4歳から『グランツーリスモ』を始めた男の子は、F1が走る現実のサーキットも駆け抜けてしまった

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“GTアカデミー”に出場する最後の一押しをしてくれたのは、父親だった

――そして高橋さんは、“GTアカデミー2015”のジャパンファイナルで優秀な結果を残されて、日本大会代表6名のうちの1人に選ばれます。その時の感想は?

「実車走行テスト」「体力テスト」「メディア対応テスト」、「ゲームスキルテスト」の課題に挑み、総合成績4位で日本大会代表の一人となった高橋さん。
(画像はグランツーリスモ・ドットコムより)

高橋:
 やっぱり、嬉しかったですね。それまでにも何度か公式の大会に挑戦していて、オンラインのタイムアタックで上位に入ると、大会に出場できる権利を獲得できるんです。その頃には、出場枠に入ることはほぼ毎回できるようになっていたんですけど、いざ大会の本番になると、どこかしらで負けてしまう部分があって。

 そうした大会で速かった人たちにアドバイスをもらったら、ただ走りを練習するだけじゃなくて、大会におけるメンタルの持ち方といった面も、考えないといけないんだなって意識するようになったんです。そういうふうに意識した時が、ちょうどGTアカデミーのタイミングと重なって、そこから上手い具合にトントンっていくような形でしたね。

――何度も大会に出場するなかで、他の出場者の方との交流があったのですか?

高橋:
 トップにいる人って、いつもだいたい同じような顔ぶれが多いんですよ。その中でも、自分がオンラインの世界に入った頃から速かった人とは、今でも交流させてもらっていて。ゲームだけではなくて、一緒にレースを見に行ったりということもしてますね。

 最初はオンラインで、自分もこうなりたいっていう憧れの存在だったんですけど、大会で実際にお会いしてから、そこに追いつくために、少しくっついて勉強させてもらおうと。

――でも大会だと、互いに順位を競う相手でもありますよね。そういったテクニックを、快く教えてくれるものなんですか?

高橋:
 その人は年齢がちょっと上で、就職とかの関係で大会に出るのを止めることになって、そのタイミングで上手い具合に教えてもらったっていう部分もありますね。

――それで、GTアカデミーについてですが。ゲームの上手いプレイヤーが、本物のプロレーサーになれるというのは、あまりモータースポーツに詳しくない自分のような人間が聞いても、スゴい企画だと思います。

高橋:
 そうですよね。第1回が2008年だったと思うんですけど、最初はヨーロッパだけで開催されていて、「日本でもやらないのかな」と思っていたんです。それが2015年に、ついに日本でも開催されることになって。でも正直を言うと、最初は出場するつもりはなかったんです。

――えっ、そうなんですか!? 機会があればレーサーになりたいという、高橋さんご自身の夢とも合致するものですよね?

高橋:
 ゲームだけなら、自信はあったんですよ。大会にはほぼ毎回出場できるようになって、優勝はできないまでも、それなりの結果を残していたので。

 ただGTアカデミーのジャパンファイナルは、ゲームのスキルだけじゃなくて、実車走行のテストや体力テストもあるんです。自分は運動とか、ぜんぜんしてこなかったので、そこで“やっぱりムリかな”と、ためらっていた部分があって。

 最後の一押しをしてくれたのは、父親なんです。「とりあえず出てみれば」って。

――お父さんもモータースポーツがお好きだとのことでしたが、レーサーになりたいという拓也さんの夢もご存じだった?

高橋:
 わかっていたと思います。でもさっきもお話ししたように、普通の家庭ではとてもムリなので。だから父親としては、「自分でチャンスをつかんでこい」って思ったんでしょうね。なれるとしたら、これしかないというふうに。

初めて乗るレーシングカーでも、ゲームで身につけたテクニックで乗りこなせる

――GTアカデミーの日本大会代表に選ばれた高橋さんは、2015年8月にイギリスのシルバーストンサーキットで開催された、最終選考会となるレースキャンプにチャレンジされました。こちらは実際にレーシングカーでレースを行う実技試験だそうですが、いかがでしたか?

6日間に渡るテストでは、たくさんの車を操縦する機会を与えられた高橋さん。テストを受けているという緊張感はあったが、楽しんでいる自分も感じられたと語ってくれた。
6日間に渡るテストでは、たくさんの車を操縦する機会を与えられた高橋さん。テストを受けているという緊張感はあったが、楽しんでいる自分も感じられたと語ってくれた。

高橋:
 自分が出場したのはアジア大会なので、アジア各地の代表が全部で30人集まって、6日間に渡って競い合うんです。でも途中でバッサリ、バッサリと落とされていって、最後まで残った1人だけに、プロレーサーとしてデビューできる権利が与えられます。残りの人は残念でした、という形で。

 ふだん乗れないような車だとか、レーシングカーを操縦できるので、自分としては本当に楽しみながらやらせてもらったんですけど。でも他の人は、ここで勝てないともう後がない、夢を諦めなきゃいけないっていう感じなので、正直、周りはピリピリしてましたね。

――挑戦者どうしで交流を持つみたいな空気では、あまりなかった感じですか? 

高橋:
 一応、試験以外の時は一緒にいて、話をしたりもできますよ。もちろん交流を持ちつつも、ライバルでもありますので、相手の様子を伺うことも忘れませんが(笑)。

――なるほど(笑)。先ほど、普通では乗れないようなレーシングカーを操縦できたというお話がありましたが、それは『グランツーリスモ』のゲームのなかで乗っていた車種ですよね?

高橋:
 いや、それがゲームでも乗ったことのない車種で。

――そうなんですか! 

高橋:
 乗ったことのない車種で、しかも走ったことのないコースで。でも、『グランツーリスモ』ではクルマごとに動きが違うので、実車で初めて乗った車種でも、“あっ、こういう動きをするんだ”と思ったら、“じゃあ、こう走ればいいんだ”という修正ができるんです

――それはつまり、ゲームからのフィードバックが、本物のレーシングカーに初めて乗った時でも通用するということですよね?

高橋:
 そうですね。すごく通用していると思います。

――ゲームのなかでこういう特徴のある車種だから、初めて乗った本物のクルマがそれと同じような特徴を持っていれば、ゲームで身につけた対処をすればいいと?

高橋:
 まぁそうですね。系統としていくつかあって、あとの細かい違いは、じゃあこうすればいいというものを、どんどんと組み合わせながら。

――いやもう本当に、単純な驚きなんですけど、『グランツーリスモ』というゲームと、現実のクルマとのリンクというのは、やっぱりスゴいんですね。

高橋:
 それはすごく大きいですね。ここまで現実とつながっているゲームは、他のどこを探しても見つからないと思うので

新社会人となる上でも、クルマとのつながりを持ち続けたい

――それで高橋さんは、レースキャンプ最終日に行われた10ラップのレースで、残念ながらマシントラブルに見舞われて、惜しくも優勝することができなかったわけですが。

高橋:
 5ラップ目の時点で3位だったんですが、熱ダレを起こしてクラッチが切れなくなってしまったんです。スピードが出せなくなってしまうので、もうピットに入るしかありませんでした。

――その時は、どういう気持ちだったのでしょうか?

高橋:
 これはもう……しょうがないなと思うしかありませんでしたね。

快調に飛ばしていた高橋さんを、不慮のマシントラブルが襲った。
快調に飛ばしていた高橋さんを、不慮のマシントラブルが襲った。

――高橋さんは今後も、プロレーサーを目指すチャレンジを続けられるのでしょうか? 

高橋:
 GTアカデミーへのチャレンジ自体は、一度きりと決まっているんですよ。なので、あとは自分自身での活動になるんですけど、正直、それはちょっと難しいと思っています。

 アジアの他の国で代表になって、同じ最終選考に参加した人の中には、自分の国に戻ってレース活動を始めた人もいるんです。でも日本の場合はお国柄なのか、そういう話がなかなか舞い込んでは来ないんですね。

 もちろん何かいいお話があれば、レースの世界に挑んでみたいとは思っているのですが。

――高橋さんは今、大学4年生とのことですが、就職のほうは?

高橋:
 自動車に関わる企業に入社することが決まっています。じつは面接の時に、自分が『グランツーリスモ』で結果を残したということに、面接官の方がかなり興味を持ってくださって、そこで話が盛り上がったんですよ。

――ということは、ゲームが就職にも直結していたんですね。では今後は、お仕事のほうでも自動車に関わっていきたいと?

高橋:
 そうですね。『グランツーリスモ』をはじめとして、クルマに関係しているものをずっとやってきたので、そこから離れたら、たぶん自分は何もやっていけないとは思うので。その意味で、仕事でもクルマとのつながりを持てるということに、自分は満足しています。

――ちなみに高橋さんはふだん、どんなクルマに乗っているのですか? 

高橋:
 トヨタのMR2っていう、20年ぐらい前のスポーツカーです。

 自分で乗っているのはトヨタなんですけど、もともとレースを好きになったきっかけが、ドライバーの星野一義さんで、この方は日産系なんです。それにGTアカデミーでは、日産のドライバーの千代勝正選手に、現地で直接アドバイスをもらったりもしたので、モータースポーツでは日産系を応援しているんですよ。

 じゃあ、なんで日産のクルマに乗らないんだって言うツッコミが有ると思いますが、そこはまぁ、クルマ全般が好きだということで(笑)。


 高橋さんを取材して会話を重ねていくうちに、なんだかスポーツ選手のインタビューをしているような気持ちになっていた。オンラインでの“挫折”を経験してからの努力、そして自らの夢を叶えるために、世界的な舞台へ挑むか否かの葛藤など、そのエピソードはどれも、オリンピックに挑むアスリートたちを彷彿とさせるものばかりだ。

 もちろん“eスポーツ”という言葉があるように、ゲームに対して真摯に向き合い、自分自身の身体と心を磨いてその技術を競うゲーマーたちは、現実のスポーツ競技のアスリートとなんら変わるところがない。その意味では高橋さんもまた、日本代表として世界に挑んだ“アスリート”の1人だといえる。

 それにしても改めて驚かされるのは、ゲームの中から現実のサーキットまでが、まったく隔たりなく地続きになっているという、『グランツーリスモ』のリアリティだ。ゲームの中で本物のクルマを忠実に再現するだけでなく、近年はゲームの側から積極的に、現実のモータースポーツを変革しようとしている。

 2017年発売予定のPS4用ソフト『グランツーリスモSPORT』では国際自動車連盟(FIA)と提携し、FIA公認のオンライン・チャンピオンシップが開催される。つまりゲームによって決定されるランキングが、F1やWRCといった国際的なレースイベントと同じだけの栄誉を持つ存在となるわけだ。

 そのプレシーズンテストとして、2016年5月に開催された“FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ”では、GTアカデミーへの挑戦を終えた高橋さんが、日本代表として“ネーションズ・カップ”に出場し、見事に優勝を飾っている。

 ゲームを通じた体験は、現実の世界を書き換えるだけの力を持っている。高橋拓也さんは、まさにそのことを証明する人物なのだ。

“闘会議2017”公式サイトオープン!

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