いま読まれている記事

『クロノ・トリガー』でも『アナザーエデン』でもタイムトラベル案には反対だった。それでもなぜ、クリエイター・加藤正人は“タイムトラベルもの”を描くのか──「生きること=作ること」と断言する約60年に及ぶこれまでの人生を振り返る

article-thumbnail-250711b

1

2

3

4

『クロノ・トリガー』のようなゲームを作りたい──。

『アナザーエデン』企画段階での開発陣はそう考えていた。

そのタイミングでひとりのクリエイターがグリーにやってきた。男の名は加藤正人。誰もが知るところだろうが、『クロノ・トリガー』のシナリオを手がけたゲームデザイナーだ。

当然、開発陣は加藤氏に声をかける。書いてほしいシナリオがあった。もちろん「タイムトラベルもの」である。

しかし、加藤氏自身は難色を示す。「二番煎じを作っても仕方がない……」──かつて『クロノ・トリガー』でタイムトラベルものを手がけた男は、同じ題材で筆を執ることに戸惑っていた。そして、悩みに悩んだ末、新しいテーマが浮かんだという。

「殺された未来を、救けに行こう。時の闇の降る前に……」

そうして生み出された『アナザーエデン』のメインシナリオは、8年もの長きに渡って綴られ、ゲームが8周年を迎えるとともに、ひとつの完結を迎えた。

その記念すべきタイミングで、電ファミニコゲーマー編集部は、『アナザーエデン』のシナリオ、演出を担当する加藤正人氏に話をうかがう機会に恵まれた。

『アナザーエデン』加藤正人インタビュー:メインストーリー3部作が完結を迎えた今の心境から、約60年に及ぶこれまでの人生を振り返る_001

加藤氏といえば、『クロノ・トリガー』や『アナザーエデン』以外にも、『忍者龍剣伝』『プリンセスメーカー2』『ゼノギアス』『ファイナルファンタジーⅦ』『クロノ・クロス』『ファイナルファンタジーⅩⅠ』『バテン・カイトス』……と、信じられないほど数多くのヒット作に参加していることで知られる。とくに際立つのは、高い評価を得ているシナリオだ。

加藤氏のシナリオは恐ろしいほど緻密に組み立てられており、ビデオゲームだからこその物語体験をプレイヤーに与えることで知られている。

今回の取材では「クリエイター・加藤正人の半生を振り返る」ことをテーマとし、幼少期から学生時代をどのように過ごしてきたのか、アニメーターとしての活動で培ったもの、そしてゲームクリエイターとなり数々のヒット作を手がけた軌跡をたっぷりとお聞きしてきた。

聞き手/豊田恵吾
編集/豊田恵吾竹中プレジデント


8年かけて紡いだ3部作が完結を迎えた今の心境

──本日はよろしくお願いいたします。今回のインタビューでは、加藤さんのクリエイターとしてのルーツに迫っていければと思っています。詳細なお話をうかがう前に、8周年を迎えた『アナザーエデン』に関してのお話をお聞かせください。運営型ゲームを8年続けてこられて、メインストーリー3部がついに結末を迎えました。率直にいまの感想はいかがですか?

加藤氏:
じつは第1部が始まるまでに2年間は制作をしているんです。だから僕としてはもう10年も『アナザーエデン』と関わっていることになります。プレイヤーのみなさんが長いあいだついてきてくれているおかげです。

僕自身はこういう考えの人間だから、どんどん新しいことに挑戦したいと思う気持ちもあるのですが、それでも感慨深さはありますね。

──『アナザーエデン』は加藤さんの描くタイムトラベルものとあって、ユーザーさんからの期待も高かったと思います。メインストーリー第1部のストーリーの執筆はスムーズに進んだのでしょうか。

加藤氏:
1部の際に一番頭を悩ませたのは、やはり「タイムトラベルものとしてどうこれまでにない、新しい物語を作るのか」という点ですね。そこをクリアしてやるべきことが見えたら、あとはわりと苦労せず、一気にスラスラと書けました。

──メインストーリー第2部が公開されたのは2018年12月25日でした。リリースから約1年6ヵ月とじゃっかん長めのスパンが空きました。

加藤氏:
自分はシリーズ続編を書くのは苦手なんですよね。その時その時やりたいことすべてぶち込む、みたいな勢いで毎回書いてるので。じゃあ今度はまたガラッと異なる、別の新しいことをいちから始めよう、というノリで。なので、そのままこの続きをと言われて、さあどうしようかなと。

それと、1部は最後まで全部書き上げてからリリース(配信)という、これまでの自分のやり方で作れたのですが、2部からは連載もののように、途中、途中作りながら小分けに配信していく、というスタイルに変わったため、戸惑いながら書いてるみたいなところもありました。

『アナザーエデン』加藤正人インタビュー:メインストーリー3部作が完結を迎えた今の心境から、約60年に及ぶこれまでの人生を振り返る_002

 ──メインストーリー第3部を執筆する際はどうだったのでしょうか?

加藤氏:
3部は、逆にもうやるべきことはかなり見えていた。ラストはこう終わらせよう、みたいなイメージは1部を書き上げた時点で、自分の中で漠然とできあがっていたので。

ただ、クロス・コラボを経たことで物語に、当初は考えていなかったような、多重的な深みが出せたのはやはり大きかったかな。

──3部作が完結を迎えたいま、あらためてシナリオ全体を振り返ってみていかがでしょう。

加藤氏:
自分も3部作として、一続きのここまで長い物語を書いたのははじめてだったので、さすがにそれなりに苦労はあったなと。いや、ほんとに、まさか10年ずっと同じ話を書き続けるなんて、思いもしなかったので。

でも、終わりよければすべてよしで、全体としてはクロノス一家の物語、時空を超えた猫のお話として、うまくまとまっているんじゃないでしょうか。

自分の場合、一本作った直後は大抵、不平不満でいっぱいで、そのタイトルを気に入らなくなるんですが。あそこはああしておくべきだったとか、あれもこれもやり残したとか。それが今回は珍しく、割と平和な気持ちで終えられましたね(笑)。

──加藤さんが、メインストーリーで描きたかったことはどのようなことなのでしょう?また、8年を経て結末を迎えるという、運営型タイトルだからこその物語の展開となったわけですが、売り切りのタイトルとは異なる、運営型タイトルだからこその物語の見せ方というのを、どう設計されていったのかをお聞かせください。

加藤氏:
タイムトラベルものとして、これまでにない物語を。副題である「時空を超える猫」と、彼の家族の物語、といったところです。

家庭用と違って配信・運営型タイトルは、ダウンロードして実際にプレイし、おもしろくないとなったらすぐそこでプレイする手を止めて、アンインストールされてしまうわけです。

なのでもう、物語は勢いに任せてガンガン、ドライブさせて、ポイントポイントで派手な見せ場を用意する、みたいな作り方を普段より考慮しました。

──プレイヤーの反響をどう感じていらっしゃるのかをお聞かせください。

加藤氏:
OPの月影の森のイベントがすでに伏線だったとか、3部のラストでまた1部のはじまりに繋がっていくところとか、個人的には好きな構造の話で、そこらへんをやはり好意的に受けとめてもらっているようなので、まあよかったなと。

『ウルトラマン』や『宇宙戦艦ヤマト』などアニメや特撮に触れて過ごした幼少期

──加藤さんは『クロノ・トリガー』、『クロノ・クロス』をはじめ、数多くの「名作」と呼ばれる作品のシナリオを手がけていらっしゃいます。いずれもプレイヤーの心をつかんで離さないシナリオばかりです。なぜ秀逸なシナリオを加藤さんは生み出し続けられるのか。その一端だけでも知りたく、どんなクリエイター人生を送ってこられたのかを深掘りさせてください。幼少期にどんな子どもで、どのようなことに触れていたのでしょうか?

加藤氏:
いまもそうなのですが、子どものころから本を読むのが大好きでした。絵本や児童書を読み漁ってましたね。

ただ、それ以外は学校が終わったらカバンをほっぽりだして、友達と一緒に自転車に乗って外出し、星が出るまで「仮面ライダーごっこ」をするような、ごく普通の昭和の男の子でしたよ。

──子ども時代、とくに思い出に残っていることはありますか?

加藤氏:
自分で言うのもなんですが、それなりに明るくて正義感のある子どもでした(笑)。

当時も、いじめだったり、みんなでひとりの子をからかったりというのはあったんです。僕はそういうのが嫌いで、見かけると「やめろ!」と言って飛び込むようなタイプでした。

──その感性はどういったものから影響を受けたのでしょうか。

加藤氏:
正義感という意味では、子どものころに見ていたテレビ番組の影響が強かったと思います。

『ウルトラマン』や『仮面ライダー』のような特撮作品が流行っていて、よく見ていました。そこで「ヒーローはこうあるべき」とか、「正義の味方はこう行動しないといけない」とか、自然と人格形成に繋がっていったんじゃないかなと。

──特撮もアニメも、さまざまな作品が世に広がっていった時代ですよね。

加藤氏:
アニメも当然好きでした。まだ白黒だった『サイボーグ009』や『鉄腕アトム』を観て育った世代です。

小学生のときには『宇宙戦艦ヤマト』も好きでした。すぐに打ち切りになっちゃったんですけど。

──小学生で『宇宙戦艦ヤマト』を楽しめるというのは早熟な印象があります。

加藤氏:
大人という視点でいうと、『ルパン三世』の第1シリーズも観ていたのですが、あれはすごくアダルトというかエロティックでしたね。

さすがに「自分が見て大丈夫なのかな……」と小学生ながらに思っていましたけど、うちの親はとくになにも言わなかったので、気にせずに観ていました(笑)。

『アナザーエデン』加藤正人インタビュー:メインストーリー3部作が完結を迎えた今の心境から、約60年に及ぶこれまでの人生を振り返る_003

──先ほど本を読むのが好きな子どもだったとおっしゃっていましたが、読書が好きになったきっかけってなにかあったのでしょうか。

加藤氏:
僕の母親は幼稚園の保母の資格を持っていたので、教育に対する意識がしっかりしていたという要因はあると思います。本や絵本はいくらでも読ませてくれたし、むしろ「積極的に読もう」というくらいに与えられていました。

習いごともいろいろと通っていました。外で遊ぶのも大好きでしたから、作文教室やピアノ教室は嫌気がさしてすぐにやめちゃうんですけど。

そんなわけで、読書が好きな子どもでしたね。中学生に入ると読む本のジャンルも変わって、SFや怪談に興味が移っていくわけです。

──自然と読書に傾倒していったんですね。

加藤氏:
それはもうどっぷりとハマっていきました。当時の出版社が出していた「SF小説ベスト100」のようなリストを見て、それを片っ端から読んでいました

映画も同じで「名作映画100選」みたいなのを見ると全部観てしまう。僕は突き詰めないと気が済まないタイプなんです。いまでも一緒に働くスタッフと「最近あれ見た」とか「この作品が最高だったよ」みたいなやりとりばかりしています。

創作の世界で仕事をする以上、過去の名作は基礎教養のようなものだと思っているので、逆に映画をまったく観ないという話を聞くとビックリしちゃうこともあります。

僕はもともと活字中毒で、本をひたすら読んでいないと落ち着かないですし、本以外にもおもしろい物語がないか、「インプットし続けないと気が済まない人間」なんです。ひたすらにインプットし続けるような癖は、子どものころから本を読んでいた影響でしょうね。

海外のSFやミステリー小説をメインに、おもしろそうな作品ならなんでも手を出していた

──そのときに読んでいた本ってどんなものだったんでしょう。当時は海外SFが強い時代だったと思うのですが……。

加藤氏:
海外の作品がメインでしたね。1950年代のSF黄金期の作品からは燦然とする魅力を感じていました。そういう名作群はイギリスやアメリカの作品で、当時の国内小説はそれらの後追いのように見えていました。

国内の作品でも、名作と言われるものがあることは知っていましたけど、基本的には海外のSFやミステリ小説を読んでいましたね。

──当時でいうとエドガー・アラン・ポーや、アガサ・クリスティなどですか?

加藤氏:
そうですね。ミステリーは小学生くらいのころに読んでいた江戸川乱歩の『怪人二十面相』や『明智小五郎』から入って、そこからクリスティみたいなミステリや、ちょっと外れるけどポーみたいな幻想系、怪奇系も読んでいました。

あくまでメインはSFなんですが、おもしろそうな作品ならなんでも手を出していました。

『アナザーエデン』加藤正人インタビュー:メインストーリー3部作が完結を迎えた今の心境から、約60年に及ぶこれまでの人生を振り返る_004
(画像は『怪人二十面相』より)
『アナザーエデン』加藤正人インタビュー:メインストーリー3部作が完結を迎えた今の心境から、約60年に及ぶこれまでの人生を振り返る_005
(画像は『明智小五郎事件簿』全12巻完結セットより)

──なんでもですか。

加藤氏:
僕は埼玉県で生まれて、小学生のころに千葉県の銚子市に移り住むのですが、田舎なのでマニアックなSF小説は手に入らないんですよ。

ですから、絶版になった本を読みたい場合は、SF雑誌の読者欄に「◯◯を求む」や「これを売ります」とメッセージを出すわけです。

そこで知り合った人がSFのファンクラブのようなものを設立して、全国のSFマニアどうしで古書販売や交流をするようなサークルを作ってくれて。お互いに持っている本のリストを作って、売ったり買ったりと交流をしていました。

──環境ってとても大事だと思うんですね。たとえばいくらインプットが多くできても、誰かと語り合えないと知識に広がりが生まれないといいますか……。

加藤氏:
当時はインターネットはなかったけど、雑誌で情報を入手することはできましたし、SFが好きな人間ならみんなそういう雑誌を読んでいました。

僕が読んでいたのは『SFマガジン』『スターログ』という雑誌なんですが、そこにイラストが載ったことがあるという話をスクウェア時代に同僚に伝えたところ「それ覚えてる!」って言われたこともありましたね(笑)。

現在とはもちろん形は違うんですが、雑誌を触媒に同好の士が全国から集まって、同じものを共有していたと思うし、その仲間たちとそのあとに仕事で出会うこともあった時代でした。

『アナザーエデン』加藤正人インタビュー:メインストーリー3部作が完結を迎えた今の心境から、約60年に及ぶこれまでの人生を振り返る_006

1

2

3

4

副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ