舞台「遙かなる時空の中で3」が2018年12月6日〜10日まで東京・紀伊国屋サザンシアター TAKASHIMAYA、12月14日〜16日まで大阪・サンケイホール ブリーゼにて上演されました。
「遙かなる時空の中で」シリーズの舞台は、2008年8月ネオロマンス・ステージ 「遙かなる時空の中で 舞一夜」の初演を皮切りに、2009年1月にネオロマンス・ステージ「遙かなる時空の中で 朧草紙」、2014年9月に舞台「遙かなる時空の中で5」、2015年12月に舞台「遙かなる時空の中で6」、2016年8月には舞台「遙かなる時空の中で5 風花記」、2017年5月に舞台「遙かなる時空の中で6 幻燈ロンド」がそれぞれ舞台化されています。
そして、今回の舞台「遙かなる時空の中で3」は、『遙かなる時空の中で』シリーズ舞台化10周年企画として上演され、初演で森村天真を演じていた中村誠治郎が、平 知盛として特别出演。この配役にはファンたちも大喜びとなりました。
このように『遙かなる時空の中で』シリーズは、アニメやゲーム作品を舞台化することを“2.5次元ステージ”と表現するより、かなり前から舞台化されていたのです。
そこで、12月6日に行われたゲネプロ公演を振り返りつつ、舞台「遙かなる時空の中で3」の魅力に迫っていきます。
【舞台「遙かなる時空の中で3」STORY】
現代、普通の高校生として生活していた春日望美は
突然不思議な力で源平争乱期の世に時空移動してしまう。怨霊を封印する力を持つ「白龍の神子」であると言われ、
最初は戸惑いの中で元の世界に戻る為に奮闘する望美だったが、
源氏の軍に加わり神子を守護する「八葉」と時間を過ごす中で
「この世界の平和を守りたい」と凛々しい強さに目覚めていく。だが、平家との激しい戦いは続き、
物語は望美── そして、源氏の将・源九郎義経が望む結末とは違った方に進んでいくのだった。自らが望む未来を掴む為、望美が下す決断は……?
(舞台 遙かなる時空の中で3より引用)
※『遙かなる時空の中で3』
2004年にプレイステーション用ソフトとしてコーエーから女性向けゲーム“ネオロマンス・シリーズ”の作品として発売された『遙かなる時空の中で』のシリーズ3作目のタイトル。2017年2月23日にはPlayStation Vita用ソフト『遙かなる時空の中で3 Ultimate』としてシナリオがフルボイス化され甦った。源平合戦を舞台に、白龍の神子である主人公と、神子を守護する八葉の物語が描かれる。「遙かなる時空の中で」シリーズは2020年で20周年を迎える。
※八葉
龍神の神子を守るため、龍の宝玉に選ばれた八人の者。八葉の身体には龍の宝玉が宿っている。
文/かなぺん
写真/塚本弦汰
『遙かなる時空の中で3』の世界がドラマティックに!
『遙かなる時空の中で3』の物語は、源氏と平家が争う異世界。現代から時空を超えたヒロイン・春日望美が、源九郎義経らと出会い、行動をともにし、鎌倉、京、生田など全国各地を旅しながら、平家や怨霊と戦っていく物語。
そのため、物語を語るには多くの場面転換が必要となります。舞台観劇前は、“旅の様子をどう観せてくれるのか”が楽しみのひとつでした。
今回の舞台装置は4段の板ステージ、岩、シーンに合わせて降ろされるサイド幕、和の模様が彩られた装飾品、そして、背後に大きな映写スクリーン。ややシンプルにも感じましたが、舞台が始まると、これがじつに魅力的!
物語が進むにしたがい、ファンにはおなじみの背景が、次々と映写スクリーンに映し出されていきます。
舞台ではそこがどこなのかが、必要以上に語られることはありません。しかし、ファンたちは、熊野川、下鴨神社、神泉苑、京の町、屋敷など“言わずとも把握できる”状態なのです。
さらに、怨霊が登場するシーンではおどろおどろしい模様がサイド幕に映しだされ、怨霊ただよう不安定な世界であることを伝えて、京の大火では、瓦解していく屋敷が、徐々にその跡形をなくしていき、炎に包まれるまでが描かれていました。
目の前で刻々と変化する舞台は臨場感にあふれ、『遙かなる時空の中で3』をさらにドラマティックに観せてくれました。
一幕と二幕は“ループ世界”。役者の演技が二幕を盛り上げていく
『遙かなる時空の中で3』の物語は、ゲームプレイ1周めが“悲劇の結末”を迎える展開になっており、時空を遡った2周めから過去の悲劇を繰り返さないために、同じ時間をふたたび歩みながらも、迫られる状況で新たな行動を選択し、仲間や京の人たちを守るストーリーが描かれていきます。
この展開は舞台でも同様で、一幕は源氏が悲劇の結末を迎えたところで終わり、二幕は望美が時空を遡ることを決意し、再び八葉と出会うところから始まりました。つまり、一幕と同じシーンが二幕でも繰り広げられていきます。
役者たちからすると、短時間で同じシーンを客席に見せることになるため、なかなかに“難しい”舞台といえるではないでしょうか。
しかし、同じ物語が綴られるはずの二幕は、シーンはループしているものの一幕とは全くの別物。
まず気がついたのは“テンポ感”です。比較的ゆっくりとストーリーが語られた一幕に対して、二幕のシーンはどことなく物語の進行が早いように感じました。まるで、この先の展開を知っていからこそ、迷いのない選択ができる、望美の心情を現しているかのようでした。
二幕は舞台が進むにつれ、望美が新たな選択をすることで、徐々に別のストーリーとなります。まさに、一幕があるからこその二幕。そこには、似て非なる役者たちの演技の違いを感じることができました。
一幕では“白龍の神子”という立場を理解していながらも、どこか“守られる存在”にもみえた春日望美。しかし、敦盛、朔、九郎らの悲劇を目の当たりにしたあとで迎える二幕では、「みんなを守りたいんです」と想いをはっきりと口に! この堂々たる姿はまさに、白龍の神子として凛と佇む望美そのもの。
望美を演じる吉川友の演技からは未来を知っているからこそ、再び会えた嬉しさと同様に、今度こそみんなを救わなければならないという使命感とその裏に隠された悲しみが伝わってきました。
有川将臣は望美と同様に、現代から時空を超えた高校生です。しかし、将臣は望美と譲よりも3年も前に源氏と平家が争う時代に到着していました。そして恩義を受けた平家一門に組みし、一幕では歴史の知識をもとに還内府として平家を勝利に導いていきました。
将臣を演じる井上正大からは、平家一門と幼馴染の間でゆれる感情だけでなく、一幕では平家を勝利を導いた将としての勇敢さ、二幕では源氏に破れた敗戦の将としての嘆きが全面に溢れでていました。源氏が勝つ未来のためにやり直すということは、平家が負けるということ。
二幕の結末は、一見すると予定調和の歴史通りになったのかもしれません。しかし、将臣を見ていると、一幕と二幕での勝者の逆転劇には、どこか儚い世の無常と不条理すら感じてしまいます。井上正大の演技からは、そんな将臣の人となりや情の厚さが伝わってきました。
源九郎義経は、まさに“謹厳実直”。やや融通がきかない一面もみせる九郎ですが、一幕で敗戦が濃厚になりつつも、一心不乱に戦う姿は、見る者の目頭を熱くさせました。
なにより、九郎を演じる早乙女友貴の剣さばきは“さすが”のひと言。幼少期より舞台にたち「劇団朱雀」で培い、多くの武将や武士を演じてきただけあり、演技はもちろん、太刀筋からは、剣の重みすら感じることができました。
そんな九郎が戦う姿はまさに、源氏の総大将。戦場に九郎の姿が現れると、ひと筋の光が差し込んだかのように場が引き締まり、“この戦いは源氏が勝てる!”と客席に思わせてくれるのです。もしかすると、これこそが源氏の兵が感じる士気なのかもしれない……不思議とそんな気持ちにさせてくれました。
ヒノエは、八葉であると同時に熊野水軍頭領であり熊野別当・藤原湛増です。神子とともに怨霊を封じるために戦うという使命のほかにも、熊野水軍の未来を考えて行動しなければいけない立場……。
一幕でヒノエが協力相手に選んだのは、平家。しかし、二幕では平家を示す赤旗を掲げ進軍しながらも、「姫君の心、奪いに来たよ」と源氏の白旗へ反転。こうして熊野水軍の協力もあり、二幕では源氏が勝利することとなりました。
ヒノエは望美のことを「戦女神」や「姫君」と呼ぶため、一見すると軟派なようにも思えます。しかし、垣間見せるのは、熊野の仲間を守る男気と決断力を持ち合わせた男なのです。
演じる杉江大志からは、双方の魅力が溢れるヒノエをたっぷりと味わうことができました。なんといっても望美との出会いである神泉苑で、木の上から舞い降りてくる軽やかなヒノエの姿には、ハッとさせられました。
一幕と二幕で印象に大きな変化がないのが武蔵坊弁慶です。しかし、この変わらないことこそが博学な弁慶そのもの。
どんなときでも冷静で周囲を分析する力を表すように、武蔵坊弁慶役の石渡真修は、常に物腰穏やな立ち居振る舞い。その柔和な口調と変わらぬ弁慶からは、一幕と二幕が異なる世界ではなく、望美の歩んできた道のり、八葉との関係が変わらない絆であることを見る者に伝えてくれました。
時空を遡った望美が助けたいのは、同じ仲間たちそのものなのだと……。弁慶からは、時と人をつなぐキーパーソンのような優しい温かみを感じとることができました。
望美とともに時代を超えた有川譲。一幕では、八葉として、望美を守るためとはいえ、慣れない戦場で戦うその姿からは、必死ささすら漂ってきました。しかし、二幕の譲は、望美の剣技や意志の強さを目の当たりにしたことで、景時から陰陽術を学ぶなど、一幕よりも力強く成長していました。
千綿勇平の演じる譲からは、白龍の神子という重責を担うことになった望美に、そっと寄り添う優しさ。そして、望美を守るために陰ながら努力をする男としての譲の姿が、ひしひしと伝わってきました。
源氏と平家の戦い、そして怨霊。どこか重くなりがちのストーリーを明るく盛り上げてくれたのが梶原景時です。陰陽師であり、源氏の軍奉行、源頼朝の腹心の部下である景時。今回の舞台では源頼朝が登場することはありませんでしたが、景時の表情からは、頼朝の存在を感じることができました。
そんな景時役の輝馬からは、明るく振る舞っていながらも、ふとした瞬間にみせる頼朝の腹心としての姿が印象的で、八葉であり、九郎と親しいながらも、決して誰にも見せることのできない胸の内に秘めた苦悩が溢れでていました。
平敦盛は八葉でありながら平家一門の人間……そして怨霊という存在。ストーリーの中でも大きな意味を持っていました。望美が時空を遡ったことで、敦盛を取り巻く流れは急激に変化。怨霊を作り出す力の源である、黒龍の逆鱗と対峙するシーンは息を飲んでしまうほど激しいものでした。
敦盛を演じる星元裕月は、平家一門の貴公子然とした姿、横笛を吹きながら己の境遇に思いつめる姿、そして怨霊としてもがき苦しむ姿……これら3つの姿で観客を圧倒。ときに涙をそそってくれました。
九郎の剣の師匠であるリズヴァーンは、舞台で直接的に描かれていませんでしたが、原作では過去に跳躍した経験のあるひとりです。一幕では、望美に出会ったときは初対面のように接していましていたが、二幕で望美と再開すると「来たな、神子」という意味深な言葉を放ちます。この一言にはリスヴァーンが背負うさまざまなものが詰め込まれていました。
リズヴァーンを演じる村上幸平の演技は、他の登場人物たちが望美とは初対面の演技のなか、一幕目の望美を優しく受け入れており、リズヴァーンがいるからこそ時をさかのぼっても“望美が望美であり続けられる”支えになっている……そんな懐の広さが伝わってきました。
このように、一幕と二幕はループであるにもかかわらず、同じ人物でありながらも、望美の行動によって変化が見られる八葉の姿が印象的であり、たとえ同じ場面であっても、新たな展開を楽しむことができました。
「守られるより、守りたい」望美を演じる吉川友、渾身の殺陣!
舞台において圧倒的な存在感を見せつけたのは、ヒロインの春日望美を演じる吉川友【※】です。その殺陣は、蝶のように軽やかながらも、ときに勇ましくもありました。
一幕の望美は、“剣に遊ばれている”かのような拙い姿をみせることも……。
初めて剣を握った望美が怨霊に翻弄されながらも剣を必死に振るう姿は、剣の重さに引っ張られており、剣技“花断ち”を会得しているにもかかわらず、知盛を前にしたときも腰が引けていました。
しかし、悲劇を目の当たりにし、時空を遡った後が描かれる二幕では、一幕とはうってかわり、姿はまさに“戦場に舞い降りた神子”という言葉が似合うほどに変化していました。
もちろん、時空を遡る前に剣技を習得したので、一幕よりも剣に触れている時間が長い……という理由もありますが、それだけが要因でないことは、望美の力強い目線、迷いがなくハリのある声、なにより剣を構えたときの姿勢から感じ取ることができました。
「守られるより、守りたい」。そんな望美を表現したイラストとして、ファンたちの間ではしばしば『遙かなる時空の中で3 with 十六夜記 愛蔵版』のメインビジュアルが話題になります。
女性向け恋愛シミュレーションゲームといえば、ヒロインは男性に守られるのが定番ですが、望美は左手で倒れる九郎を支え、右手で剣を握り正面を見据えています。これこそ春日望美であり、彼女の精神的な強さの現れなのです。
今回の舞台では、吉川友はまさに、ときには男性キャラクターをも勝る凛々しさを持ち、一幕から二幕への“剣との向きあい方”を通じて、望美という存在を見る者に訴えかけてくれました。
とはいえ、その強さは荒れ狂うものではありません。怨霊と化した敦盛を庇う望美の姿、知盛に対する態度からは、愛憐さも伺うことができます。望美が強いのは“敵に対して闇雲に剣を振るう”からではなく、たとえそれが、敦盛ら源氏と相反する平家の者であろうと、怨霊であろうと……他者の思いを受け入れた上で、剣を振るうから……。
剣を握ることの難しさだけでなく、剣を扱うには、守るものや確固たる信念が宿り、刃を向ける相手を受け入れてこそ強くなる……。そして、それこそが“白龍の神子”であると、吉川友の演技からひしひしと感じることができました。
吉川友が初めて殺陣に挑んだのは2015年。当時所属していた“チーム・負けん気”で出演した、BS-TBS 開局15周年特別企画『クールジャパン~道DOU~』のイベント「13人の刺客」でした。吉川友はここで殺陣の基礎となる、知識・技術、呼吸などを学び大立ち回りを披露しています。
当時の「GREEN ROOM#19」のインタビュー映像で「斬るって素晴らしいな」と殺陣の魅力を語りながら、難しかった点として「形」と答え、構えや突きの姿勢についてのこだわりについても述べていました。
アイドルグループ時代に殺陣経験があり、華麗な魅せるダンスを機敏に披露していた吉川友だからこそ演じられた望美でした。
その姿は、ただ舞台で殺陣を披露するのではなく、剣技の中に望美としての生き様があったのです。だからこそ、観客は“白龍の神子”である望美の存在感をリアルに感じることができ、さらに舞台へ引き込まれていったのではないでしょうか。
ファンから愛され続ける『遙かなる時空の中で』シリーズ。ゲーム展開だけでなく、舞台も10年という月日に渡り上演されてきました。
多くの人に愛される作品というものは、時が流れても変わらず愛され、どれだけ時間が経とうとも、その物語は美しく、ファンにとって新たな感動を生み出してくれるものであることを、今回の舞台「遙かなる時空の中で3」を通じて改めて感じ取ることができました。
今年は、ネオロマンス・シリーズとしての「音楽朗読劇」でも「『遙かなる時空の中で3』はステージ化され、ファンを喜ばせました。『遙かなる時空の中で』シリーズが見せる新たな展開……20周年を目前に控え、期待が高まるばかりです。
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