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ブラジル産2Dソウルライク『No Place for Bravery』は万人におすすめできる「ソウルライク」かもしれない。シンプル・イズ・ベストを体現する逸品

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 今、中南米のゲーム産業がアツい。

 昨今、中南米産ゲームを日本で目にする機会が非常に多いと感じる。『VA-11 Hall-A』『Necrosphere』など、有名インディータイトルをはじめ多くのゲームが今も中南米スタジオから生まれ続けており、8月に開催された「CEDEC2022」では中南米のゲーム市場を解説する講演も行われた。

 筆者も今年5月にはブラジル産ソウルライクの『Dolmen』をレビューしており、これからも中南米のゲームを遊ぶ機会はぐっと増えていきそうだ。

 今回はそんなアツい中南米ゲーム市場から新たに生まれた作品を紹介しよう。ブラジルに拠点を置く「Glitch Factory」が制作した『No Place for Bravery』だ。

『No Place for Bravery』タイトル画面

文/植田亮平


ピクセルアート×ソウルライク

 本作はトップダウン(見下ろし視点)の2DアクションRPGだ。プレイヤーは主人公である「ソーン」となり、様々なキャラクターと関わりながら広大な世界で生きてゆくこととなる。本作は『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』『モンスターハンター:ワールド』など多くのゲームからインスピレーションを受けているが、影響を受けていることがもっともわかりやすいのは、やはり『DARK SOULS』などのフロム・ソフトウェア作品だろう。

 本作のグラフィックは美麗なピクセルアートで構成されているが、ファンタジーを主体にしつつ随所に挟まれるゴア表現は、本作がスリリングな高難度アクションRPGであることも合わせて、まさに「2Dトップダウンのソウルライク」として完成されている。

『No Place for Bravery』不気味なビジュアル
恐ろしくも美しいビジュアルがプレイヤーを魅了する。

 美しいアートはほとんどが手描きのものであり、各種動植物やアニメーションは息をのむような質感を備えている。ピクセルアートと侮ってはいけない。ゲーム開発において、多くのインディータイトルがピクセルアートで表現する手法を選ぶが、本作がピクセルアートである理由は、間違いなく芸術的な理念のもとにある。光と影の調和や戦闘時のアニメーション演出など、ゲームプレイの中から多くの「こだわり」を感じることができるだろう。

 また、物語を彩る音楽も高品質なものに仕上がっている。ゆったりとしたストリングスの音色から緊迫感あふれる重低音まで、素晴らしいクオリティの楽曲が用意されている。ストーリー上で挿入される様々な音楽は、聴いたものを物語へさらに没入させ、アートスタイルとも高いレベルで調和している。

作りこまれた物語

 本作の物語は主人公である「ソーン」の物語でもあるが、彼は引退した軍人としての顔と、失踪した娘を探す父としての顔の二つを持っている。
 このソーンは非常に魅力的な人物で、彼ははときにハードボイルドな一面をのぞかせたかと思えば、次の瞬間には父親の役割や運命といった重い選択に悩まされる一人の人間としての弱さを見せつけてくる。

 そしてそれらの葛藤を、プレイヤーは「選択」というプレイを通して実際に体験することができる。そう、本作のストーリーはプレイヤーの選択に応じて変化していくのだ。それはキャラクター同士の会話のみならず、時には戦闘中にとった行動でさえ、ストーリーに何らかの影響を及ぼすことがある

『No Place for Bravery』選択を迫られるシーン
生かすも殺すもプレイヤーの選択次第。

 多くのテーマを抱えている本作だが、作中で示されるメッセージは開発者の個人的な人生経験に基づいたものだそうだ。ゲーマーとして、日本の伝統的なRPG観の中に「ストーリーを重視する」ことが挙げられると思うが、『No Place for Bravery』はRPGとしてのゲーム性だけでなく、ストーリーの面白さで見ても優れたものだといえるだろう。

 それは主人公である「ソーン」が見せる人間味であったり、世界観の用語解説に見られる説話であったりとさまざまだ。何はともあれ、本作が非常に深みのある世界観とストーリーを持っていることは間違いない。

『No Place for Bravery』アイテム説明文
アイテムひとつひとつに小話が用意されており、これを読むだけでも面白い。

「ソウルライク」だがシンプルな操作

 ここからは個人的に最も優れていると思った部分、ゲーム性について紹介しよう。
一般的に「ソウルライク」と聞くと、高難度のやりごたえあるアクションRPGを想像するのではあるまいか。「激ムズ」はソウルライクの醍醐味でもあるし、本作の売り文句にもソウルライクとしてはお決まりの言葉である「判断を間違えれば命とりになる」「シビアな戦闘」などと書かれている。

 しかし、本作を遊んでいて感じたのは、意外にも「難しさ」ではなく「爽快さ」であった。システム自体はソウルシリーズのシステムに近く、パリィやスタンスゲージ(敵の態勢を崩すことができるゲージ)など一見複雑なシステムが用意されているのだが、なぜかソウルシリーズよりも遊びやすく、敷居が低いと感じた。

『No Place for Bravery』ユーザーインターフェース
UIはシンプルな作りになっている。

 私が考えるに、その理由は本作の戦闘メカニクスのとてつもないシンプルさにあるのではないかと思う。

 例えば、本作の戦闘に関する基本的な操作は基本的にパッド表面の4つのボタンにまとまっている。Xboxコントローラーで見た場合のABXYボタンで攻撃、回避、防御、インタラクションの全てが行えるというわけだ。
 これは地味なことに見えてかなり重要なことなのではないかと思う。トップダウンの視点なのでカメラ操作がないこともあいまって、プレイヤーの直感的な遊びやすさで言えばまるでSFCタイトルのようなシンプルさを醸し出している。

 複雑な操作体系はそれだけでプレイヤーの意欲を削ぐものになりやすい。もちろん後ほど紹介するスキルやアイテムの使用にはパッドのトリガーボタンを使う必要があるが、新たな要素を獲得した際であっても、それが基本の動きであればやはりABXYボタンの長押しという形で解決されている。
 このゲームデザインは、比較的短いプレイ時間となりプレイヤーに複雑な操作を課したくないインディーゲーム故の特徴ともいえるが、「ソウルライク」としては珍しいのではないだろうか。

『No Place for Bravery』戦闘画面
シンプル・イズ・ベストを体現している。

 確かに、狭い足場での戦闘や多くの敵に囲まれた際の戦闘は非常にスリリングなもので、まさしく「死にゲー」としての魅力を感じた。しかし、ボス戦や一対一での戦闘はどちらかというとカジュアルなものにまとまっていたのではないかと思う。
 また、「死んだら全ロスト」という「ソウルライク」のお約束が排されているというのも大きい。操作のシンプルさやリトライの親切さは、プレイフィールとしては「ソウルライク」というよりも『Celeste』のような2Dプラットフォーマー的感覚だった。

 ちなみに、これらは全て難易度ノーマルで遊んでみた感想だ。難易度を上げればよりバトルは繊細でひりつくものになるであろうことが予想できるので、ソウルライクに「難しさ」を求めるゲーマーは難易度を最初からMAXにして遊ぶことを推奨する。
 また、バトルの難易度を下げてストーリーを楽しむことに焦点を当てた「ストーリーモード」なる難易度も存在するので、ゲームの上手い下手に関わらず幅広いゲーマーが遊ぶことができるだろう。

『No Place for Bravery』難易度調節機能
難易度は個別にカスタムすることも可能だ。

スキルを獲得して多くの敵をぶった斬る

 本作にも探索要素は存在するが、それは広大な世界を隅々まで探索するというよりも、どちらかというと「冒険の途中の寄り道」という側面が強い。寄り道で得られるものはお金や世界観を示す物語などだが、もっとも多いのは個性豊かな「スキル」たちだ。

 道中で手にしたスキルアイテムとお金があれば、チェックポイントに存在する篝火からプレイヤーはスキルを購入することが可能だ。これらは消費したり付け替えたりするものではなく恒久的にプレイヤーのアクションとして追加され、ボタン長押しやLRボタンによって繰り出すことができるものから、パッシブスキルとして身につくものまで幅広く用意されている。このあたりのシステムは「メトロイドヴァニア」「ゼルダライク」のように、探索すればするほどできることが増えていくという面白いシステムになっている。

『No Place for Bravery』スキル

 戦闘に関して言えば、敵によって異なるフィニッシュモーションも一つの魅力だ。もともとグロテスクな表現が特徴的な「ソウルライク」だが、『No Place for Bravery』でも同様に、血にまみれた爽快な演出を見ることができる。ある程度ダメージを与えた敵に豪快なフィニッシュモーションを食らわせることができれば、倒された敵からは回復アイテムやお金がドロップする。

 画面がズームされ短いフレームで敵をぶった斬る演出は、爽快であると同時にゲームシステムともうまくかみ合っており、プレイ中積極的に狙いに行きたくなるよう調整されている。また、雑魚敵やボス敵に関わらず敵ごとにフィニッシュモーションが存在するので、それらをコレクターのように確認していくのも面白いだろう。

『No Place for Bravery』フィニッシュモーション
敵の大きな剣を奪い体を真っ二つに。とても気持ちいい。

 ありがたいことに、ブラジル発「ソウルライク」をレビューする機会に再び巡り合うことができたわけだが、それにしても、「ソウルライク」とはなんとバラエティーに富んだジャンルかとつくづく実感する。前回レビューした『Dolmen』が3DのSFソウルライクであったのに対し、今回の『No Place for Bravery』は2Dピクセルアートのトップダウンだ。同じソウルライクでもここまで違うのかと驚かされる。

 そのなかでも、『No Place for Bravery』のシンプルな操作システムや美しいグラフィックは、「ソウルライク」という言葉のもつイメージを大きく変える魅力をもっている。「ソウルライクはなんだか難しそう」というイメージを持っていたり、海外インディ作品を遊んだことのないゲーマーにもお勧めできる一作だ。

 本作は、中南米産ゲームへの入口になりうると同時に、全てのゲーマーにとって「ソウルライク」への取っ掛かりを作るゲームになるだろう。

ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。

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