ドイツ・ケルンで開催中のゲームイベント「gamescom 2026」会場にて『SILENT HILL: Townfall』の試遊が可能となっている。
9月24日に発売を控える本作は、長編シリーズでは初めての一人称視点で進む『SILENT HILL』(以下、サイレントヒル)だ。シリーズの定番であったラジオは「CRTV」というポケットテレビに生まれ変わり、そこに映し出される映像の謎を解きながら物語が展開されていく。
会場ではメディア向けに開発者インタビューが実施され、シリーズのプロデューサーを務める岡本基氏、開発を手掛けるScreen Burn(スクリーンバーン)にてライター兼ディレクターを務めるジョン・マケラン氏にお話をうかがう機会をいただいた。

取材時間は15分と短い時間ではあったが、本稿ではその様子をお伝えしていく。
個人の「罪悪感」が社会の「恐怖」と結びつくミクロとマクロが交差する物語
──本作では、個人的な「罪悪感」や抑圧された「トラウマ」というミクロな恐怖と、社会的な文脈を持つマクロな恐怖が同時に描かれているように感じます。おふたりは、このふたつの恐怖をどのように組み合わせて本作に落とし込んでいるのでしょうか。
岡本基氏(以下、岡本氏):
ネタバレに関わる部分も多く、どこまでお話しできるか難しいところではありますが。
個人が抱える罪悪感や葛藤といったものは、自分自身の行動や決断によって生じる側面があります。しかし同時に、社会や企業といった大きな集団からの影響、つまり外部環境との相互作用(インタラクション)によって引き起こされる場合も少なくありません。本作では、そうした個人と集団が交錯する絶妙な関係性を落とし込んでおり、まさに「集団がもたらすサイコロジカルホラー」といった体験を味わっていただけるはずです。
ジョン・マケラン氏(以下、マケラン氏):
主人公のサイモンは、非常に内向的で自省的な人物です。
そのため、自身の決断や行動が「自分という人間にどんな変化をもたらすのか」だけでなく、「周囲やより広い世界へどのように波及していくのか」という点まで含めて、多層的な要素が複雑に絡み合っていくストーリー展開となります。
サイモン自身、今回訪れた町と自分との間に「何らかの繋がり」があること自体は理解しています。しかし、彼はその町を訪れたことがなく、実態を何も知りません。そこの “ズレ” を、物語を進めながら紐解いていくことになります。
「間違いなく『サイレントヒル』」だと感じた瞬間
──主観(1人称)視点への変更、ラジオから「CRTV」【※】への変化、そしてスコットランドの実在の街を舞台に設定された点など、本作には数多くの大きな挑戦が見受けられます。開発プロセスの中で「これは紛れもなく『サイレントヒル』だ」と確信された瞬間について、おふたりそれぞれの視点からお聞かせください。
※『サイレントヒル』シリーズ従来作でプレイヤーに情報や不穏な気配を伝えてきた「ラジオ」に代わり、生まれ変わったテレビ型のガジェット。劣化した映像やノイズを通じて恐怖を演出する重要な装置として、本作のアナログな手触りを象徴している。
岡本氏:
最初の企画提案(ピッチ)の段階から、完成度の高いコンセプトアートと明確なストーリー概念が提示されていたので、それらを目にした瞬間にこれは間違いなく素晴らしい『サイレントヒル』になるだろうという思いがありました。
また、開発初期にテスト環境として構築した港町の一部を見た時のことも印象に残っています。立ち込める霧の雰囲気が実に魅力的で、紛れもない港町の風景でありながら、同時に「『サイレントヒル』の霧」そのものであるという独特の感覚に包まれました。
マケラン氏:
開発を進める中で多種多様なアイデアが生まれましたが、私たちは常にそれらを「『サイレントヒル』の文脈に照らして真に相応しいか」と精査し続けました。
例えば、ご質問にあった「CRTV」の導入もその一例です。シリーズ伝統の「ラジオから流れるノイズ」に代表されるアナログ技術の手触りを引き継ぎつつ、現代的にブラッシュアップした機材として昇華させたものであり、まさに正統進化ではないかといえる手触りを得られました。
そうしたガジェットの存在に加え、空間を探索する際の緊張感や空気感も含め、作品の根本には常に『サイレントヒル』としての遺伝子が息づいています。ひとつひとつの要素を丁寧に磨き上げていく過程で、本作がシリーズの系譜に連なっていると考えています。
『Townfall』の “尖り” は「社会派のサイレントヒル」
──岡本様にお話を戻します。過去のインタビューで「『サイレントヒル』シリーズを展開していく上では、各タイトルにそれぞれ際立った個性(尖り)が必要だ」とお話しされていたのを拝読しました。本作『Townfall』における「尖り」とはどこにあると捉えていらっしゃいますか。
岡本氏:
突出した要素はいくつもあります。ゲームプレイにおいて「ステルス性」が重視されている点や、「CRTV」を活用した独特のギミックなど、多角的なアプローチを取り入れています。
その中でも私が最も気に入っているのは、「社会派の『サイレントヒル』」という点です。これまでのシリーズ作品は、どちらかといえば個人や家族といった、極めてミクロなスケールのテーマで描かれることが主流でした。それに対して本作は、社会的文脈を取り入れたストーリーを展開しており、どこか「群像劇」的な奥行きを持った物語を描き出しています。このアプローチこそが、本作ならではの大きな魅力であり、非常にいいポイントかなと思っています。
ノスタルジーという「釣り針」で恐怖を仕込む
──続いてマケランさんにお伺いします。『Alien: Isolation』のUIをはじめ、『Stories Untold』や『Observation』でも一貫して「インターフェースそのものをホラー体験に変える」という手数の多さに毎回圧倒されます。どこか懐かしさを覚えるガジェットが、UIを通じて不気味な恐怖へと変貌を遂げていく独特の手触りですが、演出を組み込むにあたってどのような思考プロセスを経ているのでしょうか。また、どんな風にプレイヤーを怖がらせたいと考えていますか。
マケラン氏:
そうした演出や手法は、私自身にとって得意とする分野であり、強みを発揮できる型だと捉えています。
ノスタルジックな情緒をあえてプレイヤーを震撼させる恐怖演出へ昇華させるプロセスは、細部まで徹底的に計算し尽くして構築しています。この演出手法は、いわば「釣り針」や「ルアー(仕掛け)」のようなものだとイメージしてください。
まず、親しみや懐かしさを抱かせるノスタルジックな要素を丁寧に作り込みます。するとプレイヤーは「この懐かしい気持ち、知ってる」「これわかる」と親近感を抱き、無警戒にその世界観へ没入していきます。意識がその心地よいノスタルジーに完全に惹き込まれ、油断が生じたまさにその瞬間、背後に潜む歪(ひず)みや予期せぬ恐怖が仕込まれている。
相手の警戒心が解けているタイミングを狙って強烈な恐怖体験を焼き付ける、という方法が、私たちの仕掛けている演出の核心だと思います。
「CRTV」のアナログ感は、シェーダーではなくケーブルと磁石でつくる
────関連しておうかがいします。「CRTV」に表示される映像はシェーダー処理で表現するのではなく、実際にケーブルを傷つけたり磁石を近づけたりして物理的に劣化させた素材を使用したと伺いました。なぜそこまでアナログな手法にこだわったのでしょうか。
マケラン氏:
ひと言で言えば、表現に対する「執念」のようなものです。細部まで徹底的にこだわり抜きたいという思いがありました。
具体的なプロセスとしては、まずCRT(ブラウン管)に再生したい映像を映し出します。そのうえで、映像が出力されているモニター本体や接続ケーブル、機材そのものに物理的な加工や負荷を加えることで、意図した通りの質感やノイズを引き出していくという手法をとっています。
例えば、作中で流れる映像やセリフが持つ「重苦しさ」や「感情への刺さりやすさ」といったニュアンスに合わせて、それらを最も引き立てる破壊の加減や加工を施していきます。私にとっては、画面を調整するというよりも、まるで「楽器を調律し演奏する」ような感覚に近い試みです。
決め手は『Stories Untold』『Observation』の”曖昧さ”
──最後の質問になりますが、岡本さんにお伺いします。スクリーンバーンは『Stories Untold』や『Observation』のような静的で実験的な作品で知られるスタジオです。そうしたスタジオに『サイレントヒル』という大作を託すに至った決定プロセスと理由についてお聞かせください。
岡本氏: 始まりはパブリッシャーであるAnnapurna Interactive社と弊社のUSチームとのあいだで、「一緒に『サイレントヒル』の新作を作れないか」という対話が生まれたことでした。私自身もその議論に加わる中で、Annapurna Interactive社から「スクリーンバーンさんがいいんじゃないか」という提案を受けたのです。
Annapurna Interactive社は、アート性やナラティブ(物語体験)の構築において業界屈指の優れた洞察力を持っています。そのため私たちも強い興味を抱き、実際に彼らの過去作である『Stories Untold』と『Observation』をプレイしました。
プレイして感じたのは、ナラティブと緻密に紐づいたパズルデザインの完成度、そして何よりストーリーテリングにおける「曖昧さの美学」です。すべてを説明し切るのではなく、余白や含みを持たせながらプレイヤーの想像力を掻き立てる手法が見事であり、これこそが『サイレントヒル』に必要な要素だと思ったため、開発をお願いするにいたりました。
──ありがとうございました。(了)







