オーディエンスが自然とコール&レスポンス「電波ソング」ならではの強み
──皆さんは電波ソングをどう定義されているのですか?
KOTOKOさん:
さきほどお話したとおり、「電波ソング」というのはファンの方が名付けてくださったものだと思うので、「皆さんが電波だと思えばもうそれは電波だろう」って思っていますね。「お前が電波だと思ったら電波でいいんじゃない?」みたいな(笑)。「これがこうで絶対こうでなくてはいけない」とかそういうことじゃないかな、って。
ただひとつ、何かほかの曲と違うところを挙げるなら「どこまでもアホであること。おバカであること」が必須条件かな? かわいいとかポップな曲はほかにいっぱいあるんだけど、そこに「一本頭のネジが飛んだようなアホさ加減」が加わることで「電波ソング」になるんじゃないかな、っていうのが私の解釈ですね。
桃井さん:
なるほど。ちょっとコミカルなところがあるっていう。
KOTOKOさん:
ほかの楽曲だと恥ずかしくてできないようなことだったりとか、言えないような言葉だったりが入っていてもオーケーになっちゃう世界観っていうのが「電波ソング」の魅力なのかなって。
「あ、ここまでぶっ飛んじゃっていいんだ」という突き抜け感が、ほかのポップソングと違うところですかね。
桃井さん:
KOTOKOさんっていわゆる「電波ソング」だけじゃなくて、バンドでいまもツアーを回っていらっしゃったりとか、ロックの人でもあるから、そういう意味である種、「紋切り型の電波ソングというジャンルを定義しない」というのは「なるほど」と思っちゃいましたね。
私は「アキバ系と萌えソングをやるぞ」と思っていたら、いつのまにか「電波ソング」って言われるようになっちゃったんです(笑)。2002年ぐらいまでは、オタクによるオタクの音楽がなかったんですよ。オタク向けにプロが作る音楽、いわゆるアニソンとかはあったんですけど、オタクの視点でそのライフスタイルにフィットする「オタクのためのオタクによる音楽」はなかったから、それをやりたいっていうことだったんです。
ずっと思っていることは「ネットスラングってオタクの方言」だと思うんですね。どこに住んでいても「なんかオタクっぽい喋り方」ってあるじゃないですか。「電波ソング」もそんな感じで、オタクの民謡的なものなのかなと思っていて。UNDER17のときも、いまもそうなんですけど、CD音源というかいわゆる録音されたものより、お客さんがいろいろ足してくれて曲が完成するみたいなところがあって、それが電波成分のような気がします。
「電波ソング」って呼んでもらったのもそうだし、合いの手やコールを入れるみたいなことによって曲が育っていく。たとえば、『LOVE.EXE』【※】はいろいろなものがどんどんオーディエンスに足されていったことによって、自分が録音して完成させたものとは違うものを歌っている感じがあるんですね。
※『LOVE.EXE』……2005年4月7日にアルケミストから発売されたプレイステーション2用ソフト『BALDR FORCE EXE』の主題歌。
KOTOKOさん:
ライブ現場でのコールアンドレスポンスはいまは当たり前なんですけど、昔はライブ経験がないようなオーディエンスの皆さんばかりだったんですね。
なので、こちら側が「どういう感じでライブを楽しめばいいのか」を少しずつ提案しながらライブを進めていくという歴史がありました。でも、「電波ソング」に限っていうと、「こういうふうに言ってね」というレクチャーもしてないのに、急にみんながなんか言ってくれるっていうのが……。
桃井さん:
あー、たしかにそういう感じはあったかも(笑)。
KOTOKOさん:
「ここを言いたい!」っていう皆さんの気持ちで、何のレクチャーもなしに合いの手ができちゃうっていうのが「電波ソング」ならではかもしれませんね。
──もともとオーディエンスにも積極的に参加してほしいみたいな考えがあったのですか?
KOTOKOさん:
当時は私もまだライブ活動していなかったんですよ。だから「ライブで叫んでほしい」とかまったく考えてなくて。楽曲としては『恋愛CHU!』がいちばん最初だったんですけど、ここに「きゅんきゅん」とか「ちゅっちゅ」とか合いの手を入れたら自分が楽しいだろうなと思って入れたんです。で、いざライブで歌ってみたら自然とみんなが言ってくれたっていうことなので、言わせたいと計算していたわけじゃないんですね。
皆さんが「これは電波だ」って名前をつけてくれて、自分たちで勝手に合いの手を入れる文化を作ってくれた。自分たちが「楽しいだろうな」と思って曲にしたものが、皆さんの手でもっと楽しいものに盛り上げてもらった、という感じはありますよね。
ななひらさん:
いわゆる「「電波ソング」と呼ばれてるものに共通してることって何かな」っていろいろ考えてみたんですね。合いの手が多いとか、セリフパートとか寸劇があるとか、明確なキャラクターとか世界観が設定されていて、その中でくり広げられている物語を歌っているとか、早口のセリフがあったり、コロコロ曲調が変わったり、声も変わったり。
考えている中でいちばん「これかな」と思ったのが、さきほどのKOTOKOさんの発言と重なってしまうんですけど、ちょっとアホっぽいというか、意味があるようでまったく中身がない歌詞を「さも意味がある」かのように歌っていること。
でも、それって別に意味がなく歌っているわけじゃなくて、熱意というか、「絶対にこれを言うんだ!」という熱さを感じてもらえると思うんです。その思いを伝えることに制限なく好きにやれる曲で、その中にちょっとした寸劇だとか、コミカルな表現が含まれているものが「電波ソング」なのかなと思いました。
桃井さん:
ちょっと話がズレちゃうんですけど、先日『ゆんゆん電波シンドローム』のステージイベント的なものを韓国の同人即売会 「ILLUSTAR FES」で行って、そこで歌わせてもらったんですね。
『ゆんゆん電波シンドローム』のキャラソンと、僭越ながらKOTOKOさんが歌われているオープニングもカバーで歌わせてもらったんですけど、「むちゅーむちゅーむちゅちゅのちゅー」って言ったらお客さんが「L・O・V・E、送信中!」とレスポンスをくれて。まだライブで歌われたことのなかった曲だったので驚きました。KOTOKOさん、すみません先に歌っちゃって。
KOTOKOさん:
あはははは(笑)。
桃井さん:
韓国のオーディエンスが「L・O・V・E」とか「ゆんゆん」と言ってくれて、「これはスゴイ!!」と。覚えやすくてみんなが参加できる。これは世界平和につながるというか、ほかのジャンルの曲よりもひとつになれる感覚があると感じました。
ななひらさん:
オタクの共通言語みたいですね、合いの手。
桃井さん:
そうなんだよね。最近Xが自動翻訳してくれるようになったじゃないですか。今年は韓国に行ったり、昨年はメキシコやアメリカのロサンゼルスに行ったんですけど、日本語は話せなくても、たとえば『さくらんぼキッス』と言ったらわかってもらえて、通じ合えるわけですよ。
なんでなのかそういう「オタクの魂的なものを持っている人」は、なぜか地球上の地域とかに関係なく、どこにでもいるっていうのが、私の経験則からするとあるんです。ななひらさんが「オタクの共通言語」って言ってたけど、まさにそういう音楽ですよね。刺さっちゃう人たちが世界中にいる。
「電波ソング」の歌い手には歌唱力とは違った技術が必要?
──皆さんが「歌を作ってください」、「歌ってください」とお願いされたときに、ご自身の中でいちばん大事にされる部分ってどういったところなのでしょうか?
KOTOKOさん:
キャッチーであることですね。覚えやすいことがいちばん大事。あえて難しくする場合もありますけど、「電波ソング」はとくに覚えやすいことというか、耳に残ることが大事だと思っています。なるべく簡潔に、頭に入りやすいような合いの手だったりを意識しています。
歌うときは、もう思いっ切り自分がアホになりきる(笑)。恥ずかしがってたら端から見てても本当に恥ずかしくて寒くなっちゃうので、やるときは「やるぞ」と完全にアホになりきります。
皮を脱ぎ捨てるじゃないですけど、自分の中で電波スイッチをパーンと入れる。私もそうだし、「このバカな私を見てみんなもバカになっていいんだよ」、「みんなもいつも着てる鎧を脱いじゃえ」という気持ちです。レコーディングのときからもその想定で、私は恥ずかしくないっていうのは大前提で、堂々とやるっていうのがいちばんかもしれません。
桃井さん:
私は逆に、あまり「電波ソング」だって意識して作らないようにするかも。本当にちゃんと伝えたいことを言おう、とか。私が作ってKOTOKOさんに歌っていただいた『ライブハウスの天気予報』という曲があるのですが、当時コロナ禍でライブ会場で声が出せない状態だったんですね。
だからそれが恋しくなって、「きっとKOTOKOさんだったらライブハウスのよさ」みたいなことをわかって歌ってくれるだろうなって思いながら作ったんです。
KOTOKOさん:
「電波ソング」とかの話以前に名曲! 本当にすごくいい曲だった!

桃井さん:
ありがとうございます! そういうふうに作っていく中で、いつの間にか「電波って認定されちゃった」わけなんです。たとえば、『ワンダーモモーイ』は超本気で歌詞を書かせてもらったんですけど、やっぱり電波っぽく聞こえるみたいで。
KOTOKOさん:
私は桃井さんの声はすごい武器だと思うんですよ。何を歌っても電波になっちゃう声って神様からの授かり物ですよね。私もこの声なので「電波ソング」はたまたま合うジャンルだったんです。
自分では合っているとは思っていなかったんですけど、やってみたらめちゃくちゃ「電波ソング」に合う声だった。私と桃井さんの声はぜんぜん違う種類の声なんですけど、ライブで桃井さんと初めて会ったときに「うわぁ! 生もこの声なんだ!!」ってびっくりしたぐらい、こういうジャンルにもうガチンコで合う声なんです。
何を歌っても「電波ソング」になっちゃうっていうのはもうこれは性(さが)でしょうがない。
桃井さん:
うーん、性だな~(笑)。
KOTOKOさん:
本当にすごい声の持ち主で、何を歌っても必ず電波味が入っちゃう。
桃井さん:
以前、アルバムのボーナストラックでTM NETWORKさんの『Get Wild』【※】をカバーさせていただいたんですけど、私が歌うと『Get Wild』でも秋葉原の風景が見えてきちゃうらしくて(笑)。
※『Get Wild』……小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登の3人組音楽ユニットTM NETWORKの楽曲。アニメ『シティハンター』の最初のエンディング曲としても有名。
KOTOKOさん:
うんうん。
桃井さん:
オタクがひとりでがんばってる感じになっちゃうんです(笑)。
KOTOKOさん:
でも、そんな強烈な世界観はすごく大事なことだと思う。ふつうのポップスの人にはいない個性で、「この声でこんな曲も歌えちゃうんだ」とか、「シリアスな曲でもこんな声で歌えちゃうんだ」っていうのは、本当に秋葉原界隈から出てきたムーブメントだと思っていて。
Jポップにはそういう声の人はいないですからね。最近になってオタクはかっこいいという風潮もありますけど、桃井さんはそういう風に言われる前からの存在なので、桃井さんから周知されていった世界観なんじゃないかなって思います。
ななひらさん:
私の場合は、「力を入れて電波ソングをやるぞ」と思ったことはあまりないんです。作家さんから「これは電波ソングなのでいつものななひらさんでやってください」と言っていただくことが多くて。「いつもの……?」って逆に考えちゃうこともあるんですけど(笑)。
あとは、合いの手を作家さんが考えて歌詞に入れていただいているときに、「好きにもっと入れてください」と言われることもけっこう多いんですね。
ただ、めちゃくちゃ入れたくなるときと「このくらいかな」ってなるときがあるんです。電波ソングっぽくするために入れるのではなくて、自然と出てくる感じなんですね。録っているあいだに「ここに「はいはい!」って入ったらかわいいだろうな」とか、「ちょっとふざけたセリフを入れてみようかな」とか、考えるというよりも自然に湧き出るような感覚です。
──ななひらさんから見て、桃井さん、KOTOKOさん、レジェンドおふたりの声にはどういうイメージがありますか?
ななひらさん:
もうかわいくて神の声だと思っていました。なにより、聴いていて元気をもらえるんですよね。聴いてるときってほかのことを考えなくなるから、その世界に浸れる感じがあります。
桃井さん:
たしかに。現実の生活から違う世界に没頭できるような……。秋葉原にいた2000年代の人たちって、そこを彷徨ってる亡霊のように「現世にいたくないけど二次元での居場所はどこにあるんだろう?」っていう状況だったときの救いというか。
ななひらさん:
ただ、「電波ソング」を聴いてるときは、家族にはあまり見られたくないですね(笑)。曲が恥ずかしいっていうことじゃなくて、それを聴いて楽しんでる自分を見られたくないっていう。
根っこにオタクがあるからバレちゃいけないというか、「私だけの世界なんだよ、ここは」みたいな(笑)。
桃井さん:
それ、よくわかるし、おもしろい。昔のオタクって、すごく恥ずかしがりだったり地味だったりとかあったけど、それ以前に「自分の世界を守りたい」っていうところがあって。
すごく好きだった音楽や作品があったとして、それを親に言ったとしても多分理解されないんですよね。理解されなくて、ちょっと貶されたりとかしたら自分の世界が汚されたかのような、ちょっと嫌な気分になっちゃう。だから言いたくないっていう、自分の世界を守りたいっていうところはあるかもしれない。
──いまは若い世代も当たり前のように電波ソングを聴いている時代ですが、現代の若いリスナーに対して、皆さんの歌を届けるときに何か意識されていることはありますか?
KOTOKOさん:
押し付けたくはないんですよね。「こんなジャンルもあるよ、楽しくない?」というご提案というか。知っていただくということに関しては、もっともっと広まってほしいと思っています。無理強いするものでもないと思っているので、「好きなら聴いて、好きならいっしょに歌おう」というのは、いまも昔も変わらないのかなと。
ただ、環境的に昔より「人に共有しても恥ずかしくない」っていう土壌が少しずつ広がってきた感触はあります。音楽の楽しみ方として「電波ソング」に限らずですが、「これが好き」っていう気持ちは人それぞれなので、「刺さった人は聴いてね」というものであってほしいですね。
桃井さん:
最近は日本人だけじゃなくて、海外の人にもすごく刺さっている中で、曲を作る側、クリエーターも現れてきてますよね。そういう方とコラボレーションできたりするのはとても嬉しいなって思います。いろいろな方面に広がって、作る人も歌う人も聴く人も増えていったというのは純粋にうれしいですね。
ななひらさん:
これまで「電波ソングまとめ」などで桃井さんとKOTOKOさんの歌をたくさん聴いてきました。「電波ソング」を好きな方々がいろいろ布教してくれたからこそ「電波ソング」のいまがあるんだと思っています。
KOTOKOさん:
インターネットでの広がりがあり、その中からななひらさんのような新しい時代を背負ってくれる方が現れるというのは、本当によろこばしいことだと思います。
──ななひらさんは、同世代だったり若い世代に聴いてほしいといった思いで活動を始められたのですか?
ななひらさん:
いや、ぜんぜんそんなことはなくて(笑)。最初は暇つぶしのつもりで歌ってみた動画を上げていたんです。歌に関しては、最初は「うまくなければいけない」みたいなイメージが自分の中にあったんですね。
でも「電波ソング」ってもちろんうまさもあるんですけど、かわいさだとか楽しさを重視するところが大事だと思っていて。
桃井さん:
あ~〜、味がね、味があるよね。
ななひらさん:
そうなんです。「歌はうまさだけじゃないんだ」、「楽しむためにやっていいんだ」みたいなことを「電波ソング」が気づかせてくれたというか……。別にそんな気負わなくていいんだよ、っていう気持ちがあります。
KOTOKOさん:
たしかに、「電波ソング」は「歌唱力が」っていうジャンルじゃないもんね。ただ、ある意味では、ふつうの歌よりも歌唱力がいるかもしれない……。
あの早いテンポの中でピッチを保っていく、リズムを保っていく、しかも合いの手も生で入れる、となるとけっこうたいへんで、ほかの曲より難しいと思う。
桃井さん:
そうかも。専用の技術がいるよね。
KOTOKOさん:
レコーディングは別録りだからいいんですけど。あれを生で再現するのは難しいよね。
桃井さん:
レコーディングでも難しいと思いますよ。じつはテクニックが必要。
KOTOKOさん:
自分の中ではバラードのほうが簡単な面があると思っています。
ななひらさん:
歌詞の主人公になり切ってセリフを入れるとかもあるじゃないですか。そこもやっぱり感情をちゃんと乗せないといけないですし。
KOTOKOさん:
そうそう。
ななひらさん:
求められるものはオールマイティーに必要ですよね。
KOTOKOさん:
だから、意外と技術がある人じゃないと「電波ソング」をしっかり歌うのは難しいかもしれないですね。






