濃すぎる経歴のVRエバンジェリストがOculus VR社を退社! GOROman氏が初音ミクと歩き出すVRの未来とは?

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  Oculus Japanの立ち上げに関わり、日本のVRムーブメントの先駆者として活動してきたGOROman氏が、12月24日付でOculus VR社(Facebook Japan株式会社)を退社した。氏は2013年Oculus Riftに出会い、「これからはVRだ!」と突然自らの会社を飛び出してOculus VR社に入社。VR上で初音ミクと会える「Mikulus」など、数々のVRコンテンツの開発者としても知られる人物だ。今回の退社も、けしてVR界隈から離れることを意味するものではない。

 ならば、GOROman氏はいま何を見据え、どこへ向かおうとしているのか? 電ファミニコゲーマーでは、VR専門メディア「PANORA」に掲載された西田宗千佳氏によるインタビュー記事(外部リンク)の「全文版」を詳細な注釈とともに公開。注目のエンジニア、GOROman氏とは何者かを探ってみた。

 GOROman、という鬼才がいる。
 本名は近藤義仁さんという。でも普段のおつきあいで、自分の中では「GOROmanさん」だし、ご自身としても、すでにある種のアイデンティティを「GOROmanさん」として確立していらっしゃるし、本記事ではずっと「GOROmanさん」で行こうと思う。

 GOROmanさんは、日本におけるVRの先駆者であり、エヴァンジェリストの一人だ。元々はゲームプログラマーであり、某有名タイトルにも関わった経験を持つ。だが、筆者にとってはやっぱり「VRのGOROmanさん」だ。どのくらいすごい人かというと、自分達でOculus創業者のパルマー・ラッキーとわたりをつけ、当時はまったく予定もなかった「Oculus Japan」を立ち上げさせて、日本に昨今のVRの風を呼び込んだ、というあたりで分かっていただけるのではないか、と思う。

 そんなGOROmanさんが、この2016年12月のクリスマスイブに、Oculusを退社した。理由は、自身が3年前に作った「Mikulus」の開発に専念することだ。Mikulusは、初音ミクとVRの中で会える、というアプリケーションだが、それだけで終えるつもりは、GOROmanさんの側にはない。

 目指すのは、ずばり「VR時代のOSの可能性」だ。

 といっても、多くの方には、それがどれだけ野心的なことか、ピンと来ないかも知れない。そこでGOROmanさんに、「VR OSをなぜやるのか」ということについて、じっくりとインタビューしてきた。そこで得られたニュース的な情報は、VR専門メディア「PANORA」に掲載している。コンパクトに知りたい方は、そちらをお読みいただいた方が良いだろう。

 ただ、このインタビューは、普通のインタビューとは違うものかも知れない。「VR時代のコンピュータとはなにか」を議論しに行った……というのが適切だろう。その内容があまりに面白いので、ここに、その全文を整理の上、大量の注釈とともに公開する。不要な人には不要だが、特に技術的な発想や過去の出来事については、注釈があった方がわかりやすいとの判断でこういう形にしている。

 ディスプレイの本質的な変化がコンピューティングの未来に与える影響を考えていただくとともに、「1980年代のパソコン」をくぐり抜けたおっさん2人が、なにに影響を受けてモノ作りをしてきたか、も感じていただければ幸いだ。(以下敬称略)

文/西田宗千佳

日本におけるVRの先駆者、GOROman氏。X68000と共に。

Mikulusへ再び

――はじめに。これからは、Mikulus【※】に完全フルコミット、ということでいいんですよね?

※Mikulus
GOROman氏が開発した「VRの中で初音ミクと会う」アプリ。以下は、GOROman氏が3年前に開発直後にニコニコ動画に投稿した動画。その下は、最新のもの。



GOROman:
 はい、そうです。Oculus Touch【※】がローンチして、クリスマスイブに、Oculusを退社、ということですね。これから有給休暇です。

※Oculus Touch
Oculus社が開発したVR用ハンドコントローラー。この12月から出荷を開始。指の動きまで認識し、手に近い複雑な動作を高い精度で実現するのが特徴。

12月に出荷が始まったOculus Touch。(画像は公式サイトより)

――Mikulusにフルコミットすることに決めた、スイッチが入ったきっかけは何ですか?

GOROman:
 Mikulus自体は3年前から作ってました。でもDK2【※1】のために作ったので、動かなくなっちゃったんですよ。Twitterとかでは様子を見ていたんですが、「ああ、(CV1【※1】じゃ)動かない、動けばいいのに」みたいな反応は知ってたんです。

 一番のきっかけは、新清士【※2】さん。「手のひらクルー」マンの新清士さん(笑)。あんなに初期はOculusをdisって、日経とファミ通に「Oculusは酔う。私は苦手だ」って書いていたのに、MikulusをやってToybox【※3】をやったら意見がクルっと変わった。今は、新書は出すわ、自分の会社はでOculus Touchローンチタイトルは作るわ……。はっきり言ってVRの人になっちゃった。

 その新さんのオフィスに遊びに行った時、帰り際に、「GOROmanさん、Mikulusを移植してください!」って熱く語られたんですよ。あんまり熱く語られたんで、次の日は土曜日だったし、家に帰って、やってみることにしたんです。

※1 DK2、CV1
Oculus Riftの名称。2014年に供給された開発者向けバージョン(Development Kit 2)がDK2で、現在販売されているコンシューマ市場向けバージョンがCV1。

※2 新清士
ジャーナリスト。ゲーム関連の著作多数。Oculusの初期体験でひどい酔いを体験したため、当時の記事ではVRに否定的だった。だがその後、Mikulusを体験し意見を変更。2016年5月に『VRビジネスの衝撃―「仮想世界」が巨大マネーを生む』 (NHK出版新書)を上梓し、自身が運営する企業「よむネコ」で、ハンドコントローラーを活用したVRゲーム『エニグマスフィア〜透明球の謎』を開発し、Oculus Touchのローンチタイトルとしてリリースした。言うまでもなく、GOROman氏の表現は冗談で、新さんと非常に親しいのでああいういい方ができる。

※3 Toybox
Oculusが開発した、ハンドコントローラーの使用を前提としたデモアプリケーション。物理法則が再現され、大量のおもちゃが置かれた空間に2人で入り、遠隔でのコミュニケーションを実現している。以下のビデオを参照。

――そうだったんですね。

 Unity【※】で作った1、2年前のプロジェクトなので、もうエラーでまくりですよ。Unity 4で作ってたんですが、4はディスコンで今は5ですし。そのままじゃ全然動かない。エラーは100行くらい出るわ、シェーダーは紫色になっちゃうわ……(笑)。挫折しそうだったんですけど、それを地道にひとつひとつ直していったんです。

 で、CV1で見てみると、確かに、DK2で見た時とはぜんぜん違ってたんですよ。「ああ、これはいいな」と思って、まず、ベタ移植を公開しました。Twitterでテスターを募集して色々な方に見ていただいたんですが、とある方から「呼吸を入れて欲しい」と言われたんです。呼吸しているようなモーションを入れてみたら、確かにすごく良くなった。ミクさんがどんどん「生きている」感じになったんです。

 自分も楽しくなってきたし、ユーザーからのフィードバックもあるので、どんどんモチベーションも高くなっていきました。そのうち、昔からの命題を改めて考えるようになったんです。VRのヘッドセットって、なんだかんだ言ってもめんどくさい、億劫ですよ。

※Unity
ゲームエンジン。開発が手軽であること、VRに積極的な対応をすすめているところから、VR系アプリケーションの多くがUnityで開発されている。MikulusもUnityベースで開発されている。

――確かに。

GOROman:
 毎日つけたくならないんですよ。PSVRにしても同じ問題を抱えています。確かにすごい体験なんだけど、毎日つけたいかというと、そうではない。でも、スマートフォンは毎日毎日使いますよね。その差はなにか、というと、自分にとっての「不便」を解決してくれたり、より生活を豊かにしてくれるもの、という点です。

10月に発売されたPS VR。(画像は公式サイトより)

 スティーブ・ジョブズが言ってたのはそういうことですよね。やっぱりガジェットやデバイスは、その人の生活を便利にしたから毎日触るんだよな……とは昔から思っていたんです。

 例えばパーソナルコンピュータ。昔だったら仕事は紙に鉛筆、間違ったら消しゴムで消してたわけですよね。それが、今はMacだったりWindowsだったりで仕事してるわけですよね。その差はなにかといえば「便利だから」ですよね。消しゴムで消さなくていい。セーブできてアンドゥできて、コピペもできる。資料がなくならない。便利になったわけじゃないですか。Mikulusも「ミクさんかわいい【※】」でいいんです。

 でも、ずっと見ていてはもらえない。飽きちゃう。ミクさんを超かわいくして、生き生きしたものにしていっても、どこかで毎日触るものではなくなっていく。結局は便利にならないわけですから。それに、今のVRの仕組みって、「アプリのレイヤー」なんですよね。あくまで。

※ミクさんかわいい
確かに、Mikulusを体験してみると、生き生きしていて「なんだこのかわいい生き物は」という感触になる。

VR空間内にミクさんが現れる「Mikulus」。

――というのは?

GOROman:
 せっかくOSがシングルタスクからマルチタスクに進化したのに、今のVRはしょせん一つのアプリしか動かない。

――要は、かぶる=ひとつの目的を果たす、ワンタスクである、と。

GOROman:
 そうなんです。シングルタスクになってしまっているんです。

 それって不便だし、ゲームしてたらゲームしかできない。ゲームしながらTwitterできないですよね。VR空間にTwitterウインドウを出して、「このVRおもしれえ」とかやりたいわけじゃないですか。

 ソーシャルゲームではそれがあたりまえに出来るし、パソコンでもスクショも簡単に撮れる。PS4でもそうですよね。シェアボタンがあって、動画や静止画をすぐにシェアできる。Xbox Oneにも同じような機能がある。もう、トレンドというか、そういう機能があるのが必須なんですよ。

――「ゲームしかできない」んじゃなく、ゲームとともに通信やコミュニケーションがあるのが当たり前、と。

 いっしょにあるのが当たり前なんです。ゲームをやっていても、「1人でやってない」感じがする。ソーシャル感がある。

GOROman:
 例えば今なら、『Final Fantasy XV』のバグの写真がめちゃめちゃシェアされてるじゃないですか。あれは「面白い」「ウケる」からですよね。そういう、「みんなで」という部分は、今のVRには欠けています。「それって不便になってんじゃないの?」というところがあるわけです。

 じゃあ発想をひっくり返して、VR時代のアプリをOS側のレイヤーに寄せていけば、より便利になるし、問題が解決できるんじゃないかと。今、まだVR OSはないですよね。「マルチVRタスク」みたいなものはない。

――ないですね。

GOROman:
 現時点で形になっているものはないですね。今までやっていたことがそのままできないのはすごくストレスです。じゃあどうしたらいいか、ということで、漠然と、そういうとこをやればいいのでは……というところから始めたんです。というか、せっかくMikulusを作るモチベーションが高まってきたので、そこにこの機能を乗っけてみよう、ということです。

 もともとはそこまで考えていなくて、Mikulusを復活させて、新さんが「ハアハア」してくれれば僕としてはそれで良かったんですが、みなさん思いのほか評価してくれて。実際、デスクトップ表示の機能を入れてみて、DAU【※1】を測ってみたんです。

 バーチャルデスクトップ【※2】を試験的にいれてみると、なんと平均滞在時間が30分以上上がったんです。VRアプリで、これは驚異的ですよ。一般に、VRアプリは5~10分くらいでプレイが終わるものが多い。平均滞在時間が50分というのは、驚異的な値です。

 そこから、「VR時代のOSのコンセプトデザインを、自分でできるんじゃないか」と思ったんですよ。要は、アラン・ケイ【※3】が、段ボール切り抜いて「Dynabook【※4】」のコンセプトモデルを作ってる段階ですよね。

※1 DAU
Daily Active User。一日あたりのアクティブユーザー数。そこから派生し、ユーザーの利用状況そのものを指すことも多い。

※2 バーチャルデスクトップ
PCのデスクトップ環境を、仮想的に別の機器の画面に表示する機能。複数のPCを持っている人には非常に便利なもので、業務での遠隔監視などにも使われている。

※3 アラン・ケイ
アメリカの計算機学者。現在のパーソナルコンピュータにつながる概念を、1960年代に提唱した。

※4 Dynabook
アラン・ケイが1972年に書いた「A Personal Computer for Children of All Ages」という論文に登場する概念で、子供が自発的に学習するための理想的なパーソナルコンピュータのこと。その後、機能の一部を実装した「暫定Dynabook」が開発され、そこから、現在のウインドウシステムを使ったPCにつながっていく。東芝のPCは、ここから名称だけを借りたもの。

――キーボードがついた板状のデバイスで、論文では子供がそこに絵を描いてたやつ【※】ですね。

※キーボードがついた板状のデバイスで、論文では子供がそこに絵を描いてたやつ
以下の論文の挿絵を参照。
関連論文:A Personal Computer for Children of All Ages

構想されていた「キーボードがついた板状のデバイス」。(画像は上記論文より)

GOROman:
 そうそう。Alto【※1】とかもそうじゃないですか。CUI【※2】しかないところからGUI【※2】が生まれて、それを見て、ビル・ゲイツとかスティーブ・ジョブズとかがウィンドウシステムを作っていった。Lisa【※3】とか。

 その歴史を、Computer History Museum【※4】で見てきたんですよ。僕もそういうの好きなので。あと、スティーブ・ジョブズが創業したガレージとか、Xerox・パロアルト研究所【※5】とか。

※1 Alto
1973年、Xerox・パロアルト研究所にて、アラン・ケイらが開発したコンピュータ。現在の「ウインドウをマウスで操作する」コンピュータの元になっており、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツらがこの機器を視察したところから、PC用のウインドウシステムが生まれている。なお。Altoには複数のGUIがこの上で実装されたが、そのひとつが、アラン・ケイのDynabookの機能の一部を実装した「暫定Dynabook」である。

最初期のコンピュータのひとつ、Alto。(画像はWikipediaより)

※2 CUI、GUI
CUIはキャラクター・ユーザーインターフェース。MS-DOSなど、コマンドを入力することで操作する体系の総称。GUIはグラフィカル・ユーザーインターフェースで、現在のビジュアルベースの操作体系のこと。

※3 Lisa
1983年にアップルが発売したコンピュータ。現在のMacintoshの前身にあたり、マウスで操作するGUI環境を備えていた。高価でビジネスとして失敗したが、そこからMacintoshが生まれる。が、その経緯でスティーブ・ジョブズがなにをしたか、というあたりは実に色々あるので、複数の関連書籍を読んで相対的に理解することをお勧めする。

※4 Computer History Museum
米・カリフォルニア州にある歴史博物館。コンピュータの歴史に関わる博物館としてはもっとも定評のあるところで、コンピュータの歴史に詳しい人にとっては何時間でもいられるくらい面白い。
公式サイト:Computer History Museum

※5 Xerox・パロアルト研究所
米・カリフォルニア州にある、Xerox社の研究所。通称PARC。1970年代、コンピュータのユーザーインターフェイスに関し、先進的な研究を連発、その成果が多くの製品に影響を与えた。現在も存在し、Xerox子会社ではあるが、独立研究機関として活動している。

――行ってましたね。その様子、Twitterで見てましたよ。完全に「シリコンバレー・コンピュータの歴史名所探訪ツアー」になってましたね。私もやった経験あります(笑)。

GOROman:
 行っただけなんですけど。すごくインスピレーションはありましたね。今から別にマイクロソフトになろう、とは思ってないんですよ。ただ、3年間VRをやってきて、製品はすでに世の中に出てきましたからね。そろそろ新しいことをやろう、と。

今のVRは「8ビットパソコン」の再現だ

GOROman:
 僕がVRをはじめる衝動になったのは、Johnny Chung Leeが、Wiiリモコンをハックして作ったVR【※】なんですよね。

※Johnny Chung Leeが、Wiiリモコンをハックして作ったVR
以下の動画を参照。同時期に、GOROman氏はそれに倣い、初音ミクをVRで見るプログラムを作成している。



――あの、Wiiリモコンをヘッドトラッキングに使って、平面の画面だけど、自分が向いている方向をトラッキングしてみせる、というVRですね。

GOROman:
 あれでポジショントラッキングができたんですが、「ここまで没入感が高まるのか」という体験がすごく大きかった。それでDK1に出会って、パルマー【※】に会ってOculus Japanを立ち上げて……。 あれ以降、幸いにして、Oculus以外にも多数のデバイスメーカーがVRに参入しています。昔の8ビットPCブームの再現だな、と思ったんです。コモドールとかアップルとかでコンピュータがパーソナルになった。家電メーカーまでがコンピュータに手を出した時代。あの時と同じだな、と思うんですよ。僕も子供の頃に、その過程にいましたからね。

※パルマー・ラッキー
Oculus創業者。Oculusの「魚眼レンズにより画角を広げたPC用のHMD」を構想し、現在のビジネスにつなげた。実は重度のアニメオタクで、アキハバラ・ピープル。彼とGOROman氏の関係については、GOROman氏が書いた以下の記事が参考になる。
関連記事:中の人になる方法(情報元:Qiita)

――私も同じです。

GOROman:
 すがやみつる先生の『こんにちはマイコン』【※】とかですね。

※『こんにちはマイコン』
マンガ家・すがやみつる氏が1982年に執筆した、マンガ形式のコンピュータ入門書。当時すがや氏は「ゲームセンターあらし」を大ヒットさせていたが、それと同期する形で出た本書から、プログラミングを学んだ小学生は多かった。現在は電子書籍版が復刻されている。
関連サイト:『こんにちはマイコン』 (情報元:ebookjapan)

――スマホが出ているまでのPDA【※】の時代もそうですけれど、「なにかが出来つつある」感、強いですね。

※PDA
パーソナル・デジタル・アシスタント(もしくはアシスタンス)。1990年代後半からスマートフォンが生まれる2000年代後半にかけて、「次のパーソナルコンピュータの姿」として開発されたもの。アップルの「Newton」(1993年から1998年)が最初にこの言葉を使ったが、1996年発売の「Palm」(発売当初の名所はPilot)がヒットし、一時代を築いた。

PDAのひとつであるPalmのデバイス。(画像はWikipediaより)

GOROman:
 DK1が、アップルIやIIのような感じがしたんですね。歴史をもう一回習っている感があって。そこから進んで、今はPCやスマートフォンを持っていない人を探す方が難しい。

 VRがそのままではいけないのは事実なんですが、VRというものが人々のコンピューティングを変えるのはまったく間違いない、と思っているんです。そういう意味では、今はシングルタスクで、電源入れたらBASICが立ち上がってくるような時代じゃないですかね。

――ディスク1枚にOSとソフトが両方入っていて、そのまま一太郎が立ちあがるまで行っちゃった時代まで、その辺は同じですよね。

GOROman:
 そうそう。

――いまVRヘッドセットをかぶる=目的があってなにかをする、ということ。あるゲームやアプリをやるためにかぶって、終わったら外す、というのが……。

GOROman:
 それじゃ絶対ないんですよ。でも今はそれしかない。

 既存のフレーム(ディスプレイの枠)がある、フレームバッファ【※1】がある中にいびつな形に立体視やステレオレンダリングをしているので、それはしょうがないと思ってます。たとえるなら、ドット絵時代、VBlank【※2】中にワイヤーフレームを引く、それでタンクのゲームを作る、みたいな。

※1 フレームバッファ
コンピュータの画面の内容を蓄積しておく領域。現在のコンピュータでは、ここの内容を書き換えると一定のタイミングでその内容が転送され、実際に画面が書き換わる。過去にメモリーが高価だった時は、映像1ライン分のみバッファがあり、それを逐次書き換える「ラインバッファ」方式もあった。今は平面のディスプレイの「一面」を、そのまま平面として扱う。逆に言えば、3Dの映像であっても、いったんメモリー内で立体として物体を配置した上で、「それが平面のスクリーンにはどう投射されるか」を演算し、フレームバッファに描いている。のちに言及があるが、VRで扱うにはこれが制約となる、とGOROman氏は指摘している。

※2 VBlank
ブラウン管を前提としていたコンピュータ、特にゲームを考えた場合には、映像のちらつきを抑えるために、画面全体を書き換え、次のコマを書き換える間のわずかな時間にメモリー転送などの処理を行う、という手法が一般的だった。これは、ブラウン管が上から順に、水平にラインを描いていく仕組みであり、下まで描いたら一番上に戻るまでに「垂直帰線期間」があったことを活かしたもの。この「垂直帰線期間」をVBlankと呼び、現在のフレームバッファを使ったアーキテクチャが主流になるまでは、ゲームプログラマーには必須のテクニックだった。

――極論すると、パワーのないところで省コストに立体感を生み出した『アウトラン』【※】の道みたいな。

※『アウトラン』
1986年に発売されたセガのアーケードレースゲーム。

『アウトラン』の筐体。(画像はWikipediaより)

GOROman:
 ラスタースクロール【※】で無理矢理道にする、という。ファミコンのF1レースとかでも使われてた古典ですけど、あれは天才的なアイデアですよね。

 今は、ドット絵時代からフレームバッファが生まれてポリゴンになって、やっとまともな3Dになった、『ポールポジション』から、『リッジレーサー』とか『バーチャレーシング』になって、あの辺じゃないですかね。

 VRもこれから、GPUにVR特化モードができて、フレームバッファを止めてVRバッファになっていく。

※ラスタースクロール
主にブラウン管時代に、ビデオ信号の走査タイミング(水平帰線期間)を使い、画面エフェクトをかける手法のこと。画面をゆがませるだけでなく、縦方向の伸び縮みをコントロールすることで、「奥行き方向に曲がりくねった道が続いている」ように感じさせることができた。

――奥行きと平面がやっと同列に扱えるようになる、という。

GOROman:
 そうそう。今はフレームに書いているわけですよね。本当は空間に書く必要がある。空間に書かないからストリームできないし、スクリーンキャプチャも静止画になる。NVIDIAは「Ansel【※】」という技術をやってますが、あれは「気合い」ですよね。そうじゃなくて、アーキテクチャを変えないといけません。でも、それまでにはもうちょっと時間がかかりますね。

※Ansel
NVIDIAが開発したゲーム画面のキャプチャを行うテクノロジー。単にスクリーンショットを撮るのではなく、ゲーム中のシーンを好きなように止め、そこでアングルや光の当たり方などを変更しながらキャプチャできる。それどころか、そこからゲーム内空間の360度ビデオの作成も可能。解像度は最大4.5「ギガ」ピクセルで、PCの解像度の数十倍。詳しくは以下のサイトを参照。
関連記事:NVIDIA AnselがもたらすGeForce GTXゲーマーのためのゲーム画面キャプチャの革命(情報元:NVIDIA)

――そういう世界を考えた時には、1アプリ=1タスクじゃなく、空間を活かせるワークスペースが必要で、それのコンセプトデザインが出来るんじゃないか、と。

GOROman:
 イメージとしてはですけど、MS-DOSの時代にも、無理矢理ウインドウシステムは作れたわけですよね。いまはシェル【※】を作っている感じですね、VR時代にシェルを作っている。

※シェル
OSの中でユーザーインターフェースを担当するソフトウエアのこと。つまり、我々が使っているのは「シェル」。OSの外殻=シェル、というところから来ている。

 VRは「空間ディスプレイ」時代です。平面であるディスプレイには制約があります。今は不便なんですよね。例えば、(本を並べて)これができないですよね。結局Alt+tabで(本を積み重ねて入れ替えて)これですよね。超消耗するんですよ。

※(実際に本を積み重ね、猛然と「こんな作業」と実演するGOROman氏)

――MacやWindowsを使っていて無意識にイライラするのは、「ウインドウの並び替え」という作業ではないか、と思うんですよね。

GOROman:
 そうそう。

――あれが生産的かというと、別にそうじゃなくて、自分が見やすくしているだけですよね。だからどんどん「フル画面」になっているんだけど、今度はそこでたくさん情報を見るために、Alt+tabを連打するようになる。それをイヤだから、ディスプレイを複数置く。でも、冷静に考えると「それってヘンじゃない?」と。

GOROman:
 『ダライアス』かよ、と(笑)。

――自分がマルチタスクをしたいがために、どんどん「超マルチ画面」になってくわけですよね。例えば善司さん【※】みたいに。6面ディスプレイがバーンと並ぶ、的な。

※善司さん
ライターの西川善司氏。「大画面マニア」として連載も持っているが、業界随一の「多画面マニア」としても知られる。どのくらいすごいかは、以下の記事参照。
関連記事:【西川善司】多画面マニア,シャープの4Kディスプレイ「PN-K321」を導入するの巻。……ただし3か月限定(情報元:4Gamer.net)

GOROman:
 デイトレーダーとかもそうですね。絵づら的には「ガンダムのコクピット」的な。

――僕もこういう仕事してますから、一般紙などから「VRってなんですか?」という取材・質問を受けるわけですね。彼らに対する説明で一番わかりやすいのは、「目の前の枠の中だけじゃなく、視界全部がディスプレイだと思ってください」とまず言うことなんですよ。「そうすると、できるようになることはたくさんありますよね?」というと分かってもらえる。

GOROman:
 むちゃくちゃたくさんありますよね、出来るようになること。

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