メディアに挨拶に行ったら、最初は2時間怒鳴られた
近藤氏:
代表になったときに「まずやろう」と思ったことは、メディアの方たちへの挨拶でした。
日本ファルコムはメディアの方たちに自分から挨拶に行くことがありませんでした。
そこにいたるまでの経緯は僕はわからないんですけれど、作り手としてはもっともっと売り込んでいって「一緒に色々やればいいのにな」って気持ちがありました。
喜多山氏:
その時のメディアの反応はどのように返ってきましたか?
近藤氏:
色々ありましたね。もちろん温かく迎えてくださるところもありましたし、最初は2時間ぐらい怒鳴られ続けたりとか(笑)
一同:
(笑)
近藤氏:
でも一通りお話が一巡したあとに「私になってまた、頑張らせていただきますので」というお話をさせていただいたら「それはじゃあ、わかったよ」という形でおさまり、その会社様とは今でも引き続き取引をさせていただいています。
挨拶するだけで生まれたての小鹿状態に
近藤氏:
でも、社員の方たちも「よく見守ってくれたな」って思うんですよね。そういう意味では感謝してるんですよ。
社長になった年に、会社が夏季休暇に入る時に社員を集めて、総括みたいな挨拶をするんですけど、その時にも脚がガクガクと震えていました。
近藤氏:
同期から「小鹿みたいだよ」って言われました(笑)
自分自身がそもそも、学校の生活の場でリーダーシップを取るような人間じゃなかったですし、どちらかというと文化祭みたいなものも非協力的でサボっており、皆を導くようなタイプではありませんでした。
喜多山氏:
じゃあ、学校とか部活とかで委員長とか部長みたいな経験ってのはなかったわけですか?
近藤氏:
ないかもしれません。学級委員……代表委員くらいはやったことあります。
TAITAI:
代表委員とは何ですか?
近藤氏:
議員のような役割ですね。
喜多山氏:
議員?(学校で)聞いたことないです。
近藤氏:
議員は学校の議員集会に出ていろんな学校のルールを話し合ったり決めたりとか、問題が出たらそれについてどうするかという役割です。
喜多山氏:
そんなことをする学校があるんですか。
近藤氏:
ありましたね。愛知県にはありました。
喜多山氏:
基本的にはリーダーシップを取るみたいなことが幼い頃から得意だったわけではなかった?
近藤氏:
まったく……どちらかというと、苦手でしたね。
人とコミュニケーションしたりお話をこうやってするのも最初はすごく苦手で、どんな話をしようかってちゃんとまとめてからでないと行けませんでした。
人前に立つ場に行って、パッと話できる方が本当にうらやましい。
ファルコムはミステリアスで、こわい?
喜多山氏:
今までは超老舗メーカーで怖い人たちがいたけれども、近藤さんの代になって言いやすくなり、さまざまなことを言ってくる人たちもいるのではないでしょうか。
近藤氏:
どうなんですかね。
いまだに。日本ファルコムのイメージってミステリアスみたいな扱いをされます。
「どうやってゲームを作ってるのか聞いたことがない」とか、「どういう人たちなの?」など。
喜多山氏:
他の企業さんから「ファルコムさん紹介してほしいんですけど」って聞かれるのですが、いや、「自分らで話しに行ったらええやん」って話なんですけど、どうも何か…ちょっと……。
近藤氏:
怖いって思われてる?
喜多山氏:
怖いというか、“失敗できない感”はあるかもしれないです。
変な提案をしたら、もう二度と付き合ってもらえないんじゃないかと。
近藤氏:
ああー……。
喜多山氏:
多分、相手が勝手に緊張してるんじゃないでしょうか。
近藤氏:
相手を緊張させてしまう雰囲気があるのかもしれないですね。
いいように考えれば、一種のふるいにかける機能を果たしているのかもしれないですし、悪い方に言えば、気軽に声をかけていただける機会を逃して損をしているかもしれません。
喜多山氏:
私は今のままでいいと思いますけどね。だって、開発者は開発に集中したいじゃないですか。
近藤氏:
それはすごくあって、本当に開発を守る会社なんです。
喜多山氏:
そうですよね。
近藤氏:
絶対に余計な仕事をさせたくない。「集中させろ」という雰囲気はすごいです。
喜多山氏:
ですよね。それはすごく伝わってきています。
多分、そういうスタンスが自然と醸し出されているように感じています。
近藤氏:
それを徹底するあまり、少し無愛想になってしまうところはあるかもしれません。
TAITAI:
確かに、メディアの立場からしても「取材を受けてもらえないんじゃないか」という雰囲気を感じています。
近藤氏:
僕は、その印象を変えたかったんですよ。
売上がいい時期があった会社ではあるので、それに甘えてるんじゃないのって僕自身が思ってた時期がありました。
これからオリジナルの新作を出す上で、「メディアの取材は受けましょうよ」と打ち出して僕らの代からどんどん売り込んでいかないといけないと思いました。
挨拶するだけでも脚が震えるのに一生懸命頑張ってメディアまで行きました(笑)
エンターブレインさんや当時の電撃さんを回ったり……そこだけは頑張りました。
喜多山氏:
ふと、思ったんですけど、ファルコムさんは笑わないっていうイメージです。
近藤氏:
あー、笑わないかもしれないですね(笑)
打ち合わせでも誰かが何か発言しても反応がないんですよ。
喜多山氏:
仲良くなったら今こんな感じで普通に笑うんですけれど。
近藤氏:
僕のイメージもあるんですかね。
前半は、近藤氏が齢32にしてファルコムの社長となり経験したさまざまな苦労や、社員や周囲の人々に支えられた心温まるエピソードや、新海誠氏の涙ぐましい努力の行程が垣間見えた。
後半では、近藤社長の失敗談から学んで定めたファルコムの方針や、クリエイターの世代交代について伺ってみた。