現在、日本一有名なホストといえば……。
誰がなんと言おうと『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』(以下、『ヒプノシスマイク』)【※1】に登場する伊弉冉一二三(いざなみひふみ)【※2】! 彼をおいて他にいないでしょう。
『ヒプノシスマイク』は、音楽CDを軸に展開をするラップバトルコンテンツ。その人気はすさまじく、2019年にはアイディアファクトリーよりリズムゲームアプリの配信が予定されています。
池袋の“乙女ロード”を歩いていると、通りすぎる女性たちの会話から『ヒプノシスマイク』の名をいたるところで耳にします。
そんな『ヒプノシスマイク』には医師や警官、小説家にファッションデザイナーなど、バラエティに富んだ職業に就いているキャラクターが登場しているのですが、なかでも気になるのが、生活もその仕事のスタイルも謎に包まれている“ホスト”ではないでしょうか。ファンたちの間では「ホストの世界ってどんな感じなのかな?」と話題になることもしばしば。
とはいえ、“ホスト インタビュー”とネットで検索をしても、ヒットするのは「ホスト流、女性を落とすテクニック」「ホストと金」などばかり……。違う! 知りたいのは、男女の恋愛やお金のことではない!
伊弉冉一二三が仕事にしている「ホスト」業界とはどんなもので、シャンパンタワーとは彼らにとって何なのか……そして、オンとオフで人格は違うのか。 さらに、ホストたちは何を食べ、どこで買い物し、プライベートはどんなことをしているのか。会社員とホストの同居は可能なのか……。そう、一二三がいるならどんな生活をしているのかが知りたいのです!
血眼になって検索を続けていると「ホスト用語」がまとめられている『AIR GROUP MAGAZINE』にたどりつき、このサイトを運営するのが新宿歌舞伎町を中心に全国展開をする大手ホストグループAIR GROUPであることが分かりました。
大手ホストクラブなら、きっとホスト業界を知らない、他ジャンルの人間にも対応してくれるはず! と思い、「2次元キャラクター・伊弉冉一二三の生活が知りたいので、一流ホストにインタビューをさせてください。……なお、イケメンで優しくて知的な王子様系のホストが希望です」と、欲望むき出し状態で、すぐさま取材を依頼。
すると……快く許可をしていただきました!
ということで、今回は、AIR GROUPの「ALL BLACK」代表取締役である霧夜さんに、ベールに包まれたホスト業界のあれこれをお伺いしてきました。
「ひと晩の売上が総額2億円ってホント?」「オンとオフ、ホストとしてのスイッチが入る瞬間は存在するのか」そんな知られざるホストの生態はもちろん、一二三の歌にまつわるシャンパンコールやシャンパンタワー、さらには、バースデーイベントについてもを赤裸々に語っていただきました。
記事後半には、筆者自身がホストクラブの「初回」を体験。その様子をつぶさにお伝えいたします。
29歳のホストは年齢的にも“最高”の時期
──アニメやゲームの世界は、霧夜さんのような一流ホストには馴染みが薄いと思うのですが……。
霧夜:
そんなことないですよ、僕もゲームをプレイしますし、ホストはどんなお客様とも話せるようにするのが仕事なので、スマホのアプリゲームなどもチェックしています。それに、僕のお客様にも2次元が好きな方がいらっしゃいますよ。
──そうなんですね、少し安心しました。今、女性たちの間で『ヒプノシスマイク』というラップ音楽CDが流行していて、そこに伊弉冉一二三という男性キャラクターがいるんです。彼の職業がホストでして……。そんな一二三が身を置く“ホスト”という職業についていろいろ知りたく思い、お伺いしました。
霧夜:
『ヒプノシスマイク』の名前は聞いたことがありますよ。なんでも、シャンパンコールにちなんだ曲があるとか。
──えっ!? ご存知なんですか?
霧夜:
はい。AIR GROUPは大型グループなので、事務所を中心に情報を共有しています。“いま2次元が好きな女性たちの間で、ホストキャラが人気だからチェックしといてね”という情報が数ヵ月前に届きました。
それが動機で、実際にホストクラブにいらっしゃった女性もいるとか。
──恥ずかしいやらなんやら(笑)。ところで“事務所”というのはどういったものなのでしょうか? お店とは違う? ホストの世界について無知なもので……。
霧夜:
AIR GROUPは、本店といわれる「CLUB AIR」を中心に全国で15店舗のホストクラブをプロデュースしていて、僕が代表を務めている「ALL BLACK」もそのうちの1店舗です。それだけの数のホストクラブがあると、ホームページの更新、写真撮影、イベント提案、名刺の発注、広告制作、メディア出演の管理など、事務処理が膨大になるので、事務所はそれらをまとめてくれている存在です。
──なんというか“会社”ですね。
霧夜:
そうですね。総務、広報、宣伝がひとつになった存在と考えてください。僕たち代表は、事務所のスタッフと今後の店舗展開についてミーティングなどを行ったりもするんですよ。
もちろん、全てのホストクラブに事務所があるわけではないので、大型店舗特有のものだと思いますけれど。
──正直、ホストクラブのイメージは漫画『夜王』(集英社)【※1】や『ご指名です!』(集英社)【※2】から受けたものが多く、2018年現在のホスト事情が分からないのですよ。
霧夜:
『夜王』ですか……。それはまた、ずいぶん前のイメージですね。
──えっ! 『夜王』の連載終了は2010年ですよ?
霧夜:
そもそも『夜王』自体が掲載より少し前のホスト業界を描いていると感じますが、それを抜きにしても8年前ですから……。ファッションに流行があるように、ホスト業界も8年経てばかなり変化します。
今はあの頃とはちょっと、いや、かなり違うと思いますよ。
──そうなんですね……現実とのギャップに衝撃を受けそうです。
あっ、これは偶然なのですが『ご指名です!』に登場する主人公ホストの名前も“霧夜”なんですよ。その霧夜は作中でピアノを披露するのですが、ホストの方はそういう一芸はあるものなのでしょうか?
霧夜:
ピアノですか……。僕は上手いとは言えませんが、少し嗜みがあります。
https://www.instagram.com/p/BTD-fd7FrC6/?utm_source=ig_web_copy_link
──すごい……。なんだか試すような質問を初っ端からしてしまいスミマセンでした。ピアノも弾けるとか、ホストの方って少女漫画や乙女ゲームに登場する男の子そのものなんですね。
霧夜:
ありがとうございます。
── さて、前置きはこのくらいにするとして、今日はホストにまつわるいろんなことを教えてください。
いきなりで申し訳ないのですが、一二三は29歳なんです。正直なところ、ホストとして30歳手前という年齢はいかがでしょうか?
霧夜:
あっ、一二三さんは僕より年上の方なんですね。
──えっ!? 霧夜さんはお店の代表ですよね。それでいて、一二三より年下となると……、一二三は……。
霧夜:
いやいや、ホストで29歳というのは“とても脂がのったいい時期”なんです。10年ほど前は、25歳で「旬が過ぎた」と言われていたのですが、最近は成熟して落ち着いたホストを指名されるお客様が増えてきているんです。昔に比べるとホストが現役として働ける寿命も伸びていて、AIR GROUPには30歳前後のホストが多く在籍しています。
ところで、その一二三さんが生きてらっしゃるのは“現代”なんですかね? ほら、2次元の方々は世界が違うこともあると思うので……。
── 武力による戦争が根絶された“H歴”という時代の方です。
霧夜:
なるほど! 今の時代で20代後半から30代前半のホストは、十分にプレイヤー【※】として輝いているので、過去じゃないなら、きっと一二三さんもホストとしていい感じの年齢なのではないでしょうか。それに、その年齢なら幹部ホストかもしれませんし! ホストクラブには、まずエグゼクティブプロデューサーや代表がいて、さらに幹部とよばれる役職付きのホストが存在しています。
※プレイヤー
ホストクラブにおいて接待する男性従業員(ホスト)を、店舗側から見て称する呼び名。
──役職? ホストクラブには“代表とNO.1プレイヤーがいる”という大雑把な知識しかなく……。そんなにたくさん役職があるんですね。
霧夜:
そうですね。店によって多少の違いはありますが、エグゼクティブプロデューサーと代表取締役を筆頭として、取締役 → 総支配人 → 支配人 → 主任 → 副主任という並びになります。いわゆるこれが“幹部”と呼ばれるものになり、ひとつのラインが引かれるところですね。
──総支配人?
霧夜:
総支配人は“部長”みたいなポジションです。
そして、中堅と呼ばれる役職として幹部 → 幹部補佐 → ホスト長 → キャプテン、最後に役職がまだない若手や新人のホストとなります。
──となると、若手や新人が“ホストの下積み”イメージにある掃除をするんですね。
霧夜:
あっ、いえ。AIR GROUPは掃除やおしぼり洗浄はすべて業者にお任せしているので、掃除の文化はありません。もちろん、開店準備はありますが、あくまでテーブルセットですね。
──えっ!? 掃除をしない!?
霧夜:
少し前までは、売上の少ないホストがオープン前と後に掃除をして帰る……というのが通例でした。僕も新人のころは、掃除やおしぼりの準備などをしていた時代がありますよ(笑)。そう考えると、昔のほうが厳しかったかもしれませんね。
──ホスト業界は体育会系で若手の頃は大変というイメージがあったのですが。
霧夜:
以前は“名札”という文化があり、売上が10万円に届かないホストは“お客様に名前を覚えていただくように”と、胸に名札を付けていたんです。ただ、逆にいえば、名札を付けていると“まだまだ駆け出しです”という証拠にもなっていました。
まだAIR GROUPに入る前で別のお店にいた頃ですが、新人だった僕も「私の席では“名札”をヘルプ【※】につけないで」とお客様から、お酒をかけられたことがありましたよ。当時は「なんでだよ!」って感じでしたけど、今となってはいい思い出です。
※ヘルプ
客同士の本指名が被ったときに、本指名ホストの変わりに一時的に接客をするホストのこと。
──明確な上下関係を示すものだったんですね。
霧夜:
「役職があると指名がもらえる」ということもあるので、新人のころは役職をとにかく目指すものなんです。
──その“名札”がなくなった今も、やはり新人には厳しい世界なのでしょうか?
霧夜:
指名を頂いてナンバーに入る【※】ことは、今も昔も厳しさは変わらないと思います。ただ、最近のお客様は総じて、新人のホストがヘルプについても「楽しいなら新人でもいいよ」という方がほとんどなので、精神的に安心して接客に取り組めるような気がします。
※ナンバーに入る
ホストクラブではホスト個人の売上を上から順に並べる。お店で成績上位のキャストが「ナンバークラス」であり略して「ナンバー」と呼ばれている。「ナンバーに入る」とは成績上位ランキングに入るということ。
──客側の女性も時代とともに変化しているんですね。
霧夜:
お客様の幅が広がったというのが理由にあるのかなと思います。以前は、それこそ『夜王』に登場するような、“ザ・ホスト”が大好きな女性が多かったようにも感じますが、今はホスト側の服装もカジュアルになったためか、さまざまな年齢層や職種の方が遊びに来てくださいます。
──カジュアル? 今日の霧夜さんはスーツ姿でキメキメですが……。
霧夜:
今日は“取材をしていただける”とのことだったので、「ホストらしさ」をイメージしてスーツにしました。いつもはもっとカジュアルですね。お店のコンセプトにもよりますが、最近は特别なイベントや撮影のときにしかスーツを着なくなってきました。
──たしかに、いただいた名刺の写真がとてもポップでかわいくて……若手俳優みたいです。
霧夜:
名刺の写真はグラビア撮影のものなので、さすがにカジュアルすぎますけどね(笑)。「ALL BLACK」の場合は“アイドルに会いに来た”という感じで来店されるお客様も多いんです。
──言われてみれば、歌舞伎町に入ってから見たホストクラブの看板も「ザ・ホスト」というものではなく、かわいい系が多かったように感じます。
霧夜:
ちなみに、看板にも記載されているんですけど「ALL BLACK」には“職業、イケメン。”というキャッチフレーズが存在します。もちろん、「ALL BLACK」はイケメンが勢揃いですよ。
──ものすごいパワーワードですね! 「イケメンを自称する」って、かなり自信がないとできないことだと思うので……。さすがです。
ドンペリでシャンパンコールはもう古い!? ひと晩の売上が2億円!?
──踏み込んだ質問をさせていただくのですが、お客様の醍醐味って、やっぱり高いお酒……つまり“ドンペリ(ドン・ペリニヨン)”の注文などなんですよね?
霧夜:
ドンペリ……ですか。今はほとんど注文が入りませんね。僕は5年くらい前から「ALL BLACK」で働いていますが、その当時もドンペリはメジャーではありませんでしたよ。
──“ドンペリ”がメジャーじゃない!? それは……、まったく知りませんでした。なんだか、とても衝撃的です。では、今はシャンパンというと、どんな銘柄が好まれているんでしょう?
霧夜:
今はシャンパンでいえば、“アルマンド(アルマン ド ブリニャック)”【※】です。アルマンドにもランクがたくさんありますが、一番高い銘柄でいうと、“シルバー(アルマン ド シルバー)”です。大阪のキャバクラから流行し始めたなんて話も聞きますよ。
──メニューを見ても0(ゼロ)がたくさんでよく……。1,000,000……。アルマンドのシルバーの値段は100万円!? ひぇぇ〜。……注文が入ることってあるんですか?
霧夜:
はい。たくさん注文をいただいていますよ。
※アルマンド(アルマン ド ブリニャック)……世界中のセレブから愛されている最高級シャンパン。ソムリエや評論家がテイスティングし評価を下す「100 Best Champagne For 2010」ではドン・ペリニヨンを抑えて世界ランキング1位を獲得した。フランスのシャンパーニュ地方モンターニュ・ド・ランスを拠点に造られている。写真は「アルマンド ブリニャック トリロジー 3本セット」左からロゼ、シルバー、ゴールド。アルマンドのロゴが刻まれた専用のアタッシェケースに入っており、ホストクラブでもなかなか注文されることはない。
──なんというか言葉がうまく見つからないです。あの……もっとお高いお酒がメニューに書かれているのですが……。
霧夜:
クリスタルのことですね。クリスタルは、「リシャール」や「ルイ13世」などの高級ブランデーのことで、フランスのバカラ社のクリスタルボトルにお酒が入っているので“クリスタル”と呼ばれています。
──お酒を入れるボトルが“バカラ”……。ブランデーも一番お高いものですと、また0がたくさんで……“ルイ13世 マグナム”が10,000,000……1千万円……!?
霧夜:
はい。「ルイ13世 マグナム」はホストクラブでもめったに注文されることがなく、オーダーが入ると辺りが騒然とするほどの逸品です。
「ヘネシー リシャール」は、以前は200万円くらいだったのですが、今は300万円を越えました。最高級のブランデーはどんどん入手困難になっていくので、希少価値が上がっていくんです。
──なんだか金額の桁がすご過ぎて、頭のなかの電卓が狂ってきました。
霧夜:
もちろん、ホストだからといって誰でも高級なシャンパンやブランデーをお客様から頂けるわけではありません。だからこそ、高級なお酒を振る舞っていただけてこそ「ホストとして成功している」証となり、みんなそれを目標にして頑張っています。
──あ! メニューのなかにシャンパンタワーの文字が!! じつは『ヒプノシスマイク』が「カラオケの鉄人」とコラボしたときに曲をイメージしたコラボドリンクが発売されたんですけど、一二三のドリンクはシャンパンタワーだったんですよ!
本日「煌めく夜空とシャンパンタワー 」ご予約第一号のお客様がご来店されました✨早速のご来店誠にありがとうございます🍾こちらは準備中のお写真です✨シャンパンゴールドをBGMに、ガンガン飲んでねプリンセス✨ #ヒプマイ #カラ鉄 #シャンパンタワー pic.twitter.com/6P4p79uw2M
— カラオケの鉄人コラボ公式 (@animegame_kt) May 18, 2018
霧夜:
それはすごい。さぞ、一二三さんも喜ばれたことでしょうね。……ということは、ファンの方の中にはシャンパンタワーの経験者がいらっしゃるんですね。
──そうなんです! とはいえ、あの日から現実のホストクラブでのシャンパンタワーってどんなもんだろうか……と妄想する日々が続いているんです。
メニューには「値段:Ask」と書かれてあるのですが、おいくらぐらいからできるものなのでしょうか?
霧夜:
シャンパンタワーは100万円からですね。注文いただくシャンパンの本数によって、シャンパンタワーの高さやデザインが変わります。最近は凝った装飾のシャンパンタワーも多く、担当のホストとお客様が相談して決めていくんですよ。
──疑問なんですけれど、シャンパンタワーは即日OKなのでしょうか?
霧夜:
基本的には予約制です。
──なるほど! タワーの予約が入った日は、ホストの皆さんで積み上げて作るのですか?
霧夜:
いえ、シャンパンタワー設置の専門業者に発注することになります。注文はやはり、イベントのときが多いですね。
──専門業者まであるんですね! 驚きました。ところで、「イベント」という単語がでてきましたが、どんなイベントがあるんですか?
霧夜:
季節物のイベントだとクリスマス、バレンタイン、ハロウィン。ほかにはホストの役職が上がったときに行なわれる昇格祭、店舗の周年イベントなどがあります。
霧夜:
いろんなイベントがありますが、ホスト個人としては「バースデーイベント」がアツいですね。
──「聖誕祭」というやつですね! ちなみに、一二三の誕生日は6月22日なんです!
霧夜:
ファンがとても多い一二三さんですから、きっと盛大なバースデーイベントになりそうですね。
──来年のバースデーが今から楽しみです! ところで、バースデーイベントでは何をするんですか? 一二三をお祝いするためにも知っておきたいんです。
霧夜:
ホストにとって大切なイベントなので、ひと月以上前から準備を始めます。まずは、宣伝用と当日お店に張り出すための「バーステーポスター」の準備です。
──まさかバースデーのために撮影するんですか?
霧夜:
はい。これまでに撮影した写真を使うこともありますが、ほとんどのホストは、コンセプトを決めた上で写真を撮り下ろし、ポスターのデザインを発注します。
AIR GROUPの場合だと、グループ専用の撮影スタジオがあり社内デザイナーもいるので事務所スタッフが作ってくれるんですよ。
ほかにも、僕はPVを作りました。PVを作るホストはあまりいませんけれど、僕は作りました(笑)。PVはSNSにアップ【※】しています。
https://twitter.com/kiriya319/status/975250440567775233
※SNSにアップ
最近はホストもツイッターやインスタグラムなどのSNSをしているらしい。女性側からメッセージに「今度、指名で行きますね」と声がかかることも多く、営業ツールになっているのだとか。
──えっ、それはどこで流すのでしょうか?
霧夜:
作った動画はバースデー当日にお披露目して、その後は僕のお客様がシャンパンを入れてくださったときに店内のモニターで流します。
あとは「オリシャン」……つまりオリジナルシャンパンの準備ですね。
──すごい……顔が印刷されているだけでも驚きですが、ボトルがピカピカに光ってる!
霧夜:
これは昇格祭を行ったホストのオリシャンですね。以前は、スワロフスキーでデコレーションしたものや彫刻加工されたタイプが多かったのですが、今は光るタイプが流行っていて、最近のオリシャンはかわいい系のデザインが多いですね。
そしてバースデー当日に、シャンパンタワーをしてくださるお客様とデザインの打ち合わせをします。事前準備はだいたいこんな感じかな。
──事前ですでにそんなに大がかりだと、当日はどうなっちゃうんですか?
霧夜:
今年の僕の場合、3月18日と25日の日曜日2回にわたって催したのですが、本当に「ホストをやっていてよかったな」と思えるぐらい盛り上がりました。
1週目18日のタワーは、ゴールドに輝く金のシャンパングラスを複雑に組み立てていただきました。名付けて「ドバイタワー サグラダ・ファミリアVer.」です。
──……わぁ。シャンパングラスにゴールドがあることを初めて知ったのですが、そんな驚きをかき消すほどの圧巻っぷり。
霧夜:
2週目の25日は、「不思議の国のトランプタワー」でした。バースデーはホストにとっても一大イベントなので、仲間たちもお祝いしてくれます。最後は胴上げをしてもらいました。
──となると、バースデーの当日は指名だらけ?
霧夜:
そうですね。僕の場合は自分の本指名【※】のお客さん以外の方からも、シャンパンを入れて祝っていただくことも多くあります。
ヘルプの席でも気を抜かずに普段からお客様と向き合っていれば、自然と皆さんが祝ってくださるんです。もちろん、飲んで飲んでベロベロですけれど(笑)、それ以上に感謝の気持ちに包まれますね。
※本指名
自分のお気に入りのホストを決め、そのホストを指名して接客してもらうことを「指名」という。「本指名」は入店時に始めから指名が決まっている指名のこと。なお、大抵の店はホストクラブは「1度、指名を決めたら変更ができない」永久指名制が採用されている。
──ホスト業界のバースデーは“ものすごい”というイメージでしたが、想像以上でした。
霧夜:
いやいや、まだまだ盛り上がるイベントはありますよ。AIR GROUPはお話をした通り系列店舗がたくさんあるので、その全店舗を代表するトッププレイヤーたちが一堂に会して、ひと晩の売上を店舗ごとや、個人で競う「Dream Night」というイベントがあります。去年は12月16日に開催されました。
──まさに、ホストクラブ版の“ディビジョン・バトル”! それはお客様も燃えますね。
霧夜:
同じグループとはいえ他店舗とは良きライバル関係ですからね。トッププレイヤーだけの個人ランキングがあるため、それはもう熾烈なバトルです。
──わかります。やはり推しにはテッペンをとってほしい! とはいえ、トップホストの集まりともなると、売上がすごそうですね。
霧夜:
ひと晩で総売上が2億円でしたね。
──億!!??
霧夜:
はい、2億円です。
──えっと……。いろいろ突っ込みたいところではありますが、シャンパンタワーはどうされるんですか? たくさん注文が入りそうなイメージがあります。
霧夜:
時間が限られているので、前半と後半で2回までと決められているので、オークション制です。
──オークション!? 値段を想像してもしきれません……。
霧夜:
「Dream Night」のときは、営業終了までずっとシャンパンコールが鳴り響いているんですよ。
── 一二三の歌は「シャンパンゴールド」といってテーマがシャンパンコールなんですよ。どのくらいのお値段のシャンパンを注文したらシャンパンコールをしてもらえますか?
霧夜:
お店によってさまざまだとは思いますけど、「ALL BLACK」の場合は、5万円以上のシャンパンからコールをさせていただいています。テーブル会計だと合計10万円ぐらいからといった感じですね。
──2億円という金額の後だからかもしれませんが、意外とお手軽なんだな……と。
霧夜:
じつはシャンパンのお値段によってコールの種類があるんです。店舗によって異なりますが、「ALL BLACK」では10万円ぐらいまでで“通常のコール”、20万以上で“歌コール”というちょっと長いコールになります。
100万円を超えると“オールコール”と呼ばれるものになり、ホスト全員がお客様のもとに集うので盛大なシャンパンコールになりますよ。
※特别に「ALL BLACK」のシャンパンコールを見せていただきました!
──「シャンパンコール」といってもいろいろあるんですね。
霧夜:
そうですね。そうそう、タワーといえば「シャンパンタワー」のイメージが強いかもしれませんが、最近は気軽にできる「コカボムタワー」【※】が流行っています。
──コールやタワーに種類がいくつかあったことが驚きですが、そこにもブームがあり時代とともに変化しているんですね。