小悪魔なダーニャは危険なキャラ? プレイヤーの感情を狂わせにきている
──伊藤さんが演じられるダーニャは、Ver.3.3後半(5月21日)でプレイアブルキャラとしても実装されました。ご自身がダーニャに対して「とくにここがお気に入り」と思っている部分があれば教えてください。
伊藤さん:
ダーニャって、最初は感情の起伏が少なくて淡々としているように見えるのですが、じつは意外とかわいいところがあったり、漂泊者さんにしか見せない小悪魔っぽい顔をしたりするんです。そういうギャップがズルいんですよね。
増田さん:
そうそう。なんかこう、プレイヤーを手のひらでコロコロ転がすような……危険なキャラですよね。
──危険なキャラですか(笑)。
増田さん:
僕は実際にダーニャの声を聞いたのはゲームをプレイしている時が初めてだったんですが、「やってんな!」と思いましたよ(笑)。一気に爪痕を残しに来ているというか、とにかくキャラが立ちすぎているなと。
伊藤さん:
(笑)。露骨な挑発とまではいきませんが、漂泊者さんを試しているような感じですね。からかって、その反応を見て楽しんでいるような、小悪魔的なムーブをするキャラクターだと思います。
──そういった小悪魔的な側面は、収録の段階でディレクションがあったのでしょうか?
伊藤さん:
そうですね。収録でもディレクターさんから「ここのセリフはもうちょっと煽る感じで」「少し悪魔感を出して、上からの態度で」といったディレクションをいただきました。

──それは演じていても楽しそうですね。
伊藤さん:
そうですね。物語の要所要所に登場するので「こういうところもかわいいなぁ」と楽しみながら台本を読み進めていました。
増田さん:
これまでも魅力的なキャラはたくさん登場してきましたが、ダーニャに関しては「プレイヤーの感情を狂わせにきてるな」と感じるくらい、設定が盛り盛りですよね。
彼女の初登場シーンとなった「陽換えの祝典」で少し喋っただけでも、事前情報がまったくない状態で彼女がプレイアブルキャラクターになることを確信できるくらい、圧倒的な存在感がありました。
それに、あのビジュアルからはどうしても「残星組織(フラクトシデス)」の要素を感じてしまいます。ひと目見ただけで何かしらやらかすタイプだとわかってしまう。そのあからさまな不穏さが、むしろ少しおもしろくなってしまった部分もありますね。
悲しい、苦しい、助けてほしい、怖い……実際に演じて感じたダーニャの心の叫び
──そもそも伊藤さんがダーニャ役に起用されたのは、どのような経緯だったのでしょうか?
伊藤さん:
オファーをいただいたことがきっかけです。もともと『鳴潮』はグラフィックの美しさで注目を集めている作品として知っていたので、出演が決まった際は「あ、あの『鳴潮』だ!」と驚きました。
──ダーニャの第一印象や、役作りのポイントはどこにありましたか?
伊藤さん:
設定資料や台本を拝見したときは、少し気だるげな雰囲気がありつつも、常にニコニコしている子だなという印象を受けました。
ただ、読み進めていくうちに、どこか二面性があるというか……。決して猫をかぶっているわけではないのですが、人に対して目に見えない壁があるような不思議な雰囲気を感じました。なので、まずはその絶妙な距離感を大切にしながら、役を作っていきました。
──そうした絶妙な距離感を、声の出しかたや喋りかたで、どのように演技へ反映させていったのでしょうか?
伊藤さん:
ダーニャ特有の気だるげさを表現するため、あえて間延びしたリズムを作ったり、語尾をふわっと伸ばしてみたりと、喋りかたについてはいろいろと試行錯誤しました。
一度聴いたら耳に残るような、プレイヤーのみなさんの記憶に強く刻まれるキャラクターになればいいなと願いながら演じていましたね。
──物語の進行とともに、ダーニャの内側にある心情が大きく動いていったように見えました。
伊藤さん:
ダーニャの心の暗い部分や、自分自身を吐露する場面って、じつは物語の後半にならないと出てこないんですよね。
前半は、うまく仮面をかぶってきちんと取り繕えている状態なんです。でも後半では、一生懸命に笑顔を作ってはいるけれど、自分の置かれた環境に対する諦めの気持ちが、ふとした瞬間に漏れ出してしまうんですよね。
──現場では、そんなダーニャの揺らぎをどのように形にしていったのですか?
伊藤さん:
アクションシーンの収録で、「鳴式の力に目覚めた後は雰囲気を一変させてほしい」というディレクションをいただいたのが印象深いです。
ダーニャは二面性が強いキャラなので、最初はかわいらしくニコニコしている普段の姿と、組織長たちと話すときの姿をはっきり変えるつもりだったんです。
でも、いざ鳴式の状態になって感情を込めていくと、私の中では強さよりも悲しみのほうがずっと大きくなってしまって。結果として、物語が進むにつれて表と裏の境界線がだんだん曖昧になり、ひとつの感情に溶け合っていったような感覚がありました。
──強さよりも、悲しみのほうが大きくなっていった、と。
伊藤さん:
そうですね。最初はとにかくかっこよくて凛々しい、いわゆる強いボスのような雰囲気を想像していたんです。でも実際に演じてみると、彼女の本質はそこにはなくて。
それまでのダーニャがずっと抱えていた、悲しい、苦しい、助けてほしい、怖い……といった叫び。それらが鳴式という姿を通じて、外に溢れ出したんじゃないのかなと感じています。
「ブラックショアってなんだろう……?」から始まった、伊藤美来さんの役作り
──収録に向けて、伊藤さんは『鳴潮』の世界観やキャラクターの情報を、どのように調べていったのでしょうか。
伊藤さん:
私の場合は、収録の際にスタッフのみなさんから直接レクチャーしていただきました。
『鳴潮』は独自の専門用語が多いので、まずは用語のお勉強からスタートして、これまでの物語の経緯や、漂泊者さんが辿ってきた道のりなどを丁寧に教えていただきましたね。
──リリース前から参加されている増田さんはいかがですか?
増田さん:
僕の場合は最初期からの参加だったので、当時は資料そのものがそれほど多くなかったんです。
オーディションの時だったか、収録が始まったころだったか、時系列は少し曖昧なのですが……。当時の公式ホームページにはベータテスト程度の情報があるかないかで、キャラクターのビジュアルなどもあまり掲載されていなかった印象です。

──少ない情報の中で役を組み立てていくのは、かなり大変だったのではないでしょうか。
増田さん:
じつは漂泊者を演じるうえでは、収録時に僕自身がすべての用語を完璧に理解している必要はありませんでした。
漂泊者は記憶をなくした状態で物語が始まるため、あらゆる情報が初耳であるほうが、キャラクターとしてのリアリティが出るからです。
──主人公(漂泊者)が記憶をなくしているという背景が、結果的に演じる側にとっても助けになっていた部分でもあるんですね。
増田さん:
それにリリース当初のVer.1.0では、ストーリー上でのセリフがそれほど多くありませんでした。当時は状況を確認するセリフが中心でした。そのため、ストーリーの背景や専門用語の難解さに悩まされることはあまりなかったように思います。
ですから、伊藤さんのように物語の途中から参加して、これまでの膨大な世界観や用語に一気に追いつくのは、大変なことだと思いますよ。
伊藤さん:
実際にゲームもプレイさせていただいたのですが、とにかくものすごいボリュームで! 収録日までに最新バージョンまでストーリーをすべて追いきることができなくて、現場でスタッフさんにたくさん質問させていただきました。
──伊藤さんは、今回の『鳴潮』のように作品に途中参加する際、ご自身でも事前にプレイされるのでしょうか?
伊藤さん:
私はいつも、自分なりにある程度調べてからゲームに触れてみるようにしています。とくに途中から参加する作品は、しっかりとお勉強が必要になりますから。
ただ、『鳴潮』に関してはその勉強が大変でした。そもそもブラックショアってなんだろう……? というところから始まったり(笑)。
増田さん:
やはり、あの独特な専門用語の壁は高かったですか。
伊藤さん:
そうですね。難しさはありましたが、パズルのピースを埋めるように世界観を調べていく過程は、楽しい時間でもありました。
「えっ、これってまさか……」。メインストーリーの台本で、初めて知らされたダーニャの結末
──ダーニャを待ち受ける運命について、伊藤さんは最初の資料段階で把握されていたのでしょうか。
伊藤さん:
いえ、最初の資料の段階では知らなかったんです。メインストーリーの台本をいただいた時に「えっ、これってまさか……」とスタッフさんに確認して、そこで初めて結末を知りました。
──それは……演じる側としても驚きですよね。
伊藤さん:
鳴式になってしまうこと自体は聞いていたんです。でも、まさかあんなラストを迎えるなんて想像もしていなかったので。
後半の台本を読んだときは、やっぱりそうなんだ……と思いつつ「そんなのひどすぎるよ」とすごく悲しい気持ちになっちゃいましたね。
──結末を知る前と知った後では、ダーニャというキャラクターへの印象や解釈はどう変わりましたか?
伊藤さん:
私自身、ラストを知る前は、すごくにこやかで穏やかで、どこか淡々としている子という印象だったんです。
たまに棘のある言いかたをするけれど、それすら愛らしくて華やかで、周りからの人望もある。自分が鳴式になってしまう運命についても受け入れ、覚悟が決まっている強い子なのだと思っていたんですよね。
でも、ラストまで読んだ時に 、全然覚悟なんか決まっていなかったんだって気づかされました。
──覚悟していたように見えて、その内側には、まだ全然違う感情があったわけですね。
伊藤さん:
はい。本当はまだまだここにいたくて、人間としてシグリカちゃんたちともっと思い出を作りたかったし、漂泊者さんにももっと感謝を伝えたかったんだなって。
そういう、諦めきれない後悔のようなものが痛いほど溢れ出ていて……。彼女の奥底にある、人間らしい本当の部分を知ってしまって、さらに辛くなりました。
──お話を聞いているだけで、こちらも胸が締め付けられます。
伊藤さん:
自分の運命を理解しきっているように見せて、ぜんぜん未練があるんですよね。
みんなに最後のお別れをしに行くシーンでも、その行動自体が余計に自分の未練を大きくしているように見えました。そこから最終的に、自分で自分の未来を決断するという展開は、演じていても苦しい描写でした。
──彼女は作中で「逃げちゃえばいい」というような発言もしていましたが、それも自分自身に向けた言葉だったのでしょうか。
伊藤さん:
そうですね。ダーニャ的には「逃げちゃえばいいじゃん」というスタンスでずっといました。そう思わないと自分が壊れてしまうから。
でも、ダーニャ自身にはどうしても逃げられない運命がある。本当は逃げたいけれど絶対に逃げられないこともわかっているから、悲しい結末を自分でちゃんと想像してしまっているのだと思います。
自分の中では、私はどうせ長くないからという覚悟があるつもりでも、「でも、どこかで逃げ切れるんじゃないか」というわずかな希望がある。だからこその「逃げちゃえばいい」というセリフだったと思うんです。でも結果的には、逃げ切れませんでした。
──ちなみに、Ver.3.0の序盤でシグリカちゃんたちとお祭りを楽しんでいる場面がありますが、あのころの収録は、ラストまで知った状態で行われたのでしょうか?
伊藤さん:
いえ、あの収録の時はまだラストを知りませんでした。
いずれ鳴式になってしまって、みんなを苦しめてしまうんだよな……というところまでしか知らなくて。周りをからかいつつ、自分の悲しい未来はなんとなく見えているけれど……という、少し宙ぶらりんな状態での演技でしたね。
──物語の前半と後半では、演じる際の意識をはっきりと変えていらしたんですね。
伊藤さん:
はい。本編の前、シグリカちゃんたちと日常を過ごしている場面では、何を考えているのかわからない得体のしれないミステリアスさを大切にしていました。
けれど、いよいよ自分の宿命と向き合い、もう二度とみんなと一緒にいられないことや、自分の最後を突きつけられる終盤では、ただただ辛いという感情に支配されてしまいます。
ミステリアスさを取り繕う余裕すらなくなっていく心情を、私なりに演じさせていただきました。





