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中小企業がなんとなくインディーゲーム開発に乗り出すと何が起きるのか!? スケジュール、予算、PR…あらゆる点に潜む“落とし穴”にハマってしまった事例から学ぶ「縛りだらけのインディーゲーム開発」の世界

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理想のゲームを作り始めるも、「面白い」と思った要素を詰め込み過ぎて一度はボツに

岩崎:
ようやく、会社の中の話から、チームができたときの話になってきました(笑)。

尾崎:
ですね(笑)。今回の新卒チームでは当社に中途入社いただいたシニアのデザイナーの方に、デザイナーをやりながら新卒を教育する役目を引き受けてもらうことにしたんです。その方はデザイナーの経験はもちろん、スタッフマネジメントにも実績があるため、面接したときにこの相談をしたら「面白そうだ」と受けてもらえました。

デザイナーとしての作業だけでも少ない人数のなかで大変なんですが、その方に今後も自社ゲームでマネジメントをしてもらうことで、そちらのノウハウも積まれて継続性が産まれるだろうと。

岩崎:
これでやっと僕を強引に引き入れた元部下が、どういうタイミングでやってきたのかわかりました(笑)。

尾崎:
新卒のデザイナーを入れなかったのは、やはりデザイナーって社内で請け負う開発受託業務があって、社内に先輩がいて、その横でやれるような環境がないと育たないと思ったからです。トータルのコストの問題もあるんですけど。

岩崎:
なるほど。

尾崎:
なので、新卒ではデザイナーは取っていませんでした。プランナーとプログラマーに関しては、仕様書を書くくらいのレベルのことは多分できるだろうなと思っていましたので。

あとアイデア面に関しては、「うちのシニアと今の新卒チームのアイデアと大きな違いがあるか」って言ったら、あまり変わらないだろうなというのが正直なところでした。これはうち全体のスキルの話でもあると思うんですけどね。

もちろん当社のシニアのプランナーの方が、現場に即したプロフェッショナルな仕様書を書けると思っています。ただ、あくまで自社サービスであってクライアント企業にご迷惑をかけるリスクがないという前提がありましたから、アイデア面も新卒チームに任せることにしたんです。

岩崎:
シニアの方に任せた方がきっちりとした仕様書になるだろうし、確実に作れるものが出てくるのは確かだと思いますが、オリジナルゲームの面白さの担保というと微妙な話になってきますよね。

尾崎:
プログラマーに関しても、「先輩プログラマーがいれば良い」という話ではないと思っていて。昔に比べて今は情報がインターネットに溢れているので、自分で調べてやってくれというスタンスで話を始めたんですよ。

岩崎:
新人研修も兼ねるとは言え、技術側のシニアがいないのは、今思うとちょっと怖い構成でしたね。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:中小企業がなんとなくインディーゲーム開発に乗り出すと何が起きるのか!?_004
『Rogue Gladius Survivors』ゲームプレイ画面

尾崎:
で、ようやくゲームが作れるんじゃないかと思ったところに、大きな落とし穴があったんです……。プロモーションですね。もちろんプロモーションの必要があるのはわかっていたんですが、Steamのプロモーションは、想定していたのとは全然違いまして。

岩崎:
それは僕もまさにそうで……。ともかくSteamの事はNeon Noroshi【※】の人が良く知っているから、頼もうというのだけは正しかったですね。それでなんとか体制が整えられたんですから。

※Neon Noroshiは、スウェーデンのゲームPR会社。Steamのプロモーションについての話は、この連載の予定では3回目で詳しく書く。しかしともかく、コンソールやスマートフォンとはアプローチがまったく違い、無名の会社の場合には「1年単位でのプロモーション計画がないと戦うことが難しい」世界だとわかったということは書いておきたい。そして『グラサバ』では、その期間がなかったので大変苦労することになった。Steamに挑戦しようとするなら1年前からプロモーションの想定が望ましい。

尾崎:
それで、デザイナーの方に現場マネージャーもやってもらう形で開発を行う体制をまずは作りました。

ただ、実際のところ今の新卒チームは、最初の3ヶ月では別のアプリを試してみたくて、あるシニアプランナーと一緒に他のアプリを作っていたんですよ。ところが、アプリは形にならなくて。

岩崎:
3ヶ月、無駄に使っちゃったところもあるけど、チームの一体感を醸成するのには役に立ったと言えないこともない、という感じですか。

尾崎:
はい。ただ、そのあとも苦労は続いて……。最初は企画をみんなで持ち合って、どれがいいか考えるスクラップアンドビルドで進めていたんですね。で、今のメインプランナーがレコード盤のアイデアを考えてきて。それが「目新しさがある」ということで、全員一致で候補に残ったんです。

岩崎:
レコード盤? その話は初耳ですね……。どんな企画だったんですか?

尾崎:
レコードの盤面が3つ並んでくるくる回っていて、そのタイミングにあわせて攻撃のタイミングも変わり、ゲームができる……みたいなアイデアでした。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:中小企業がなんとなくインディーゲーム開発に乗り出すと何が起きるのか!?_005

岩崎:
あぁ、「音ゲー+攻撃」みたいな感じですか。いや、新しいゲームを作りたい、という気持ちはわかるんですけど……。

尾崎:
厳密には音ゲーではなかったんですが、おおむねそんな感じです。「独自性のあるゲームを作ろう」と考え、スタッフの総意でこの企画でいってみようということになりました。

でも結論から言うと、全然ゲームにならないまま、時間だけが過ぎていってしまいました。こういう事態も想定してはいましたが、やはり難しかったんでしょうね。さすがに新卒ですし、社会経験もまだこれからという中では、厳しかったのではと思います。

岩崎:
あえて言わせてもらうと、その案をちゃんとゲームにまとめ上げようとすると、かなりの経験か時間が必要だと思います。僕が最初に会議したときの実力を考えると、彼らだけでそれをまとめきるには、1年はかかっちゃうぐらいのイメージですね……。

尾崎:
ただ、チームとしてはそのレコードのゲームが行けそうな気がしていたらしく、何度も作り直しを繰り返していました。そんなこんなでしばらくはこの企画を進めていたんですが、最終的にはまとまりませんでした。開発を中断させるジャッジのタイミングも非常に難しかったです。

補足:インタビューのあと、このゲームの企画書とプロトタイプを見せていただいた。

未発表のゲームなので抽象的な表現になってしまうが、「新しくて面白いゲームを作りたい!」という情熱は伝わってくるし、「これ新しいよ!」と思わせるゲームではあった。しかし、開発陣が面白いと思う要素をとにかく入れてしまっていたため、新人が数か月でまとめるのは無理だと思う内容になっていた。

ただ、そうはいっても、これをやってしまうのがデビュー作だ。僕自身もデビュー作で自分が面白いと思う要素を全部入れてしまい、まとまらずに苦労したのでその気持ちはとてもよくわかる。良い意味で、やる気いっぱいの「俺たちの面白いゲームを作るぜ!」と思っているチームには「あるある」な現象なのだと書いておきたい。

それで、企画をメインのプランナーと一緒に見ながら「基本は面白いんだけど、この要素を入れちゃったのがまとまらなくなった最大の理由だねえ」と、ある要素を指摘してみた。すると「今見ると、どうしてこの要素まで入れようと思ったのかと思います」と返ってきたので、若い奴の進歩はすごいなあと思わされた次第である。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:中小企業がなんとなくインディーゲーム開発に乗り出すと何が起きるのか!?_006

尾崎:
それで、また秋から冬にいろいろ企画するんですが、その時には「もうスクラップアンドビルドなんかしてる時間はない」と判断しました。

結局、これは全部リセットするしかない、と私が決めまして。当時チームがいくつか出していた案のなかで、いわゆるゲームシステムとしては大体分かっている「サバイバー系」があったんです。それで「ヴァンサバ【※】のマッシュアップで行こう」と。

※『Vampire Survivors』の略称。全方位から迫る敵に自動攻撃で戦うスタイルを特徴に一大ブームを起こし、俗に「サバイバー系」「ヴァンサバ系」と呼ばれるフォロワー作品が多数生まれた。

岩崎:
オリジナルで苦労している新卒のチームを相手に、その提案というのはすごく正しかったと思いますよ。まったくのオリジナルで商品になるゲームをまるまる一本作るというのは、とにかくすごい能力が要るうえ、時間がかかるので。ひとつ間違いが起こると、1年では絶対に作りきれないですからね。

尾崎:
そうですよね。難しい判断でしたが、今回はそのように軌道修正しました。サバイバーライクのようなゲームシステムがある程度担保されているジャンルを選ぶことによって、いわゆるスクラップアンドビルドの必要がなくなったわけです。
で、「ベースを持った上でマッシュアップしながら差別化を図っていくゲームにしたらいいのでは?」という話を僕からしていました。

また、その時までに彼らが研究したパーツがありましたから、本当にゼロから作り直しというわけではなく、素早く作ることができたわけです。

岩崎:
いわば、ゴミを漁って?

尾崎:
そういうイメージです。このジャッジは独自性と引き換えにはなってしまうのですが、今回はこの判断以外になかったですね。月数百万のコストが落ちる中、いつまでもスクラップアンドビルドをやっているわけにはいかなかったので。

そういうわけで、『Rogue Gladius Survivors』(以下、グラサバ)という以前から申請中の商標をそのまま使うことにしました。

岩崎:
そうか…タイトル周りはトラブルになることがあるから、「これ商標取れるか確認した方がいいよ」っていったとき、すぐに「進んでいるところです」と言われた理由はそれだったんですね(笑)。

※補足:上場企業で製品を作りますといった時、製品は当然発売時期を決めなければならないし、現実的な収支目標が示されていなければならないし、もちろん基本的には黒字を前提に目標を組まなければならない。そしてもちろん、最終的には株主に対して損した・得したと報告する義務がある。

ところが新規開発のゲームで、しかも、やったことがないSteamでそんなことを書くのは極めて難しいし、書いても精度は悪い。ゲーム業界は、新規プロジェクトの予算や期間の誤差は1000%とかに及ぶこともざらにある世界だ。

そういう危なっかしい状況で、尾崎さんは新製品の資産としての開発を想定してしまったために、月数百万ずつ開発費が仕掛かりで計上される形になってしまう。つまり、最終的に「本当に売れるのか?」が重要になってくるし、さらに開発費が増えれば、売れなければならない数も増える。
しかも中途半端な本数が売れる目標を出したとすると、上場会社のグループということもあり。それでは監査を通らなくなってしまう。日本の上場企業の中で新規IPを立ち上げる時にぶつかる問題のひとつである。

プロジェクトの穴埋めをするためにベテランを投入

岩崎:
しかし、そうやってゲームを「サバイバー系」というワクにはめても、実際はゲームが完成に向かわず、私を呼ぶことになったんですよね?

尾崎:
サバイバー系に決めたと言っても、基本的には内容は開発チームに任せているわけです。
しかし、会議で話を聞くたびに不安になっていました。
「これが面白い」と言っているが説明に裏付けがないとか、抜け漏れが多くて後から必要なものが出てくるとか、そういったことも多かった。
ゲームがこれではまとまらない、と。

岩崎:
考慮不足が多いのは、経験が不足しているチームにありがちですね。そういう時のためにベテランが1人、チームに必要になることも多いと思います。

尾崎:
そして、マネジメント兼デザイナーの方が、現場でいろいろと気になることが出てきたとアラートを挙げてきた。でも、その方もプログラムはわからないんですよね。

それでデザイナーさんから「私の知り合いに若手の研修・指導がかなり得意な方がいるので、今回のプロダクトの研修指導に協力をお願いしたいのですが」と提案していただきまして。
それが誰かと聞いたら「岩崎さん」と出てきて。

尾崎:
岩崎さんは別のプロダクトでご一緒したことがあって頼もしい方という印象だったんですが…呼んで欲しいと言われたとき「うわっ、これは諸刃の剣では?」と一瞬ためらいましたね。

岩崎:
ためらいとは、なぜ(笑)

尾崎:
『ゲームの歴史』という本の著者ともめて、あれはデタラメだらけの内容だったのはわかってますけども、本をひとつ潰している。
インフルエンサーとして強力すぎて、トラブルが起きたら困るということが最初に頭をよぎったんですね。

岩崎:
尾崎さんはリスク管理が仕事ですから、立場を考えると当然のためらいとは思います(笑)

尾崎:
そんなわけで、守秘義務条項などはきっちり確認して契約してから現場に入っていただきました。と言っても、大変な条件を付けたわけではなく、契約書の内容は弊社の一般的な内容のままでしたが。
それにしても、岩崎さんを呼ぶという発想は僕にはなかった。

岩崎:
僕も呼ばれるなんて全然想像していませんでしたよ。
例のデザイナーさんとは10年ほど前に知り合ったんですが、ずっとFacebookで繋がりがあり。そうしたらある日突然、「岩崎さん、ちょっと仕事受けてもらえませんか」と(笑)。話を聞いたら面白そうだったので、ちゃんとやっている仕事があるからドップリ入るのは無理だけど、ヘルプならいいよという形で参加することになりました。

尾崎:
それで岩崎さんに入っていただいてから、実際、うちのスタッフはだいぶ助かったという。
今となってはやはり、僕の見込みが甘かったと思っていますね。逆に言えば、デザイナーの方がスタッフマネジメントとして仕事をしてくれたんだなという。
とはいえ、マネジメントの最終目標は「チームの収益化」なので、まだ課題ではあります。

岩崎:
そこはミッションの最も難しいところですね。

尾崎:
そうですね。一番難しい課題と思います。ですが、スタッフマネジメントの部分はよくやっていただいていると思っています。だから期待はしているのですが、どうしてもデザイナーと現場の方だけだと、企画とプログラムの部分でなかなか回らなかったんだろうなと。岩崎さんに入っていただけて本当に良かったです。

岩崎:
役にたったかというと、一応、役には立ったと思いますよ(笑)。
デザイナーさんが言ってきたのは、「自分はこういう仕事をしてきたんだけど、どうもそれが違っていろいろやりにくいし、心配になる」という話で、その心配のタネをつぶして欲しいという話だったので。

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編集者
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。

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