いま読まれている記事

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡

article-thumbnail-221122a

 『ゴッド・オブ・ウォー』は世界的に絶大な人気を誇るアクションアドベンチャーゲームである。
 しかし、こと日本では、次のような印象を持つ人も少なくないかもしれない。

 ものすごく”近寄りがたい”アクションアドベンチャーゲームである、というものだ。

 なぜ”近寄りがたい”か?
 それは『ゴッド・オブ・ウォー』の象徴的な要素に目を向けると分かりやすい。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_001

 スキンヘッド半裸の格好赤い入れ墨殺意に満ちた目つき
 そして(設定上では)身長2m以上というインパクト絶大な特徴を兼ね備えた主人公「クレイトス」。
 ギリシャ神話を題材とした濃厚かつ血なまぐさい世界観
 そして、その特徴を物語る苛烈な暴力・出血描写

 とりわけクレイトスの容姿、暴力・出血描写は、2005年発売の初代『ゴッド・オブ・ウォー』の頃より、その濃厚かつ熱気をも感じさせる表現も相まって注目を集めやすかった。まさに海外製のゲーム、という先入観も抱きやすいと思われる。

 それらの特徴から「これは自分向けではない……」と感じ、距離を置いた人も少なくないだろう。いくら世界的に絶大な人気があり、遊んだ人からの評判がすこぶるよくても、第一印象が強烈すぎて”近寄りがたい”。

 もしかすると、今もその印象を持つ人はいるかもしれない。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_002

 だが、2018年以降の『ゴッド・オブ・ウォー』は、過去にも増して”近寄りがたさ”が緩和されている。そうは言っても、CEROレーティングがZ(18歳以上のみ対象)ではないか、とのご指摘はごもっともである。暴力・出血描写は相も変わらず鮮烈だ。しかし、今の『ゴッド・オブ・ウォー』は、それが話題の中心とはなり難くなっている。

 今の中心にあるのは主人公のクレイトス、その息子アトレウスの親子のドラマだ。

 シリーズ最新作『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』(以下、ラグナロク)の発売が記憶に新しいこの頃。気付けば初代『ゴッド・オブ・ウォー』の発売から17年以上が経ち、続編『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲』の発売からはちょうど15年だ。

 このタイミングを機に、改めて『ゴッド・オブ・ウォー』というアクションアドベンチャーゲームが辿ってきた軌跡、そして2018年の『ゴッド・オブ・ウォー』で起きた変革とその魅力を本記事にて振り返りたく思う。

文/シェループ

※注:本稿の初代『ゴッド・オブ・ウォー』、続編『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲』のスクリーンショットは、PlayStation Vita版『ゴッド・オブ・ウォー コレクション』のものとなります。


カプコン販売という形で日本に上陸した『ゴッド・オブ・ウォー』

 最初の『ゴッド・オブ・ウォー』が誕生したのは2005年のこと。

 PS2向けゲームソフトとして開発された『ゴッド・オブ・ウォー』は、北米先行の形で3月に発売された。日本ではそれから約8ヶ月後となる11月、カプコンから販売された。『バイオハザード』『モンスターハンター』『ストリートファイター』『逆転裁判』、そして『ロックマン』でお馴染みのあのカプコンである。

 今では、このように紹介すると「えっ!?」という反応が返ってきてしまうのだろうか。

 『ゴッド・オブ・ウォー』は、アメリカ・カリフォルニア州サンタモニカに拠点を置く、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(旧ソニー・コンピュータエンタテインメント、SIE)のゲームソフト開発スタジオ「SIEサンタモニカスタジオ」が制作。俗に言うファーストパーティ製タイトルとして、北米では販売された。

 ところが日本ではカプコンからの販売になった。
 その背景には、当時のPS2向けタイトルにおいて実施されていた暴力・出血描写にまつわる独自規制があったとされ、とりわけ海外製のゲームはその影響を受けやすかった。

 その影響の実例として、残忍な異星人が暴れ回る、とあるブラックなアクションアドベンチャーゲームがある。同作も日本での発売は困難とされ、最終的にはエセ関西弁を口走る火星人が一大騒動を引き起こすという、コメディ全開のアクションアドベンチャーゲームへと変貌したのだ。(誰が火星人やねん!)

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_003

 さすがに『ゴッド・オブ・ウォー』はそうはならなかったが、元々海外向け特有のノリが強く表れた作品。日本では売りにくいと判断されたためか、結果としてカプコンがローカライズをする形で販売された。

 ちなみに一見、無関係に見えるサンタモニカスタジオとカプコンだが、実は意外な繋がりがある。初代『ゴッド・オブ・ウォー』のディレクターを務めた元SIEサンタモニカスタジオのデヴィッド・ジャフィー氏は、国内では1995年にスーパーファミコン、メガドライブ向けに発売されたアクションゲーム『ミッキーマニア』にてデザイナーを務めていた【※1】。そのスーパーファミコン版『ミッキーマニア』の販売を担ったのがカプコンだったのである。【※2】

 それから10年が経った2005年。今度は『ゴッド・オブ・ウォー』にて再び(間接的な形で)カプコンと巡りあった……というのは、偶然とは言え興味深い展開と言えるだろう。

※1:『ミッキーマニア』は当時、ジャフィー氏が在籍していたSony Imagesoftが開発。エンディングクレジットの「DESIGN」のスタッフとして氏の名前が記載されている。
※2:メガドライブ版はセガが販売を担当。

苛烈な暴力・出血描写とは裏腹に、丁寧な作り込みが光った初代『ゴッド・オブ・ウォー』

 そんな『ゴッド・オブ・ウォー』は、ギリシャ神話を題材にした3Dアクションアドベンチャーゲームである。プレイヤーは元スパルタの戦士である主人公クレイトスを操作し、自らを謀った軍神アレスへの復讐を果たすべく、古代ギリシアの世界を旅していくというストーリーを描いている。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_004

 ゲームデザイン面では、特に日本の著名なアクションゲーム(アクションアドベンチャーゲーム)の影響が色濃く表れていた。敵を倒した時に得られる「オーブ」を消費しての武器強化、フィールド内に隠されたアイテムを集めて体力などの最大値を上昇させるといったものがそれに該当する。また、本編の進行は1本道ゆえ攻略し終えたエリアへの再訪はほぼ不可能(一部例外あり)、カメラはフルオート仕様でプレイヤーの移動に合わせて最適な視点に切り替わるという特徴も持っていた。

 そして「CSアタック」(コンテキスト・センシティブ・アタック、Context-Sensitive Attack)である。極端に言えば”トドメの一撃”で、敵に一定のダメージを与えるとコントローラのボタンアイコンが表示され、押すと同時にリアルタイム進行のデモへと移行。その後、画面内で指示されるボタンを押し、全て成功させると致命の一撃を決める……という、いわゆる「QTE( Quick Time Event、クイックタイムイベント)」の要素を持ったシステムを採り入れていた。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_005

 この「CSアタック」は『ゴッド・オブ・ウォー』の暴力性を象徴するシステムで、その無慈悲という言葉ですら生ぬるい描写で国内外を問わず注目を集めた。
 身体を真っ二つにするのは序の口力ずくで頭部をもぎ取る翼を引きちぎって地面に叩きつける口の中にクレイトスの標準装備でもある武器「ブレイズ・オブ・カオス」をねじ込むなどなど。思わず目を背けたくなる攻撃が画面いっぱいに繰り広げられ、よくも悪くもプレイヤーに強烈な印象を残すものとして仕上げられていた。

 「ブレイズ・オブ・カオス」による通常攻撃も、伸縮自在の鎖とヨーヨーのように動く特徴も相まって独特の迫力を表現。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_006

 しかし、その見た目とは裏腹に操作は簡単で、豪快な技を気軽に決められるという取っつきやすさを持っていた。難易度も複数用意され、一番簡単な「EASY」であれば、圧倒的な力でねじ伏せる爽快感抜群のアドレナリン大放出な体験が味わえる。さらに「NORMAL」以上の難易度でもミスを繰り返すと「難易度を下げるか?」と問いかけてくる、絶妙なタイミングにセーブポイントが配置されるなど、プレイ中のストレスを緩和させるための施策も豊富に採り入れられていた

 また、初代『ゴッド・オブ・ウォー』はPS2の円熟期(末期)に発売されたタイトル。そのことから技術面でも目を見張る部分が多く、PS2の秘めたる底力を感じさせる仕上がりにもなっていた。とりわけロード時間の短さ、ゲーム本編からムービーデモへの自然な移行、大型ボスとの戦闘と迫力満点の演出は、その象徴といっても過言ではないだろう。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_007

 それでも初代には終盤エリア「The Path of Hades」における難易度の不安定さ、ローカライズに伴う弊害など、粗削りな部分もあった。暴力性の高さもあってか、海外ほど大きなヒットにはならなかったが、コアなゲームプレイヤーからは好意的な評価を集めていき、後年には廉価版が発売。2年後の2007年には、続編『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲』も発売されるなど、日本における『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズ展開の礎を作るに至った。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_008
▲カプコンは初代『ゴッド・オブ・ウォー』(PS2)、続編『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲』(PS2)、『ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲壮曲』(PlayStation Portable)、『ゴッド・オブ・ウォー コレクション』(PlayStation 3)まで販売およびローカライズを担当した。

”感情的なアクションゲーム”『ゴッド・オブ・ウォー』の進化と激化の果て

 筆者も初代(PS2版)を初めて遊んだ時の衝撃は今なお残っている。同時に『ゴッド・オブ・ウォー』とは、コントローラと映像を通して主人公の感情を余すことなく伝えてくる、”感情的なアクションゲーム”との印象が強い。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_009

 確かに『ゴッド・オブ・ウォー』の暴力・出血描写は苛烈だ。だが、なぜここまで激しいのか?それは主人公クレイトスが抱き続ける”怒り””悲しみ”に由来する。

 軍神アレスに魂を売り、神をも殺すほどの圧倒的な力を得たクレイトス。だが、アレスの策略により、力に溺れたクレイトスは愛する妻子をその手で殺めてしまうという、取り返しのつかない過ちを犯してしまう。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_010

 そんな自らを謀り、運命を狂わせたアレスに復讐を果たすための”怒り”から、クレイトスはその力を容赦なく振るう。おぞましい暴力・出血描写はまさにその産物で、狂気とも言える力とクレイトスが抱く感情をあらゆる要素を駆使してプレイヤーに見せつけ、実感させる。その特徴から『ゴッド・オブ・ウォー』は、まさに”感情的”という表現がこれ以上なく似合うアクションゲームと筆者個人は認識し、その圧倒的な熱量に魅了されるに至った。

 また、主人公クレイトスは家族思いの父親であるという意外な一面が描かれていたのも、一連のアクションを通して得られる体験の印象をより深めていた。とりわけ初代『ゴッド・オブ・ウォー』の最終局面のイベントは、そんな彼の秘めたる魅力が表現されたシリーズきっての名場面であったように思う。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_011

 しかし、元々筆者は暴力・出血描写への免疫がないに等しい。故に遊ぶ前までは、前述の”近寄りがたさ”を強く感じ、購入までには結構な時間を要した。

 最終的にはアクションゲームとしての圧倒的な熱量に魅了され、以降のシリーズも追いかける身となったが、シリーズは続編を重ねるたびにクレイトスの凶暴性が強調されていった。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_012

 敵に限らず、味方ですら関係した時点で死に追いやられてしまうなど、もはや存在そのものが死亡フラグ同然といってもいいぐらいである。

 そのような刺激的な描写が際立つことが、興味のある人への門戸を広くしていたのかと言われれば否だろう。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_013

 特にカプコンからSIEへと販売元が変わったシリーズ第3作『ゴッド・オブ・ウォーIII』は、CEROレーティングがZ(18歳以上の未対象)になったことで、一層、暴力・出血描写が目立ちやすくなった。とうとうCSアタックにおいて、内臓まで飛び散るようになったほどである。

 相応に戦闘シーン、イベントにおいても当時の技術力を駆使し、さながら全身の毛穴でクレイトスの”怒り”を感じろと言わんばかりの体験が味わえるようになった。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_014

 しかし、結果的に”近寄りがたさ”は極まってしまったといってもいいだろう。さらにゲームシステムも初代の時点で完成形に達していて、続編では目立った変化を感じにくかった。それゆえ、続けた末にはマンネリという限界も見えていたわけである。

 実際に2013年発売の『ゴッド・オブ・ウォー:アセンション』にて、その限界は隠しきれなくなり、シリーズは一旦、新作の供給をストップする。

 そして5年後の2018年。
 新たな『ゴッド・オブ・ウォー』が誕生したのである。

”親子愛”を全面に出し、アクションアドベンチャーとしても大きな深みへと達した新生『ゴッド・オブ・ウォー』

 初のPlayStation 4(PS4)向けの完全新作として誕生した『ゴッド・オブ・ウォー』は、ギリシャ神話を題材にした旧シリーズからの著しい変革が実施された。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_015

 とりわけ目立つのは北欧神話を題材にした世界観だ。全体的に血なまぐさく、殺伐としているのに加えて熱気すらも感じさせた旧シリーズから一転。北の大地が舞台であるなりの静けさと澄み切った空気、そして豊かな自然、青い空が印象的な美しいものになった。

 ゲームシステムも大きく変更。戦闘で得られた経験値(XP)で「スキル」を解放したり、武具を装備・強化させるなど、ロールプレイングゲーム(RPG)色が強化された。視点構成もクレイトスを左側に表示し、カメラはその後方に固定させるというTPS(サード・パーソン・シューター)を思わせる独特な趣のあるものに改められている。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_016

 また、クレイトス当人は旧シリーズと同一人物で、『ゴッド・オブ・ウォーIII』のエンディングの後、北方の地へと流れ着き、新たな妻を迎えて人間として暮らしていたという設定である。新たな妻との間にはアトレウスという息子ももうけたが、ある事情から長らく別居していた。新生『ゴッド・オブ・ウォー』の物語は、そんな新たな妻であるフェイを失い、彼女の遺言を叶えるため、アトレウスとともに旅に出るところから幕を開ける。

 この一連の特徴を挙げるだけでも、旧シリーズからの大きな変化を感じられる。それでもCEROレーティングは引き続きZ。暴力・出血描写の苛烈さは継承されている。しかし、本編では旧シリーズほど強調されにくくなり、あくまでもストーリー上必要な演出としての位置づけからはみ出さない調整が施されている。

 それでも敵にトドメを指す際には過激なアクションが描かれるが、そこから醸し出される”近寄りがたさ”というのは大分緩和されている

狂気の戦士から不器用な父親へ。そして、その周りには”仲間”が集う。

 同時に”近寄りがたさ”を著しく改めたのが、クレイトス当人である。

 まさに鬼神という表現が似合うクレイトスは、旧シリーズにおいて復讐のため、敵対する者に対しては容赦なく力を振るった。だが、それによって数多くの悲劇が生まれ、クレイトスとの関係を持った者たちも運命を大いに狂わされた。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_017
▲挑発されても全く動じないクレイトス。

 そうした過去の後悔から、新生『ゴッド・オブ・ウォー』でのクレイトスは争いを極力避けるようになっている。「存在そのものが死亡フラグとも言われたクレイトスが!?」と、この時点で衝撃が大きいが、実際に旧シリーズの怒れる戦士としての一面はほとんど見せなくなった。口数も過去に増して減り、寡黙な父親としての一面が強調されている。

 とは言え、戦闘では新たな武器「リヴァイアサン」を用い、圧倒的かつ容赦ない力を振るう。だが、そこにかつての”怒り”はない。あるのは息子のアトレウスを危険にさらさぬよう”護る”という想い。そして、かつての悲劇を繰り返すまいとする”責任”

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_018

 キャラクターとしての変化と共に、アクションから伝わる感情も著しく変化したのである。アトレウスに対しても、戦闘では怒りで我を忘れるなと説くなど、過去の己を悔やんでいると思しき様子が描かれている。だが、口数が少ないゆえに伝えるのが上手くいかず、アトレウスとは口論になってしまうこともしばしば。

 そんな父と子のドラマが作中では強調されるようになって、ストーリー的にも非常に濃密で見応えのあるものへと改められている。そして、それこそが作中におけるキモであると、焦点が当たるようになったのである。

 こうしたストーリー、キャラクター周りも新生『ゴッド・オブ・ウォー』では大胆な変革が成され、親子のドラマとしても楽しめる作品になった。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_019

 そして、新しい見所が前面に出るようになったことにより、旧シリーズに”近寄りがたさ”を抱いていた人にも受け入れやすい内容になっている。

 また、”近寄りがたさ”を緩和させたもうひとつの要素で”ユーモア”がある。旧シリーズにもその種の要素がなかった訳ではない。ただ、全体としてはブラック寄りのユーモアで、特に船長、ベッドのミニゲームはある種の象徴と言ってもいいかもしれない。

 新生『ゴッド・オブ・ウォー』はキャラクターの掛け合いで、思わずクスリとさせられる正統派なユーモアが増えている。

 中でも筆者個人が、勝手に『ゴッド・オブ・ウォー』のイメージを一変させたと認識している存在が北欧神話の霧の巨人であり、知の賢者「ミーミル」だろう。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_020

 ミーミルは本編中盤からクレイトス親子の旅に同行するようになる。その際、首だけにされるという下りは若干、旧シリーズらしいが(※念のためだが、これ自体は北欧神話でも描かれている原典由来の描写である)、彼自身のお喋りな性格と軽妙な語り口も相まって、参加してからは雰囲気が一気に明るくなる。

 クレイトスが「首」と呼んでやり取りする所にも、シリアスながらどこかコミカルな味わいがあり、旧シリーズでは見られなかった場面に仕上げられている。日本語版のミーミルを演じる俳優兼声優の多田野曜平氏の演技もバッチリで、人によっては一声発するたびにニヤッとしてしまったり、つい「じいちゃん」と呼びたくなってしまったりするだろう。

 他にもクレイトスの武具を整えてくれるドワーフのフルドラ兄弟(ブロック、シンドリ)も、作品に明るさを加えたという点では重要なキャラクターと言える。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_021

 そもそも、クレイトスの旅を支えてくれる仲間がいるというだけでも、旧シリーズを思えば相当変わったと言えるのだが。

 公式サイトには「まったく新しい舞台と新しいゲームシステムの導入により、シリーズファンも、シリーズ未経験層も熱狂できる新世代の「ゴッド・オブ・ウォー」の物語が幕を開ける。」と記されているが、誇張抜きにその一文に偽りはない。暴力・出血描写は健在ながら、それ以上に魅力的なものが新生『ゴッド・オブ・ウォー』にはある。

 アクションアドベンチャーゲームとしても、その魅力は大きく底上げされている。RPG要素の強化、基本は1本道ながらもマップの行き来が自由になって深まった探索性は、まさにそれを物語る特徴だ。

 未だ旧シリーズの”近寄りがたさ”を引きずっている人も、新生『ゴッド・オブ・ウォー』には今までの認識を一変させる魅力がある。一部ストーリー展開、演出の感慨深さは下がってしまうが、旧シリーズを遊んだことがなくても問題なく楽しめる。

 既に4年前の作品ではあるが、その魅力は決して色褪せていない。新作『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』の発売が記憶に新しい中、あえて今、遊んでみるのも一興である。特に旧シリーズに”近寄りがたさ”を抱いた人にこそ、強くお薦めしたい

息子の成長、父親の苦悩を描く新作『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_022

 そんな2018年版の流れを汲む新作が、11月9日より発売中の『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』。前作の直接的な続編で、最終戦争「ラグナロク」が迫りくる中、クレイトスとアトレウスが事態打開の答えを求め、再び「九界」を旅するというストーリーが描かれる。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_023

 ゲームとしての作りは基本的に前作を踏襲している。

 ただ、戦闘では前作にて中盤より使用可能となった旧シリーズにおけるクレイトスの装備「ブレイズ・オブ・カオス」が序盤から解禁。「リヴァイアサン」との併用による豪快な立ち回りが早い段階で楽しめるようになった。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_024

 ちなみにミーミルも序盤から登場。
 お馴染みの軽妙な声で戦闘時に危機を伝えてくれる。

 また、戦闘では敵の攻撃に黄、赤のサークルが表示されるようになり、これらに応じて防御、回避を使い分ける戦術性が強化されている。

 特にタイミングよく防御を決め、敵を怯ませる「パリィ」は前作以上に重要性が増しており、敵を畳みかけて倒すに当たっては積極的に狙っていくことが推奨される。

 ただ、「パリィ」のタイミング自体は緩く、そこまで厳密な操作が要求される訳でもない。シリーズお馴染みの難易度選択機能も健在であり、今回はストーリーだけを楽しみたいプレイヤーに配慮した新たな低難易度、その名も「STORY」も用意されている。難易度はゲーム中の好きなタイミングで変更できるので(※ただし最高難易度の「GOD OF WAR」は前作同様に選択不可)、好みに応じて切り替えながらプレイしてみるのがおすすめだ。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_025

 戦闘では、アトレウスが積極的に参加するようになったのも特筆すべき部分だ。さらに今回はアトレウスを単独操作するパートも設けられている。重量感とそこから由来する力強さに満ちたクレイトスとは一線を画す、スピーディなアクションが楽しめるので、ぜひ体験いただきたいところだ。アトレウスがいかに成長したかを実感させられると同時に、『ゴッド・オブ・ウォー』のアクションゲームとしての新たな可能性も感じさせられるだろう。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_026

 アトレウスの成長に関しては、ストーリーでも色濃く描かれている。

 また、クレイトスも父親としての苦悩が前作以上に強調され、それにまつわるイベントが都度挟まれる。前作もその変貌ぶりがとりわけ旧シリーズの経験者には印象深く残ったかもしれないが、本作もまた、クレイトスの人間味がさらに掘り下げられている

 恐るべき戦士でありつつも、家族には深い愛情を捧ぐクレイトスの素顔に魅了された人ほど、今回のクレイトスには強烈な愛着を抱いてしまうこと請け合いだ。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_027

 ストーリーでは怒涛の展開も多く、それがゲーム本編の止め時の難しさを際立たせている。前述のアトレウスの単独操作もさることながら、ボス戦や突発的なイベントも増え、退屈しにくい構成にまとめられている。

 前作から継承されたパズルに関しては唯一、時間を要しやすいためテンポを殺がれやすいが、今回は怪しい対象にカメラを自動的に向けるサポート機能のほか、アトレウスとミーミルの会話から連なるヒントも充実。解法にも理不尽さはなく、ネタにも前作にはなかった遊び心溢れるものが追加されており、その凝った作り込みには唸らされるだろう。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_028
▲リスの「ラタトスク」(かわいい)

 他に前作よりもさらに充実したオプションの設定項目、幻想的なグラフィックなど見所は満載だ。リスの「ラタトスク」のように、今までの『ゴッド・オブ・ウォー』では考えにくかった可愛いキャラクターが登場するのもインパクト抜群である。

 ストーリーが前作の直接的な続きなことを踏まえ、短時間でそのあらすじを確かめられる機能が備わっているのも配慮が効いている……のだが。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_029

 正直、省かれている部分が割とあるため、この機能だけでは全容を把握するのは難しい。というより、ほとんど無理だ。なので、前作未プレイであれば、先にそちらから遊ぶことが強く推奨される。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_030

 アトレウスの成長、序盤からクレイトスに猛烈な敵意を向けるフレイヤ、トールとオーディンの登場に関しては、前作の経験があるか無いかで印象が著しく変わる。

 システム面でも前作の経験を前提としていると思しき部分が少なからずあるため、先に経験しておけばスムーズに本編を進めていけるだろう。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_031

 幸いにして前作はパッケージ、ダウンロード版共に廉価版が販売中だ。PlayStation Plusのエクストラ以上のプランであれば、ダウンロード版は無料で遊ぶこともできる。

 しかも、若かりしクレイトスの最終章たる『ゴッド・オブ・ウォーIII』のリマスター版も廉価版のほか、エクストラ以上のプランで無料プレイが可能。プレミアムプランなら、HDリマスター版の初代『ゴッド・オブ・ウォー』と続編『ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲』もクラウドストリーミングの形で遊べるようにもなる。

 ただ、今回の『ラグナロク』を楽しむ場合は2018年版の前作だけで十分。クレイトスというキャラクターの変遷も辿りたいのであれば、旧シリーズからがお薦めだ。

 それまでの旧シリーズが売りとしつつも、”近寄りがたさ”を生んでいた殺伐とした雰囲気、血生臭さを緩和させた2018年版こと新生『ゴッド・オブ・ウォー』。

 その流れを汲む『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』もまた、旧シリーズのイメージを一変させる新作に仕上げられている。

「存在そのものが死亡フラグ」だった主人公・クレイトスは“不器用ながらも息子を愛する父親”になった。『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』を通してみるシリーズ変遷の軌跡_032

 前述の繰り返しになるが、新作発売を機に、2018年から生まれ変わった『ゴッド・オブ・ウォー』の世界に足を踏み入れてはいかがだろうか。きっと想像を上回る濃い体験が楽しめるはずである。

 そして、この狂気の戦士にして不器用な父親、クレイトス”さん”という残酷ながらも熱く、愛情深いヒーローの魅力を味わっていただきたい限りだ。

ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ