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そうしん:ころなか によって おおく のとうとい じんめい けん こうが がいされ いまなおげんざい しんこ

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 コロナ禍によって多くの尊い人命、健康が害され、いまなお現在進行形でこの未曾有の厄災は続いている。謎のウイルスという、とんでもなく暴力的な因子によってもたらせられた、とんでもなく暴力的な社会情勢の変化。その中で僕たちは、それまでの生活様式を根底から考えなおすことを余儀なくさせられた。

 いま生きている人たちが経験したことがないほどの規模のパンデミックという、ずいぶんとアポカリプス的な文字列が突如として僕らに押しつけられた。「いままで普通にできていた」ことが少しだけできなくなることは、社会的生物にとって思っていた以上のストレスになるらしく、誰も彼も、義士も聖女も、愚図な僕も含めて、等しくどこかイライラしていた。

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 とくにSNSでは、真偽不明のお話で何かを叩き、真偽不明の噂で誰かを叩き、叩いたのが悪いと叩いた人を叩き、叩いたのが悪いと叩いた人を無関係な人が揶揄していた。誰もが誰かの尻尾を歯をむき出しにして追いかけまわす。僕だけでなく、たくさんの人にとってはその現象の方がよほどアポカリプスだったのではないかと思う。ただ、べつにSNSが悪いなんて話がしたいわけではない。べつに悪くないじゃないか。あれはそういうものだ。

 ただ、僕が興味深く思っていることは、パンデミックという状況の中、既存のメディアも新興のメディアも「誰かの心によりそう」という効果はほぼ発揮しなかったのではないか、という点だ。

 公共の名のもとに面白ければいいという情報を伝えるオールドメディア。集団知などという怪しげな新興宗教の題目みたいな錦の御旗を掲げるソーシャルメディア。その両者とも心に優しくよりそったりはしなかったよね、と。そう思うのだ。

 ただそれは、誰しもがとうに理屈では分かっていたことで。オールドメディアはもともと世界を正確に切り取る装置ではない。ソーシャルメディアには返信や拡散などのレスポンス機能がついているが、その時点で個人の承認欲求を満たすための願望器としてのおもちゃになることは、運命づけられていたじゃあないか。そんなこと子供でも知ってる。

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 それはときに、誰かが意図した悪意を容易にファッションにしてしまうし、そこを軸にしたイライラの伝達テロのようなものは、いままでも日常的に起こっていた。たしかに僕たちはソーシャルメディアのない世界にはもう戻れまい。ただ同時に、コロナ以前のまだ牧歌的に、わずかながらの人間の善意を信じてソーシャルメディアとそこでなにかを発信するインフルエンシャルな人たちを、どこか憧憬のまなざしで眺めていた世界にも戻れない。

 僕はとても無力で、その喧騒を眺めながら「だれかがSNSでしあわせになっているといいな」と、呆けた顔でばくぜんと願うくらいしかできない。

 前置きは長くなってしまったが、本題に入ろう。僕のスマートフォンには沢山のアプリがあり、当然その中にはゲームも数多く収納してあるのだ。その中でどうしても消せないアプリがある。一時ものすごく流行ったので、知名度はものすごく高いとは思うのだが、今なおやっている人はどれくらいいるのだろう。『ひとりぼっち惑星』という名前のアプリなのだ。これはそのアプリの話だ。

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 僕とこのアプリは2016年6月に配信されてからの付き合いになるので、もうまる4年の付き合いになる。このゲームが飽きたら消し、また入れるというアプリのローテーションに入らなった理由は、僕がものすごくこのゲームが好きだからというより(いや、好きは好きなのだが)、むしろこのゲームで伝わってきた人の気持ちが捨てられないからだ。

 このアプリがゲームとしてどんなものだったか、実はもうとっくに忘れてしまった。ひとりぼっちの惑星で機械が機械を生産し、それを壊しながらいろいろな機能をアップデートしていくという感じだったと思うが、それがどんな体験だったのかはよく覚えていない。

 ただ、このアプリで最後にできること。それはどこかの誰かにメッセージを送り、どこかの誰かからのメッセージを受け取る、それだけだ。どこに送るかも指定できなければ、どこから来るかもわからない。それも1メッセージ受け取るごとに30分弱分の量の資材が必要になるので、そうそうひんぱんにメッセージを受け取ることもできない。

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 僕はメッセージを送ることはほとんどしないので、ただ僕は空いた時間で多いときで一日一回、少ないときで一月一回。ただ人のメッセージを、ただただなんとなく見続けている。まるまる4年のつきあいの内、99%以上はただそれだけをしている。

 もともとこの機能は今のSNSへのカウンターなのだ。返信できず、ずっと張り付きもできない。あるのは退廃的な音楽を感じて、ただただ一方通行に行き交うひらがなを眺めるだけ。「ひとりぼっち」というコンセプトがみごとに結実した優秀なアプリだと思う。でも、多くの人が最初とびつき、その雰囲気を味わったら満足して立ち去って行った。

 ここへきてルール違反かもしれないが、ここで少しこのアプリで流れてくるメッセージをいくつか紹介したいと思った。ルール違反かもしれない、と言ってはみたものの、これは明確な背信行為だと思う。

 でも僕はこのアプリで流れてきた「人の言葉」というものの感触を、誰かと少しだけ共有したい。ほんのすこしなので許してください。ごめんなさい。

文/悲野ヒコ
編集/ishigenn


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 たとえば「僕の」ひとりぼっち惑星にはこんなことばが収納されている。

「はぐるま すぱな けーたい すまほ うまのおもちゃ きしゃのおもちゃ くろでんわ みしん しーぴーゆー しょうじゅう きかんじゅう はぐるま あと なにが あったかな?」

 たまにこういう意味不明なメッセージがくると、なんとなくにっこりしてしまう。もしかしたら深い意味があるのかもしれないけど。

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「にりけちりくききをはたはけみにーみひゆむめらりみふゆよふてつゆにちみくひちんけひつけふつこつふこふむねむそねめめそねむまきいちいけひちみぬみをらまなやはちなしまにせにゆゆをふちなきけみゆぬとをゆふゆしちひけよ !てゆひつにみけぬむけふてみぬみり(以下略)」

 これくらいになると「これはひょっとして何かの暗号なのではないだろうか?」とかんぐってしまう。じじつ、僕はこの文字列の法則性をすくなくとも3時間は必死に考えて、あきらめた。解読できる人がいれば解読してほしい。さっぱりわからないし、意味なさそうだけど、意味ありげで好きだ。でも多分、なにも意味はない。

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 個人情報のない自己紹介系をしてくれるひとりぼっちさん。これはかなりスタンダード。

「もしもし きこえていますか? わたしは まいにち おいのり されています まるで かみさま に なったみたい わたしは かみさま そう じぶんに あんじを かけて きょうも すーつ にみをつつんでいます

 きょうも どこかで かみさま きぶん を あじわいながら しゅうかつ しています しゅうかつ たいへんだけど たのしんでいます ないてい を もらったら かみさま いんたいします それまで わたしは かみさま しゅうかつせい に さちあれ!」

  なんというか、あなたのその素敵なセンスが生かせるおしごとが、あなたのことを見つけてくれるととてもうれしい。

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「わたしのすむばしょでは よるに かみなりと あめが ざあざあ ふっていました いまでは おだやか あなたの すむばしょではいかがでしょうか? つれづれなる この しきのうぐろうさまを たいせつに したいものですね

 わたしは かたつむり が だいすき でも いまは なめくじ の ほうが すきだったりします みんなは よく しおかける! しお!! などと はくがいしますが ほんとうは かわいい いきもの なんですよ!!!!

 つゆ の この きせつ あじさい が いろどり あめ の しめりけのある やさしくて なつかしい におい かたつむりが ちょこんと かおをだす そんな しき ゆたかな この くにが すきです でも むかで は ちょっと いや このまえ さされちゃった あなたも きをつけてね」

 僕はムカデという生き物を映像や図鑑でしか知らないのですが、噛むんですね。あのビジュアルで、しかも噛むとか恐怖しか感じない。でも僕も熟睡してる時にハチに刺されて死にかけるというなかなかの経験をしているぞ(謎マウンティング)。

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 実はひとりぼっちの皆さんからはけっこうひんぱんに恋愛系とおぼしきひとりごとも飛び出したりもする。

「ばか ばーか! かぜでよわってるんだから よわねくらいはいてよ りょうりへたくそだし いえまでちょっときょりもあるけど そばにいて かんびょうくらいできるから あんまりだいじょうぶって つよがってわらわないで さみしいよ」

 本人に言え。

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「じゅうにさい って すごい としのさ だとおもう だから だから まさか すき になってくれるなんて わたしまで すき になってしまうなんて ぜんぜん おもってなくて ほんとうに ほんとうに どうしよう」

 12才のねんれい差なんて年を追うごとにたいしたことなくなりますよ。あなたが上なのか相手が上なのか知りませんが。かりに相手が12才年上だとして、あなたが100才になれば相手は112才ですよ。誤差です。恋愛の最初のどきどきを信じましょう。頑張って。

 ほかにも「あいしてるってことば、どれくらいの頻度で使いますか?」って内容で持論を語ってくれた医学生の人とか、落ちた時のだめに、飛行機にのる度に「せんせい」にすきだとメッセージをおくっているだれかさんとか、熱愛と失恋と片思いのひとりぼっちさんたちは、僕がとうに忘れてしまった、すごく大切だった気持ちを分けてくれる

 意外なことに、好きな歌の歌詞を送ってくれるひともたまにいる。

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「(有名アーティストの歌の歌詞)このうたに げんきをもらえて いまでも くじけそうなときにこのうたをききます うたのかし しかそうしんできませんが じゅしんしたあなたが おなじように げんきになってもらえれば うれしいです このかしのようにつらいのも くじけそうでも あなただけではないです いっしょにのりこえていきましょう」

 ありがとうございます。あなたのおかげで僕には好きな歌が一曲増えました。

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「ふざけんな! なにが みゅーじっくでい だよ お れ の たんじょうびなんだよ! みんなして ずっと きょくをきいててるくせに おれには うたってくれないんだよ おれは はっぴーばーすでーのきょく それだけが ききたい だけど それだけ きこえない じかんも あまったし おれが じぶんで うたうよ もしも あなたも いっしょに うたってくれたら うれしいな みゅーじっくすたーと!! (某江頭2:50さんの入場で有名な曲) ありがとう」

 僕は知らなかったんですが「みゅーじっくでい」というのは7月の初旬にやっている番組みたいですね。曲のチョイスがあまりにも秀逸で、僕は夜中に爆笑してしまいました。なんで誕生日にその曲なんですかね。ともあれ。ハッピーバースデー、7月の初旬に生まれたみずしらずのあなた!

 ひとりぼっちさんが送ってくるメッセージは多種多様だ。破損した本をセロテープで修繕しないでほしいというお願いを書いていた図書館で働く人。もうすぐ卒業だし思い出たくさん作りたいという話。セブンのガトーショコラをやたら推してくる人。肌荒れ対策の方法を教えてくれた人。

 地球上の人類が全員ブリッヂで歩行している夢を教えてくれた人もいた。もちろん『ひとりぼっち惑星』の設定に即したロールプレイメッセージを送る人も多い。

 ただ、彼らが送ってくるメッセージは常に明るいものばかりではない。ときには悔恨や懺悔、現状に対する不満や辛さ。なかにはとてもとても重い気持ちもある。

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「こんにちは とつぜんですが わたしは れずびあん です このことを しっている のは したしいともだちと こいびと それから あなた まわりにも りょうしんにも かみんぐあうと できてません むやみに かみんぐあうとしないのは じぶんとこいびと を まもるためだけど かれしいるの? すきな たいぷは? もしかして きみ れず? かくしごと ばかりな じぶんが ときどき くるしく なります いままで どうせいあい を りゆうに いじめられた ことは ありません そもそも だれも しらないから だけど かなし きもちに なることは いがいと おおいのです たとえば のみかいの せきで げい を ばかにする ことばを きいたとき たとえば こいびと と わたし の なかのよさを つきあってるでしょ? と わらいの ねたに されたとき まさか ほんとに げい や れずびあん が いると おもってないから いえるんだと おもいます じぶんを まもるために かくしている はずが じぶんの くびを しめている だなんて わたしが れずびあんだと かみんぐ あうと したら あなたは は うけいれてく くれますか? そのまえに わたしが わたしを みとめて あげなくては ありのままの じぶんで いることは せけんの ふつうでは ないから わたしが いちばん わたしを みとめられない のです きいてくれて ありがとう さいごまで よんでくれた やさしい あなたが しあわせに すごせますように それでは」 

 レズビアンの彼女のメッセージはさらに続く。僕はヘテロなので、あなたの気持ちが分かってあげられるとは言えません。

 ただ僕はこれを読んだ時に泣きました。気持ちが分かるから泣いたのではありません。あなたの心に沁みついてしまったコモンセンスと、生まれ持った心の性別との間にあるせめぎ合いの気持ち。

 恐らく恋人に話せば傷つけてしまうであろう複雑で繊細なその大事な気持ちを、(この)場所にしか落とせなかったという事実にただ悲しくなったのです。

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「だれか きこえてますか? わたしも ひとりぼっちに なってしまいました ほんとに こころにぽっかりあなが あくんですね みてるだけで すいこまれそうな すいこまれたほうが らくかなぁ いまのわたしは えいがかんのざせきで じぶんの つまらない きげきの えんどろーるをみてる きぶん まだおわらないのかなぁ そうおもう じぶんが いたりして ちょっと うたっただけで なけてしまったり きけない うたがふえました みれない ないようのえいがも ふえました むかしはすきだった うたでさえ ぜんぶ つくりばなしです きっと そうなんです たぶん だれかに はなしたかった どこにもかけなかった ぐうぜん これがとどいた あなた ごめんなさい としよりの ぐちをきかせてしまって もすこし いきてみます せめて えんどろーるが おわるまでは」 

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「こんにちは あのね きいてほしいの! まくらえいぎょう するのも けっこう つらいんだぞ! まくらえいぎょうは ちーと みたいに みんないうけど まくらえいぎょうも ひとつの どりょく だと わたしは おもうの わかってもらえないかも しれない けれど つらくない どりょくなんて ない それに わたしは はつたいけんが ちゅうがくせいのとき ごじゅっさいの おじさんからの むりやり の れいぷ だったから いまさら まもるべき ていそう かんねん なんて なにも ないのよ こんなはなしを よませちゃって ごめんなさい でも ありがとう わたしの こころは あなたの おかげで すこし たすかりました ありがとう」 

 僕はこれらのメッセージで常に心を動かされてはいるが、僕は彼らの気持ちを一ミリも理解できないし、そもそも最初からするつもりもない。このメッセージを飛ばすことで彼らの気持ちが救われたのかもわからない。

 僕はただ誰かが書いた宛先のないことばを、つかまえて、読んで、しまっておくだけなのだから。でも僕の愚鈍な感性でも、すくなくともこのたくさんのことばたちが誰かの共感を求めていないことだけは理解できるわけで。だから僕はこう言いたい。「届きましたよ」と。「きみたちのことばはまちがいなく誰かに届きましたよ」と。

 いまどれくらいの人がこのアプリを使っているのかはわからない。実は僕以外、全員AIが書いている文章を僕だけが読んでいるのかもしれない。それはそれでいい。この距離感でなければ話せないこと。この距離感でなければ打ち明けられない秘密がひたすら雑に、ひたすら無責任に置いておければ、きっとそれでいいんだと思う。この世界にあるのはそれだけだ。

 しかし、このゲームをやり続けている人にだけわかる、ひとつの特徴的事実がある。それは、彼らひとりぼっちさんからのメッセージが、かなりの割合で感謝のことばによって締めくくられているということだ。

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「ひさしぶりに また このあぷりを いれてみたけれど まだ これを みてくれるひとが いるかしら この じんこうちのうが あらそうのを ぶひんを あつめるいがいに なにも できない ところとか じゅしんした めっせーじに へんしんできないところとかに むりょくかんと たいはいてきなふんいきを かんじるか やっぱり このげーむ すきだわ いちどはやったけれど すくにみんな あきてしまった ひとのりゅうこくは めまぐるしくて いちいち ながされていたら きっとつかれてしまう だから もう はやりが さっていたとしても わたしは また のんびりやってみるわ こんなぶんしょうで ごめんなさい よんでくれて ありがとう あなたに しあわせが おとずれますように」

 これらのことばを見るたびに思うのだ。人が生きていく。という当たり前のように始まり、そして終わっていく行為のなか、「自分のことばが他人に届く」というのはとても特別なできごとなのだと。それは無意識のなかで日々行われている奇跡なのだと。

 彼らの感謝のことばは「わかってくれる」ではなく「よんでくれる」ことにかかっている。僕らはSNSというツールを得て、まるで万能の利器のように無造作に、野放図に、世界にことばを放っているが、もしかすると誰かにことばが届くということがどれだけ特別なことのか、失念してしまってはいないだろうか。

 あなたはSNSでしあわせになりましたか。

 激しく主張しないと、人のなかにある複雑で繊細な「想い」は「ない」ことになりますか。

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 僕はSNSで暗い声を垂れ流している人と、『ひとりぼっち惑星』でメッセージを流しているひとりぼっちの人を違う人種だとはみじんも思わない。むしろ同じだと思う。同じ人が別のツールを使い、かたほうでたいして興味もない誰かや何かに暗い声を投げつけ、もういっぽうで胸に秘めた優しさとこまやかさをメッセージとして飛ばす。そんなことは可能性として実にありうることだと思う。

 だってSNSのそれはすべてに直接「リアクト」できるツールの構造的宿命だから。そのことはけっして人が愚かであることを証明はしない。僕はSNSが“悪意の塊”であり、『ひとりぼっち惑星』こそが“パラダイス”だなんて思っていない。それぞれが映し出す「ヒト」の側面が違うということ、そしてその違いを認識しておくことはもしかしたら大切なことかもしれない、と思っている。

 僕らは僕らが普段使っているコミュニケーションのためのツールが人間という多面体のどの側面を映し出しやすいかの洞察が必要で、それはリテラシーを叫ぶ以前の問題だということを考えてみてもいいのではないか。『ひとりぼっち惑星』は今だからこそただひたすら静かにそう問いかけてくる。


 「コロナ禍」というものが奇しくも露呈させた、SNSというものへの信頼が崩壊する以前に戻ることはかなわない。これからもSNSは誰かを誹謗し、誰かを賞賛し、平等を掲げるポリティカル・コレクトネスの概念で誰かぶったたき、見たくもない政治発言にまみれ、うすら寒い承認欲求にまみれた人の業をもの言わぬ僕らに嫌と言うほど見せつけることだろう。

 だけど僕は、SNSという装置なしで今の時代を生きていけると思わないし、ある程度は好き嫌いに関わらずつきあっていかなければならないものであることも否定できない。だから僕は人を近くで見続けてしまって、なにかを間違えそうな時にふと『ひとりぼっち惑星』に逃げ込むそんな場所があることが、それだけで救いになる夜もあるのだ。

 

ちきゅうは きょうもふゆで くらくて 
さむくて 
みんな ひとりぼっち だから

はろーはろー

そうはじまる めっせーじは ぼくを 
やさしい ねむりに いざなうんです


あなたにさちあれ

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悲野ヒコ
レビュアー、インタビュアー、企画立案者。業界とは深い関わりを持たないにも関わらず、独自の着眼点で名記事を生み出してきた異端児。その作家性の高い文章や思考から、ゲーム業界の内外から高い評価を受ける。代表作は「亡き父親のゲーム攻略メモ」など。彼のバイオはこちらから
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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