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「お前に社長なんかできる訳がない」新海誠と肩を並べて怒られていた男が、日本有数のゲーム会社で社長になったワケをお酒を飲ませて訊いてみた

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クリエイターの高齢化問題にはどう対処する?

喜多山氏:
 ちょっとお聞きしたかったこととして社員さんの離職率が低いってことは、平均年齢がすごく高くなっていってるんだろうなと勝手に思っているんですけど……。

近藤氏:
 僕が入社した時から考えれば、相当高くなっています。
 今は、30代半ばくらいが平均ではないでしょうか。

喜多山氏:
 では、高齢化することによって何か問題は発生してないのでしょうか?

近藤氏:
 あー……ゲームのディレクション的な部分であるとか、大元の思想みたいなものを生み出す人間が高齢化しているのはありますね。
 でも、ゲームのプレイヤーの年齢層って、今は20代から30代のユーザーさんが多いと思います。

 そこを、40代から50代のオッサンたちがいつまでも作っているのはどうなのかなと思うところはあります。だから、なるべく若い人たちに譲渡したいとは思っています。

喜多山氏:
 自分の主観なんですけど、両方あっていいと思っています。

近藤氏:
 もちろん、両方あっていいと思います。

喜多山氏:
 ベテランは「負けるものか」と思って歳を取ってもやればいいと思うし、若手は「年寄りに負けるものか」と思って頑張ればいいと思います。

近藤氏:
 でも、先輩がずっと前線にいると、どうしても後輩としては遠慮が発生しますよね。

喜多山氏:
 そうですね。

近藤氏:
 完全に先輩が退かないと「よしやろう」という思考にならないんじゃないかな。
 僕の時は、先輩がスッといなくなっちゃった時期があり、自動的に「もう自分がやるしかない」というポジションになりましたね。シナリオライターになった時もそうです。

喜多山氏:
 いや、問題は結構そこにあると思ってて……。
 辞めないと代替わりしないのってどうなんですかって話なんですよ!

「お前に社長なんかできる訳がない」から始まったファルコム社長に密着インタビュー。新海誠とのエピソードも11

近藤氏:
 (笑)

喜多山氏:
 やめたら、必ず誰かが出てくるんですよ。でも「それって健全なの?」って視点で考えると、先輩が辞めなくても代替わりって起きないの?と思うんですよ。

近藤氏:
 今、その状況と戦っていますよ。そうじゃなくて、「先輩がいても行くんだよ」って啓蒙をしていかないとダメかと思って、若手で将来性のある人間にはそういう声をかけたりしています。

喜多山氏:
 難しいと思うんですよね。
 例えば、漫画の世界だと漫画家は独立した存在で、会社に所属しているわけではない。
 でも、ゲームの場合はクリエイターが会社に所属している。

近藤氏:
 そうですね。そこはちょっと特殊です。

喜多山氏:
 エンターテイメントの業界としてはかなり特殊なんだろうなと思っています。

TAITAI:
 残酷かもしれないですけど、クリエイターは新陳代謝をしていかないといけないんです。
 おっしゃる通り、他のエンタメの業界ってクリエイターは結構変わって行かざるを得ない仕組みとか、圧力が常にありますよね。

喜多山氏:
 これ、言っていいのかわかりませんが、クリエイターって固定給を貰うサラリーマンじゃダメなんだろうなと思います。

TAITAI:
 ただ、何だろうな……。
 ほかの漫画とか音楽に比べると、ゲームって規模が違いすぎるじゃないですか。
 組織力や、ある種の人間関係も含めた“チーム力”が必要な局面がたくさんあります。
 それを会社で作ることの重要さも一方であると思います。

近藤氏:
 社員であり、クリエイターである人に対して社長がどこまで要求していいのか、僕はずっと悩んでるんですよ。

喜多山氏:
 というと?

近藤氏:
 意志表明として「自分は世界でトップクラスになるために頑張ります」って言えている人に対しては「ガンガンやれ!」って言えるんですけれど、どっちか分からない方たちの方が多いですよ。

 会社の中では、そうではない人たちにトップクラスのやる気を要求すると「いえ、そこまでじゃないんで」みたいなこと言われてしまったりとか……。

 最初の面接では、みんないいこと言うじゃないですか。
 入ってきてみて……「あれ?」ってなったりとか。

喜多山氏:
 あの時はああ言ってたよね?みたいなのはありますよね。

近藤氏:
 なかなか、今のご時世もあるじゃないですか。

喜多山氏:
 そうですね。

近藤氏:
 でもゲーム会社ってこう…もちろん、会社員だから。
 世間一般的な規範の中でやるっていう所もありつつも……。

 クリエイターって、スポーツのプロ選手みたいなところもあるじゃないですか。
 「どっちなの?」と見極める判断には困っているんですよ。
 自分は、できればプロ野球であればプロの選手であってほしいと思います。
 チームの練習が終わったあとに、自分で筋トレしたりとか、食事量に気を使うことはプロであれば当たり前の世界ですよね。

 でも、それを言うと「いやそれは違うんじゃないですか」という言葉が返ってきて、「ああ、そうじゃないんだ」と感じます。寂しさみたいなのがありますね。

 “昔はやっぱり”……こういうと老害みたいですけれども、みんながみんなトップを目指すような雰囲気があって、そういう意味では今は普通になったなと感じる時がありますね。

喜多山氏:
 お金とか、ルールが絡んでくるとそうなりますよね。

近藤氏:
 残業とかに対する意識は、特にそうだと思います。

喜多山氏:
 そういうことは関係なく、自分らが今やりたいことを追い求められるかどうかだと思います。

近藤氏:
 そういう場で、会社があるにはどうしたらいいんだろうと考えると、すごく難しい時代だと思っています。昔は、そんな難しいことなく残業なんかやりたいだけやっていました。

TAITAI:
 そうですね、泊まり込みで。

近藤氏:
 それが、「良かったよね」って言える時代だったんですよね。
 で、そこで力をつけてきた人が今40になっても50になってもずっとやっています。

喜多山氏:
 でも、その時と「同じことをやりなさい」は違う。
 クリエイターは、人に強制されてやることじゃない。

近藤氏:
 そうなんですよ。その時点でもうやれないですからね。
 やれって言われた時点でやれなくなりますから。

喜多山氏:
 そうなんですよね。
 やらされている残業とか、やらされてる徹夜なんてもう苦行じゃないですか。
 苦行というよりはもう拷問ですからね。でも自ら率先していたら、それは結構楽しいことなんですよね。

近藤氏:
 そうなんですよね。

ゲームクリエイターの一般常識とプロ意識の乖離

近藤氏:
 ゲーム業界に僕らが入った時、給料とか気にしてなかったですね。
 一般企業に行くより安くなることも分かってて入りました。
 頼まれなくても残業していたし「出るな」と怒られても、このままのクオリティで出すのは嫌だと、「こんなモン出したくない!」と思い出社していました。

 よく、社員とする話として締め切りが挙がるのですが、ゲームって締め切りが近けば近づくほど想定してなかったトラブルがあったり、クリエイター自身に「もうちょっと詰めたい」とか「時間が欲しい」などの事情が出てくるので、クリエイターの手から締め切りが逃げてくんですよね。

 これを80%の力で逃げていく締め切りを追いかけていると、差が離れていく。
 これが俗にいう、発売日延期ですよね(笑)
 そこで、100%で追いかけていくと今度は差はつまっていくけど、やはり発売日は伸びていきます。

 120%の全力以上に力を注ぎ、「予定通り!」ということをやれないと納得のいくゴールはできない。
 それをやっていく時には、自分の力も120%出さないといけません。
 その仕組みを一般的なルールで進めてしまうと、なかなか終わらない状況が発生します。

喜多山氏:
 結局、面白い面白くないとか、そういう世界の話なので、最後はとことん熱量込めるしかないんですよね。

近藤氏:
 会社の中でも社員の間で二極化してきていて、一般的なことを主張する人と、よりクリエイターとして追求する人たちで乖離が出てきています。
 要は、相反するもので法律的には一般的な主張が正しいし、プロとしては、追求する主張が正しいというせめぎ合いです。

 では、そういう中でゲーム会社の社長はどうしたらいいか、なかなか悩ましいと思いませんか?
 会社の中では、「プロを目指したい」という方と「家庭を守るためにやってるんだ」という方、別にどちらも間違いではないですよね。

喜多山氏:
 その人を独立させてあげてフリーにして、そのぶん報酬をしっかり上げるというのはいかがでしょうか。

近藤氏:
 なるほど。

喜多山氏:
 今、適当なことを言いましたけどね。

TAITAI:
 先ほど、近藤さんがおっしゃっていた「80%だと永遠に終わらない」という話は、潤沢な予算、潤沢な期間が設けられているプロジェクトでも必ずしもうまくいかないのでは?

近藤氏:
 そうですね、僕は全然自信ないです。終わらないんじゃないかって……。

TAITAI:
 モノづくりが終わらない現象が発生してしまうのは、なぜだと思いますか?

近藤氏:
 実際に「ここで終わり」と決めてないだけじゃないですか?
 逆に、終わりと決めることで開き直って決められることがたくさん出てきます。
 そこから生まれる工夫が上手くゲームの仕組みに結びつく場合もあります。

 僕らは、発売延期ということはあまりないんですけれど、開発は区切りよく「そこで終わり」って決めてます。

 でも、その中で手を抜かずに開発をしてきています。
 ただ、同じように潤沢な期間と予算が与えられたら僕らもきっと終わらないと思いますよ(笑)

喜多山氏:
 近藤さんから聞いた名言だと思ってるんですけど……。

近藤氏:
 なにか言いましたっけ?

喜多山氏:
 私が前職の時はちょうど発売延期が多かった時期で、名古屋でお2人でセミナーやった時に話題になったことです。
 日本ファルコムは、必ず「毎年、何月に」という形式で発表されてたじゃないですか。
 なんで納期を守れるの?ということを聞いたんですよ。
 そしたら「終わりを決めてる」って言われたんです。

近藤氏:
 「終わらせるって決めてる」と言いましたね。

喜多山氏:
 かっこいいー、と思って。

近藤氏:
 それは、最初に習ったことで……。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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