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中小企業がなんとなくインディーゲーム開発に乗り出すと何が起きるのか!? スケジュール、予算、PR…あらゆる点に潜む“落とし穴”にハマってしまった事例から学ぶ「縛りだらけのインディーゲーム開発」の世界

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「次のプロジェクト」をやるとしたら?マーケティングとゲームジャンルについて思うこと

岩崎:
いろいろ難しいことがいっぱいあったわけですが、それでもなんとか完成が見えてきたわけじゃないですか。それで次をやるとしたら、どういう点を変えていきますか?

尾崎:
やるとしたらですよね?

岩崎:
はい。

尾崎:
まず、23年卒の方を収益化するために別プロジェクトへ移すとした場合、メンバーが減るんですよね。

すると今年の24年新卒の方が2名で、プログラマーしかいない。それに例のデザイナーの方を加えて3人、プラス、例えば岩崎さんコンサルとかでものを作るんじゃないかな……。そういうことをそろそろ考えなきゃいけない時期に来ています。

で、Steam市場で行くのは変えられないと考えると、完成形のグラフィックを先に作ってしまい、早くストアページを開くための動きをしなくてはいけない……というのがひとつ考えているところです。

岩崎:
先ほども少しお話に出ていた、Steamでのプロモーションの関係ですね。
「Steamで宣伝する手法がわからない」とマーケティング会社を呼んだら「声をかけるのが半年遅い」と言われて、コンソールとのルールの違いに驚きましたね。
これは第3回で言及する予定ですが。

尾崎:
「そろそろ見えてきたから、早めに声かけるか」と思ったら、すでに遅い時期だったという。岩崎さんと別の意味で「うわっ」ってなりましたね。プラットフォームが違えばルールが違うのはあたり前ですが、今回で勉強になりました。

あと、もうひとつ次回チャレンジしたいのが、低価格のインディーゲームでもいろいろ目立っている作品ってあるじゃないですか。200~300円くらいのゲームでも、アイデアで攻めている作品ってたくさんあって。その中からサンプルを調べて、どういう傾向が面白そうかというのを見定め、新しい変わったジャンルをやってみたいと考えています。

ちょっと迷っている部分もあるんですけどね、やはり新しいことをやるにはリスクがともなうので。今回の『グラサバ』をマッシュアップしていくことも検討しています。

ただ、何か変わったことをやらないとメディアやショーに選ばれづらいというのも正直なところ感じていまして。そのあたりをスタッフと考えながらやっていけたらいいなと思っています。あと、プロモーションは絶対に並列で考えていこうと。本当は人数をもっと増やしたいんですが、結局のところ収支シミュレーションで本数が上げられない限り、そんなに人数は増やせないので。

今回の反省を踏まえて、次は製品化が本当に見えない限り償却対象にしないと考えています。すると発売時期と本数を決めなくてもよくなるので、人数は少ないながらもじっくり作っていけるんじゃないかなと思いますね。製品化が見えるまでは研究開発費で落として進めていく予定です。これ自体が新人の研修にもなりますし。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:中小企業がなんとなくインディーゲーム開発に乗り出すと何が起きるのか!?_007
『Rogue Gladius Survivors』ゲーム画面

岩崎:
「少人数のチームでどういうゲームを作ればいいんですか?」っていう話をされたときは、シンプルにローグライクを作れって言いますね。要は自動生成が組み込まれている作品を作ると、リソース面でリッチに戦わなくて済みますから。しかも、あのゲームスタイルは面白いゲームが作れるので。

尾崎:
そうですね、それもひとつのやり方ですよね。

岩崎:
ただし、注意することもありまして。ローグライクってよその数値を持ってこない限り、ベテランの人がちゃんと数字を作れないとすごいつまんないものができてしまうことが多いんです。

尾崎:
ああ、バランスの部分ですね。

岩崎:
それで、確かにリソースの割に長いプレイ時間のゲームを作れるんですけど、ちゃんとローグライクを楽しませる形に持ってくるのは、新卒メンバーだけだと厳しいと思います。ちゃんとした企画のベテランががいないと。

尾崎:
今回のゲームはプランナーがいますが、次のゲームはいないですからね……。

岩崎:
ローグライトが売れ線だからやろうといって、それで失敗しているチームは僕が知る限りでも結構あります。

Steamでローグライトの平均売上は高いんだけど、リリース本数は実はそこまで多くないんです。平均売上が高い割に多くないっていうのは、高品質で作ることが難しいから、結局のところ皆さん簡単には発売できないっていうことなんです。

尾崎:
なるほど……。『Baba is You』【※】みたいなやつはどうなんですか?

※『Baba is You』:2019年に発売されたパズルゲーム。ゲーム内のブロックを移動させて文章を作ると、それに応じてゲームのルールが変換される独特のシステムが話題を呼んだ。

岩崎:
いや、あれは難しいですよ……。なんせ、ひとりで2年ぐらいかけて作っている作品ですから。

尾崎:
ノベルゲームとかはプログラマの実績が弱くなるのと、リソース依存なのでコストがかかりますよね。

岩崎:
ビジュアルノベルと言っても、『コーヒートーク』【※】みたいな形だとある程度リソースが少なくても頑張れる印象がありますね。

※『コーヒートーク』:喫茶店の店長として訪れた客にコーヒーを提供しつつ、会話を楽しむアドベンチャーゲーム。キャラクターの細かな作り込みや作品の雰囲気とマッチした楽曲、シナリオの高い完成度が評価されている。

尾崎:
どちらにせよ、シナリオにセンスがないとダメですよね。
あと、Switchの意識とか、ここ最近のSES市場の影響も考えたりと、いろいろあるんですよね。

岩崎:
ああ、ゲーム業界は去年秋からいろいろ縮小気味で、特に受託とSESは大変じゃないかなと……。

尾崎:
そうですね。これからSES市場はしばらく縮小傾向に向かうと想定しています。

岩崎:
しばらくはそうなっちゃうんじゃないのかなって感じですね。また流れが変わるタイミングはあるのかもしれませんが……。そんな今だからこそ、先に自社開発に手を出してるのは大きいんじゃないのかなって思います。

尾崎:
そうですね。人材を活用できる場が、今のSESとか開発受託、あと大手がやるようなAAAタイトル以外に、何かやっぱり勝つところを見出したいよねっていう、切実な思いでいます。だからSteamのダウンロード販売も、Switchのダウンロード販売もそうですけど、なんかもうちょっとこう「自由にやれる環境が欲しいな」というふうに思いますよね。

岩崎:
わかりすぎるぐらいわかります。

※すでにニュースで報じられているが、2023年の秋からスクウェアエニックス、バンダイナムコなどの大手ゲームメーカーが、今までと戦略を変えていくとして、いくつものプロジェクトをクローズしている。結果として、受託メーカーおよびSES市場には現在強い逆風が吹いている状態である。
海外ではレイオフなどの形で明快に不況がわかるが、日本の場合には派遣の雇い止め・受託メーカーの契約打ち切りといった形で処理されるために不況は見えにくい。

岩崎:
でも、結局の今の日本における最適化っていうのは「SteamとNintendo Switchの両方に出す」なんですよね、明らかに。

尾崎:
そうですね。

岩崎:
任天堂の次世代機と言われてるやつもありますが、さすがの任天堂も今回は互換を取るんじゃないでしょうか。
……というか、とらざるを得ないと思っているんですよ。あのエコシステムを生きながらさせるために。

だからその選択を考えると、やっぱり「Steam&Switch」というのがまあしばらくは最適化になるだろうなと。

尾崎:
今回のゲームもSwitchに移植したいのですけどね。

岩崎:
楽に進めるためには経験者が必要だと思いますが、できると思いますよ。

尾崎:
なるほど、どうしようかな……。今の若手がすぐ次のプロジェクトに全員移れるかは分かりませんし、その間に可能な限りで移植版を作っていくみたいな形が良いかもしれませんね。せっかく作ったから、じゃあ今のやつをさらにマッシュアップしようとか、あるいはちょっと違う題材に変えて作っちゃおうかとか、色々考えなきゃいけないんですけど。
いずれにせよ、9月には新プロジェクトをスタートさせる必要がありますので、ぜひまたその時には、岩崎さんにもご協力いただきたく思います。

岩崎:
はい、わかりました。


こうして、SESの好景気による人材獲得の高難度化に対応するための新人獲得・育成から始まった『Rogue Gladius Survivors』の開発は進んでいった。
落とし穴にはまりまくったが、ゲームをスムーズに作れるマネジメントの経験、技術フォローが必要なこともわかり、会社の会計上の計上の仕方も見えてきた。

実際、ようやく Steam ストアページの公開にこぎつけたし、今後は「有望な新人を獲得し、育てるためにゲーム開発を行う」体勢が整い、次回以降の開発はより良い体制でいけるだろう……という見通しが立つところに来て来期の計画も進んでいる。

ところが、この話はこれで終わらない。

ハマった落とし穴はこれだけではなかったのだ。開発チームの現場ではまた別の苦労、落とし穴が山ほどあったのである。チームにベテラン開発者として割り当てられた私、岩崎は新卒の若者だらけの職場で唖然とする。

岩崎「シューティングゲームってやったことある?」
メンバー「スプラとかFPSですか?」

1980年代、2Dシューティングゲームはゲームの花形で、誰もが遊んでいるジャンルだった。しかし、現代においてはその位置はFPSや3Dアクションなどにとってかわられている。

結果、開発チームのメンバーは2Dシューティングを遊んできた経験がなく、古典的な2Dゲームを遊んできたなら知っていて当然の知識を知らない。で、『ヴァンパイアサバイバー』というのは平面的な古典2Dゲームに近いので、その知識がないのはハンデなのだ。

そして、初めて遊んだゲームを聞いてみると……。

メンバー「ゲームボーイのポケモン赤・緑あたりですね」
岩崎「なるほど、モノクロのあれね。僕とゲーム体験に20年ぐらいはギャップがあるわけか」
メンバー「はい、アドバンスからゲームを遊び始めました」
岩崎「それ、ファイアレッドとリーフグリーンじゃん!」

そう、私、岩崎と彼らの間にはゲームの原点に30年以上のギャップがあり、ゲームを改善する前に、コミュニケーション、ジェネレーションギャップから埋めなくてはならない……そんな、予想外のスタートからチャレンジが始まったのであった。

次回へ続く……

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編集者
1998年生まれ。静岡大学情報学部にてプログラマーの道を志すも、FPSゲーム「Overwatch」に熱中するあまり中途退学。少年期に「アーマード・コア」「ドラッグ オン ドラグーン」などから受けた刺激を忘れられず、プログラミング言語から日本語にシフト。自分の言葉で真実の愛を語るべく奮闘中。「おもしろき こともなき世を おもしろく」するコンピューターゲームの力を信じている。道端のスズメに恋をする乙女。

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