考察2. アクションゲーム
次に、アクションゲームについて。
もうお察しかと思いますが、右下に出ているような順番でゲームジャンルを解説します。
最初はボリューム高くやっていきますが、後はそれほど時間をかけずに進めます。
ご存じ『スーパーマリオブラザーズ』ですが、このゲームには、“敵を踏んで攻撃に変える楽しみ”があります。
これは「楽しい」という前提で話を進めます。
楽しみは主観的なものだから、人によっては「面白くないよ」と我を張る人もいるかもしれませんが、こういったゲームの面白さを理解できないままゲームを作るのは、「味オンチのコック」と一緒なので、威張れたものではありません。
ゲーム作りには本来、評論や評価は必要ありません。楽しいものを“楽しい”と感じる素直な感覚と、それを仕様やプログラムに翻訳するセンスだと私は考えます。
マリオの前に敵がいる場合……。
敵との距離が遠いと、やられる可能性はないですから、相手のリスクは小さい状態です。
下にある四角は、マリオとノコノコの座標軸を表しています。
で、敵と近づけば、近づくだけリスクはだんだん大きくなっていきます。
さらに接近して、座標軸も交わり大ピンチ!
そんな時は、ジャンプして回避しなければならないわけですが、そこで初めて攻撃の可能性が生まれる! というところがミソです。
ジャンプをすることで、敵をうまく踏む。
つまりリスクが最大に高まったところで、カメを踏んでやっつけられるというリターンがはじめて生じる、という面白さ。
ちょっとでもずれたらアウト、というところも、スリルと快感を大きく引き立てます。
その後も、カメこうらを蹴って武器にできるとか、それを追いかけることで高得点や1UPを狙えるという大きなリターンがあります。
が、そういったリターンの中に、カメこうらが反射によって返ってくるリスクもあるんですね。
非常によくできたシステムであると言えます。
ここでのポイント。
「リスクとリターン」は、かなり近いところに、適切な大きさに配置しなければなりません。合致させたり、どんでん返しがあるなど、刺激的に織り込むべきですね。
ところが……。
当時、80年代後半。まだ学生だった私はひとつの疑問を持っていました。
リスクが大きいゲームは難しい?
初代『スーパーマリオ』やそれに近いゲームは難しすぎるんじゃないかと。
敵に触れてはじめてリターンが得られるというのは、面白いけど難しいんじゃないかなぁ。
ファミコンなどのゲームが、少ない容量でより多く楽しませることを目指したこともあり、難易度上昇の傾向がありました。
若かりし頃の私は、結構器用にクリアしていたりしましたが、少なくとも自分の両親や近くの小さい子ができるような遊びではない、と考えておりました。
そこでゲーム業界入りし、92年に……。
『星のカービィ』を発売しました。
私がはじめてゲームデザインした、ゲーム初心者のためのソフトです。
もう25周年です。おめでとう。
敵との距離が遠い場合。これは先ほど触れたように、リスクが低い状態です。
で、さらに敵が近づいた場合。リスクはまだそこまで高くはありません。
が……。
ヒュッと。
敵がまだ遠いところにいるうちに吸い込み!
リスクが高まらないうちに、相手を無効化できます。敵をほおばったまま歩くこともできます。
で、吐き出して攻撃!
さらに離れた敵にも、近づかずに攻撃ができるわけです。
リスクは低く、リターンが大きめです。
敵を利用すると楽しいということは、『マリオ』などさまざまなゲームから学んでいました。
が、敵の利用方法をもっとカジュアルにしたのが『カービィ』です。
さらに、穴で落ちると一撃死という要素が厳しいので、いつでも空を飛べることで簡単にクリアできるようになっています。
他にも体力制で6回のミスを許容するなど、『カービィ』のゲームシステムが負うリスクは、『マリオ』などが負うリスクに対してかなり低いです。
リスクとリターンは比例的に関係している
リスクの大きさとリターンの大きさは、適度なバランスであればほぼ純粋に比例します。
つまり、困難なリスクであるほど、それを退けた時の喜びはより強いものになるということです。
逆に言えば、リスクが低ければリターンも低い。
と言うことは! 初心者のためにリスクを軽くする仕組みを持つ『カービィ』は、ゲーム自体を面白くなくしてしまう欠点もあるわけです。
が、もちろん『カービィ』がゲームとして成り立っていないわけではありません。
人によって難易度に対する感じ方は違います! ゲームに興味がない人が、今の複雑なゲームを華麗にクリアしていく、という構図を、私はどうしても思い描くことができません。
ゲーム慣れした人には小さいリスクでも、あまり慣れていない人には強大なリスクになっているということは、よくあります。
初心者にはやさしく! クリアした時の喜びよりストレスが勝ってしまったら、せっかくのゲームも台無しです。
『カービィ』はそこを狙って制作したゲームであるので、ぶっちゃけ『マリオ』よりもスリルがなく、言ってしまえばつまらなくても、役割としてはよしとしているのです。
「リスクとリターン」は、闇雲に倣うのではなく、狙いを定めることが大事です。
難易度を見れば、『マリオ』よりも『カービィ』のほうが、ラフだと言えます。
だけど、どちらが正解というわけでもありません。
強いて言うなら、どちらも正解。
それぞれのゲームには、それぞれの狙いや価値観があります。
ただ“子ども向けだから”という理由で難易度を下げるのではなく、意図的にターゲッティングすることが重要なのです。
リスクが大きければ刺激は増えるけれど、ゲームは難しくなります。
ゲームに慣れた人だけを基準にしないで、客観的に難易度を見据えましょう。
それぞれのゲームには、それぞれのコンセプトがあります。
「リスクとリターン」を考え抜くことで、ゲームのコンセプトをより磨き込みましょう!
というわけで、この「リスクとリターン」で、ゲームの面白さのしくみを、ジャンルを問わずに解説することができます!
考察3. 対戦格闘ゲーム
最初の2つは丁寧に説明してきましたが、ここからは少しペースを上げます。対戦格闘の場合。
これは『スーパーストリートファイターII』【※1】の映像ですが、元々格闘ゲームは「かけひき」のかたまりとも言えるジャンルです。
じりじりとスキをうかがって、ガイルがジャンプ! ケンは波動拳!
この時点で、多くの勝負が決まったわけです。
この場合はガイルの勝ち。両方に、多くの「リスクとリターン」があります。
波動拳を撃ったケンには、上記のような「リスクとリターン」があるわけです。
コマンド入力の難しさなども含んでの「かけひき」ですね。
同じように、ジャンプするガイル側にも「リスクとリターン」があります。
それぞれのリスクをリターンで突くような手を使ったものが、勝利に一歩近づく、というわけですね。
単純にワザを出し合っているだけではないのです。
そして……。
ピシ!
パシ!
ガン!
とガイル三段攻撃が入ったりするわけで。
『バーチャファイター5』の例
同じように『バーチャファイター』などに見られる3D格闘などの場合。
飛び道具などがなくても、考えかたはおおむね同じです。
ちなみにこの画像、『龍が如く6 命の詩。』についている『バーチャファイター5』で、PS4のスクリーンショット機能を使って撮りました。
このプレゼンを作った2003年当時は、ドリームキャストで『バーチャファイター3』を撮ってました。今は便利過ぎ、おトク過ぎてびっくりしますね。
『バーチャファイター』にも『鉄拳』にも、多くの格闘ゲームにも上段攻撃があり……。
中段攻撃があり……。
下段攻撃がある。
ワザにもよるけれどこれらの関係は、リーチや威力が勝る上段攻撃が中段に勝ち……。
出が早かったり、ガードをつぶせる中段攻撃が下段に勝ち……。
下段攻撃が上段をすかして勝つ、という。
実際には、リーチ、攻撃の出の早さなどの特徴が組み合わさっていますが、ワザによってメリットとデメリットがめまぐるしい早さで切り替わっているところに注目してください。
格闘ゲームは高速でくり出すじゃんけんのようなもの、なんて言われたりしますね。
他にも、攻撃に対するガード、ガードに対するつかみ、つかみに対する攻撃などが挙げられます。
三すくみがゲームを深くすることに気がついている人は多いと思うのですが、なぜそれが面白いのかを考えることが重要です。
ここでのポイント。
攻撃に特徴的な長短をつけて、「かけひき」を生み出しましょう!
格闘ゲームは、ただパンチやキックや必殺ワザを出していれば成り立つようなものではありません。
人が歩かないで1種類のパンチを放つだけだと、そこに「かけひき」はありません。ボタン押すだけ。
左右移動ができると、間合いの概念が生まれます。ジャンプできると、立体的な攻防が生まれます。
ガードができるだけだとたいした「かけひき」にはならないけど、投げを加えると幅がグッと増します。
人気ゲームの模倣ではなく、「かけひき」の根元がどこにあるのか。
企画段階でも、制作段階でもよーく見定めるべきだと思います。
考察4. レースゲーム
レースゲームは、その題材を選んだ時点で、すでにゲーム性が存在します!
ほとんどのレースゲームは、カーブがあったらなるべく高い速度でクリアしなければなりません。
ライバル車と走って1位を取ろうとする場合も、タイムアタックで0.1秒を削るようにしていても同じです。
鉄則です。
しかし……。カーブをなるべく高い速度で曲がること自体に、多くのリスクが発生します。
「速ければ曲がりにくくなる」──これ、当然ですよね。
天然的に、自分の腕前とのリスクコントロールになっていくわけです。
だから、レースゲームは再現するだけでゲーム性があるという。
ただ、ゲーム的な解釈によって、「ドリフトをより気持ちよくしよう」など狙いをつけてもっと楽しくすることはできます。
ドリフトが楽しいのは、コントロールを失うリスクとうまく抜けられる快楽が合致するから。
リアルな車では当然グリップ走行【※4】の方が速いのですが、こういったドリフトのリスクに対してゲーム的に優遇するのは、うまい手だと言えます。
先天的にゲーム性を備えているものはたくさんあります!
だけど、だから元から持っている面白さに頼るのではなく、ゲームなりにアレンジすることが必要です。
ドリフトなどもそうですが、リスクを負った分は、リターンが待っているように作りましょう。
考察5. 落ちものパズル
『テトリス』【※5】や『ぷよぷよ』【※6】などの落ちものパズルゲームは、ブロックなどが下から上に積もっていき、最終的に積み上がるとゲームオーバーになります。
つまり、ブロックを落とすこと、積むこと自体がリスクであると言えます。
さらにリスクが積み上がっていきます。
でも、単純に積んでいくだけではなくて、ここで下ごしらえをしておくわけですが…。
ファンならご存知の積み方になっていますね。
で、ブロックを消すことで連鎖開始!
今まで溜めて溜めて溜めまくっていたストレスが、すっきり解放される瞬間です。
溜めれば溜めるほど、気持ちイイと感じるはずです。
テトリスのテトリミノなども、同じ原理ですね。
そして、最後に追加リターンとして、相手にごっそりと攻撃が行く、と。
ここでのポイント。
良いゲームは、遊び手が自然にリスクを調整できる術を持っているものです。
低リスクには低リターン。高リスクには高リターン。
これが、結果的に誰にでも幅広く楽しむことができるゲームを築きます。
『ぷよぷよ』をより面白くする方法とは?:「リスクとリターン」から考える
ではここで問題。
今ある『ぷよぷよ』をより面白くするには、どうすればいい?
「リスクとリターン」を考えれば、見えてくるはず。
今回の講義は、単純に話を聞いてなるほど、と納得するだけにしないでください。
話を活かすためには、解法や仕様を見い出せるようになっていくことをオススメします。
回答の一例ですが……。
相手に投げ入れられた“おじゃまぷよ”がリターンにつながる工夫をするのがいいね、とか考えられるわけです。
例えば、『パネルでポン』などは相手の攻撃を使った反撃を行うことができます。
私も、過去に落ちもの? パズルを作ったことがあります。
名前は『メテオス』【※7】。
正直、落ちものパズルが大の苦手だった私がこれを企画できたのは、今回のこの講義で、理論を整理していたからです。
で、企画の原案を考えたスピードがどれぐらいだったかというと……。
5分です。
もちろん、企画書を作る時間はもっとかかりましたが、「リスクとリターン」を理解していたことはおおいにプラスになりました。
ブロックが並んだら消えるから面白いのではなくて、積もったリスクを片付けてスッキリするから面白いという。
結果、積もるリスクを排除する手として、「消す」以外に何かできないかと考え、爆弾はどうか、でも『ボンブリス』【※8】とかあるしなあ、などと考えたあげく、逆方向に打ち出すという手を考えたわけです。
「リスクとリターン」を熟知していることは、ゲーム企画のあらゆることに役立てることができます。
※1 ストリートファイターII
カプコンが1991年にリリースした、対戦型格闘ゲーム『ストリートファイター』の続編。パンチ、キックに各3つのボタンを割り当てるなど、現在の対戦格闘ゲームにつながるさまざまな要素の雛形を打ち立てた。翌年のスーパーファミコン版を皮切りに各種コンシューマーハードにも移植され、爆発的ヒットを記録。インベーダーゲームに次ぐほどの大ブームを引き起こした。通称『ストII』(ストツー)。
※2 Forza Motorsport 6
2015年にマイクロソフトより発売されたXbox One用レーシングシミュレータゲーム。「Forza Motorsport」シリーズの第6作目である。リアルなグラフィックと、車両の挙動、サウンドが緻密に再現されていることが特徴であり、車両のカスタマイズに重点を置いている。
※3 RIDGE RACER
1993年にナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)からアーケードゲームとして稼働したレースゲームシリーズ。後にコンシューマーゲームや携帯ゲームにも移植されていった。高速のままコーナーを速度をほとんど落とさず派手なドリフト走行で曲がり切ったり、高低差により大きくジャンプしたりと、挙動や運転感覚のリアルさを度外視した爽快感重視のゲーム性が特徴。画像は2011年に発売されたPlayStation Vita『RIDGE RACER』。
※4 グリップ走行
自動車や二輪車の基本的な走行方法。車体を滑らせず、タイヤと地面との摩擦を利用する。
※5 テトリス
「落ち物パズル」ゲームの元祖で、世界でもっとも有名なコンピューターパズルゲームのひとつ。1984年にソビエト連邦(当時)のコンピュータ科学者アレクセイ・パジトノフ氏が開発したものがオリジナルとされる。正方形のブロック4つを組み合わせた7種類のテトリミノが画面上部からランダムで落下。フィールド内に積み上げ、横一列を隙間なく埋めるとラインが消え、得点となる。日本では1988年にセガ・エンタープライゼス(当時)がアーケード版を、同年にBPSがパソコン版とファミコン版を発売したことで広まった。1989年には任天堂から発売されたゲームボーイ版が爆発的な人気を博し、国内で424万本の出荷本数という記録を叩き出した。
※6 ぷよぷよ
コンパイルが1991年に発売した落ちものパズルゲームおよび、そこから続くシリーズを指す。2つ1組で落ちてくるブロック(以下ぷよ)を積み上げて、同じ色のぷよを4つ以上並べると消すことができる。ぷよをうまく積むと連続でぷよが消える「連鎖」が起き、対戦相手に多くのおじゃまぷよを送り込むことができる。それまで基本的に1人用であったパズルゲームに対戦という要素を加えたこと、可愛いらしいキャラクター、シンプルでありながら奥が深いゲームシステムなど複数の要因から、老若男女に大ヒットとなった。
※7 メテオス
桜井政博氏がディレクションを務めた打ち上げパズルゲーム。Q ENTERTAINMENTが開発し、国内ではバンダイ(当時)が2005年に発売した。上から落ちてくるブロック(以下メテオ)を上下にずらし、同種のものを縦か横に3つ揃えると、その上のメテオごと打ち上げることができる。メテオの塊が重すぎると上がりきらないため、上がっている途中でさらにブロックを揃えて推力を追加するという、戦略性とアクション性を兼ね備えたつくりとなっている。隠れた名作として知られ、現在でもコアなファンから続編を希望する声が上がっている。
※8 ボンブリス
『テトリス』から派生した作品で、BPSから1991年に発売されたゲームシリーズおよびゲーム内のモードのひとつ。テトリスに爆弾ブロックという新要素を加え、独自のシステムを組み上げている。