ドッジボールの質感をうまく再現しながらうまくアレンジしている『ノックアウトシティ』というゲームがあると聞いてやってみた。ゲーム性に、たしかにドッジボールらしさがある。プレイしていると小学生のとき、中休みの20分の間にドッジボールをやった日々を思い出し──。
いや、よく思い出すと筆者は中休みにドッジボールをするタイプの子どもではなく、休み時間は教室でお絵描きしたりしているタイプの子どもだった。
体育の授業でしかたなくドッジボールをやるのも苦手で、球技をやってる友達が水を得た魚のように活躍するなか、こそこそと逃げ回るだけの青白い少年だった。なんなら今でも運動は苦手だしアクションゲームさえ不得手なほど運動神経が弱い。
そんな「中休みに楽しくドッジボール」という経験がほぼない筆者のようなスポーツ苦手人間でも、『ノックアウトシティ』を通じてその幻想を見てしまった。なぜなら、本作は「ドッジボール」というスポーツの戦略的な面白さを上手に切り取った作品だからだ。
まず、このゲームで特筆すべきなのは「エイム力がいっさい必要ない」というところだ。投げたボールは基本的にオートエイムで敵のほうに向かっていく。
肉体的な身体能力とは無縁に思われるゲームでも、「エイム力」だけは運動神経と精緻な操作が問われてきた。
しかし、『ノックアウトシティ』ではエイムの腕前による力量差を排することで、身体能力に依存する部分をさらに排除しすることに成功している。そのおかげで、位置取りや仲間との連携といったドッジボールというスポーツに秘められた戦略的な面白さが際立ってくるのだ。
本稿では、筆者のように身体能力不足でもスポーツの本来的な楽しさを味わえる夢のゲーム『ノックアウトシティ』の魅力を紹介していこう。
3対3のTPSでドッジボールして人間爆弾にもなれるゲーム
EAから発売された『ノックアウトシティ』は、ドッジボールをアレンジした独特な球技を舞台にしたPvPアクションゲームだ。
まずはゲームルールを説明しよう。基本は3対3で、ステージに出現する球を拾って投げ合う。ステージに陣地のようなものはなく、入り乱れて戦う。2発当たるとKOで、数秒間の待機時間の後にリスポーン、10回KOを取ると勝利という感じで、チーム制のTPSをドッジボールに置き換えたようなルールだ。
基本的にはボールをぶつけあうのだが、自分自身が当たれば一発で即死となる「人間ボール」になって味方に投げてもらうこともできる。 しかも、人間ボールは最大までためてから投げると「アルティメットスロー」と呼ばれる“人間爆弾”となり、広い範囲に爆発を起こして一網打尽を狙える。なお、爆弾になったプレイヤーは爆発しても死なないので安心してほしい。
また試合開始時には、さまざまな特徴をもつ5種類のスペシャルボールのうち1種がランダムに出現する。当てた敵を強制的にボールにしてしまう「ケージボール」や、持ち球が3つに増える「マルチボール」など、どれもユニークで強力な効果をもつので、ぜひ有効活用したい。
エイム力のいらない戦い
ふつう、TPSやFPSではエイム力が非常に重要な基礎能力となる。それが緊張感を産むのだとは思うが、筆者のようなゲーム下手にとってはそこでつまづいてしまって、なかなか楽しめないことがあった。
しかし、『ノックアウトシティ』では投球については完全にオートエイムだ。投げボタンを押すだけで、画面内のターゲットに向かって自動でボールが飛んでいく。
ボールを投げられた場合の対処も明快だ。ボールが自分に向かって飛んでくると、画面の端が赤くなる演出が入るのだが、そのときにキャッチボタンを押すだけでボールをキャッチできてしまう。
投げもキャッチも簡単となると、1対1で投げ合いになったときはどう決着するの? と思われるかもしれないが、そんなことはない。これほどの簡単操作なのに、複雑な読み合いが生まれるのが『ノックアウトシティ』のすごいところだ。
本作では投げとキャッチのほか、球種(ストレート、ロブ、カーブ)の選択、フェイント、回避(タックル)という3つのアクションがある。
キャッチや回避を行ったあとにはそれなりの隙ができてしまう。そのため、投げる側はその隙を狙って投げたり、受ける側はタイミングを見計らってキャッチしたり回避することを求められる。
また、ボールのスピードは投げるまでのため時間で決まり、球種は投げるときにどのボタンを押すかで決まる。そして「フェイント」はまさしく「投げるフリ」で、投げとほぼ同じモーションが出るがボールを投げない。
見た目は単にボールを投げ合うだけなのだが、実際にプレイするとこれらの3つの要素が絡み合うため、なかなか渋い読みあいになる。
基本的に球はある程度ためないとロクにスピードが出ないのだが、キャッチした球はためレベルがいきなり上がるという仕様があるため、キャッチして即投げ返すだけでも当てられる可能性がある。
そのため、いかにキャッチさせずにボールをうまく相手に当てられるかどうかが重要だ。1vs1ではタイミングがすべてを分けるので、エイムや複雑なコマンドがなくても、思わず手に汗握る緊張感のある戦いが成立しているのだ。
1対1でも読み合いが熱いのにこれが3対3になると戦略性が爆発する
実際の基本ルールは3対3なので上記の要素を含んだ争いが複雑に絡み合う。いくらキャッチが簡単にできるとは言っても、複数の方向から同時にボールが来てしまうと、途端にキャッチは困難になる。
そのため、複数の敵から狙われないようにしつつ、敵を上手く包囲できるような「位置取り」を意識した立ち回りが非常に重要になってくるのだ。
ボールが偶然、自分たちの手元に多く転がったならば、あまり動かずに戦うのもひとつの手段とはなるが、その場合はアルティメットスロー(人間爆弾)による恰好の的になってしまう。いわゆる「芋プレイ」が安全なわけではないのだ。
このように常に位置取りを考えて移動しなくてはならないため、積極的に戦いに参加していくプレイヤーが有利となる仕組みになっていると言えるだろう。
そして、それをさらにサポートするのが「パス」の存在だ。
パスボタンを押すと、同じチームのプレイヤーにボールを渡すことができる。このパスは攻撃に使う投げ以上に優秀な追尾性能をもっていて、大きな遮蔽物や敵の妨害がなければほぼ確実に成功するようになっている。
しかも、パス先の味方がすでにボールを持っている場合は反射されて自分の元に戻ってくるため、投げよりもリスクが小さい。
さらに、パスしたボールはため段階が上がり、速度が速く強いボールになる。そのまま投げるにしてもさらにためるにしても、確実にアドバンテージを取れるのだ。もちろん、前線の味方にボールを補給する役割も担える。
このパスの汎用性とリターンの多さが、単なる投げ合いに収まらない戦略性の深みをもたらしている。時と場合によっては攻撃する手を止めて、パスを回して味方のサポートに回ることが最適の行動になりうるのだ。
子どものころに嫌だった「至近距離でボールを投げられる」のも、このゲームでは熱い近接戦になる
ところで子供のころのドッジボールで何が嫌だったかといえば、「至近距離でボールを投げられる」ことだった。ほとんど回避不能だし、当たると痛い。理不尽な思いを抱えながら外野にとぼとぼ向かった思い出があるのは筆者だけではないはずだ……。
『ノックアウトシティ』でも、至近距離からの投げはとてもキャッチしづらい。だが本作には、それへの対抗手段となる「タックル」というアクションがある。
タックルボタンで突撃すると、敵を吹っ飛ばしつつ、相手のボールを落とさせることができる。タックル中は無敵だが、大きな後隙ができるため使いどころは見極めなければならないだろう。
いっぽう、遠距離からの攻撃は高速のボールを読んでキャッチするか、タックルや移動で回避するかの選択が問われる。
個人的にはキャッチよりも回避の方が簡単だと思うが、ボールを捕獲できるキャッチの方がリターンが大きい。ステージによってフィールドの大きさや遮蔽物の形は異なるため、キャッチを決めるには、対戦ごとに距離間隔をうまくつかむのがカギとなる。
こうした読み合いや位置取り、パス回しや近距離戦といった要素に加え、スペシャルボールの存在がさらに戦いを流動的に変化させる。
例えばスナイパーボールは「最大までためると超高速になる代わりに、中途半端なためで投げるとめちゃくちゃに遅くなる」という特徴を持つ。ある程度距離を置く戦いでは最強の武器になるが、一方でタックルや妨害にめっぽう弱い。
相手を一定時間強制的にボールにしてしまう「ケージボール」は、それだけではダメージが発生しないのでボールにした相手を場外に投げとばしたり、回避できなくなった相手にさらに普通のボールをぶつけたりといった連続プレイによって真価を発揮する。
3回連続で球を投げられる「マルチボール」が出現する試合では相対的に球が増えるため、敵味方入り乱れての投げあいになることが多い。
「ボムボール」はボール自体が敵味方問わず範囲攻撃をする時限爆弾になっていて、常に回避を視野に入れながら扱わなければならない凶悪なボールだ。
1度のラウンドの間に出るスペシャルボールの種類は変わることはないので、ラウンドごとに戦いの雰囲気も大きく変わる。ステージやスペシャルボールの組み合わせによって、その都度戦い方を組み立てていく面白さも味わえるのだ。
アクションが苦手でも楽しめてしまうハードルの低さ
繰り返すようだが筆者はアクションゲームが苦手である。だから本作の戦略性についても大したことは書けない。しかし、この記事で伝えたいのは、『ノックアウトシティ』はアクションやスポーツが苦手な人間でも面白くプレイできるPvPゲームだったということだ。
なぜ楽しめたのか、その理由は「『考えて実行する』ということが比較的容易にできるから」と言えるだろうか。
本文で説明したように、本作にはさまざまな駆け引きの要素が複雑に組み合わさっているが、行動自体は大体ひとつのボタンでできてしまう。シンプルな操作ながらも常にたくさんの選択肢がある状態が常に発生し、「今は何をすべきか」ということを考えて実行することができる。
そして何よりも、相手にボールをぶち当てたときの楽しさが大きい。銃弾よりはるかに大きなボールを当てて相手を吹っ飛ばすのは、ゲームでありながら原始的でわかりやすい、身体的な喜びがある。
こうした点から、本作はかなり本格的戦略的なアクションゲームでありながらも、プレイについては大変ハードルの低い作品となっている。アクションゲームが苦手な方やドッジボールに苦い思い出のある方でも、ぜひ一度触ってみてほしい。