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笑って、泣いて、鳥肌総立ち。プレイ後は完全に放心状態に…。傑作ADV「EVE ghost enemies」を、一人でも多くの人に伝えたいと思った話

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 笑った。

 泣いた。

 そして、何度も鳥肌が立った。

 結論から言おうーー。

 「EVE ghost enemies」は、アドベンチャーゲーム史上に残る大傑作と言っても過言ではない作品だった。

 巧妙に組まれた伏線。物語に込められたメッセージに何度も心を揺さぶられ、本作をクリアした現時点(2022年7月9日 22時14分)で、いまは文字通り“完全に放心状態”となっているほどだ。
 ゲームでこんな気持ちにさせられたのは、5年ぶりーーいや、もしかしたら10年ぶり以上かもしれない。

 そして、「このゲームを一人でも多くの人に伝えたい」という、すべてはその一心で、いま筆を取っている。

 少なくとも、「アドベンチャーゲームが好きだ」と自認する人には、絶対に絶対に本作を遊んでみてほしいと思っている。筆者もこれまで、数々の名作アドベンチャーゲームをプレイしてきたが、本作の面白さ/感動は、それらと匹敵……あるいはそれ以上のものがあるからだ。

 本稿では、そんな「EVE ghost enemies」について思ったことを、ネタバレを含まない形で書き綴ってみたいと思う。
 シナリオに指1本でも触れようものなら、全てがネタバレにつながってしまうため、物語に対する言及は、もちろんしない。
 
 この記事は、あくまでも「EVE ghost enemies」をプレイし終わった結果、1人でも多くの方にプレイして欲しいと願う、一人のゲーマーの感想文と捉えてほしい。

文/川野優希
編集/TAITAI


EVEシリーズとは何か

 「EVE ghost enemies」を語る前に、まずはシリーズの源流である「EVE burst error」(1995年発売)について触れる必要があるだろう。

 EVE burst errorの凄さーーもとい”ヤバさ”は、漫画家・小林有吾​​氏の以下の漫画を読んで頂ければ、一目瞭然であろう。

 詳細は上記のリンクにある漫画にお目通しいただきたいが、少し紹介すると、小林有吾さんが、学生時代に「EVE burst error」と出会い、それがどれだけ衝撃的で、いまの自身の作家活動の糧になっているのかが綴られている。

 「EVE burst error」とは、それほどまでの傑作であり、実際、アドベンチャーゲームの歴史に燦然と輝く、マスターピース的なタイトルである。

 本作の主人公は、あまぎ探偵事務所の所長である天城小次郎(CV.子安武人氏)と、内閣調査室に所属する捜査官・法条まりな(CV.三石琴乃氏)の2人。それぞれの視点から物語を追い、事件を解決に導いていく。

 ゲームスタート時点から、二人の視点を自由に行き来することができる「マルチサイトシステム」が大きな特徴。全然別の事件を追っていたはずの二人が、時に交わるストーリー展開が「EVEシリーズ」の魅力であり、また醍醐味となっている。
 この”二つの視点”を巧みに利用した物語が、小説でも映画でもない、ゲームならではの面白さ、ストーリー表現に繋がっているのだ。

『EVE ghost enemies』スクリーンショット1
(画像はニンテンドーeショップ『EVE burst error R』販売ページより)

 シナリオを手掛けたのは、鬼才・菅野ひろゆき(剣乃ゆきひろ)氏。

 ウィットに富んだ笑える展開から、グググッと引き込まれるストーリー展開。思いも寄らないドンデン返し。ーーと、「EVE burst error」をプレイしていない方もいると思うので、詳細は控えるが、とにかく、今でも色褪せない名作シリーズ。ネタバレなしで一度遊んで欲しいゲーム。それが、「EVEシリーズ」である。

 2022年6月30日に発売された「EVE ghost enemies」は、そんな名作シリーズの最新作。ファンの期待を、そして偉大な過去作を背負った作品なのである。

『EVE ghost enemies』
(画像はニンテンドーeショップ『EVE ghost enemies』販売ページより)

伝説の原典、過去の名作を超える難しさ

 歴史のあるシリーズタイトル。ブランドの強さは作品の魅力に直結する。

 僕のように、元々「EVEシリーズ」のファンであれば、なおのことだ。令和4年に新作が出るというだけで、小躍りして即購入する。
 まるで、パブロフの犬。条件反射的に購入し、”かつての感動”を求めて、時間の限りプレイする。「EVEシリーズ」は、それだけ強烈な体験を、ファンに植え付けた作品だとも言える。

『EVE ghost enemies』スクリーンショット2
(画像はニンテンドーeショップ『EVE burst error R』販売ページより)

 一方で、それは大いなる”呪縛”でもある。
 
 とくに原典が名作であればあるほど、「その名作と比較されてしまう」ということを、後発の続編タイトルは運命付けられているからだ。

 そして、どんなに素晴らしい作品を作ったとしても、過去の名作を超えることは非常に難しい。

 なぜなら、「思い出が最強」だから

 あの頃に感じた高揚感やプレイ後に残った感覚は、時間が経てば経つほど、記憶に色濃くこびりつく。そして、自分の中のハードルとなっていくのだ。

 1995年に発売された「EVE burst error」以降も、シリーズとしてはこれだけのタイトルが発売されている。

・EVE burst error
・EVE The Lost One
・ADAM THE DOUBLE FACTOR
・EVE The Fatal Attraction
・EVE ZERO
・EVE new generation
・EVE rebirth terror

※シリーズの序章である悦楽の学園は1994年に発売

 それぞれの作品にそれぞれの良さがあるが、原典である「EVE burst error」を超えたという評価は、あまり耳にしたことがない。やはり「EVEシリーズ」は、「EVE burst error」が一番であるーーそういうことになってしまっているわけだ。

 この、前作を超える難しさは、ストーリーが中心となるアドベンチャーゲームでは、とくに顕著だとも感じている。他のジャンルのゲームであれば、グラフィックスやシステムが進化することで、お客さんは一定の進歩を感じてくれるからだ。

 しかし、物語体験を主としたアドベンチャーゲームでは、そうはいかない。

 名作アドベンチャーゲームの続編を担うクリエイターたちが、そうした過去の名作の背中、影を必死に追い、そして抗おうとしてきたことは、想像に難くないだろう。

 数多くのシナリオライターがEVEというブランドに挑み、それぞれの味を出し、シリーズは紡がれてきた。ただ、その度に、「EVE burst error」という壁もまた、どんどんと高さを増していったように思えてならない。

『EVE ghost enemies』スクリーンショット3
(画像はニンテンドーeショップ『EVE burst error R』販売ページより)

 思い出は色褪せない。鮮明さは失われても、あの頃よりももっと綺麗に大切な思い出として刻まれていく。

 そんな「美しい絵画のような記憶」に対して、「EVE ghost enemies」は肉薄するほどの作品となっていた。

 いや、僕の中では、「EVE burst error」に並び、超えたと言っても過言ではない。それほどまでに素晴らしい作品だった。

「名作超え」に向けて。2人の作家の人生が交わった瞬間

 20年以上の歴史を持つアドベンチャーゲームのシリーズで、1作目の印象を超えたタイトルというのはこれまでにプレイした経験がない。まず、この時点で考えられないほどに凄いことだと思う。

 「マルチサイトシステム」をこれでもかと駆使した物語の演出。プレイ中にも関わらず、気持ちを落ち着かせるため思わずコントローラを離してしまうような超展開。

 「EVE ghost enemies」はシナリオと演出、役者の芝居が上手く混じり合い、圧倒的な完成度を誇っていた
  
  まるではじめて「EVE burst error」をプレイした時のような感覚がそこにあった。いや、「思い出」の補正がないことを差し引くと、本当にとんでもない作品を世に出したものだと素直に頭が下がる気持ちでいっぱいだ。

『EVE ghost enemies』スクリーンショット1
(画像はニンテンドーeショップ『EVE ghost enemies』販売ページより)

 特に印象深いのは、シナリオライター・さかき傘氏が作品に込めた想いだ。

  そもそも「EVE burst error」が支持を得たのは、その物語に秘められたメッセージ性にある。

「人はどう生きるべきなのか?」「人は何をもって人だと言えるのか」「人は人とどう向き合っていけばいいのか」そうした答えの無い問いやハッピーエンドだけではない、悲劇性が作品に込められていた。

 今回の「EVE ghost enemies」は改めてそのメッセージを投げかけてきた。この難題に向き合い、プレイヤーに問いかけてくる。とんでもないシナリオだった。

 ここまでの大作が完成するまで道のりは並大抵のものではなかったことは容易に想像できる。

 事実、前述した小林有吾氏のブログの後半に、さかき傘氏の葛藤が描かれていた。

 心が折れるほどに迷い、シナリオの締め切りを伸ばす直前のタイミングまで追い詰められていた。「EVEシリーズ」というブランドを引き継ぎ、完成度の高いシナリオを描くプレッシャー。想像を絶するような苦労があったと思う。

 そんな時、小林有吾氏から届いたのが一通のメールだった。そこには、熱のこもったメールを読んで、一気に力が湧き出たという。

 ひょっとすると、小林有吾さんからの連絡がなければ「EVE ghost enemies」のストーリーが少し違うものになっていたり、発売日が延期していたかもしれない。

 「EVE burst error」に触れた2人がそれぞれの人生を送り、ある日突然交わった。まるで天城小次郎と法条まりなのように。

 名作のDNAを引き継ぎ、並び立ち、(少なくとも僕の中では)超えた作品が生まれた物語にあった出逢い。これこそ人生であり、あまりにもEVEらしいエピソードだったとも思う。

アドベンチャーゲームを現代で伝える難しさと歯痒さ

 ここで告白するが、実は筆者は、電ファミのライターではない。編集者でもない。
 元ゲーム会社の広報マンとして働き、とある縁で、電ファミニコゲーマーには営業として参加してる。だけど、いてもたってもいられなくて、この記事を書いている。

 そんな筆者の視点から見ても、アドベンチャーゲームの魅力を伝えることは、本当に難しいと感じる。

 例えば、ゲーム実況。このジャンルが現在のゲーム宣伝においては主流となっている。
 インフルエンサーのプレイをキッカケに作品を知ることも決して珍しいことではなくなった。彼ら、彼女らを媒介にゲームの認知度を向上させる。
 これは、過去にゲームを宣伝する側にいた僕も、その重要さを痛感している。

 だけれども、「EVEシリーズ」のようなアドベンチャーゲーム、ビジュアルノベルは取り分け、ゲーム実況映えしにくい。
 プレイヤーの腕による成功と失敗が存在しないため、そこには“プレイヤーによる攻略”の楽しさという余白がないからだ。

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(画像はニンテンドーeショップ『EVE ghost enemies』販売ページより)

 また、物語が全てと言っても過言ではないため、ネタバレへの配慮が必要となる。

 そのため、ゲーム実況による興味喚起を促せない。ここは現代で発売されるゲーム作品において、弱点とも言えるところだろう。僕もそうだ。この記事をここまで書いてきて、「EVE ghost enemies」のあらすじすら書いていない。
 
 そして、アドベンチャーゲームは、オンラインで一緒にプレイしようと誘うこともできない。

 プレイした側はこれからプレイする人間には、ただただ「面白かった」としか伝えられないのだ。

 「あのシーンがすごかった!」と具体的に書いて何の問題もないのであれば、いくらでも書けるのに、何一つ書くことができない。そのたった少しの配慮のなさが「ここのことね…」とプレイ中の楽しみを奪ってしまう。

 歯痒い

 アドベンチャーゲームの魅力を伝えるというのは、なんと難しいのか。自分が本作の宣伝担当だったら、いったいどうやってプロモーションしただろう? そんなことを思わず考えてしまうほどだ。

『EVE ghost enemies』スクリーンショット3
(画像はニンテンドーeショップ『EVE ghost enemies』販売ページより)

結局、面白い!と大声で言うしかない

 とはいえ、最近、よく思うこともある。

 それは、結局、面白いゲームを見つけたとき、きちんと「面白い!」と、大声で言うしかないということだ。
 そして、身近な人からの強い推薦は、どんなSNSの書き込みやレビュー、実況プレイをも凌駕する力を持っているということだ。

 もしも、あなたが「EVE ghost enemies」をクリアし、感情を大きく揺さぶられたのであれば、身近な方に紹介してみて欲しいのだ。

「最高のゲームだから、一度プレイしてみて欲しい」

 この言葉をキッカケに「EVE ghost enemies」をプレイする方が増え、これまでのシリーズに触れる方が出てくるかもしれない。

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(画像はニンテンドーeショップ『EVE ghost enemies』販売ページより)

 シリーズ作品が続くために必要なのは、「売れる」こと以外にない。

 僕は、まだまだ「EVEシリーズ」の世界を楽しみたい。まさか2022年になって、再び天城小次郎や法条まりな、桂木弥生、氷室恭子たち(本部長もお忘れなく)にまた会えると思わなかった。

 そして、また次の「EVEシリーズ」をプレイしたい。そのために僕ができることは、1人でも多くの方に作品の魅力を届けることだけなのだ。

 改めてになるが、「EVEシリーズ」をプレイしているファンで、まだ「EVE ghost enemies」をプレイしていない方に向ける言葉があるならば、本作は『EVE burst error』に匹敵する名作。僕の中ではそれ以上だった

 ということ。つまりは、「買え」ということだ。絶対、損はさせないから

前作をプレイせずとも「確実」に楽しめる一作である

 最後に。

 「EVE ghost enemies」はシリーズ作品だから、他の作品を未プレイだと楽しめないのか?という心配をされてる方がいるかもしれない。
 だが、そんな方にハッキリと断言する。

 「EVE ghost enemies」は、過去作をプレイしてなくても全く問題ない

 むしろ、この作品が「EVEシリーズ」初体験になるというのは素晴らしいことだと思うくらいだ。ここを足がかりに面白ければ過去作にも触れてみる。それくらいのスタンスでプレイしてみて欲しい。

 EVEがなぜ20年以上も続くシリーズとなったのか。その理由を、現代から紐解いていくのもいい旅路になると思う。

 高すぎるハードルと向き合い、最高の作品を作ってくれたクリエイター、スタッフ、作品を彩った役者陣に心を込めて「ありがとうございました」と心からの感謝を。

EVE ghost enemies」は本当に心に残る名作だった。

ライター
宣伝・編集・執筆...色んな仕事をしています、川野優希です。
Twitter:@ougaan21

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