「ヤバい、好きだ!」という衝撃は、意識しないと仕込めない。キャルのストローに噛み跡を描いた情熱
──『プリコネR』は魅力的なキャラクターが数多く登場しますが、彼女たちを描くうえで、開発陣として大切にしているのはどのようなことでしょうか?
コンテンツディレクター:
こういったコンテンツって、やはり「そのキャラクターを好きになってもらうこと」がなにより大事だと思っています。
好きになる瞬間って、本当に人それぞれですよね。ストーリーを通じて愛着が積み重なっていくこともあれば、大きな見せ場でかっこよく決める姿に惹かれたり、とびきりかわいいシーンでグッと心をつかまれたりすることもある。
でもその一方で、本当になんでもない瞬間の、ちょっとしたセリフや仕草で好きになることもあると思うんです。
──ふむふむ。ご自身にも、そういう経験が?
コンテンツディレクター:
自社タイトルで恐縮ですが、『ウマ娘 プリティーダービー』のマチカネタンホイザが見せる「むん!」というひと言。謎のセリフではあるのですが、あれでガシッと心をつかまれたりする。そういった体験が自分自身すごく多いので、その感覚を大事にしたいんです。
どこで何がきっかけで好きになってもらえるかわからない。だからこそ、開発チームのメンバーには常々こう話しています。
「モーションひとつ、たった1行のセリフであっても手を抜かないでほしい。プレイヤーの脳天を後ろから殴りつけるような“ヤバい、好きだ!”という衝撃は、どこで生まれるかわからないから」と。
あらゆる分野において、「いま自分が描いているこれ、作っているこれが、誰かにとってのそれになるかもしれない」という意識を、常に頭の中に置いて作ってほしいんです。
──実際そういう細かな部分で心をつかまれることってありますよね。
コンテンツディレクター:
たとえば『プリコネR』でいうと、第3部オープニング「Precious Journey」の冒頭に、クリアが笑顔で手を振ってくれるカットがあるのですが、ユーザーさんから「あの瞬間に刺さった!」という声をたくさんいただきました。
こういう「ふとしたかわいさのフック」をすごく大事にしたいんです。これって、意識していないと「仕込む」ということじたいができないと思うんですよ。
──たしかに……。作っている人自身が「このキャラを好きになってほしい」と思っていないと、そもそも発想として出てこないわけですね。
コンテンツディレクター:
そうなんです。熱い想いがないと、そもそも発想に至らないんですよ。
現実のキャルがハンバーガーを食べている人気のイラストがあるのですが、話題になった理由のひとつが「ストローに噛み跡があること」だったりして。
あれを描いたスタッフは天才だと思います。どこかで「細部でキャルのことをもっと好きになってもらいたい」という想いがないと、「ストローに噛み跡を描こう」というところまでは辿り着けない。だから「その情熱をみんな持とう」ということは、自分自身にも言い聞かせていますし、メンバーにも伝えています。
──開発に臨むなかで「キャラクターを好きになってもらうため」に大切にしていることはありますか?
アートディレクター:
イラストに関しては、設定どおりに正しいことだけを描くのではなく、あえて嘘をつくことによって、かえって魅力が伝わることがけっこうあるんです。
たとえばキャルの前髪は、普段はちょっと短めなんですけど、新フォームのときには、ほんの少しだけ伸ばして印象を変えようと考えました。「かわいい」から少し「綺麗」のほうへ寄せるための調整ですね。
作中で「髪が伸びた」という設定があるわけではありません。あくまで印象づけのための提案として、チームで話し合って決めた部分です。
シナリオディレクター:
それで言うと、第3部のキャラクターを作るときには、これまで以上に「アニメ映え」を意識しようと考えていました。アニメになったときにどう動くかを最初に想定してから、デザインを発注するという順序で進めたんです。
その代表例が、第3部で最初に出てくるクローチェです。彼女は完全にその発想から生まれたキャラクターですね。メカやロボットはこれまで『プリコネR』でやってこなかった要素ですし、稼働するギミックはアニメならではのケレン味も出せます。日本のアニメ文化として伝統的なモチーフでもあるので、ぜひ新しい世界の『第一村人』にしたいなと。
ほかのキャラクターも同じです。たとえばヴァイオレットなんかは、胸のハートが剣になるというのは、もう最初から考えて作っていました。
背景チームがこっそり仕掛ける遊び心。画面の隅に仕込まれていた「隠れこびとちゃん」
──少し本筋からそれるのですが、背景の制作過程をうかがえる機会は貴重なので、せっかくですから聞かせてください。背景というのは、どのようなオーダーがあり、どのようなやりとりを経て制作していくのでしょうか。
背景担当:
まず、プランナーやシナリオライターから「こういった背景を作りたい」というオーダーが入ります。そこで「この要素を散りばめてほしい」「世界のこの部分を切り取りたい」といった要望を受け取るんです。
そのうえで、「シナリオの核心に触れる部分はどこか」「プレイヤーにいちばん見せたいポイントはどこか」をヒアリングして、すり合わせをしていきます。
──すり合わせを終えたあとは、どのように進んでいくのでしょうか。
背景担当:
背景チームでラフを作成して、そのクオリティをディレクター陣に見てもらいます。
クオリティはもちろんですが、シナリオや世界観の方向性に齟齬がないかという部分をチェックしてもらい、そこでもらったフィードバックをもとに細かく調整を重ね、OKが出たらようやく清書です。
そこから、最終的な製品レベルまでクオリティを上げます。それをもう一度確認してもらい、OKが出たら完成。それがゲーム画面としてリリースされる、というのが一連の流れになります。
コンテンツディレクター:
少し補足すると、基本的にはシナリオやプランナーからのオーダーで制作が進むのですが、ときには背景チーム側から「こんな背景を描いてみたんですがどうですか?」と逆提案されることもあるんです。
普段シナリオを作っていると「本当はこういう景色の中でキャラクターを動かしたいけれど、現状の素材にないから、似たような既存の背景を使おう」と妥協する場面があるんですよ。そこへ、まさにほしかったような新しい背景がポンと上がってきたりするんです。
アートディレクター:
背景のバリエーションで言うと、森の背景なんかも、以前は1種類だけでやりくりしていたんです。
それをシナリオの多彩な展開に合わせて、新しい雰囲気の森や街道などを、背景チーム側から進んで描き足してくれたりしています。すごく助けられていますね。
──提案から生まれた背景で、何か印象に残っているエピソードはありますか?
コンテンツディレクター:
本筋から少し脱線しちゃうんですが、まだゲーム内には登場していないのですが「カフェテラス」の背景で「ちょっとこういうのはどうですか」と見せてもらったときの話です。テラスの背景の中に小人がいたんですよ。
見覚えのないキャラクターだったので、「この小人、なんですか?」と聞いたら、背景担当のスタッフから「“こびとちゃん”ですよ。知らないんですか?」と返されまして。
──小人……? こびとちゃん……?
コンテンツディレクター:
じつは、背景チームの遊び心で、「ランドソル」の背景のいろんなところに描かれていたらしいんです。この画像(下記)は「ランドソル」のおまつりの様子を描いた背景なんですが、初期のころに登場した背景なので、2018~19年頃には仕込まれていたことになります。つまり7~8年間、誰にも気づかれずにこびとちゃんがひっそり存在し続けていた、と。
──そもそも、なぜ背景にそんなものを仕込んだんですか。少なくとも、開発チーム全体で周知されている設定ではないですよね。
背景担当:
じつは過去に、キャラクターデザインの過程でお蔵入りになってしまったキャラクターがいまして。そのデザインを「ぬいぐるみ」として背景に描き込んだのが始まりでした。
普通に背景を描くだけではなく、ちょっとした遊び心を入れたくなってしまって。『ウォーリーをさがせ!』ではないですけど、画面を彩るひとつの工夫として入れさせてもらっています。
コンテンツディレクター:
私はその「カフェテラス」の背景で初めて存在を知りました。今までずっと気づかなかったのに、なぜそのときに限って気づいたかというと、カフェのいちばん目立つ特等席に堂々と鎮座していたからなんです(笑)。
だから申し訳ないと思いつつ「さすがに主張が強すぎるから、今回は外させて!」とお願いして。なので、今後ゲームに実装されるカフェテラスにはこびとちゃんはいません。
──そんな裏話が(笑)ほかの背景にもまた何か違うものが隠れているかも? と気になってしまいますね。
背景担当:
こびとちゃん以外にも、じつはちょっとした小ネタを挟むようにしているものもあります。
たとえば、過去のお正月イベントで「グレートトゥンヌス」というマグロのようなモンスターが出たんですけど、あれを今年の周年イベントの背景で、料理の中に紛れ込ませたりしています。
過去のネタを背景にこっそり取り入れる工夫はよくやっているので、そういう部分も探していただけると、より楽しんでもらえるかなと思います。
第1部、第2部とは違う特別な区切り。「ハッピーエンドで世界を救う」第3部完結への想い
──あらためて、第3部の完結に向けての率直なお気持ちをお聞きできますでしょうか。
コンテンツディレクター:
やはり大きな一区切りを迎えるということで、感慨深い気持ちと、応援してくださったユーザーのみなさんへの感謝がすごく大きいですね。もちろん第1部、第2部の完結も大きなストーリーの区切りではありましたが、今回の第3部はそれらとは少し性質が違うと言いますか。
第1部は、カイザーインサイト(覇瞳皇帝)の大きな話は片付きつつも、「ミネルヴァの懲役」という根本的な問題や冒険はまだまだこれからでした。
第2部の終わりも、シェフィが自分を犠牲にしてみんなを現実に還してくれたけれど、シェフィ自身や大勢の人たちがまだ取り残されている。「問題は残っているから第3部で解決しに行こう」という流れでしたよね。
でも今回は、『プリコネR』のすべての始まりだった「ミネルヴァの懲役(みんながアストルムに閉じ込められてしまったこと)」という最大の根本問題がひとつ完結するんです。そして、ハッピーエンドで世界も救う。この区切りとしての意味がとてつもなく大きいので、第1部、第2部のときとはまた違った感慨があります。
──シナリオを書き続けてきた立場から振り返ると、第3部はどのような期間でしたか。
シナリオディレクター:
正直に言えば、「大変だな」と思う瞬間はたくさんありました。
『プリコネR』のメインストーリーって、私の中では月刊連載の漫画のようなものだと思っているんです。毎月の更新ごとに山場が必要ですし、さらに半年に1回は、より大きな山場を作っていこうと。
それと並行してイベントも動いているので、メインストーリーとイベントが絡むタイミングや、ガチャの更新などをうまくすり合わせながら、全体のピークを作っていく。そういう部分にはずっと、こだわり続けてきました。
コンテンツディレクター:
毎月更新ですからね。シナリオチームは本当に大変そうでした。
──第3部完結は「やりきった感」と「名残惜しさ」のどちらが強いですか。
シナリオディレクター:
名残惜しさは、あまりないですね。まだ語りきれていない「話の種」はいくつか残してありますが、それは今後のイベントで回収していこうという気持ちです。意識の半分はすでに、「第4部のスタートダッシュをどう決めるか」に向かっています。
第4部もまた長いスパンの物語になるので、最終ゴールに向けてどういう道のりを描くべきか。第3部から第4部へどう繋げていくか。そこに注力しています。
その布石として、8月末のイベントでも「NPCたちがこれからどう生きていくのか」という、今後の世界観において避けて通れないテーマを、しっかり描かせていただきました。
【ストーリーイベント紹介】
— プリンセスコネクト!Re:Dive公式 (@priconne_redive) August 30, 2026
08/31(月) 12:00から開催予定の「To be connected 箱庭のプロフェクティオ」をご紹介!
レジェンドオブアストルム抹消──
自らの消滅の危機を前に、クローチェやヴルム、裏世界の人々は何を想うのか。#プリコネR pic.twitter.com/R3HCC1JnLi
──ビジュアル面を担うアートチームや背景チームはいかがでしょうか。
アートディレクター:
アートディレクターの立場で言うと、やっぱり最後に向けての部分ですね。レイドバトルの演出やアニメーション、エンドロールや個別エンディングなど、そういったところでかなり特別な仕込みをしています。
それらを通して「『プリコネR』をプレイしていてよかったな」というユーザーさんの反応が返ってくると嬉しいな、と。
構想を練っていたときから、実際に手を動かして作っている最中もずっと「いいものが届くといいな」と思ってやってきたので。いよいよそれがみなさんに届く今が、私自身いちばんワクワクしているところかもしれません。
背景担当:
背景担当としてまた少し違った視点になりますが、第3部では「アストルム」内の未踏の地域が一気に登場しました。
「エルピス島」のドラゴンの頭部のような場所にある幻境竜后(ヴィジョンズエンプレス)の拠点も、そのひとつです。そうやって長年温め続けてきた背景たちが、ようやく世に出る。ドキドキとワクワクが入り混じっています。
ユーザーさんの反応がすごく楽しみですし、背景の面からも物語を盛り上げる力添えができたらいいなと思っています。
第4部では【美食殿】の立ち位置が変わる。新しい衣装は、その変化を表現したもの
──第4部のキービジュアルが公開されましたね。現時点ではお話できないことが多いかと思うのですが、可能な範囲でこのキービジュアルについて教えていただけますか。
アートディレクター:
現時点で、どこからどこまでお話ししていいのか難しいのですが……。第4部では【美食殿】の立ち位置がこれまでと変わってくるため、じつはあのキービジュアルを「そもそも出すべきかどうか」というレベルから、話し合いました。
それでも、物語の新たな幕開けとなるこのタイミングで、「どうしてもユーザーさんにビジュアルを届けたい」という強い想いが、私やディレクター陣のなかにあったんです。
──その想いは、どういった形で表現されているのでしょうか。
アートディレクター:
とくに重要だったのが、先ほど触れた【美食殿】の立ち位置です。こだわったのは、新しい衣装で彼女たちの変化を表現し、「第3部は完結したけれど、これは終わりではなく、まったく新しい始まりなんだ」と伝えることでした。
そのうえで、「このキャラクターはどういう子なんだろう?」と気になってもらえるよう、第4部の重要なキャラクターたちを配置しています。
──正直、ユーザー目線では見てもわからないことのほうが多いですよね。
アートディレクター:
そうですね。ユーザーのみなさんからすれば、キービジュアルの8割方は謎に包まれていると思います。見たことのない衣装に、見知らぬキャラクターたち。でも、それが「これからまた新しい冒険が始まるよ」というメッセージとして伝わればいいなと思っています。
──たしかに、これまでとガラッと雰囲気が変わるんだな、ということは伝わってきます。
アートディレクター:
敵っぽいキャラクターもいるし、かわいい子もいる。そういったバランスの配分も意識しています。
それと、【美食殿】が描かれたこれまでのキービジュアルは「ワクワク感」や「冒険感」をコンセプトにしていたのですが、今回は珍しく「戦い」の雰囲気を出したものにしているんです。そういう意味でも、新鮮に感じていただけるかなと思っています。
──第4部の本格的な始動は、いつ頃になりそうでしょうか。
コンテンツディレクター:
ここから半年、1年とお待たせするつもりはありません。近いうちに、みなさんがワクワクするような情報をお届けできるはずです。
──本日はありがとうございました。では最後に、読者のみなさんへひと言ずつメッセージをお願いします。
背景担当:
第4部の制作にあたっては、背景美術も今までとは違う現実の風景であったり、同じ「アストルム」でも少し雰囲気の異なる世界観だったりを描いています。
ユーザーのみなさんがワクワクするような、「早くこの世界観で冒険してみたい!」と思えるような背景を制作していきますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
アートディレクター:
新しい章へ入るたびに、ものすごい数の新しい舞台と新キャラクターたちが登場します。
現場は今まさに絶賛制作中で本当に大変な時期ではあるのですが、その分ユーザーのみなさんに魅力的なキャラクターたちとおもしろいコンテンツを届けられるようがんばっています。これからも期待していてください。
シナリオディレクター:
公開されたキービジュアルを見ていただくと、勘のよい方はすでに見当がついているかもしれません。
第4部の新キャラクターについては、これまで『プリコネR』を長く遊んでくださっている方なら「これ、もしかして……」と予想できる仕掛けを施しています。「この要素がこう変化したら、どんなキャラになるんだろう?」と想像しながら待っていただけると、より楽しんでいただけるかなと。
シナリオとしても大きな区切りを迎えましたが、引き続きユーザーのみなさんに驚いていただけるようなおもしろい仕掛けを用意しています。ぜひご期待ください。
コンテンツディレクター:
第3部は約3年半続いていたんですが、その3年半の間に我々のこの世界でもいろいろな進歩が起きました。実はChatGPTが登場したのも、第3部開幕と同時期だったんです。
私たちの生活の中でもAIの存在感が強くなってきて「ひょっとしたら、2033年を舞台にしている『プリコネ』の世界に、現実が追いついていきそうだ」という雰囲気も出てきました。
そんなときに、幻境竜后(ヴィジョンズエンプレス)が出てきて、ナノマシンで世界を作り変えるとか、また我々の現実世界からはグッと引き離したんですが……(笑)。
そんな中これから第4部が始まるわけですが、第4部ではさらにスケール感が広がってもっと様々なことが起こりますので、ぜひ楽しみにしてお待ちいただけると嬉しいです。
第3部の完結は、第1部、第2部のそれとは意味が違う。みんながアストルムに閉じ込められた「ミネルヴァの懲役」に決着がつき、ハッピーエンドで世界を救う。8年半ずっと物語の根にあった問題が、ここでひとつ片付く。
今回のインタビューでは、そんな第3部の完結にあたり、シナリオディレクター、コンテンツディレクター、アートディレクター、背景担当の4名に話をうかがった。
100を超える個別エンディング、全ギルドを描いたエンドロール、3つの裏世界の同時制作、シェフィ帰還までの1年半の我慢など、開発の裏側を聞くことができた。
第4部という新しい物語が始まる前に、自分自身の記憶とあわせて第3部までの歩みを振り返ってみると、8年半ぶんの思い出が少し重みを増して見えてくる。
なお、第4部の始動についてはそこまで待たせないとのことだ。どんな物語が始まるのか。いちユーザーとしても楽しみにしたい。








