人は何かに導かれるように“堕落部屋”へ誘われる
川本氏:
逆に質問になってしまいますが、最初に取材の打ち合わせをしたときに、記者さんは“シンプルな部屋”に住んでいて、“必要最低限しか物がない”と言っていましたよね?
──えっ!? 私ですか? そうですね、白を基調とした部屋で……ほとんど物がありませんが……。
ナナイ氏:
すごい、虚無だ! ずっとこんな感じの部屋なんですか?
──いえ、昨年の夏までは“超オタク部屋”に住んでいましたよ。
川本氏:
何があったのか、気になる。攻守逆になりますが語ってくださいよ。
ナナイ氏:
すごく気になります! だって、そんな簡単に何もない部屋にならないじゃないですか!
──えっ……ええと……そうですねぇ、私は『戦国無双4』の真田信之が大好きだったので、真田部屋にしていたんですよ。巨大な“信之の陣幕クロス”を枕に巻いてたくらい。
さらに信之は弟の幸村思いだから、「ひとりじゃ寂しいよね〜」と思い、信之の視線の先に“幸村の陣幕クロス”を貼っていましたね。ほかにも、コスプレ撮影のためにオーダーした陣旗を部屋に飾ったり……。
川本氏:
めっちゃくちゃコンセプトのある部屋だったんですね(笑)。
ナナイ氏:
真田好きかぁ~……。でも、旗作るぐらいならもう……聖地巡礼とかしちゃうタイプですよね?
──まぁ……数年前は正月に始発で高野山(和歌山県)へ向かい、各武将の墓の前で手を合わせ、次に真田家の菩提寺である蓮華定院へお参りし、昼から九度山の真田庵を訪れるぐらいには……。
川本氏:
えっ!? ……えっ!?
ナナイ氏:
正月に高野山って(笑)。めっちゃ雪積もってますけど? ヤバイ思っていたよりガチな人すぎて……震える(笑)。でも、そんなガチオタで、ガチ真田マニアが……なんで、こんな真っ白で何もない部屋に……。男が変わったとか?
──リアルのじゃなく、2次元の男が変わったんです。2016年の10月から放送されたテレビアニメ『ユーリ!!! on ICE』【※】にハマってしまい……。
ナナイ氏:
ぎゃぁぁぁぁぁ……。出たぁ! 『ユーリ!!! on ICE』! いま、開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまった気がします。
川本氏:
えっ……えっ? そんなヤバイ作品なの? 僕……だんだんついていけなくなってる(笑)。
ナナイ氏:
女が、次から次に落ちていった作品のひとつだよ。もう……本当にヤバイぐらいに人を沼落ちさせる作品!
※ ユーリ!!! on ICE
2016年に放映された本格的フィギュアスケートアニメ。日本中の期待を背負って挑んだグランプリファイナルで惨敗したフィギュアスケーター・勝生勇利は世界選手権5連覇のロシア王者ヴィクトル・ニキフォロフをコーチに迎え、現役を続行する。勇利とヴィクトルのフィギュアスケートを介した師弟愛が話題となり、多くの女性たちのハートを鷲掴みにした。
──私は夢女子【※】なので、キャラクターのひとりヴィクトルに恋してしまったんですよ。でも、「ヴィクトルはスケート選手だから、私もジャンプぐらいできないと、相手にされない」って考えてしまったんですね。妄想の中で!
ナナイ氏:
たしかに! 少しでも滑れると「教えて」という妄想ができるけど。“滑れない”だと恋愛イベントが妄想でも生まれない。
※夢女子
キャラクターと自分の恋愛を妄想して楽しむ女性のこと。
──ええ。そこで2017年からフィギュアスケートを習い始めました。「ヴィクトルとデートしたい」という一心でガチってたら……、1年でシングルジャンプとか片足でスピンとか出来るようになったんですよ(笑)。
ナナイ氏:
もうそれ、執念! 狂気すら感じる……。
川本氏:
軽い気持ちで聞いてしまったことを、後悔するレベルですごかった(笑)。
──えっ!? 話すのやめましょうか?
ナナイ氏:
いまストップされたら、余計気になりますよ(笑)。
──では続けますね。……そうしたら、「部屋に物が多すぎてトレーニングができない!」となったんです。
川本氏:
まさか、そのトレーニングのために?
──そうです。ちょうどそのときに引っ越しが重なったので、漫画や雑誌、ポスター、グッズ、CDから同人誌まで全部処分して、トレーニングスペースを作りました。
ナナイ氏:
……なんとなく聞いたら、すごく強火の夢女子だった。
川本氏:
それにしても、それまで集めていたものをよく処分できましたね。
ナナイ氏:
私もそこが気になりました! 売ったんですか?
── 一気に捨てました!
ナナイ氏:
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~。“お焚き上げ”じゃないですか!
──自分だと捨てられないので、アニメやゲームに興味のない第三者に「私が死んだと思ってやってくれ!」とお願いして捨ててもらいました。家具を含めてですが、2トントラックで1.5台分ほど、物を捨てましたよ。
ナナイ氏:
やだやだやだやだぁぁぁ~。想像するだけで泣いちゃう。
──ただ……1年間スケートをやって気づいたんですけど、いくら妄想をしても、自分とヴィクトルとの恋愛イベントが成り立たかなったので、夢女子妄想をやめました。彼のことは、ただのファンとして応援し続けています。
ナナイ氏:
まぁ〜、勝生勇利とヴィクトルは絆がものすごいから、何人たりとも間に入れないですよね〜。
川本氏:
奥が深けーな……深すぎるわ。ナナイさんは気持ちわかる?
ナナイ氏:
じつは……私も最近、『ヒプノシスマイク』【※】(以下、『ヒプマイ』)に、前触れもなく落ちまして……。
※『ヒプノシスマイク』
EVIL LINE RECORDS(キングレコード)が手がける、男性声優12人によるラップソングプロジェクトとして2017年9月2日に始動。現在は、楽曲のリリースやライブ活動をおこなっており、オトメイトから2019年にリズムゲームが発売されることが発表されている。
──出た! もう、右も左も『ヒプマイ』女子……。友達のSNSやメッセ返信がラップ調で「すごいなぁ」って思ってます。
ナナイ氏:
つい先日まで穏やかに『FFXV』を愛し、ゆったりとした時間を過ごしていたのよ?
でも『ヒプマイ』の力で生活が変わりましたよ……。本当に、沼はどこに隠れているかわからない……。「速水奨さんがラップをしているんだよ」と友人からきいて、「え、ジュリアス様(『アンジェリーク』コーエーテクモゲームス)がラップを……?」と動揺してPVを見た次の日には、amazonから発売中の全部のCDが届いていました。プライム会員サイコー!
川本氏:
え、何それ……amazon prime怖い。
──部屋もこれから『ヒプマイ』で埋まっていく感じですか?
ナナイ氏:
バスタオルを12枚予約してしまったので、まず部屋は確実に変化するとは思います。ただ、今回はグッズで部屋を飾りたい欲求というよりも、「大好きな“左馬刻”になりたい。完璧なコスプレをしたい」という欲求がでてしまって、今までほぼしたことのない男装を練習しています(笑)。これも新しいコンテンツ愛の形ですかね。
──おぉ、コスプレ! いいじゃないですか男装似合いそう! いま『ヒプマイ』レイヤーがものすごく多くて大人気ですよね。
ナナイ氏:
しかし……女装と男装、まったくやり方が異なっていて、それこそウィッグもかぶらずグラビアばかり撮っていた私には異文化の塊なんですよ。テープを顔に貼って目を吊り上げるだとか、ふたえに濃くラインを描くだとか、そういったものをネットで猛勉強して、友だちにも助けてもらって。
最終的に毎日練習しすぎて、肌に優しいはずのテープに皮膚を持っていかれて出血しました。
川本氏:
ふたりとも、すごいなー。
ナナイ氏:
記者さんはヴィクトルとの恋愛妄想終了後も、殺風景な部屋に住んでるんですか? 堕落部屋の快感を知っている人って、そうそうやめられないと思うんですけど……。
──突っ込んできますね(笑)。今は……安室さんにハマって戻りはじめてます。
ナナイ氏:
出たよ……出た出た。ここにもいたよ“安室の女”! 本当に安室が怖いよ。周りの女たちがみんな同じことを言っている!
川本氏:
待って待って。誰それ? 『ガンダム』のアムロ・レイ? 僕、完全についていけてない(笑)。
ナナイ氏:
違う違う。『名探偵コナン』に出てくるキャラクターの安室透【※】だよ。
いま、ヤバいくらい人気のあるキャラだよ。女が片っ端から落ちている。映画を観たら100%落ちるというから、私は怖くて映画館に行けなかった。感染力のすごいキャラ。
川本氏:
……へぇ。
──以前“安室透”についての記事を書いたんですけど、じつは記事に掲載したグッズのほとんどが私物で……まぁ、一部なんですけどね(笑)。
ナナイ氏:
あんなにシンプルな部屋だったのに……。さらっと祭壇【※】作り始めてる(笑)。
※祭壇
好きなキャラクターのグッズを一箇所に集め、飾り立てること。
──ただ、キャラクターのグッズを置くというよりは……夢女子思考が強いからなのか、「彼部屋」とか「好きなキャラの彼女妄想部屋」にしたくなりますね。
川本氏:
女の子ってなぜかそういうものを実体化したがるよね~。ほんと不思議だわー。なんで?
ナナイ氏:
私もキャラクターが着用している制服を、洗濯機の中に乱雑に入れたり、脱衣所に置いて写真を撮ったりしていたな~。「キャラが私の部屋にいる」妄想。
川本氏:
すごい妄想力だね。じゃあ、記者さんは“安室のいる部屋”を目指しているんですか?
──そうする予定だったんですけど、『週刊少年サンデー』(小学館)で連載中の『ゼロの日常』で安室さんの部屋が登場し、寝室が和室だったので「無理」と感じたんですよ。だから、妄想彼女部屋にしようかなと。安室さんが使用しているタイプのモデルガンを購入して、色が違うので塗装もしましたし……。
ナナイ氏:
確かに、安室は自分の部屋に自分のポスターを貼らないからね。でも、安室の彼女になったつもりの「妄想彼女部屋」っていい考えですね。
銃は展示しないで、分厚い本をくり抜いてその中に隠したりしてくださいね。男性物の靴を玄関に置いたり、スーツをハンガーにかけたり、安室が読みそうな本とかを揃えていくと、いい感じに仕上がると思います!
──なるほど……。
ナナイ氏:
ラバストとかは、そのまま飾っちゃうと表面に傷がついちゃうから、100円均一で売ってるフォルダっていうのかな……。柔らかいビニールカバーとかでラッピングするといいですよ。
私はだいたいそうやって飾っています。アイロンを当ててくっつけるんですが、剥がれてきちゃうことも多いので、接着剤とかで付けるほうがいいかも。ビニールが熱される危ない臭いもするので(笑)。
──おお……、さすがですね。マネさせていただきます。
川本氏:
ええええええ……。それでいいのか?
ナナイ氏:
いいことだよ! 私も『パンティ&ストッキング with ガーターベルト』【※】が好きで、パンティになりたい欲がすごくあったときに、銃をオーダーメイドして、それを飾って「我ながらパンティになった気分」って浸っていた。当時はコスプレイヤーだったというのもあるけれど。
※パンティ&ストッキングwithガーターベルト
GAINAXが製作し、2010年10月から12月にかけて放送されたTVアニメ。ポップなカートゥーン調のイラストが特徴的。かわいい女の子たちが登場するが、ときに放送用語ギリギリのラインを攻めた言葉づかいが話題となった。
川本氏:
おおう……。
ナナイ氏:
「私のためだけに作られた、私だけの銃!」というように、それを眺めて「ふふっ」って笑っていたんだけど……今日の記者さんの話を聞いたら「彼部屋もありだな~」と。
とはいえ、私は神宮寺レンの女だから、レン様の部屋にするのはちょっと難しい。アニメの部屋だと、まぁ様(聖川真斗)と共同生活だから実現が難しいんだよね。
──それに、レン様のお部屋って家具が高級そうですよね。ダブルベッドですし……。
川本氏:
待って待って。レン様って誰?
ナナイ氏&記者
『うたの☆プリンスさまっ♪』の神宮寺レン様!【※】
※神宮寺レン
乙女ゲーム『うたの☆プリンスさまっ♪』に登場する攻略対象キャラのひとり。女性に優しいフェミニストで日本を代表する神宮寺財閥の三男。
川本氏:
……なるほど。
ナナイ氏:
そう。だから推し色【※】を部屋のどこかに入れるから、レン様のオレンジが入ることが多いかな。そのほかはプリンセス系。プリンセス系の部屋は、たぶんレン様なら「かわいいね、レディ」って言ってくれるはず。
※推し色
女性向けゲームに登場するキャラクターたちには、それぞれにテーマカラーが決められている。大好きなキャラクターのことを“推しキャラ”といいその、キャラクターのカラーのことを“推し色”や“キャラカラー”と呼ぶ。
──レン様は優しいからきっと言ってくれますよ。
ナナイ氏:
「レディのキッチンはかわいいね」って。私はそれだけで嬉しい……。
川本氏:
もう僕は、理解できていないよ(笑)。しかし、ふたりの話を聞いていると、なんか濃度の濃い仮想現実を、リアル世界に自作している気がする。「自作リアルVR」という感じ。
──テレビアニメ『PSYCHO-PASS』の世界だと、テクノロジーが進んだ結果、部屋の模様替えをボタンひとつでホログラムでできるじゃないですか……。
ナナイ氏:
ボタン押したら、部屋の壁紙や家具の模様が変わるやつですよね。あれは羨ましい。
──でも、2018年の現在はその技術がないので……古典的な手法で作り込むしかない。
ナナイ氏:
バーチャルに頼らず、リアルで作っていきましょ! ガンガンDIYしましょ! “堕落部屋”へお帰りなさい!
──まだギリギリのところで留まっているんで、背中を押さないでくださいよ……。
川本氏:
いやいや、後押しも何も、もうじゅうぶん堕落部屋の住人ですよ(笑)。
それにしても……やっぱり女の子たちの“堕落部屋”への熱量は「すごいなぁ~」と。
ナナイ氏:
しかし改めて考えたんですが、好きになったコンテンツって、“いろいろな好きの形”でできあがっていくんだなと思ったんですよ。じつは私の人生でカギになっているのは、『ペルソナ2』、『ペルソナ4』、『FFXV』の3作品なんです。『ペルソナ2』は、いつも隣に寄り添ってくれるもの、『ペルソナ4』は、私の手を引いて前へ向かせてくれるもの、『FFXV』は、私のなかに内在していて、優しさを与えてくれるもの。それぞれ同じ好きだけど、ベクトルが違うんですよね。
──『ヒプマイ』は今のところどうなっていますか……?
ナナイ氏:
『ヒプマイ』はもう、今は好きが混乱してもはや“性欲”です。(了)
“堕落部屋”……。そこにただひとつあるのは「好き」という想い。
ロジカルに意味を問いかけられても、深い答えが出ないのは、相手が二次元であれ、三次元であれ「好き」以外に理由がないからかもしれません。
今回の取材では、堕落部屋の住人にその魅了を語っていただくはずだったのですが、結果として逆質問を受け……後半は記者が堕落部屋へ至った経緯を露呈させてしまうことになりました。
ですが記者も一介の堕落部屋住人という観点から言えば、キャラに対する「好き」という気持ちは、“キャラ本人への愛”や“見るだけで幸せになれる状態”や“個人的な性癖”などが複雑に絡み合った感情について人と共有するとき、いちばん平易なひと言であるのは実感できます。
今回の取材でナナイ氏も言うように、堕落部屋を構成するアイテムを粛々と集めることに“論理的理由”なんかありません。そう……「好き」は“嘘偽りのない、真実を表現した心の叫び”であり、「好き」こそすべてということなんです。
【あわせて読みたい】
今日のヘアスタイルはゲンガー(ポケモン)で! 密かに流行中の“キャラ風ヘアー”って何? 秋葉原の美容室「fuwat」で実態を調査してみたキャラクターをイメージしたアクセサリーを作り、痛ネイル、キャラ祭壇などで好きなキャラに愛を捧げる女の子たち。“髪は女の命”。だからこそ、その大切な髪型でキャラクターへの愛情を表現するのです。
関連記事:
〈推しキャラに逢う日の勝負盛り〉応援うちわ、痛ネイル、推しキャラコーデ、痛バッグ! オタク女子のマストアイテム入門
『刀剣乱舞』ファンがこの3年間で巻き起こした覇業を振り返る。107万円の公式Blu-Rayに約70件の申し込み、刀1本の展示で経済効果が4億円、幻の日本刀復元に4500万円を調達!