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『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』を悪評も気にせず“9年間”にわたりプレイし続けてきた紳士と話してみた。「面白いから」と煮詰めた本作の現環境と新作への思いを語る

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 格闘ゲームジャンルとしては超人気作品と呼べるほど初動で大ヒットし、そして物議も醸された、2013年発売のPS3向けタイトルがある。それが『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』(以下、ジョジョASB)だ。この新作『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトルR』が、9月1日からリリース予定となっている。

 しかしこの記事にて記すのは、その前作『ジョジョASB』を9年間にわたりプレイし続けてきたという紳士との奇妙な出会い。しかしその話の前にまず、『ジョジョASB』がたどった運命を簡単に振り返る必要があるだろう ──。

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(画像は『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』公式サイトより)

 荒木飛呂彦先生の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、ジョジョ)を題材とした『ジョジョASB』は、第一部から第八部のキャラクターが多数登場する格闘ゲームとして、2012年にバンダイナムコエンターテイメントから発表された。同年は『ジョジョ』25周年というアニバーサリーイヤー。第一部のアニメが秋より放送され、「ジョジョ展」も開催されるなど、すでに原作自体が大いな盛り上がりを見せていた。

 しかも『ジョジョASB』の開発担当として発表されたのは、ここ最近では『ドラゴンボールZ KAKAROT』『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』などのキャラクターゲームの成功で知られるサイバーコネクトツーだ。当時も『NARUTO 疾風伝 ナルティメット』シリーズなどで原作に忠実なビジュアル表現で評価されていたメーカーであり、発売前から本作へのファンの期待値はうなぎのぼりである。

 実際に、その後公開されていった『ジョジョASB』の映像は、それはそれは大きな注目を集めた ──

 第一弾PVが280万、第二弾が370万、第三弾が460万、第四弾が430万。『ジョジョ』を“完璧”と言ってよいほどに表現した3Dビジュアル、夢のような豪華な声優陣。映像で確認できる隅々からは原作愛がはち切れていた。

 公式チャンネルでアップロードされたプロモーション映像の数々は、発売から数年が経った記事執筆時点での確認ではあるが、どれも数百万回再生をゆうに超えている。これは格闘ゲーム、いやゲームのPVとしてもかなり高い数値だ。

 実際に発売された製品版でも前述した魅力はトーンダウンすることなく、荒木先生による奇妙なキャラクター表現や演出が、ゲーム上でいかんなく表現されていた。少なくともビジュアルやアニメーション面では、本作は間違いなく至高のキャラゲークオリティに達していたと言えるだろう。株式会社メディアクリエイト調べによれば、初週で42万5000本を売り上げるという、大ヒットを記録したという。

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(画像は『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』公式サイトより)

 しかし『ジョジョASB』を語る上で、“もうひとつの事実”を外すことはできない。それは『ジョジョASB』とGoogleで検索すると、「炎上」というワードが上位にサジェストされることだ。本作は当時、キャラゲーとしては前述のように一定の評価を受けた上で、格闘ゲーム面や一部モードなどについては不評も強く浴びた作品だった

 発売後に判明した対戦ラグや永久コンボおよびバグ、バランスに関する問題や調整不足。さらにキャラゲーとしても、原作再現がそこまで濃くなかったストーリーモードや、悩ましいではあろう参戦キャラクターのチョイスへの不満、また後述するが発売前に周知されていなかった「キャンペーンモード」もあり、本作は酷評の様相で燃え上がっていた。

 しかしそんな悲しみや怒りの炎を涼しげに躱したのか、「買ってみたら面白かったから」と9年にわたりゲームを遊びつづけてきたというユーザーたちがいた。定期的に『ジョジョASB』の大会を現在も開催している人々。我々はたまたまYouTubeでその奇妙な動画と出会い、「あのゲームを遊び続けている人たちがいたのか」と驚愕したのである。

 その中のひとりが「なまこさん」だ。今回我々は、なまこさんに話を伺える奇妙で貴重な機会をいただくことができた。はたして『ジョジョASB』のような作品をプレイし続けた現役勢にとって、『ジョジョASB』はどう見えているのか。そして最新作『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトルR』(以下、ジョジョASBR)への思いとは。その数年にわたる気持ちを伺ってみた。

取材・文/悲野ヒコ
編集/ishigenn



「無料で遊べちまうんだ!」でスルーしたら、ちょっとして半額に

──本日は『ジョジョ ASB』をおそらく日本で一番やり込まれているプレイヤーのひとりである「なまこさん」にお話を聞かせていただきたく思います。そもそも、なまこさんは他のゲームでもやり込みプレイをされているんですか?

なまこさん
 とくにゲームをやり込んで自分が強くなったことは、『ジョジョ ASB』以外ではなかったですね。格闘ゲームも、2012年ころから『スーパーストリートファイター4』とか『ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3』とかを少しやっていたくらいです。ゲームセンターに行くタイプでもありませんでした。
 ……だったのですが、『ジョジョ ASB』が発売されてから半額になったころにたまたま買ったら、プレイし続けるようになってしまいました。

──もともと発売日に定価で買われたわけではないんですね。

なまこさん
 そうですね。そもそもバンダイナムコさんのゲームはちょっと様子見する傾向にありまして。『ジョジョ ASB』も興味はあったんですけど、前日にキャンペーンモード【※】の発表があったりとかしたので、ちょっと様子見しようかなと。

──キャンペーンモードは当時たしかに、発表のやり方も含めユーザーから批判の対象になっていましたね。

※『ジョジョ ASB』のキャンペーンモード:
 「ジョジョエネルギー」と呼ばれるゲージを消費してプレイするモードで、ランダムに出現する敵と戦うことで、挑発やカラーバリエーションを変えられる「カスタマイズメダル」を取得することができる。ゲージは時間経過で回復のほか、有料でも購入できるサポートアイテムでも回復する仕様。いわゆるソーシャルゲームにおけるスタミナのような要素として発売当初は批判を浴びた(のちにアップデートで回復速度は早くなった)。また、このモードの存在は発売前に周知されていなかったことも、火に油を注ぐ結果となった。後述するようにスピード・ワゴンが「無料で遊べちまうんだ!」と叫ぶイメージがゲーム中で表示され、これがミーム化した。 

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(画像は『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』公式サイトより)

──つまり『ジョジョASB』の存在は知っていたけど、最初は買うつもりが無かった?

なまこさん
 当時はそうですね。PVを見て「かっこいいな」と思っていたぐらいで、発売して数週間はさっき言っていた件もあって買う予定もありませんでした。

──発売前から相当話題になっていて、でも発売してから数週間で批判的な意見もかなり視認できるような状況だったころだと思いますが、では購入されたきっかけは?

なまこさん
 ある日、友人が家に遊びに来たときに「なにかやるゲームないかな」とお店で物色することになったんです。そのときに半額くらいになっていた『ジョジョ ASB』を見つけました。

──なるほど、出会いはほんと「奇妙な運命」というか、偶然ですよね。そこから数年間にわたりやり込むことになったという。

なまこさん
 そのときは友人と遊んで終わったんですけど、あとで自分ひとりで触ってみたら、「あ、なんか楽しい」と思うようになったんです。それから対人もプレイするようになりました。

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なまこさんの持ちキャラの「ジョナサン」。ちなみになまこさんは原作でも劇画風の一部が好きで、最初は「いままでに食べたパンの枚数を覚えているか?」の名台詞でお馴染みディオのカリスマ性に惹かれていたが、ジョナサンの成長に感情移入していったとのこと。ジョナサンの熱血さと紳士さに感銘を受けているという
(画像は『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』公式サイトより)

──購入されたのはいつごろなんですか?

なまこさん
 購入したのは8月に発売されてからちょっと経ったころで、2013年9月中旬ぐらいでした。

──半額になったの、そんなに早かったでしたっけ?

なまこさん
 そうですね。格ゲージャンルで考えるとかなり売れた方だとは思うのですけど、正直、発売からすぐに評判が地に落ちてしまったようには見えましたね……。当時はインターネット上で「スピードワゴン」と揶揄されていたと記憶しています。

──語呂が良すぎる。

なまこさん
 「無料で遊べちまうんだ」とかもありましたよね。自分は原作一部のファンなので、スピードワゴンになんてこと言わせるんだって思いましたよ(笑)。あとは二部のジョセフのジャンプ強攻撃が「GEOキック」と呼ばれてましたよね。

──「GEOキック」。

なまこさん
 ジョセフのジャンプ攻撃は判定が強くてめくりもできる超高性能の技で、それで狩られてしまった人たちが心が折れて、GEOる(買い取りしてもらう)みたいな話がありました。

──こちらは格闘ゲーム全般で使われるスラングですが、バッタゲー(キャラクターがジャンプばかりするような格闘ゲーム。バッタのように飛ぶ様から)と言われていたのも記憶しています。

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(画像は『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』公式サイトより)

「遊びやすいゲーム」だった。『ジョジョASB』から格ゲーを始めた現役勢も

──しかし、そんな評判で半額になってから買ったところ、そこから数年間もやり込むなんてという。最初に触ってみたとき、感触はどうだったんですか?

なまこさん
 「遊びやすいゲーム」という印象でしたよ。けっこう自由に動き回れますし、ジャンプも強くて、攻撃がしやすかったです。イージービート(弱ボタンを連打することで特定のコンボを繰り出すことができるシステム)でコンボもやりやすかったり、ステージギミック要素も楽しかったり。

 トレモ(トレーニングモード)でちょっと難しいコンボもできるようになって、そこから熱帯(ネット対戦)もやり込むようになって……熱帯はラグや処理落ちで満足に対戦できないこともしばしばありましたが。

──マルチプレイゲームではよくありますが、どんな有名タイトルやIPモノでも初動で失敗して人口が定着しないと、そのあとは先細りしてしまいますよね。そういった点は気にならなかったんですか?

なまこさん
 買ったのはノリだったんですけど、ネット上でなんと言われていても『ジョジョASB』は自分の好みにすっぽりはまったんですね

──スタンド使いは惹かれ合うではないですが、ちょっと運命の出会いですね。失礼な言い方かもしれないですが、純粋にゲームを楽しまれている。『ジョジョ』ファンで発売前から期待してすぐに買ったわけでもなく、変な評判がついたからと買う変人タイプのゲーマーでもなく。

なまこさん
 そのどちらでもないですね。

──なんとなくジョナサンを使われているのもわかる気がします。紳士的。

──そんな奇妙な出会いからやり込みを続けてこられたわけですが、どこかのコミュニティに所属されたりはしていたんですか?

なまこさん
 かつて「2ちゃんねる」の「パー速VIP板」というところに『ジョジョASB』スレがあって、じつはそこにいた方々といまも交流があるんです。その中の方が現在も大会を開いてくれたりしています。

──パー速VIP。なつかしい。現在もその界隈の方たちが続けているということだと思うんですが、いま何名ぐらいいらっしゃるんですか。

なまこさん
 難しいですが、『ジョジョASBR』の発表前にいたプレイヤー数を考えると、両手でギリギリ数えられるくらい……でしょうか。もちろん自分が確認できていないプレイヤーの方もいるとは思うのですが。

──なまこさん視点だと、数年間を数人で回してきたってことですよね。その環境の中でどうやってモチベーションを保っていってるんですか?

なまこさん
 まず、自キャラであるジョナサンでできることを掘りつくしていないなという感覚があって……。それに、残ってる猛者の方々と切磋琢磨していける感覚ですよね。配信もしていたので、それが原動力にもなってますね。

──9年経っても掘りきれていないとは、驚きです。

※2014年6月7日に投稿されたなまこさんの動画。ジョナサン同キャラ対戦。

──しかし、あの日多くのプレイヤーは『ジョジョASB』が悪評のあるゲームだという認識を持ってしまったわけですけど、現在もプレイし続ける人たちがいるわけですね。通常だと、ほかの新作格闘ゲームに移ってしまいそうですが……。

なまこさん
 ほかのゲームはそれほどやっていなくて、自分みたいに『ジョジョASB』から始めた人も数人いるんですよね

──ということは、『ジョジョASB』から格闘ゲームを真剣に始めてやり続けてる人たちが意外と多いと。

なまこさん
 このジャンルに慣れていなくてもキャラクターをすぐに動かせる楽しさがありますから。気持ちよく動かせるゲームですよね。

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編集者
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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