヨコオ氏:
 齊藤さんが寝てない時間のすべてが自分の業務と被っているかというと、そうじゃなくて。午前中は役員会に出ていたりとか、そういう自分の預かり知らぬところでも寝てないので。

 で、午後は一緒に打ち合わせをして夜は飲んで、その後は僕の預かり知らぬところでオンラインゲームをやっていたりとか。だから自分の見えないところで、齊藤陽介は寝ないでいろいろ生きているっていう気がしますけどね。

齊藤氏:
 (お手洗いから戻ってきて)そうだよ(笑)。

藤澤氏:
 『ドラクエX』のベータテストが始まった時も、冗談抜きに齊藤さんが全プレイヤーのなかでいちばん触っているんじゃないか、というぐらい触っていたので。

齊藤氏:
 それは本当に寝てなかった。食欲と性欲はあるんだけど、そのぶん睡眠欲はなくて。自分が寝ているあいだに、この世の中に楽しいことが起きていたらどうしよう、みたいな(笑)。

──ふだんは何時間ぐらい寝ているんですか? 

齊藤氏:
 前は本当に、働いているのが楽しくて楽しくてしょうがない時はずっと会社にいたし、1日に5食ぐらい食べて起きていたので、1日2時間ぐらいしか寝てなかったんじゃないですか。

──ナポレオンもビックリですね。

齊藤氏:
 それで一年中働いていたと思いますよ。

ヨコオ氏:
 そういう時代もありましたね。

齊藤氏:
 自分がやりたいんだったら、それが許されていたんですよ、以前は。今はその時よりは寝ていますけど。

安藤氏:
 「なんで寝ないんですか? なんでそんなに仕事するんですか?」という話をした時に、「もともと病気があって……」と言っていましたよね。

齊藤氏:
 もともと喘息持ちで、喘息って夜、寝られないんですよ。横になることができなくて。それに慣れてしまっていたのもあると思う。

 自分のことになると本当に、優先順位がめちゃ低いので。仕事も家庭もちゃんとやっている人に対して失礼な話かもしれないけど。
 両方を同じ感じにやるのは無理じゃないかなって、自分で思う。両方ともほどほどならいいけど。

 去年、仕方なく入院して手術しましたけど、実は何年も続いていたことで。入院して手術したのは、脈拍が早くなるっていうものだったんですけど、自分では、人間っていうのはみんな急に脈拍が早くなるものだと思っていたから(笑)。

 PCがデフラグしているみたいなものだと思っていたの、本当に。脈拍が急に早くなって、しばらくして元に戻ると、けっこうスッキリするから(笑)。
 運動も何もしてないのに、脈拍が急に200を超えて。

安藤氏:
 運動して身体をけっこう追い込んでも、脈拍200は普通、いかないですよ。

齊藤氏:
 病院の先生に「この脈拍はオリンピック選手よりスゴイよ」って言われたからね(笑)。

 『ドラクエXI』を発売する1カ月ぐらい前に具合が悪くなって。翌日は『ドラクエX』の生放送があったので、寝ている間に治るかなと思ったら、朝になっても治らなくて。
 それで会社に一応連絡したら「救急車を呼んでください!」って言われたんです。その時は結局、点滴で脈を正常に戻す薬を入れたら、すぐに治ったんだけど。

 それで『ドラクエXI』の発売日の翌週に、火・水・木の2泊3日で入院して、手術して。それで金曜日から東京ビッグサイトに行って、土曜日にイベントをやるっていう感じで。
 ちょっとスッキリしたね、初めて休みを取ったから。

 最近またちょっと調子がおかしいんだけど、手術の痛みよりはラクだから(笑)。

ヨコオ氏:
 またおかしくなっているんじゃないですか、結局。もし齊藤さんが死んだら、僕の仕事がなくなるわけですけども。

齊藤氏:
 なくならないよ(笑)。

エニックスは中国で、醤油ビジネスのシェアが第2位だった!? 

安藤氏:
 そういえば齊藤さんは、そもそもエニックスに入った時には、ゲーム部門に配属されていないんですよね。

齊藤氏:
 そう。就職活動をしていた頃は、ゲームはデジタルだから子どもの情操教育に良くないというか、何の影響もないものだと思っていたんですよ。

 子どもが大人になる過程では、たとえば超合金のマジンガーZでロケットパンチを発射した結果、そのロケットパンチが自分の不注意でなくなってしまったとか、自分の超合金が壊れてしまったとか、そういった経験をすることが重要だと思っていたので。だからデジタルかアナログかで言えば、アナログのほうが楽しいに決まっていると。
 だから就職活動はオモチャ会社が第一志望で、ゲーム会社は滑り止めだったんです。

ヨコオ氏:
 デジタルゲームを舐めきって、エニックスに入ってきたんですね(笑)。

齊藤氏:
 もちろんデジタルゲームも嫌いではなかったけど、アナログゲームのほうが好きだった。テーブルトークRPGとか。

 それで内定をもらったのは某有名なおもちゃ会社だったんですよ。ほかにはナ○○からも内定をいただいたし、○ガからも内定をいただいたんだけど、最後に内定をもらったエニックスに入ることにしたんです。

安藤氏:
 めっちゃ内定もらっているじゃないですか。

齊藤氏:
 なぜエニックスにしたかというと、従業員が100人ぐらいの会社にしては、経営が安定していたから。

ヨコオ氏:
 それは大学が経済学部だったから分かるんですか? 

齊藤氏:
 そう。オレは学生の時からP/L(損益計算書)とB/S(貸借対照表)を読めたから。ロクに勉強していないのに、その2つだけはできるようになっていて。

 それでエニックスに入ったんだけど、最初に配属されたのは、商品企画本部のなかの購買部っていう部署で。

安藤氏:
 僕が入った時にはその部署は、もうなくなっていましたね。

齊藤氏:
 購買部というのはいわゆる資材管理だったり、オモチャを作る時にどの種類のプラスチックがいいのかといった、材料の選定みたいなことをやるところで。

安藤氏:
 中古の椅子の転売もやっていたとか、言っていませんでしたっけ? 

齊藤氏:
 OA機器だね。中国で椅子を格安で仕入れてきて売るの(笑)。購買部ってワケわかんないもん。指紋センサーとかまで扱っていたよ。

ヨコオ氏:
 エニックスって、中国で不動産売買をやっていませんでしたっけ? 

齊藤氏:
 それは色々混ざってる(笑)。エニックスってもともとは、公団住宅の情報誌から始まっているんですよ。それと同じような感じで、インドの住宅情報誌をやるみたいな話があって。あれ?芸能だったかな…。中国はカレー屋さん。

安藤氏:
 中国でカレーと、インドで不動産ですよね。

齊藤氏:
 そうそう。あと醤油! 中国で醤油のシェアが2位になったんですよ。スゴくない!? 

ヨコオ氏:
 エニックスが? 

齊藤氏:
 でもよくよく聞いたら、1位のシェアが95%だった(笑)。あと、ロボット寿司の話は知っています? 

ヨコオ氏:
 知らないですよ(笑)。

安藤氏:
 1970年代にエニックスは、ロボット寿司事業をやっているんですよ。人間に握らせるよりもロボットに握らせるほうが効率がいいと考えたらしいんですけど、いかんせん1970年代だからロボットの精度が悪くて。ボロボロの握り寿司が出てきて、こりゃイカンって撤退した(笑)。

齊藤氏:
 時代が早すぎた。

ヨコオ氏:
 それが今のスクエニカフェまでつながっていくわけですね。

藤澤氏:
 つながってないでしょ(笑)。

齊藤氏:
 そういうエニックスのワケのわからない時代を知っているから、ちょっとやそっとのことじゃ動じないんですよ。だって「醤油事業を始めます」とか言われちゃうんだよ(笑)。

ヨコオ氏:
 「醤油を売れ」と言われるよりは、「『ドラクエX』のプロデューサーをやれ」って言われるほうが、まだ筋が通っていますよね(笑)。

安藤氏:
 そんななかでみんな、『アストロノーカ』とか『せがれいじり』とか『鈴木爆発』とかを作っていた。

齊藤氏:
 真面目に作っていた。

安藤氏:
 それで上の階には、中国で醤油を売っている人がいて(笑)。冷静に考えるとすごい100名でしたよね。

ヨコオ氏:
 本当にエニックスは、ヴァイキングがヴァルハラを目指すように戦い続けていますね(笑)。

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