ディレクターに任せると決めた以上は、ゲームの中身には何も口を出さない
藤澤氏:
そういえば『ドラクエX』をやっている時って、齊藤さんは何も口を出さなかったよね。あまりにも齊藤さんが口を出さないから、開発内で「齊藤さんはあんまり興味がないんじゃないか?」って言っていた時代もあって。
齊藤氏:
そんなことないよ。
ヨコオ氏:
齊藤さんは本当に、ゲームの中身については何も突っ込んでこなくて、そこの切り分けはすごくしっかりしていますよね。相手を見ているのかもしれないですけど。僕とか藤澤さんみたいに、文句を言うタイプには何も言わないのかも。
藤澤氏:
りっきー(齋藤力氏【※】)が『ドラクエX』のディレクターを引き継いだじゃん。「齊藤さんと仕事してどうだった?」と聞かれたので、「齊藤さんは何にも言わないよ」と答えたら、りっきーが「オレにはけっこう言ってくる」って。
※齋藤力
『ドラクエX』では初期から開発に携わっており、バージョン1ではチーフプランナーを務めていた。2013年のバージョン2より、藤澤仁氏の後継としてディレクターに就任。2017年のバージョン4リリースに合わせて、3代目ディレクターの安西崇氏にバトンタッチした。
齊藤氏:
りっきーは聞いてくるんだよ。りっきーと藤澤さんが大きく違うのは、りっきーは民主主義な人だなと。
上にも下にも「自分はこうしたいんだけど、みんなはどう思う?」っていうことを聞く。それに対して藤澤さんは、「これをみんなで作るんだぜ!」というのをちゃんと主張するタイプ。それはどっちも正しいんだよ。
りっきーも、ちゃんと自分のなかに1本、筋が通っている。その上でりっきーは「こうしたいんだけど、齊藤さんどう思いますか?」って聞くから、「じゃあこれでいいんじゃない」って答えていた。
藤澤氏:
なるほど。
ヨコオ氏:
でも民主主義って、まとまらない時があるじゃないですか。誰かが「こうやるんだよ!」って引っ張らないといけないというのが、実態としてはあって。
ディレクターとかアートディレクターとかいったシステムが決めている職域を超えて、やんなきゃいけない人っていうのがどうしても必要なんですね。
齊藤氏:
プロジェクトの大小にもよるんだけど。たとえば5人ぐらいで作るゲームだったら、プロデューサーもディレクターもプランナーもデザイナーもへったくれもなくて、各自のやらなければいけないことをやりましょう、なんだけど。
でも規模がある程度大きくなると、プロデューサーとディレクターってセットじゃないですか。プロデューサー兼ディレクターとかやっている吉田直樹みたいなのもいるけど、あれはけっこうレアケースで。
だったらプロデューサーは、自分が任命したディレクターがいるんだから、その人に任せなさいよって思うんだよね。任せるって決めた以上は、それで失敗したら自分の責任だと思うから。
藤澤氏:
それをできないプロデューサーが、案外多いじゃないですか。
齊藤氏:
口を出すのは簡単だもん。もちろん「オレだったらこうするのに」って、ストレスになることはあるよ。
でもそこで何か言うんだったら、お前がディレクターをやれよと。自分より面白いものを考えてくれている人がそこにいるんだから、その人に任せましょうと。
藤澤氏:
急に思い出したけど、いちばん最初に『ドラクエX』の座組をした時に、齊藤さんは「オレがディレクターをやる」って言っていたじゃない。
齊藤氏:
もし自分でやらせてもらえるなら、それがいちばんいいと思ったから。なぜなら、オンラインゲームの開発と運営経験があったから予算規模は理解していたし、規模感によるサーバーの構成を分かっているから。
藤澤さんはサーバー構成とかをわかんないから、めちゃくちゃ無謀な仕様を言うんだけど。
藤澤氏:
オレは元サーバープログラマーだって(笑)。
齊藤氏:
藤澤さんが、コリジョン【※】の同期をリアルタイムで取って押す・押さないみたいなことをやりたいって言った時は、「こんなのホントにやらないよね?」と思ったけど、結局やったからね。
でもこっちとしては、そこで採算が取れる可能性があるんだったら、面白いことを優先してやりましょうと。
※コリジョン
3Dゲームなどで、物体と物体が衝突しているかどうかを判定すること。『ドラクエX』ではバトル中に敵の動きを自分の身体でブロックして、後衛の味方を守るといったことが可能になっている。
藤澤氏:
まぁ、短絡的に口を出さないところが、非常にありがたいプロデューサーではありましたね。ほかのプロデューサーと仕事をすると、口を出されてよくケンカになるんです。でも齊藤さんとはケンカも何もなかった。
ヨコオ氏:
言われるのがイヤな人には、絶対に言わないんですよ。
安藤氏:
クリエイティブにこだわりがあって、他人から横槍が入ることがなにより嫌いな人だと察すると、もう本当に何も言わないというか。
齊藤氏:
やっぱりいちばんの問題は、プロデューサーがゲームの細かいことをいちいち言うところなんですよ。最初に言うのはいいと思うんです。
『ドラクエX』の時は藤澤さんといちばん最初に、そもそもどうやってMMOを作ろうかという話をしているし、ヨコオさんにも言いたいことはプリプロ期間中に全部話している。最初に「こういうふうにしましょうね」という話をして、それが決まったら、あとはプロデューサーが話す必要なんかほとんどないはずなんです。
1つのゲームしか担当していないプロデューサーって、めっちゃヒマだと思うんですよ。自分はヒマなのがイヤなので、同時に4~5本をやりたいんですけど。
そうすると、たとえ頭を200%稼働させたとしても、4本同時に動いたら1本につき50%しか稼働していないはずで。
それに対してディレクターは、複数タイトルを持つのは難しいので、1つのタイトルに100%集中しているはずなんです。24時間365日、100%で稼働している人が考えていることと、どんなにがんばっても50%しか稼働できない頭で考えていることなら、100%集中してもらっている人のほうがいいに決まってる。
安藤氏:
「スゴイ人たちを集めてきた時点で、ほぼ勝負が決まっている」というのが、プロデューサーとしていちばん大事だと、僕も教わったんです。あとはその人たちがいかに気持ちよく仕事ができるかとか、方向が曲がり始めたら原点回帰するとか、そういうところに気を配ればいい。
もう1つ大事なのはフィニッシュのところですね。できたものをどうやって売るかがけっこう大事なんですけど、そこに至るまでの途中は何もやることがないから、プロデューサーとしては不安になるんです。
齊藤氏:
不安だから、何か言いたくなるんだよね。
──齊藤さんはその心得をどうやって体得したんですか?
齊藤氏:
渡辺泰仁【※】という大先輩のプロデューサーがいるんですけど。まだ新人の頃に、その人があるデベロッパーと一緒にゲームを作っていたんです。完成間際のゲームを勉強するのもいいよねって、プロデューサーを代わることになって。
そこで初めて打ち合わせに行って「開発中のROMを見せてください」と言ったら、RPGだと聞いていたのに、スクロールしない画面のなかでキャラが動いて会話できるだけのものが出てきて。話を聞いたらもうぜんぜん噛み合わなくて、仕様書すらなくて。
そこから自分でゲームの内容を考えて、イチから仕様書を書いて、イラストレーターさんにキャラクターをデザインしてもらって、プログラマーさんにプログラミングしてもらって。
※渡辺泰仁
旧エニックス時代に『バスト ア ムーブ』『せがれいじり』など、個性的なゲームの数々をプロデュースしてきた。現在はスクウェア・エニックスの執行役員を務めている。
安藤氏:
この話は僕も聞いていますけど、これって齊藤さんが24歳とかそれぐらいの時のことですからね。
齊藤氏:
その時は本当に大変だったんですよ。朝10時から夜10時まで通常の業務をやって、そのあとそのゲームをデバッグするっていう。
自分で電話してデバッガーを集めて、夜中にデバッグしてマスターまで持っていったんです。ほぼ閉じることが決まっていたから、そうでもしないと世の中に出せなくて。
それでようやくゲームが完成して、それを他のパブリッシャーに自分で売り込みに行って、いざ発売されて『ファミ通』のクロスレビューが、確か8/7/8/7ぐらい…もっと低かったかもしれないけど。それを見た時に「オレには平凡な点数のゲームしか作れないんだな」って。
それなら自分は裏方に徹して、ちゃんと面白いゲームを作れる人と一緒にやりたいと、その時に思ったんです。それこそ『ジャンピングフラッシュ!』【※1】や『がんばれ森川君2号』の森川幸人さん【※2】とかね。
プロデューサーは儲かるタイトルとチャレンジするタイトルの、最低2つを同時に動かすべきだ
──そんな齊藤さんですが、プロデューサーとしては『ドラクエ』シリーズという巨大IPだけではなく、『ニーア』シリーズという別軸のIPも担当されていますよね。
安藤氏:
僕が齊藤さんをスゴイと思っているのは、『ニーア オートマタ』【※】のようなオリジナルタイトルを当てるというのと、400万本を売って当たり前の『ドラクエ』で成功するっていう、その両方を達成していることなんです。どちらか一方でスゴイ人はいるんですよ。その2つはぜんぜん質の違うことだから。
『ニーア』も前作の『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』【※】の段階では、コアファンも生まれましたけど、売り上げ自体は数十万本だった。その続編の『ニーア オートマタ』を世界で300万本売るなんて、普通はいないですよ、そんな人。
野球の大谷みたいですよね。超二刀流っすよ。
管理職とクリエイターの二刀流や、プロデューサーとディレクターの二刀流っていうのは見たことがあるんですけど、オリジナルとレジェンドIPの二刀流なんて、見たことがないですね。
齊藤氏:
ヨコオタロウに時代がついてきたんですよ。
ヨコオ氏:
僕はオリジナルの側でずっと齊藤さんと関わっていたので、この人はなんかよくわかんないものにずっと投資してるなぁと思っていて。
『ニーア オートマタ』は、齊藤さんや僕がもともと想定していた何倍も売れたので。ただ、そこをしっかりと握っていた齊藤さんは、運がいいなと思うんですけど。
でも齊藤さんは同時に『ドラクエX』や『ドラクエXI』もやっていたという、そっち側の手法を僕は知らないので。
『ドラクエ』を完成させて売るというのはこっち側のような運よりも、実力とか社内政治とか、いろいろと大変なことを積んで積んで積み重ねているはずなので、そこにいるのはスゴイなって、オリジナルの側から見ると思うんです。
齊藤氏:
本多圭司さん【※】が勇退する前にね、『ニーア オートマタ』がヒットしたのは良かったなと。本多さんご自身は言葉にしていないけど、「『ドラクエ』に肩を並べられるものを作りたい」という気持ちがあったと思うんです。
さすがに『ドラクエ』と肩を並べられたとは思っていないけど、「ちゃんと売れるものを作りました」と言えるものが、本多さんの勇退前にできたのは良かったと、個人的には思ってます。こんなこと、本多さんには言ってないけどね。
※本多圭司
旧エニックスで海外事業やソフトウェア事業部長を担当した後、会長となった福嶋康博氏の後継として、2000年に社長に就任。スクウェア・エニックス合併後も同社の副社長や取締役として経営に携わるが、2018年3月に退任した。
ヨコオ氏:
齊藤さんからはよく「赤字にはしない」みたいな話が出てくるんですけど。でも僕が見ていると、この人は正直、赤字にしてもいいと思ってるんだろうなと。
それよりはどちらかというと、「赤字にすると困る人がいるからがんばろう」みたいに、人を見ている感じがしますね。
そういう意味で、今の本多さんの話はスゴイなと思ったんです。齊藤さんは開発レイヤーだけじゃなくて、経営レイヤーに対してもいい気持ちになってもらおうとサービスをするっていう。
齊藤氏:
プロデューサーは会社のお金を借りてモノを作っている以上、ちゃんと会社にバックしなくちゃいけないので。自信を持って会社にバックできるタイトルがあるのなら、それを1つやって。
そのバックできる原資を元にチャレンジするタイトルをやるという、最低2タイトルを同時に動かすのが、プロデューサーとしてはいいんじゃないかなと思います。
もちろん1タイトルでもいいんですけど、1タイトルだと現場に顔を出せる時間が増えて、プロデューサーが余計な口を挟んだりするっていう、良くない時間の使い方をするかもしれないから。2タイトルぐらい、本当は3タイトルぐらいやっていると、自分のプロデュースワークの時間を各タイトルにムダなく使えるはずなので。
儲かるタイトルとチャレンジするタイトルをそれぞれ持っているのが、プロデューサーとしていいと思いますね。
藤澤氏:
齊藤さんがプロデュースしたなかで、いちばん大コケしたタイトルは?
齊藤氏:
どうだろう……?
安藤氏:
「実写ゲームなんて絶対に売れない」と言われましたけど、『ユーラシアエクスプレス殺人事件』はちゃんとヒットしましたからね。
齊藤氏:
実写ゲームは『ユーラシア』である程度利益が出て、『ラブストーリー』【※1】はトントンで、『the FEAR(ザ・フィアー)』【※2】はちょっと厳しかったけど、3つトータルでは利益が出ているし。まぁ、この実写ゲームは最初から複数やるっていう前提だったからね
『アストロノーカ』はトントンに持っていった代表作ですね。中身もすごく面白いゲームだと自分では思ってます。
ヨコオ氏:
トントンの「よーすぴ」ですね(笑)。
旧エニックスの企画課で、『ドラクエ』以外のバカゲーを作っていた
──そういえばヨコオさんと齊藤さんが最初に出会ったのは、いつ頃なんですか?
齊藤氏:
ヨコオさんが『ドラッグ オン ドラグーン』【※】を作っている時だよね。
ヨコオ氏:
『ドラッグ オン ドラグーン』はもともとエニックスで作っていて、ほぼほぼROMができた時にスクウェアと合併したんです。
齊藤氏:
そこで倫理基準が変わったんだよね。
ヨコオ氏:
エニックスの倫理担当さんはOKを出してくれていたんですけど、スクウェアと合併したらいきなり基準が変わって全部アウトになって、たいへんな目に遭ったんです。そこをフォローしてくれたのが、エグゼクティブ・プロデューサーだった齊藤さんで。
──ということは、世に出た『ドラッグ オン ドラグーン』は、あれでもまだマイルドになっているんですか?
ヨコオ氏:
だいぶマイルドになりました。スクエニさんはエロとギャンブルがダメだっていう、謎のルールがあって。
安藤氏:
青年誌でめっちゃエロやっていますけどね。
齊藤氏:
今よりも厳しい時代だったから。
安藤氏:
藤澤さんと齊藤さんの出会いは? エニックス時代ですよね?
藤澤氏:
ただ、エニックス時代はしゃべったことないよね。
齊藤氏:
だって、当時は『ドラクエ』にはデバッグやバランス調整期間くらいしか関わってなかったからね。
藤澤氏:
逆にオレは『ドラクエ』しかやってなかったから。『ドラゴンクエストVIII』【※】が終わって、『ドラクエ』のオンラインゲームを作ろうっていう時に、初めて齊藤さんと話をした。
齊藤氏:
それはいつ頃だっけ?
藤澤氏:
オレらが34歳だから……14年前だ。
安藤氏:
齊藤さんたちは、まだ50歳になってないんでしたっけ?
齊藤氏:
48歳。この3人(齊藤氏、ヨコオ氏、藤澤氏)はみんな同い年なんですよ。昭和45年(1970年)生まれ。
安藤氏:
僕が昭和50年(1975年)生まれだから、5歳下ですね。
齊藤氏:
藤澤さんがいた『ドラクエ』のシナリオスタッフというのは、けっこう独特で。エニックスは社内開発がないところに、藤澤さんたちは開発者としていたわけだから。しかも別の部署だし。当時はドラクエ課と企画課に分かれていたので。
ヨコオ氏:
エニックスの企画課というのは、何をやっていたんですか?
藤澤氏:
『ドラクエ』以外(笑)。
ヨコオ氏:
ということは、エニックスのゲーム部門にはドラクエ課と企画課の2つしかなかった?
安藤氏:
そうです。『ドラクエ』か、バカゲーか、トライエース【※】か。
※トライエース
RPGの開発に定評があるゲームデベロッパー。同社の代表作である『スターオーシャン』シリーズと『ヴァルキリープロファイル』シリーズは、いずれも旧エニックスから第1作目が発売されている。
齊藤氏:
それで自分はバカゲー担当だった。繰り返しますが、誉め言葉ですよ。自分でやってるわけですから。
安藤氏:
当時のエニックスにはバカゲーのアプローチがいろいろあって。『せがれいじり』とか、齊藤さんの『アストロノーカ』【※1】とか。僕も『鈴木爆発』【※2】とかを作ったんですけど。
ヨコオ氏:
なるほど(笑)。
安藤氏:
じゃあ齊藤さんと話したのは、僕がいちばん古いですね。僕は1998年にプロデューサーとして採用されたので。
当時のエニックスって、今考えたら超ユニークですよね。何の経歴もない新卒を、プロデューサーとして採るんですから。
齊藤氏:
そうそう(笑)。
安藤氏:
入ったところで何にもできないから、ただの丁稚みたいなもんですよ。だからまず最初にやるのは、先輩の打ち合わせについていくことなんです。
僕が入った時は、齊藤さんは『アストロノーカ』が出る直前で。その仕上げの打ち合わせとかについていって。
齊藤氏:
あの年が死ぬほど忙しかったんだよな。
安藤氏:
齊藤さんの第一印象は「めちゃめちゃ仕事しているなぁ、この人は」って。さっき言ったような感じで、いろんな先輩の仕事ぶりを見ているんですけど、齊藤さんは当時でも、めちゃ完成度が高いイメージだったんですよ。
でも後のキャリアを考えると、それもほんの通過点だったという。それが齊藤陽介の恐ろしいところで。
ヨコオタロウとプラチナゲームズが上手く行くか、半年間の「お試し期間」を用意した
──先ほど『ドラクエX』の立ち上げ時のお話が出ましたが、『ニーア オートマタ』のほうは、どういう立ち上がり方だったんですか?
齊藤氏:
最初はヨコオさんが「『ニーア』の世界観を使ったスマホゲームを作りたい」という話をしてきて。
ヨコオ氏:
「『FarmVille』【※】が流行っているから、『ニーア』で『FarmVille』を作ろう」って提案したんですけど、まったく聞いてもらえませんでしたね(笑)。
齊藤氏:
でも『ニーア』というタイトルは、いつかもう一度ちゃんとやりたいなと思っていて。それでいろんな模索をしている時に、プラチナゲームズ【※】とご縁ができまして。
前作の『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』は、オリジナルIPとしてよくやったと思うんですけど、続編をやるなら前作で合格点ではなかったところを、今度は合格点にしたいなと。
それでプラチナさんなら、前作で上手くできなかったアクションの部分を、ちゃんと作ってくれると思ったんです。
ただ、ヨコオさんは……藤澤さんもそうだけど、やっぱりディレクターってわがままじゃないですか。
※プラチナゲームズ
『ベヨネッタ』シリーズなどで知られるゲームデベロッパー。同社が開発を担当するゲームはその硬派なアクション性に定評があり、日本だけでなく海外からも注目度が高い。そのため『メタルギア ライジング リベンジェンス』や『スターフォックス ゼロ』といった、他社の人気IPタイトルを任されることも少なくない。
藤澤氏:
そんなことないよ(笑)。
齊藤氏:
いわゆる職人なんですよ。それで言うとプラチナゲームズも職人の会社じゃないですか。そこでプリプロ【※】で1ステージだけ、半年間かけて作ってみましょうと。
自分の中では、ヨコオさんとプラチナゲームズが合うかどうかを確かめる半年間にしようと思ったんです。そこで職人と職人がぶつかって崩壊したら、それはもう会社にごめんなさいしようということで。
プラチナゲームズは大阪にあるので、もしヨコオさんが大阪に行く覚悟があるのであれば、こっちは喜んで『ニーア』の続編を会社に提案するよ、と言ったら、ヨコオさんが「行く」と。大阪は楽しかったですか?
※プリプロ
プリプロダクションの略。ゲームや映画を作るにあたって、本格的な制作作業に入る前の準備段階を指す。
ヨコオ氏:
楽しかったですよ。すごく暮らしやすかったですし。
齊藤氏:
それで半年間やってみたら、プラチナゲームズの田浦貴久君【※】と非常に相性がよくて。それで『ニーア オートマタ』がスタートしたんです。
※田浦貴久
プラチナゲームズ所属。『マックスアナーキー』『マッドワールド』『The Wonderful 101』などの制作に参加した後、『ニーア オートマタ』ではシニアゲームデザイナーを務めている。
安藤氏:
僕は『ニーア オートマタ』で吉田明彦さん【※】を起用したのが、スゴイことだなと思っています。吉田さんには誰もが絵を描いてほしいわけですよ。絵だけで売れるように持っていく色気を持っている人なんて、数少ないですから。
だからプロデューサーなら当然ですけど、吉田さんを口説きに行きますよ。でも僕は吉田さんに「家具なら作ってもいいけど、絵は描かないです」って、二回ずーっと言われたていて。
※吉田明彦
『伝説のオウガバトル』『タクティクスオウガ』をはじめ、『ファイナルファンタジーXII』『ベイグラントストーリー』『ブレイブリーデフォルト』などでキャラクターデザインを行う。またアートディレクターやリードアーティストという形で、世界観全体の構築に携わることも多い。『ニーア オートマタ』ではメインキャラクターデザインを担当。
齊藤氏:
吉田さんはBG(背景)をやりたがっていたからね。
安藤氏:
「吉田さんの家具もいいけど(笑)、やっぱり絵も描いてほしいなぁ」と思っていたら、「『ニーア』を吉田さんが描くんだ!」と。ヨコオさんがいて、プラチナゲームズさんがいて、岡部さん(岡部啓一氏【※】)の音楽があって。
そこにさらに吉田明彦さんの絵が入ったら、ターゲットとなる人たちはものすごく喜ぶわけですよね。そこを逆算して、いちばんトップの人にちゃんと声をかけて、しかもどういうトリックがあったのかは知らないですけど、しっかり口説き落としているというのは、本当にスゴイですよ。
※岡部啓一
音楽クリエイター集団「MONACA」の代表を務める。『鉄拳』シリーズや『太鼓の達人』といったゲームのBGMや挿入歌を作曲する一方で、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『アイカツ!』などのアニメにも、BGMやキャラクターソングの作曲で参加している。齊藤陽介氏がプロデュースするアイドルプロジェクト「GEMS COMPANY」の楽曲制作も、MONACAが担当するとのこと。
齊藤氏:
ダメ元だったよね。
ヨコオ氏:
ダメ元です。
安藤氏:
ダメ元でもいいからいちばん上から当たっていくというのは、僕も真似しなきゃってすごく思いますね。
ヨコオ氏:
『ニーア オートマタ』でいろんなイラストレーターさんの候補を挙げたんですけど、吉田明彦さんは案から外れているんですよ、レジェンドすぎて(笑)。
齊藤さんから吉田さんの名前が出た時に「えっ!? あの、いけるのならそりゃイイですけど」って(笑)。それが成功してスゴイなと思いましたね。
齊藤氏:
誠意を見せました。それ以外にないよね。もともと吉田さんの周りの人が『ニーア』をすごく好きだと言ってくれていたようなので。
ヨコオ氏:
齊藤さんはそういう突撃力というか、一応ダメでも行っとくか、みたいなソリューションを持っているんです。
僕は個人的に、齊藤さんはすごく「人を見る」人だなと思っていて。相手の人間性もそうですけど、人と人との関係性を犬みたいに嗅ぎ分ける感じが、すごくするんですよ。
「この人とこの人は合いそうだからちょっと一緒にいさせよう」みたいなことを、気づかないうちにやっていたりするんです。
齊藤さんの人たらしな部分、自分で人をたらすだけじゃなくて、人と人との関係性までコントロールできるところが、齊藤さんのプロデュースワークの強いところじゃないかと。
たとえばプラチナゲームズさんと僕を半年間、同じところに放り込んで試してみるとか、そういう人と人との糊づけみたいなことを、すごく上手にやる人だなと思いますね。
齊藤氏:
でもプラチナさんとヨコオさんが上手くいくかどうかは、本当に分からなかったね。最初は絶対に無理だと思ったから。
ヨコオ氏:
僕も思いました。でもそれが上手くいったので。齊藤さんはそういうところに張るんですよね。いろんなところにコインをベットして、上手くいくところだけを拾ってくるのが、齊藤さん流だなと思います。
齊藤氏:
それはきっとエニックスのスタイルなんです。エニックスはもともと社内に開発がいなかったので。『ドラクエ』は堀井雄二さんというプランナーと、鳥山明さんという漫画家と、すぎやまこういち先生という音楽家と、中村光一さんというプログラマーがいて。
つまりそれぞれのジャンルで一流の人たちが集まっているわけですよね。各ジャンルのプロを1つのチームにできるのが、社外開発のいちばんのメリットだと思うので。それをずっと長いことやってきた結果なのかな、という感じがしますけど。