昨今ゲームの影響が声高に叫ばれる中、教職に関わる人間や保護者からも子どもの引きこもりや不登校の原因がゲームにあるのではないかと言われることもあり、実際にある地方では条令でゲームを悪と断じる所も出てきている。
そのような疑問や出来事に対して、9月20日にゲームのオンライン家庭教師サービス「ゲムトレ」の代表取締役である小幡和輝氏の講演「ゲームとの正しい付き合い方、子どもがゲームにハマる理由と親として注意すべきこと」と題されたオンライン講演が開かれた。実際に小学校から約10年間不登校であった自身の体験や、自身の著書、ゲムトレのWebサービスを通じて得た知見の共有と、真摯に保護者や教育関係者への質疑応答を行っていたのが印象的だった氏の講演レポートをお届けしたい。
講演ではメインタイトルである「ゲームとの正しい付き合い方」に対して6セクションに分けて説明が行われた。1セクションの中でも項目が細かく分かれていたことと、質疑応答もセクション内で適時行われたため、本レポートではある程度内容を要約していることをご了承いただきたい。
取材・文/rate-dat
ゲーム産業は娯楽を超えて生活必需品といって差し支えない
最初のセクションである「ゲームの歴史や現状」ではスペースインベーダーから始まった日本のゲーム史に軽く触れられた。日本国内でのゲーム市場規模の大きさからして、すでにゲーム産業は娯楽を超えて生活必需品といって差し支えないレベルではないか、と小幡氏は語る。教育現場では、小学校で『マインクラフト』が、イギリスでは『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、『スマブラSP』)が授業に活用されているといった事例もあり、eスポーツという競技としても賞金が1億円を超えるような大会も出てきている。
そうした事例を実際のニュース記事等から紹介しつつ、補足として「ゲームとeスポーツって何が違うの?」という話題に移った。スポーツという言葉は、そもそもその定義が広い。なかでも「何を使うか」によって更に細かく定義が別れるのだが、ゲームや電子機器を使うものが「eスポーツ」と呼ばれている。
しかし、eスポーツとゲームの違いを明確に説明するのは難しい。たとえば『ドラゴンクエスト』はeスポーツとは言いがたい、クリアまでのタイムを競うようなRTA(リアルタイムアタック)のよう遊び方は、eスポーツとして呼ばれるのではないか、というのが氏の考えだ。eスポーツとゲームの違いは、その競技性が大きなファクターになっているのだという。
プロゲーマーはプロ野球選手と似た仕方で稼いでいる
次のセクションである「プロゲーマーってどんな仕事?どうやったらなれるの?」では、実際のプロゲーマーの稼ぎ方や活動方法について説明が行われた。
プロゲーマーという定義はゲーム毎に大きく違い、タイトルによってはメーカーに公認をされるような場合もあるが、勝手にプロゲーマーを名乗っている場合もあり、稼ぎも違ったりと定義が曖昧だ。
続いてプロゲーマーの稼ぎ方については、プロ野球選手を例に挙げて説明された。プロ野球選手は、ただ単に野球が上手いからお金を稼いでるわけではなく、その上で集客力があることからテレビの放映権や興業費がプレイヤーに還元されている。
そのため、「プレイの上手さ」は本質的には関係がない。競技の知名度や競技人口、興業数から、マイナースポーツはメジャースポーツに比べて稼げないというのはゲームでも同じである。したがって、『フォートナイト』のような世界的に人気のあるゲームにお金が集まるのは当然と言える。プロゲーマーだけでなく、ゲーム実況も似たような事情であり、人気の実況者・配信者は「ゲームの上手さではなく、その人の集客力」でお金を稼いでいる。
つまり、「ゲームで稼ぐ、ゲームを仕事にする」というのはプロ野球選手と同じ仕組みなのだという。
課金にはよい課金と悪い課金がある
そして次のセクションからは本公演の主旨となる、ゲームとの付き合い方や親子の話の説明が行われた。
ゲームの作り方や売り方は昔と大きく変わってきており、販売店やゲームショップでパッケージから買う形からF2P(基本無料プレイ)やダウンロードコンテンツのような、購入後に有料コンテンツが提供されるスタイルに変わってきている。
ゲーム全般の売られ方がそのように変わってきているので、そのゲームが本当に好きであれば仕方がないし、数千円程度の課金であればよいのではないか。しかし一方で、何万~何十万もの課金や、次第に金額が膨れ上がるような課金もオススメできない。すなわち、課金にはよい課金と悪い課金がある、と小幡氏はいう。
たとえば『スマブラSP』の追加パスなど、ゲームプレイやバランスに影響しない、見た目だけを変更するような課金には特に問題はない。しかしその反面、課金をしなければゲームをまともに遊べなかったり、ゲームの強さに大きく影響してゲーム体験を損ねるようなもの悪い課金である、と小幡氏は評する。その上で、「親がクレカを使わせてしまっている」といった子どもの課金問題に関しては、ゲームの問題ではなく家庭内ルールの問題だと断じた。
子ども達の口調が悪くなったのは『フォートナイト』のせいではない
次のセクションである「ゲームとしての正しい付き合い方」では、冒頭で「『フォートナイト』のせいで子ども達の口調が悪くなった。」というコメントに対して小幡氏が反論。「暴力的なゲームの影響で子どもの暴力性が増加した」という主張に科学的なエビデンスはなく、「結論から言えば、それは『フォートナイト』のせいではない」と切り捨てた。
いわゆる「ゲーム内いじめ」に関しては、ゲームそのものよりも、子どもが付き合っているコミュニティや見ているコンテンツに影響されやすいという。子どもは特に周りからの影響を受けやすいため、ゲームよりもよく見ているYouTuberを変えたり、オンラインゲームであれば所属しているクランを変えるといった対策が必要だ。
「仲間はずれにされている」といっても、それがいじめなのか、ゲームの仕組み上仕方ないことなのか。親が子どもの遊んでいるゲームのルールを理解することも重要であり、そこをしっかりと見極める必要があるという。
そして、本題である「ゲームとしての正しい付き合い方」としては、次の2点が重要だという。
・マナーやルールを守った上でゲームをプレイし、そのことを守れるプレイヤーと一緒に遊ぶ。
・一人で部屋にこもって遊ぶのでなく、友達とのコミュニケーションツールとして遊ぶこと。
小幡氏自身の経験からも、昼夜逆転の原因は朝に「楽しみがない」ことが大きな原因だと語る。「ゲムトレ」のWebサービスも不登校児や当該事象の対策のために、夜ではなく朝~昼に注力して行っているそうだ。
ゲームが上手い人は頭がいい
最後のセクションである「ゲームと勉強をつなげる方法」では、氏の実体験からゲームと勉強をつなげる事例が語られた。
『戦国無双』や『信長の野望』でゲームキャラクターに興味を持ったが、実際に存在する人間だと思っていなかった。氏は、そのことがキッカケで日本の歴史に興味を持つことができたという。
ほかの例を挙げれば、たとえば『桃太郎電鉄』は日本の地名や特産品などに結びつくような非常によい作品だといえる。『フォートナイト』のようなバトルロイヤルゲームでも、そこから実際の地名や銃器、戦争の歴史に興味を持つことでリアルにつなげられる。
逆にいえば、実際の勉強も「自身のレベルを上げるゲーム」というふうに捉えることもできる。このように、物事をゲームに置き換えるゲーミフィケーション的な考え方は非常に重要だ。
じつは、ゲームの遊び方などを説明することには、相手のスキルを理解する技量や、状況によって言葉を選ぶなどといった高い技術が必要となる。仕事を教えることが上手い人と同じような感覚に近いといえるだろう。
ゲームをプレイすることでものごとを順序立ててうまく説明する力が付く。ゲームが上手い人は頭がいい、として講演は締めくくられた。
残り時間では質疑応答が行われ、コメントや事前の質問への回答が行われた。
Q.ペアレンタルコントロールに関して、ゲーム機などから細かく設定できるようになったがどう思うか?
「やりたいことをやれない」のがフラストレーションになるため、不要であると考えている。自分も中学2年生の頃に携帯電話を持ったとき、同じような議論もあったが、結局設定されることはなかった。最終的には親子のコミュニケーションと信頼関係の問題だと思う。
Q.ゲーム脳になるからゲームは悪と言われたがどう思うか?
ゲーム脳は20年前に論じられた似非化学であり、科学的な根拠を擁していない。むしろ反証となるような研究結果の方がたくさん出ている。Googleなどで検索して自分でも調べてみて欲しい。
Q.子どもがゲーム依存症になるのかどうかが心配だ。
ゲーム依存症はWHOより「社会生活に対して支障をきたしている状態が12ヵ月続いている状態」と定義されている。この「社会生活」という部分が重要で、人との関わりやコミュニケーションがないのであれば問題だが、子どもが友達とゲームをして楽しんでいる、つまりゲームがコミュニケーションツールとして機能しているのであれば問題はない。
上の定義の状態からは外れるが、ひとり部屋で本を読み続けているなど、引きこもりの状態が続いているのであれば逆に問題だと思う。その場合、依存している事象以外の楽しみが無いのが一番の問題であるため、まずはそこを解決した方がよい。
Q.ゲームのせいで運動不足になるのが心配だ。
運動不足は起きがちなので、ほどほどに運動した方がよい。今はコロナの影響があるので家でできる運動などは行った方がいい。『リングフィットアドベンチャー』など、ゲームでもできることを探すのがよいと思う。実際に、プロゲーマーも集中力が必要なので、定期的にランニングなどで運動している人も多い。
Q.ゲームで個人情報を聞かれた際は、どうしたらいいか。
自己判断が基本となる。メールアドレスの場合は使い捨てのアドレスを作り、それを教えるなどで対策はできるが、その人が信用できるかなど自分で考える力は必要。実際、この問題はゲーム固有のものではなく、飲み会などに置き換えても同じような話になる。
Q.ゲームで負けて泣いて発狂するのは問題か?
問題ないと思う。それだけ真剣にやっている証左といえる。むしろ泣けるほど真剣にやれることはすごい。
Q.親や教育関係者が一緒にゲームを一緒にプレイすることは、不登校の改善に繋がるかと思うか?
非常に役立つが、ゲームをプレイしない状態で子どものゲームを否定することだけは絶対にしてはいけない。プレイしない状態でゲームの否定を行った場合、子どもは必ず大きく反発する。ゲームには関係ない部分の話だが、大人は我慢できても子どもは爆発する。
最近の事例では、『フォートナイト』のルールや内容を理解せずに頭ごなしに否定する親御さんが多い。それはゲームにも失礼だが、まず人間的に道理のない行為。ゲームに限らずそういった行為は止めるべき。
本質的には一緒にプレイする必要はないが、ゲームを理解し、応援しようとする姿勢を子どもに示すことが重要。
Q.子どもにゲーム以外の興味を持たせることが難しい。どうしたらいいのか?
学校で習う知識をゲームで得られるという考えが前提にあるが、自分は切り替える必要がないと考える。自分はゲームのおかげで友人ができたし、不登校ではあったがゲームで得た知識で最低限の社会的常識などを身につけることができた。
そこまで気にしなくてよいと思うが、20年前と違って今ではゲームで仕事をしたり、稼いだりする方法も増えてきているので、やるのであればそこまでやってもよいのではないかと思う。
Q.学校で学習することも人の可能性を広げるが、不登校になった場合その可能性を狭めてしまうと思う。ゲームで習う部分と比較してのメリットを考えるとどちらがよいのかわからない。
学校を否定するつもりはなく、個々人でメリットとデメリットを考えるしかない。自分の場合は、学校で学習する部分をゲームなどほかの部分で補った。ただ、学校が嫌でどうしても行きたくないのであれば、無理に行く必要はないと思う。学習する方法はほかにもある。
Q.(氏の経歴に関して)ゲームから学校の友達に影響を受け、イベントに興味を持って企画や設営に関わったということだが、高校生くらいから仕事などで社会に自然に関わりを持つことができるのだろうか?子どもが引きこもりになるのかもしれないと心配している。
自分の原点は、中学2年生からゲーム大会に出ており、その影響で大会の運営に関わるようになったこと。そもそも引きこもりになる懸念を前提にするのはよくないと思うが、ゲームは友達とのコミュニケーションや、競技として外への繋がりを生むと思う。
そのようなツールとしてゲームが使われているのであれば、5時間でも10時間でもプレイしていてもよいと思う。ただ、ひとりで家の中で引きこもってプレイしているのは、プロゲーマーとして競技の世界を目指しているのでなければオススメはできない。
Q.5歳の息子がゲームに興味を持ち始めたが、具体的にどういったゲームを勧めるのがいいか。
『マインクラフト』が一番いいと思う。『桃鉄』もいいと思うが対戦系だとお子さんが勝てないので、悔しくなるのではないだろうか。
Q.親御さんとゲームに関して、もめたエピソードはあるか?
めちゃくちゃ揉めた。親はゲームをしない人だったが、自分がやっているゲームや好きなものを認めてくれるまで時間がかかった。
Q.子どもが本当に学校が嫌で行きたくないのか、さぼりで行きたくないのか、判断がつかない。
子どもと信頼関係を持って話せているかどうかが非常に重要。親御さんにも言いたくない理由があり、その口実としてゲームを理由にしている場合がある。子どもは親御さんに気を遣うので、正直に面と向かっていえないことが多い。
本当にゲームを理由にして学校に行かないというパターンはほぼなく、「学校に行くのが嫌だ」という理由が先であることが多い。
Q.ゲームをひとりでやるのがよくないとあるが、『フォートナイト』をいつも(チームでプレイすることもあるが)喋らずにひとりでプレイしている。ゲーム仲間を探してあげた方がいいのだろうか?
一緒にプレイする方がよいと思うし、チームプレイが求められるゲームなので喋った方がよいと思う。無理に探すのは良くないと思うが、どうしてもというのであれば「ゲムトレ」を活用してみてほしい。(了)
1時間半に及ぶ講演であったが、途中でも疑問に対して真摯に応答がなされる非常に濃密な内容であった。実際にゲームが社会的なコミュニティとして既に形成されている状況や、ゲーム自体が生活必需品レベルで実際の生活に組み込まれている中で親子のコミュニケーションは非常に重要な問題であり、何度もその必要性は講演内で繰り返されていた。
親や教育関係者自身もゲームを理解する必要があり、ゲームを悪と論じる前に何が問題であるかを理解する必要性の重要さを感じる講演であった。
もっと興味がある方は小幡氏の著書である『ゲームは人生の役に立つ。生かすも殺すもあなた次第』の冒頭が無料で公開されているので読んでみるとよいだろう。この記事を読んだ後に読むとさらに理解が深まるかと思われる。
また、本講演は多数の視聴者の要望によって、アーカイブが公開されることになった。こちらも興味のある方はチェックいただければと思う。
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