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「お前に社長なんかできる訳がない」新海誠と肩を並べて怒られていた男が、日本有数のゲーム会社で社長になったワケをお酒を飲ませて訊いてみた

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最初の大失敗は『空の軌跡』。大切なのは、“終わらせる意識”だった

近藤氏:
 僕は最初、大失敗したんですよ。それが『空の軌跡【※】で2年以上かかって「半分もできてない」って言ったら「もう半分で出せ」って言われたんですよ。

 その時には、「なるほど」って思ったんです。
 確かに、僕らは何も考えないまま制作していたら2年も経ち「半分しかできてません」と言われたら、確かにそりゃないよねって思います。

「お前に社長なんかできる訳がない」から始まったファルコム社長に密着インタビュー。新海誠とのエピソードも_001
(画像は日本ファルコムの公式サイトより)

※『英雄伝説VI 空の軌跡』は、2004年から2007年にかけて三作品発表されたRPG。
導力器(オーブメント)と呼ばれる技術が発達した世界のリベール王国を舞台に、遊撃士(ブレイサー)として成長していく少女エステルと少年ヨシュアを主軸においた物語。

喜多山氏:
 完成度が半分でも、1本に足りるボリュームだったっていうのもあるでしょうけどね。

近藤氏:
 それも、わかってないままやっていたことだったんですよ。
 だから、一回終わらせて、次を頑張ればいいじゃないということになりました。
 『空の軌跡』はそれで2本に分かれたんですけど、その時に思ったのがやっぱり終わらせることを決めてなかったなと。

 「終わらせる」と決めたら、いろんなことが決まるんです。
 「タイトル決まってないな」「タイトル画面そういえば仮のままだ」など、決まっていないなら完成させようという風に途端にみんなが動き始めて、終わりに向けて集束していく。

 「終わらせるぞ」という雰囲気にならないと、そこに向かっていかないんですよね。
 いつまでも開発して良い雰囲気が常態化してしまうというか。

喜多山氏:
 でも、「9月に発売したいから7月に終わらせろ」と言うこと自体は経営者側のスタンスからしたら言えるわけじゃないですか。

 そこは、開発からしたら「えー7月!?それじゃ足りないよ!」とか、まだまだこれだけやりたいという話が出てもおかしくないと思うんです。
 その中で、ちゃんと商品化できるレベルの物に持っていかれているわけじゃないですか。

近藤氏:
 はい。

喜多山氏:
 そこの開発スタッフ全員のモチベーションがちゃんと保てるというのはすごいなと。

近藤氏:
 全員は保てていないと思いますよ。多分、いろんな考えがあるはずです。
 ただ、メインのメンバーに関しては理解してくれてるんじゃないかなとは思ってます。

喜多山氏:
 そこもプロ意識ですよね。

近藤氏:
 終わらせることを決めたほうが、むしろ楽であると分かっていれば、そうなるんです。
 そこを理解できる仲間を増やすしかないですよね。すると、「じゃあ、この期間でやれることをやろう」という雰囲気になります。

喜多山氏:
 そうそう、そこが大事で、そこを両立できるのはゲーム開発現場ではあまりないんだろうなと思っています。
 発売日を伸ばすか、納期を守るけれどクオリティが甘くなるか、どっちかになっちゃうんじゃないかと。
 納期を守った上でクオリティ担保してるというのは、実はかなり凄いことだと思うんですよ。

近藤氏:
 僕らは、入社してから既存タイトルのリメイクがずっと続いてたんですが、やっぱり自分たちで新作を作りたいという意思もありました。
 では、新作を作るにはどうしたらいいか。会社との折り合いが絶対に大事だと思いました。
 まず、信用してもらわないといけない。
 たぶん、信用されてないから作らせてもらえないんだろうと、『イースI』『II』のリメイクを作り、次も『III』を作って……でも、待てよって思ったんですよ。
 『III』じゃなくて『V』で止まってるから、『VI』が作りたいけど、どうしたらいいのだろうと思いました。

 それをいつまでもやられてたら嫌だから、じゃあ自分たちでリメイクを終わらせるって決めて、新作を開発しようよ、というところで進めていきました。
 そういう経験があって、その時のメンバーが今のファルコムのコアメンバーなので、終わらせる意識が浸透しているのかもしれない。
 ずっとオリジナルを最初からやらせてもらえる立場にあったら、もしかしたら甘えてたかもしれません。

喜多山氏:
 なかなか、一朝一夕には真似できないですね。

近藤氏:
 でも嫌ですよ、今でも毎回ヒヤヒヤですよ。
 20年もやってれば、ゲームの作り方って上手くなるって思うじゃないですか……。
 まったく上手くなってると実感できないです。毎回、同じことを言ってる気がします。

「己惚れるんじゃないぞ自分!」身を引き締めるために空手家になった

喜多山氏:
 全然、違う話をしますけど、近藤さん、空手家じゃないですか?

近藤氏:
 多分、あんまり知られてないと思います。

喜多山氏:
 そうですよね。雑誌のインタビューとかでもやってないと思いますけど、実際に空手家じゃないですか。なぜ、空手なんですか?

近藤氏:
 初めたきっかけは、長男が始めたからでした。
 32歳で社長になり、36歳のときに一段落した時期に空手家になりました。

 そうは言っても、何かを為したっていう手ごたえが大きくあるわけじゃなく、「己惚れるんじゃねえぞ自分!」という気持ちがあったんですよ。思い上がっちゃダメだなって。

 それで、道場に行くとすごくシンプルなんですよ。
 帯で実力が色分けされてて、最初は白帯から始まるんですね。

 白帯は最初、末席に座るじゃないですか。
 小学生とか中学生とかよりも末席じゃないですか。「これいいな」と思って(笑)

一同:
 (笑)

喜多山氏:
 外の世界に行ってみたら、自分の存在が客観視できたということですね。

近藤氏:
 そう、自分ってそんなもんなんだよって。
 妙にそれが面白くって、最初からゼロからスタートして……。
 自分は、ゲームが好きじゃないですか。帯が色変わってくんですよ、上手になると。
 この仕組みはゲームでいうレベルアップじゃないですか(笑)

「お前に社長なんかできる訳がない」から始まったファルコム社長に密着インタビュー。新海誠とのエピソードも_002
(画像は極真空手友心会ブログより)

近藤氏:
 あと、道場っていう社会の面白いところとして明確に区別がされてるところですね。
 先輩たちが後輩に教えないといけないときにも「ただ叱るだけじゃダメだよ」と言うんです。
 叱る時も、「まず一個褒めてから注意しなさい」という決まり事があり、ものすごく基本的なものがそこに凝縮されてる気がしたんですよ。

 加えて、僕がお世話になってる道場の道場主の先生が僕より2歳年下なんですけど、すごい立派な方で、考え方が昭和的なところがありました。
 その考え方は古いんだけれど、今の子たちに「でも重要なんだよ」ということをしっかり伝えていく先生なんです。

 そこを気に入って惚れたっていうところもあると思うんですよね。
 僕もこんなに続くとは思ってなかったんですよ。

喜多山氏:
 近藤さん黒帯なんですよ。黒帯って、十人組手【※】しないと黒帯取れないんです。

近藤氏:
 十人組手やりました。

喜多山氏:
 ボコボコにされますよね。

※十人組手
空手の昇段試験の際に行なう審査。1対10人を相手とした組手。
 道場によっては、100人を相手に組手を行なう荒行も存在する。

近藤氏:
 あれ、根性試しですからね。
 1対10なんて真面目にやったら敵うわけないんですよ。

 でも倒れたらダメなので、まず倒れないっていうことと、膝も着かないし手も着かない。
 そこに向けて準備期間が1年ぐらいあったんですけど、その期間だけはちょっとアスリート並に特訓をしていたと思います。

 週2回は稽古で、週2回はジム行ってウェイトやって体重増やして、黒帯取った後にすごい強面の先生たちに挨拶させていただいた時に、お一人「僕、リリア【※】が好きでした」っておっしゃってくださった先生がいて……。

※リリア:『イースⅡ』の登場人物。

一同:
 (笑)

「お前に社長なんかできる訳がない」から始まったファルコム社長に密着インタビュー。新海誠とのエピソードも_003
リリア(画像は日本ファルコムの公式サイトより)

近藤氏:
 「押忍、ありがとうございます!」って(笑)
 あ、そういうこともあるんだなって……その後も試合会場で審判やってたら「予約しました」って囁いてくれる師範の方がいたりとか。
 「いてくださるんだ、この業界にも」って、そういう喜びはありましたね。

喜多山氏:
 それはほっこりしますね。

近藤氏:
 そうですね。「他の先生には黙っといてください」とか(笑)

喜多山氏:
 まあそうですよね。
 どこかにファンがいますよね。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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