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“女性向けゲーム”約20年の歴史とその分化や進化。はじまりの『アンジェリーク』からVR・ARまで【乙女ゲーム、BLゲーム、育成ゲーム】

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激動の2015年、『刀剣乱舞』がすべてを変えた! 

 2015年1月14日、DMM GAMESとニトロプラスが手掛ける、刀が擬人化された“刀剣男士”の育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』(以下『刀剣乱舞』)【※】がサービスを開始しました。
 ここから女性向けゲームは、育成シミュレーション黄金期へ突入していきます。

※刀剣乱舞-ONLINE-
DMM GAMESとニトロプラスによる、2015年サービス開始のPCブラウザゲーム。西暦2205年、歴史を守る使命を与えられたプレイヤーの「審神者(さにわ)」が最強の付喪神「刀剣男士」を育て、ともに歴史改変を目論む“歴史修正主義者”と戦う。公式Twitterのフォロワー数は70万人を超える。

 女性向けゲームのジャンルの中でも男女の恋愛がテーマの“乙女ゲーム”は、男性どうしの愛を好むBLファンには馴染みの薄いものでした。

 ところが『刀剣乱舞』は推しキャラを育てる育成ゲーム。プレイヤーとの恋愛要素が描かれていないため、BLファンには妄想を無理なく楽しめる仕様だったのです。

 また、女性オタクが大好きな“歴史がモチーフ”というポイントもしっかりと押さえた作品。

 その結果、乙女ゲーマーやBLファンに加え、歴史好きの女性オタクが一堂に集結かつてない規模と勢いのファンダムを作り上げます。

『刀剣乱舞』ファンがこの3年間で巻き起こした覇業を振り返る。107万円の公式Blu-Rayに約70件の申し込み、刀1本の展示で経済効果が4億円、幻の日本刀復元に4500万円を調達!

 この時期に『刀剣乱舞』が大ブームを巻き起こした要因のひとつとして、専門のゲーム機を必要としない“PCブラウザゲーム”だったという点が考えられます。

 『刀剣乱舞』のリリースは、PSPの国内出荷が完了してから半年後で、それまでPSPに流れて込んでいた乙女ゲームプレイヤーが行く先を失っていた時期に当たります。一方、そのころ台頭し始めていたスマホ用のアプリゲームは、iOSとAndroidで同時期に配信されるとは限らなかったうえ、とりわけAndroidでの対応機種の幅があまり広くありませんでした。

 そんな状況の中で登場した『刀剣乱舞』はブラウザでプレイ可能。つまり全方位の女性が同時期に楽しめる仕様だったのです。

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(画像は『刀剣乱舞(とうらぶ) – 公式 – DMMGAMES より)

 これにより、SNSを覗けば誰かが『刀剣乱舞』の話をしている状態に。そこから興味を持った人がさらに手を出してみて、またつぶやく……といったループが巻き起こり、プレイヤーが増えていきました。

 また、育成要素のあるゲームは、2014年より配信されていたバンダイナムコエンターテインメントの『アイドルマスター SideM』【※1】、2015年配信開始のHappy Elementsの『あんさんぶるスターズ!』【※2】、バンダイナムコオンラインの『アイドリッシュセブン』【※3】が大人気となりました。

 女性たちのあいだで急速に“推しキャラクター”を育てて応援するという風潮が広がっていったのです。

 このように2015年は、主流のゲームが“乙女ゲームから育成ゲーム”へと変化した大きなターニングポイントとなりました。
 しかし、さらに衝撃的な出来事がこの年は続きました。

 3月15日に『ときめきメモリアル Girl’s Side』シリーズ3部作や『ときめきレストラン☆☆☆』を世に送り出した、明理氏がKONAMIを退社したのです。

 2012年にシリーズ10周年を迎え、続編が遊べる日を心待ちにしていたファンにとってこれほど心が沈む展開はありません。
 内Pワールドに心酔していたファンたちは、「どこまでも、内Pについていきます!」と氏の次なる活動を期待しつつも、SNS上で「人生が終わってしまった……」と嘆き悲しんでいたのです。

 さらに10月。乙女ゲームブランド“QuinRose”を展開するアートムーブが事業を停止しました。『ハートの国のアリス 〜Wonderful Wonder World〜』など多くの乙女ゲームを世に送り出し、劇場版の制作、オンリーイベントを開催していたほどのレーベル停止は、ショッキングな事件として記憶に残ります。
 ただひとつ救われたのは、事業停止となる寸前にPSPで発売されていたタイトル群が、こぞってPS Vitaに移植されていたこと。ファンたちは「事業停止を前に、移植してくれたのかな?」と涙を流したのです。

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(画像は新装版 ハートの国のアリス 豪華版 | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイト より)

 ブラウザゲームとアプリゲームが大躍進した2015年、女性たちは「電車で移動中にプレイ」、「たくさんのアプリゲーをやっているから、難しいのは困る」、「昼休みに軽く」と“やりこむ”ゲームから“スキマ時間に楽しむ”ゲームを好むようになっていきました。
 バンダイナムコエンターテインメントはスキマ時間にゲームを楽しむ女性をターゲットとした「#すきま女子」プロジェクトを2017年に始動。いかに“手軽にゲームができるか”がヒット作への道となっていきました。

 さらに、キャラクターを愛でる女性向けアプリゲームには、美麗なイラストが必須。そのイラストを手に入れるためにいわゆる“ガチャ”が受け入れられていったのです。

 「推しキャラのイラストは、いくらかけてでもコンプリートしたい」という女性たちの気持ちが、ますます女性向けアプリゲーム市場を発展させていきました。

『A3!』のヒット……そしてアプリからコンシューマーへの新しい潮流

 育成ゲームブームから2年。2017年に入って大きく話題となったのは、リベル・エンタテインメントが1月に配信を開始した役者育成ゲーム『A3! (エースリー)』(以下、『A3!』)【※】です。

※A3!(エースリー)
2017年にリベル・エンタテインメントから配信されたスマートフォン向けアプリゲーム。イケメン役者たちを育成し、公演を成功させる育成ゲームの体裁。物語の舞台は、借金を抱え潰れかけている劇団「MANKAIカンパニー」。立花いづみ(プレイヤー)は行方不明の父を探して、劇団を訪れる。劇団の再建を託され、監督に任命されてしまったいづみは、ヤクザにも目をつけられた劇団を救うことができるのか? 2018年6月から2.5次元舞台「MANKAI STAGE『A3!』」の上演が予定されている

 2017年になると、育成ゲームはもはや戦国時代。ただ作って“ヒット待ち”をしているようでは、次から次へと作品が現れるマーケットの中で、作品が埋もれてしまう状態になっていました。

 そんな中、『A3!』は事前登録期間中に、主題歌とキャラクターボイスが収録されたCDや缶バッジの無償配布などを行い、リリースに先駆け、コンテンツの魅力を伝えたのです。

 結果、このタイトルは事前登録で50万人を達成し、配信から3日間で80万ダウンロード、そして2週間経たずに150万ダウンロードを突破。この成功により親会社であるアエリアの株が一時ストップ高となりました。

 ライバルが多い育成アプリゲームは、美麗イラストや豪華声優の起用だけではもはや潜在的なファンには届かず、届けるためにはテレビをはじめとする広告など、ブームを巻き起こすための戦略が求められる時代にたどり着いたのです。

 一方、2015年の育成ブーム以来、スマホアプリに押されてしまったコンシューマーゲームがどうなったかというと…。やはり2015年から発売タイトルの数は減少傾向にありました。しかしコンシューマーゲームには、“シリーズそのものについた根強いコアなファンたち”がいます。

 女性向けゲームというジャンルを切り拓いたコーエーテクモゲームスのネオロマンスシリーズは、2015年に『遙かなる時空の中で6』、2016年に『金色のコルダ4』と人気シリーズの続編を連発。

  さらに、同業のライバルとファンたちから目されていたアイディアファクトリーとともに、2017年に最新作『ネオ アンジェリーク 天使の涙』を発売し、乙女ゲーマーたちを驚かせました。

 そして、PS Vitaでリリースするだけでなく、スマートフォンでプレイしたい女性向けに、人気ゲームのアプリ版をリリースするという多面的な展開をするスタイルを導入しました。

 アイディアファクトリーのオトメイトは、大ヒット作品『薄桜鬼』の前日譚や過去に発売されたファンディスクの内容を加え、新たな攻略対象キャラクターが追加された『薄桜鬼 真改』を2016年に発表します。
 これは、すでにスマホゲームが隆盛を極める時代でしたが、PS Vita版だけでなく、より大画面でも楽しめるプレイステーション4版を発売し話題となりました。

 ところが、2018年2月。PS Vita版に加え、プレイステーション4版でも発売を予定していた新作において、プレイステーション4版での発売予定を取り下げました。“手軽に持ち運ぶ”があたりまえの今、据え置き型でのプレイスタイルが身近ではなくなり、移行が難しかったのかもしれません。

 とはいえ、オトメイトは年間で多くのタイトルを発表し、女性の恋心を満足させてくれるのが特徴。その姿勢はスマホアプリ時代になっても一切緩むことなく、『ニル・アドミラリの天秤 帝都幻惑綺譚』、『花朧 ~戦国伝乱奇~』、『白と黒のアリス』などをリリース。ファンの心を捉え続けていきました。

 さらに、オトメイトはアプリゲームとして人気を博していたサイバードの『イケメン戦国◆時をかける恋』【※】をコンシューマーゲーム化。2018年にPS Vita用ソフト『イケメン戦国◆時をかける恋 新たなる出逢い』として発表しました。アイディアファクトリーは“アプリからコンシューマー”への移植という、新たな流れを生み出したのです。

※イケメン戦国◆時をかける恋
2015年にサイバードからリリースされた、iOS/Android用女性向け恋愛ゲーム。戦国時代にタイムスリップしたプレイヤーが、戦国時代の武将たちと恋愛を繰り広げていく。2017年にはアニメが放映されている。

 以前にもアプリからメディアミックスを経てコンシューマータイトルとなったコンテンツはありましたが、アプリから直接コンシューマに至るこの流れは2017年から2018年にかけて一段と盛んになり、アプリゲー『アイドリッシュセブン』も、アプリでは描かれなかったストーリーを綴った『アイドリッシュセブン Twelve Fantasia!』(バンダイナムコエンターテインメント)をPS Vitaで発売しています。

 「ボリュームのあるシナリオは腰を据えて楽しみたい」というコアなプレイヤーの要望と、「アプリでいつでも手軽に楽しみたい」というプレイヤーのどちらにも応えるこのスタイルは、今後もしばらく続いていくのではないでしょうか。

2Dだけじゃ物足りない! VRとARでリアルな感覚の追求へ

 2016年、東京ゲームショウの話題は男性向け女性向けを問わず、VRコンテンツ一色。この流れをいち早く取り入れたのが、ボルテージでした。

 VR用のゴーグルを着けて椅子に座ると、やってきたイケメンキャラクターから壁ドンならぬ“椅子ドン”をされるという画期的なシステムを搭載したショートプログラムを披露。

椅子ドンVR「キスだけじゃ……物足りない!」 ボルテージブースで私、体験してきました【TGS2016】

 「キャラクターをより身近に感じられる!」と男性向けゲームも含めたビッグタイトルのあいだにあっても、この年のショウを象徴するもののひとつとして大きな話題となりました。
 椅子ドンVRは、愛しいキャラクターはモニターの向こうにいる“2次元彼氏”ではなく、目の前に存在する“リアル彼氏”へと進化する時代になったと知らしめたのです。

 2017年には、アプリゲームとして2016年の配信から人気を集めていた『囚われのパルマ』【※】が、全国のカプコン系アミューズメント施設で“VR面会”を実施。

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※囚われのパルマ……2016年にカプコンから配信された、iOS/Android用のガラス越し恋愛アプリゲーム。孤島に連れてこられたプレイヤーは、収容所に収監されている記憶喪失の青年ハルトと出会う。プレイヤーが本土へ戻る条件はハルトの記憶を取り戻すこと。スマートフォンの画面が面会場所のガラスに見立てられており、手のひらや額をスマートフォン画面に添わせるなどしてゲームを楽しんでいく。また、ゲームがプレイヤーのメッセージを記憶し、記憶喪失のハルトがプレイヤーを次第に認識していくというシステムが搭載されている。
(画像は囚われのパルマ VR面会より)

 スマートフォンのタッチパネルをプレイヤーとキャラクターを隔てるガラスに見立て、「監禁されているキャラクターと面会する」というユニークな設定の『囚われのパルマ』は、もともとキャラクターがプレイヤーのすぐ近くにいるような雰囲気を感じさせるタイトルでした。

 ところがこれがVRになったことで、「触れられそうなほど近い距離にキャラクターがいる」という圧倒的な存在感を見せつけました。
 作品と非常にマッチした“VR面会”は「ついに、私……物語の中に入り込んじゃった。次元の壁を超えたかも」と女性たちを虜にしたのです。

 さらに、2017年12月にコーエーテクモウェーブは、VRゲームを遊べる多機能筐体“VR SENSE”の稼働を開始。『DEAD OR ALIVE Xtreme SENSE』など男性に嬉しいタイトル群に『ときめきレストラン☆☆☆』を加えました。

 もともとVRに対して「彼が近くにいても、息遣いや香りがなくて、どこか物足りない」という感想を抱いていた女性たちでしたが、VR SENSEはそんな違和感を香り、温度、風圧などが体感できる多彩なギミックで拭い去ります。
 さらに『ときめきレストラン☆☆☆』では、曲に合わせてペンライトを振って得点を競ったり、アイドルとふたりきりになってファンサービスタイムを堪能できるという、濃密な密閉空間を生み出しました。

 この多機能VR筐体の発案者が、ほかでもない、女性向けゲームというジャンルを生み出したコーエーテクモホールディングスの襟川恵子会長だったということは、非常に示唆的です。

 「女性が、女性プレイヤーが潜在的に何を求めているか」を的確に捉え、持ち前の行動力でビジネスとして動かし、なかった需要を掘り起こす。女性を新境地へ連れ去るのはいつでも、第一線で活躍し続ける女性、すなわち襟川氏じゃなければできなかったことと言えるのかもしれません。

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※AR performers
ユークスが手がけるバーチャルプロジェクトであり、所属するアーティストの総称。パフォーマーと呼ばれるメンバーはSHINJI、REBEL CROSS(ダイヤとレイジ)、LEÓNの4人3組。2017年3月にエイベックスよりメジャーデビューし、所属アーティストになる。

 AR performersは、ファンの呼びかけにリアルタイムで反応するだけではなく、ファンと自由に会話を楽しみ、さらに名前を尋ねて呼んだりすることから、「メンバーが“私という個体”を認識する時代がやってきた!」と大いに話題となりました。
 そしてこのコンテンツをプロデュースしている人こそ、かつてKONAMIで『ときめきメモリアル Girl’s Side』や『ときめきレストラン☆☆☆』シリーズを手掛けた内田氏だったのです。

キャラと会話し、名前を呼んでもらえる時代がついに到来! 『ラブプラス』お義父さんの新プロジェクト『ARP』は二次元が三次元にやってくる夢の様なコンテンツだった

 ライブの開催時、ファンが贈ったフラワースタンドにメンバーがサインしている様子がSNSなどを通じて公開されると、「スタンドに触れてる、揺れている? つまり、メンバーが存在している! 一生、内Pについていきます。私の人生をありがとう!」と、ファンたちはさらに内田ワールドに心酔していくことになります。

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(画像はAR BOYS公式Twitterより)

 AR performersのリアルARライブは都度会場にステージを設けるため、準備期間を長めに必要とするコンテンツですが、2015年に完成したホログラフィック劇場“DMM VR THEATER”【※】で過去のステージをみせる“リワインドライブ”を2017年から開催。

※DMM VR THEATER
最新鋭の映像表現である、「ホログラフィック」によるステージ演出ができる世界初の常設劇場。横浜駅西口に2015年オープン。3Dメガネなどを必要とせず、肉眼でリアルな立体映像ステージを楽しむことができる。

 さらに、実際の街並みを歩くキャラクターの姿などの日常をインスタグラムで公開し、ファンの心を潤しています。もはや、“アイドルキャラクター”ではなく“リアルアーティスト”として存在していることが、女性のハートを虜にする重要なポイントとなる時代になりました。

 なおDMM VR THEATERで最初にライブをした女性向けキャラクターのアイドルグループは、『ときめきレストラン☆☆☆ 3 Majesty ×X.I.P. LIVE -Triple Road/TRICK★STER-』(コーエーテクモゲームス)です。

 2017年にはアニonstation 秋葉原で『コール&レスポンスStage〜ドリフェス!』(バンダイ)、東京・仙台・名古屋・大阪の各ライブハウスで『あんさんぶるスターズ! DREAM LIVE ~1st Tour “Morning Star!』(Happy Elements)、2018年にはVR ZONE SHINJUKUで『IDOLiSH7 PRISM NIGHT』(バンダイナムコオンライン)など、アイドル作品がキャラクターを動かし、ライブを続々と展開するようになります。

 普段から目にするキャラクターが動いて歌う……という体験をした女性たちは、もはや2次元と3次元との区別がつかなくなっていきます。2次元アイドルは2.5次元で戦国時代を迎え、「彼らの存在を実感できる」、「リアルタイム感が味わえる」、「キャラクターがファンを個別に認識する」といったことがヒットへのキーポイントとなってきたのです。

 2018年現在、女性向けゲームのファンたちは、もはや2Dでは満足できなくなってきています。日進月歩のVRやARの技術……。リアルを追求する先に、いったいどのようなステージが待っているのでしょうか。

アプリのサービス終了、業績悪化。栄枯盛衰は続く……

 これまでお話をしたように、2015年以降、女性向けスマホアプリゲームは、育成ゲームを軸に大きな盛り上がりを見せていますが、一方で乱立するタイトルの数のため、日本国内において苦しい状況を強いられている現実もあります。

 IR情報によると、恋愛ドラマアプリや椅子ドンVRで話題を博したボルテージは、2018年6月期第2四半期決算において、日本語向けの女性向けゲームの減少が続き、前年同期比32%と発表されていました。
 『幕末カレシ』などの恋愛シミュレーションゲームを配信しているフリューのゲーム事業は、2018年3月期第3四半期決算によると、配信開始するタイトルへのゲーム開発投資の影響から、前年同期に比べ営業損失の拡大が報じられています。

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(画像はIR情報 |フリュー株式会社のスクリーンショット)

 さらに、少し前まで収益の多くを担っていた“美麗なイラストをガチャで引かせるシステム”は、「ガチャ課金」、「廃課金兵」という言葉の流行とともに、以前のように無条件で受け入れられなくなり始めている一面もあります。

 こうした停滞を脱し、新たなファン獲得のために、アプリゲームを有する各社はアプリのみに留まらず、アニメ、2.5次元舞台、キャラクターソング、モーションライブなど、さまざまなコンテンツの展開が必須となっています。

 そうした中、2018年に入るとサービスが終了するコンテンツも出始めました。

 バンダイが展開している、2次元キャラクターと3次元のアイドルによる5次元作品『ドリフェス!』【※】は、5月31日をもってアプリのサービスを終了と発表。サービス期間は2年1ヵ月となります。

※ドリフェス!
バンダイナムコグループと芸能プロダクションのアミューズが2016年よりプロデュースする、2.5次元アイドル応援プロジェクト。2次元のキャラクターゲームとそれを演じる3次元のキャストによるライブなどで多面的に活動を展開。ゲームアプリは2016年4月に配信され、2017年には5次元アイドル『ドリフェス!R』としてリニューアルした。2018年5月1日にサービス終了予定。

 同様に、スクウェア・エニックスが提供するアプリ『君と霧のラビリンス』【※】が、6月14日でサービスを終了する旨を発表。
 VRを一部に搭載した女性向けRPGとして話題をあつめ、事前登録者数は25万人以上。華々しくアプリが配信開始されましたが、サービス期間はわずか11ヵ月でした。

※君と霧のラビリンス
スクウェア・エニックス初の女性向けアプリ(一部VR対応)として、2017年7月14日に配信を開始。謎の霧により外界から切り離された学園島に迷い込んだプレイヤーが、そこで出会った生徒会メンバーとともに、霧の中から現れる脅威“フォグ”に立ち向かうという姫になれるRPGゲーム。2018年6月14日にサービス終了予定。

 これら大手のゲーム会社から配信されていたアプリゲームの終了は、プレイヤーたちに大きな衝撃を与えました。
 ソフトの買い切りが基本となるコンシューマーゲームは、1本ごとにシナリオが完結しています。しかし、継続した運営をベースに作られたアプリゲームには、エンディングらしきものが明確にはありません

 この違いによって、アプリゲームは、ある日突然サービスの終了が発表されると、その時点から物語が急遽エンディングに向かい始めるのです。

 いつまでもともにいられると思っていたキャラクターたちが、ふといなくなる恐怖……。そうならないように……と、関連CDやDVDを複数枚買い、ガチャを回し続け、グッズをたくさん購入し、ゲーム会社の株を保有するなど、たくさん欲しいという前提はあるものの、女性たちはあらゆる方法で推しキャラ存続のために応援を続けています。

 「いくら私が好きであっても、収益が見込めなければ、突然その世界が消えてしまう。私の好きなこのアプリの収益は大丈夫かしら?」。いくら拭っても拭いきれない不安が、現在、女性プレイヤーたちを襲っているのです。

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(画像は編集部私物)

 2018年現在、時代の進化とともに女性向けゲームの市場は拡大し、より濃厚に、より手軽に、そしてリアルになり、ゲームだけに留まらず、ゲーム発の作品として超えられなかった壁をどんどん飛び越え、舞台やライブなど、あらゆる方面で楽しめるようになりました。

 これはつまり、同じIPであっても、受け手が自分に合ったスタイルを選んでコンテンツを楽しめるような時代になったというわけです。
 価値観やライフスタイルが多様化した時代において、ひとりでも、皆でも、現実でも、バーチャルでも……いろいろな形で楽しめる女性向けゲームの未来は、今後ますます多彩になっていきそうです。

 はたして次なる革命は、いつ、どのような形で起こるのでしょうか。

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『刀剣乱舞』ファンがこの3年間で巻き起こした覇業を振り返る。107万円の公式Blu-Rayに約70件の申し込み、刀1本の展示で経済効果が4億円、幻の日本刀復元に4500万円を調達!

 編集部による『刀剣乱舞』ファンが巻き起こした伝説まとめもお楽しみください。推しを持ったファンたちのケタ外れの熱意は、ケタ外れの経済効果を生み出していた……!

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著者
“女性向けゲーム”約20年の歴史とその分化や進化。はじまりの『アンジェリーク』からVR・ARまで【乙女ゲーム、BLゲーム、育成ゲーム】_044
AAAからインディーズ、乙女・育成ゲーまで遊ぶゲームがないと生きていけない人。好みのイケメンキャラが死にやすい、乙女ゲームですぐバッドエンドに直行してしまうのが悩み。『Gamer』、『4Gamer』ほかで、IT/ビジネス系やサブカルなど幅広いジャンルの記事を執筆中。
編集
“女性向けゲーム”約20年の歴史とその分化や進化。はじまりの『アンジェリーク』からVR・ARまで【乙女ゲーム、BLゲーム、育成ゲーム】_045
コスプレ雑誌の編集部を経て、電ファミ初の女性スタッフとなった編集者。乙女ゲームと育成ゲームをこよなく愛し、BLゲームを嗜んでいる。2.5次元舞台の観劇とコスプレ撮影が趣味。アニメに影響されフィギュアスケートを習っている。
 

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