「おかけになった電話番号は現在、奇妙な世界に繋がっております……。」
6桁の電話番号で生成される、不気味で小さな、壊れた世界を放浪して回る、ホラーのショートアドベンチャーゲーム『Strange Telephone』。
2017年にiOS/Androidで公開され、各メディアで絶賛されたこの作品に大型アップデートが行われ、PCでの公開もはじまりました。
このゲームは、以前「iPhone AC」でレビューしたのですが…… そのときは酷評しました。
「300万通り」と謳われていた世界は似たようなものばかりで、ほんの数パターンの組み合わせしかなく、内容も意外とあっさり。
底なし沼のようなゲームかと思いきや、ボリュームがなさ過ぎてあまりに浅かったのです。
当初は賞賛するメディアが多く、ストアで特集を組まれたりしていましたが、ユーザー評価には批判が多く、意見の乖離が激しい作品だった印象があります。
その状況を目の当たりにしてか、発売から程なくして開発者さんがボリューム拡大のアップデートを告知。
「年内」といわれていたそのアップデートは、結局2年近くの月日を要し…… 先日ようやく公開に至りました。
正直、まだボリュームは多いとは言えません。むしろ少ない。
アップデート後でも「ショート作品」や「ミニアドベンチャー」といったところです。
ただ、ゲームを遊びやすくする改修も行われていて、むしろそれがアップデートのメインという印象です。
ともあれ、メディアに頻繁に取り上げられる作品ですので、改めてバージョンアップ版をレビューしておこうと思います。
価格はiOS/Android版は480円。Steam/Playism版は498円。
買い切りゲームなので広告やスタミナはありません。課金は作者支援のカンパのみです。
「目を覚ます」と、「ジル」と呼ばれる少女が大きな扉の前に立っています。
世界のどこかにある「鍵」を見つけ、この扉から脱出するのが目標。
とりあえず、扉の左にある「太陽のランタン」を取りましょう。
これがないと、この不安定な世界を見渡すことはできません。
少女の近くには「グラハム」と呼ばれる電話機が浮遊していて、受話器のボタンを押して6桁の番号をダイヤルすると、別の世界に移動します。
世界はこの番号によって生成されており、同じ番号にかければ同じ世界に行くことができます。
各世界は1画面ほどの小さなもの。
多くの目がこちらを見つめる不気味な世界もあれば、幾何学的な図形が浮いている意味不明な空間、研究室や森といったさまざまな世界があり、奇妙な植物や家具などが置かれています。
まあ、実際のところは「さまざま」というほど多様ではなく、いくつかの背景とオブジェの組合わせであり、割と短時間で一通り確認することができるでしょう。
ただ、初期バージョンよりはオブジェや背景は増えています。
いくつかのオブジェからはアイテムを得られます。
切れ味の良い鉈(ナタ)、水をやることができる如雨露(ジョウロ)、遠くをのぞける望遠鏡など……。
枯れた花に水をやったり、植物をナタで切ったりすれば、何かの変化が生じて、新たなアイテムを得られるかもしれません。
そうやって奇妙な世界から脱出する方法や、散りばめられた結末を探します。
電話をかけた先の世界に滞在していると、徐々にノイズが酷くなり、世界が歪んでいきます。
この歪み具合(Glitch)は、画面左上に数値でも示されています。
そして歪みが最大に達してしまうと…… 物語はバッドエンドを迎えます。
その前に電話を切って、扉の部屋に戻らなければなりません。
この「Glitch」の仕様は、アップデートで大きく変更されました。
初期版は電話をかけて世界を移動するたびにGlitchが増え、それを減らす方法はありませんでした。
よって電話をかけられる回数は限られていて、その回数以内でエンディングに到達できないと強制的にゲームオーバー。
しかしアップデート後は、電話を切ればGlitchはリセットされます。
突発的な幕切れにならない限り、プレイヤーは望むままに放浪を続けられます。
また、世界の端に移動すると、となりの世界(ダイヤルの数値がひとつ違う世界)に移動できるようになり、一回のダイヤルで複数の世界を見て回れるようになりました。
さらに嬉しいのが「電話帳」の追加。
このゲームはどのナンバーの世界に何があるのか、メモをすることが必須です。
初期バージョンは移動回数が限られていたため、なおさらメモをしないとクリア不可能でした。
しかし現バージョンはダイヤル画面に電話帳のボタンがあり、これをタップするとナンバーを保存できます。
保存した番号は扉の部屋にある電話帳で再びかけることができ、もう自力で紙にメモをする必要はなくなりました。
ナンバーを入力するだけで移動先の世界にどんなオブジェがあるのか確認できる「サーチデバイス」というアイテムも、はじまってすぐに入手のヒントを得られるようになっています。
「世界観の浅さ」の指摘があったためか、メニューに「書庫」が追加され、確認済みのオブジェクトの解説を見られるようにもなりました。
初期版はどのオブジェを調べても、ほとんど「……。」しか表示されていなかったのですが、これも何らかのメッセージが返ってくるようになっています。
エンディングもスタッフロールのあるメインエンドの他に、いくつか特殊なものが追加されていて、ゲームに広がりを与えています。
ただ問題は、追加されたエンディングのひとつ。
ネタバレになりますが「ひどい」と思ったのであえて言ってしまうと…… 最後のものは隠しエンディングに近く、特定のナンバーに電話をしないと達成できません。
ところが、そのナンバーをゲーム中に知ることはできません。
ではどうするのか?
ゲーム外の「ネット上で」見つける必要があります。
つまり、すべてのエンディングを見ようとしても、それを知らずにゲームをひたすらやっていると、永久に無駄な努力を続けるハメになってしまいます。
ググって調べないと完結しない。
こうしたゲーム外にヒントがあるトリックは他のゲームにもありますが、多くは隠しエンディングの存在が文字通り隠されているか、ゲーム外への案内がありました。
しかしこちらは開始前の画面にエンディングの種類を示す表示があり、そこに隠しエンディングの分も含まれていて、にも関わらずゲーム内にはそこに至るヒントはありません。
完全クリアを目指すプレイヤーはゲームを続けてしまうと思いますが、ゲーム外の情報なしでそこに到達するには、300万分の1の世界を偶然に見つけるしかありません……。
そもそもアドベンチャーゲームなんて今のご時世、ググった時点ですべて明らかになってしまいます。
それをせず、あえて自力で解こうとしている人にとって「ググらせること」が必須と言うのは、どうなのかなと思ってしまいます。
全体としては遊びやすくなっていて、“完成された”という印象です。
初期版は難しすぎるうえにすぐに終わっていたので、「意味不明なゲーム」という感想の人が多かったと思いますが、アップデート後は普通にショートアドベンチャーとして楽しめ、謎解きも行うことができるでしょう。
過剰な期待…… たとえば『ゆめにっき』並のボリュームと不気味さを求めたりせずにプレイするのであれば、楽しめる…… というか、雰囲気を味わえるゲームだと思います。
昨今、『ゆめにっき』の他にも『INSIDE』や『Anodyne』、『The Binding of Isaac』などの「狂気」をはらんだゲームが登場し、特にネットユーザーから賞賛されていますが……。
このゲームはそこまでいかない、適度な奇妙さを可愛いキャラで手軽に楽しむ、もっとライトな作品です。
それはそれで、この作品の魅力でしょう。
Strange Telephone
番号で生成される奇妙な世界を旅するショートストーリー
・アドベンチャー
・HZ3 Software(日本、個人)
・iOS/Android 480円、Steam/Playism 498円
文/カムライターオ
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