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100年前の「アーケード」ってどんなところ? 「アーケードゲーム」の語源を調べていたら、見世物小屋みたいな妙な自動機械がたくさん出てきた

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日本での「アーケードゲーム」と「ビデオゲーム」の奇妙な関係

 さて、アメリカではこのような歴史を経て「arcade game」が業務用ゲーム機を指すようになったわけだが、では日本では、「アーケードゲーム」という言葉はどのように広まっていったのだろうか
 もちろん日本の業務用ゲーム機・コイン式遊具業界は、アメリカを中心とする海外との機器の輸出入を通じて大きく発展してきただけに、業界内では早くから、「アーケードゲーム」を“業務用ゲーム機”の意味で使ってきた。

 ただその意味合いが、現在辞典類に載っているような内容と完全に同じだったわけではないようだ。たとえば業界紙『ゲームマシン』が創刊した当時、1970年代中盤の紙面を見ると、「アーケードマシン」「アーケードゲーム機」に、メダルゲームやビデオゲームを含むことはまれだった。

 これは当時業界内で、このふたつが新興勢力として大きな注目を集めていたためだろう。そこでレトロニムとまではいかないにせよ、従来型のゲーム機器をまとめる表現として、「アーケードゲーム機」があてられたと説明できる。

 その後日本では、ビデオゲームを業務用・家庭用ともに「テレビ(TV)ゲーム」と呼ぶことが広まった。しかし、セガ、ナムコ、コナミなどが広告やカタログで「ビデオゲーム」の呼び方を継続して使ったこともあってか、1980年代序盤になると、先鋭的なマニアの間では、「ビデオゲーム」が業務用だけを指す意味で使われるようになった
 端的な例が、パソコン雑誌『ログイン』の名物コーナーで、のちに『ファミコン通信』に連載の場を移す「ビデオゲーム通信」だ。

一方で一部のパソコン雑誌などでは、アドベンチャーゲームやRPGを急先鋒として賑わう北米のパソコンゲーム市場の影響を受け、パソコン向けのアクションゲームなどを指して「アーケードゲーム」と呼ぶこともあった【※】

※前回の「コンシューマー」の記事でも注記したが、英語圏では、ペニーアーケード風のものや、ペニーアーケードによくある形式のゲームも広く「arcade」と呼ぶ。

 このような状況が変化し始めたのは、前回の「コンシューマー」の記事でも触れた、日本の業務用ゲーム機業界が、一般消費者市場に目を向け始めたのと同じタイミングだと考えられる。
 1982年には、北米での業務用と家庭用双方の──特に家庭用ビデオゲームの大ブームが、日本でも経済紙などでたびたび報じられた。このような記事の中で、日本での発展が期待される家庭用ゲーム機や低価格パソコンの市場は、カタカナ語で「ホームユース」「ホーム市場」などと表現されることも多かった【※】
 そこでこれらと対比できる、「業務用(のゲーム機)」に相当する外来語として、「アーケード(ゲーム)」が改めて使われるようになったわけだ。

※当時、家電分野の注目株だった家庭用ビデオテープレコーダーも、広く「ホームビデオ」と呼ばれていた。

 ところが、その後ファミコンブームが勃発してもなお、マニアたちを中心に、「ビデオゲーム」を業務用に限定した意味で使う慣習は続いた。おそらく、業務用こそがビデオゲームの最先端だという主張を、暗に込めていたのだろう。
 アーケードマニア御用達の雑誌としてこの連載でもたびたび取り上げている、『ゲーメスト』もそうだった。1986年の創刊当初の時点では、ファミコンなどと対比する文脈で業務用ビデオゲームを呼ぶ際、「ビデオゲーム」「アーケード」「業務用」のどれを使うかは、執筆者によってまちまちという状況。中には、ひとつの記事にこの3種すべてが含まれることもあった。

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『ゲーメスト』創刊号より引用。『パックランド』のアーケード版を指して「ビデオゲーム」と呼んでいる
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同じく『ゲーメスト』創刊号より引用。こちらの記事では「アーケード版」と呼んでいる

 これらプレイヤー向けの雑誌で、業務用だけを指す意図の「ビデオゲーム」がすたれ、「アーケード」が有力になってくるのは、1980年代終盤のことだ。明確なきっかけを特定することは難しいが、以下のような要因が重なって、マニアの間でも、「ビデオゲーム」という言葉の位置づけが改めて整理されたものと考えられる。

 ・『ドラゴンクエストII』『同III』などがもたらしたファミコン用RPGの流行の中で、ファミコンにも業務用のビデオゲームにはない種類の先進性があると認識された。
 ・単に「ゲーム」だけでビデオゲーム全般を指す使い方が、子どもたちの間に限らず広まってきたため(「デジタルゲーム」の回を参照)、「ビデオゲーム」が相対的に冗長な表現になった。
 ・インベーダーブームから10年近くが経過したこと、またレトロブームやリメイクゲームの増加により、コンピューターゲームやビデオゲームの発展を俯瞰的にとらえる機運が高まった(「レトロゲーム」の回を参照)。
 ・X68000、PCエンジン、メガドライブなど、高性能なパソコンや家庭用ゲーム機の登場で、業務用からこれらへの移植作と、その出来栄えの比較が話題になる機会が増えた。

 もっとも『ファミ通』については、記事本文はともかくとして、「ビデオゲーム通信」を「ビデヲゲーム通信」「アーケードウインドーズ3.0」と改名したかと思えば、「ビーム通信」を経て「ビデヲゲーム通信」に戻してしまった。
 また業務用ビデオゲームの人気ランキングは、2000年代に入ってもなお一貫して「ビデオゲームTOP10」の表記だった。これらはもはや、意地のようなものだったのだろう。

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ある意味レア!?な「アーケードウインドーズ3.0」。『ファミコン通信』1993年5月28日号より引用

時代を超えた「アーケード」の原点

 さておき、ここまでの動きは基本的に、ビデオゲームにまつわるメディアの中での話だった。その枠を越えて、業務用ゲーム機を指す「アーケード」が広まったからこそ、「アーケードゲーム」が国語辞典に掲載されるにまで至ったのは言うまでもない。
 そこで読売・朝日の両新聞の記事データベースを確認してみると、この意味での「アーケード」という言葉(商品名等は除く)が最初に出てくるのは、いずれも1994年。当時の次世代家庭用ゲーム機を巡る報道の中でのことだった。

 つまり、先に挙げたPCエンジンやメガドライブが登場したときと同じく、家庭用ゲーム機の世代交代が、改めてそれらと業務用ゲーム機との関係や位置づけを話題たらしめたのだといえる。
 しかもこのときには、任天堂・セガ・NECに松下・ソニーが挑むという構図が、広く社会の関心を呼んでいた。そのため、すでにゲーム雑誌では当たり前になっていた「アーケード」が、大手新聞をはじめとするマスコミでも使われるようになったわけだ。

 冒頭で触れたコントローラーのことも考えあわせれば、日本での業務用ゲーム機を指す意味での「アーケード」は、家庭用ゲーム機のプレイヤーから見た業務用への羨望や、家庭用にも業務用に近いものを求める渇望とともに、認知を広げていった言葉ということになる。その点で、前回取り上げた「コンシューマー」とは、まさにコインの裏表の関係にあったのだと言える。

 しかし1990年代の間にも、ビデオゲームの内容はますます多様化した。加えて2000年代以降の家庭用ゲーム機の性能向上で、業務用ビデオゲーム機との単純な比較も難しくなった。さらに携帯電話・スマートフォンといったモバイルゲームや、オンラインクレーンゲームが台頭するなど、アーケードゲームを取り巻く環境は目まぐるしく変化を続けている

 そんな中で発生した、新型コロナウィルスという災厄。たび重なる外出・店舗営業の自粛要請もあって、各地のゲームセンターが大きな打撃を受け、閉店も相次いで報じられている。“巣ごもり需要”での家庭用ゲーム機などの盛況とは、大きく明暗を分けたと言わなければならない。

 しかし時代や環境が変わっても、一歩足を踏み込めば、賑やかで楽しそうなものがずらりと並んでいる、それが「アーケード」のはずだ。そんな心躍る光景のためにも、まずは一日でも早く、誰もが気軽に、そしてどこへでも外出できる状況が戻ることを願う。

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ライター
コンピューター文化史研究家。2013年より約2年間、ブログにて 「やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史」を連載。その際、1999年末まで約20年分の日経産業新聞縮刷版にヘトヘトになりながら目を通した。
Twitter:@Kenzoo6601

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