ある日、電ファミニコゲーマーの編集部さんから「新作ゲームのレビューをしませんか」という連絡がきた。非常にありがたい話である。だが……。
「『タクトオーパス』っていうモバイル向けRPGなんですけど」
「モバイル……。他の方にお願いされたほうがよいかと……」
そう。私はジャンルに限らず、“モバイル向けゲーム”をあまりプレイしない。基本的に“他のプレイヤーを撃つか撃たれるかする”PCゲームしかしていないというのもあるが、それと同時に“モバイル端末でゲームをする機会がない”という理由も大きい。
「家ではPCだし、外にいてもやる機会ないなぁ」というわけである。一応いくつかのタイトルをインストールこそしているが、本当に機会がある時しかプレイせず、日課のログインといったこともしていない。
フリーランスとして受ける依頼のジャンルを制限しないのが私のスタンスだ。といいつつも、やはり「日常的に遊んでいる人が書いた方が面白い記事になるだろう」という考えがあるので、今回は冒頭のようにやんわりとお断りした。だが、どういうワケだか「お願いします!」とゴリゴリに押された結果、「モバイルゲームをあまりやらない人が書く新作モバイルRPGのレビュー」という何とも奇妙な記事が誕生することになった。私自身、「これ本当に大丈夫か?頼む人を間違えてない?いや間違えてるよね!」と考えながら今もキーボードを叩いている。どうか温かい目で見守ってほしい。
プルプルとか言ってる場合じゃねぇ!
改めて紹介をすると『タクトオーパス』こと、正式名称『takt op. 運命は真紅き旋律の街を』は、DeNAとバンダイナムコフィルムワークスが手掛けるモバイルRPGだ。原作を広井王子氏、キャラクターデザインをLAM氏、シリーズ構成・脚本を高羽彩氏、音楽考証を栗田博文氏、背景コンセプトアートをわいっしゅ氏、音楽を坂本英城氏、キーピアニストをまらしぃ氏、そして主題歌『SYMPHONIA』を中島美嘉さんが歌うという「4番バッターを集めました」と言わんばかりの豪華な布陣の本作は、iOS/Android向けに2023年春にリリースが予定されており、今回は事前応募者向けに開催されているクローズドβテスト版(以下、CBT)をプレイしたものになる。そのため、正式なサービス開始時には諸々が変わっている可能性がある点にご留意いただきたい。
ちなみに『運命は真紅き旋律の街を』は、“うんめいはあかきせんりつのまちを”と読むらしい。更にちなむとドイツ語で真紅を表す単語の一つに“Purpur”があり、無理矢理に日本語表記にすると“プルプル”となる。恐らく本作の日常的な呼び方は「タクオパ」とかになるのだろうが、私的には「プルプル」も捨てがたい。みんなでプルプルプルプル言ってたら、なんだかホッコリしませんか。
そんなことはさておいて、ゲームのストーリーは決して愉快でもホッコリするものでもなく、なかなか重苦しいもの。プルプルとか言ってる場合じゃなかった。
時は2067年。地球に降り注いだ黒い隕石「黒夜隕鉄」から「DespairDolls」なる(頭文字を取ってD2、ディーツーと呼ばれる)異形の怪物が発生、人類は危機に瀕していた。D2に対抗するべく結成されたのが「シンフォニカ」、そのシンフォニカの下でD2へ立ち向かうのが、歴史上の様々な楽曲を身に宿した対D2用兵器「ムジカート」である。補足すると「D2は人が奏でる旋律へ寄ってくるため、この世界では音楽という存在が禁忌である」「ムジカートは人間をベースとした兵器である」「ムジカートの力を最大に発揮するには「コンダクター」と呼ばれる指揮者が必要」ということも覚えておいてほしい。
つまるところ、「地球に落ちてきた黒い隕石からヤベー怪物が出てきて、例によってヤベー怪物に通常兵器は効かず、理由(ワケ)あって地球上から音楽はなくなりつつあるが、それに対抗する組織があり、人間ベースの美少女型兵器が怪物相手に戦っている」という認識で大方あっているだろう。ゲーム内の描写によれば、D2は不協和音のようなものを周囲に響かせるらしいので、それを基に考えるなら「耳障りな音をバラまきながら破壊やら殺戮やらを尽くす」という、それはそれはなんとも度し難い怪物である。小学生の頃、ひっかき音を立てて嫌がらせをしてくる極めて愉快なクラスメイトがいたが、「やめろ」と“通常兵器”で応戦してもまったく効果がなかったので、今考えると彼はD2だったのやもしれぬ。「〇〇くん気持ち悪いよ」と言われた瞬間にピタッとやめていたので、恐らく彼女はムジカートだったのだろう。
話を戻し、そんなある日、コンダクターが不在のベルリン・シンフォニカにD2が侵入してしまう。戦いで消耗した結果なのか、それとも前日に生ガキ食べ放題パーティーでも開かれていたのかは神のみぞ知るところだが、
例によって最終防衛ラインへの侵入を許してしまい、これを滅するべく、ムジカートの“運命”は地下深くに眠る、あるコンダクターを呼び起こした。それが主人公であり、プレイヤーの分身ともなる“朝雛タクト”である。
イケメンじゃねぇかァ!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんだその整った髪と顔立ちは!お前絶対20年間も眠ってないだろ!なんだ世界のために戦い続けて致命傷を負ったって!記憶を失っている!?設定モリモリじゃねぇか!見るだけで分かる難しい旋律の上にやたら表情記号とか強弱記号とか書いてある正直吹きたくないけど吹かなきゃいけない楽譜!?(注:筆者は元吹奏楽部。だが楽譜は今も昔も読めない)
まさか主人公がここまでイケメンだとは予想外であった。もしくはフェイスオフ系主人公かとも考えていた。だが、そんな私の考えは浅はかであったと言わざるを得ない。
私はこうした二次元イケメンを見ると、現実とのあまりの差に嘆き、悲しみ、怒り、最悪の場合、過去に完治したストレスによる持病の症状が一時的に再発するなどの状況に見舞われる。今回は部屋の窓を全開にしたまま「ンギィヤァァァ!」と声にならない叫び声をあげてしまったので、たまたま自宅のインターホンを押す直前だった宅配のお兄さんに心配されてしまった。タクト、お前のせいで現実の人間が一人、社会的な意味でD2になろうとしているよ。いやもう半分D2みたいなもんだからいいんだけど。
こうして、「主人公が映ると目を細めて視界を減らす」という奇妙なプレイをしつつ、ストーリーは進んでいった。自らを兵器と称するムジカートと、記憶を失った主人公が織りなす展開は、ぜひ自分の目で確かめてもらえればと思う。個人的に予想を裏切られたのは「ワルキューレときらきら星変奏曲の関係性」である。必見。
溢れる美に思わずリアルの心が洗われる
本作はなんでもかんでも美しい。タイトル画面からキャラクターまで、プレイ中はとにかく画面からの“美”を浴びる。その美しさは、筆者が5分前に食べ終えた机の上のフィナンシェの袋をゴミ箱へ捨てに行かせて、ついでに家の掃除も始めさせるほど。やはりゲームでも現実でも美しいことは大事なのだ。美は細部に宿るとはよく言ったものである。
そんなゲームの中で、やはり欠かすことの出来ない存在が個性豊かなムジカート達。クラシックの名曲を身に宿し、その名を冠する対D2兵器だが、序盤に出会うことになるムジカートを紹介しよう。
まずは「運命」。本作の顔ともいえる存在で、ゲームキャラクターとしての役割は正統派アタッカー(DPS)だ。とにかく攻撃に特化したスキルと能力の持ち主で、敵の殲滅に欠かせない。冷静沈着で大人びた性格をしているが、時折ドジる。「やられる前にやれ。すべてを破壊しろ。パワーこそすべてを解決する」という信条の筆者的には最もお気に入りのムジカート。パッシブで「攻撃を一定回数受けるとカウンター攻撃を行う」スキルを持っている。かわいい。
木星。ゲームキャラクターとしての役割はディフェンダー(タンク)で、主に後衛2名の守護を担う。性格的には「腕っぷしが強くて気前のいい近所の姉ちゃん」。明朗快活、さっぱりしていて、後腐れがなく、なんとも見ていて気分がいいムジカート。一緒に居酒屋に行って一番楽しいタイプ。酔いつぶれてもタクシーに乗せてくれそうなムジカート選手権1位。
きらきら星変奏曲。一人称は「きぃちゃん」。ゲームキャラクターとしての役割は純粋なヒーラーだ。見た目通り?の活発な性格だが、本が好きで難しい本も読んだりするらしい。君のヒールだけが頼りだ。ヒールを回してくれ。そう、敵の攻撃を一切受けずに殲滅しきるのは不可能なので(だったので)、ヒーラーは超重要な存在なのだ。
カルメン。木星が「姉ちゃん」ならカルメンは「お姉さん」。ゲームキャラクターとしての役割はブラスター。運命のように正面から切り込むタイプではなく、全体攻撃や敵の順番を入れ替える特殊なスキルを駆使する。戦術面で欠かせない存在であり、筆者の脳筋に「それじゃ永遠にクリアできないよ」と気づかせてくれる、頼れるお姉さんである。
ワルキューレ。運命とは別のベクトルで真面目で頑固で意志が強い。過去に主人公との間で一悶着あったらしく、露骨に嫌悪感を示してくる。主人公は20年間眠っていたので、ワルキューレも少なくとも20年前から存在しているということになるだろう。残念ながら筆者は読譜の間(ガチャ)に敗北し、入手できなかった。
そんなムジカートたちが活躍するバトルは、シンプルながらもエッセンスが加わったコマンド選択式のターン制バトル。最大4ムジカートでのパーティーを編成し、D2との戦いに挑む。重要となるのはポジションで、たとえば
運命・木星・カルメン・きらきら星変奏曲
のように並んでいれば、運命が最前列、きらきら星変奏曲が最後尾になるわけだ。これは敵からの狙われやすさや、各ムジカートが持つ固有スキルに直結してくる。スキルごとに発動できるポジションが決まっていたりと、戦術面での基本となるポイントなので覚えておこう。敵もポジションを組んで複数出現するが、どの敵も自由に選んで攻撃できるというわけではなく、スキルによって攻撃できる敵ポジションは決められている。そのため「全体攻撃を仕掛けてくる厄介な敵を、メインアタッカーが攻撃可能なポジションへ移行させる」といった戦略が必要となるのだ。これを行えるのが先に紹介したカルメンで、具体的には「カルメンが移動させた敵を運命が叩く」といった展開になる。
行動にはスキルのほかに通常攻撃もあるが、基本的にはスキルを回していったほうがいい。というのもスキルに回数制限などはなく、このスキルを使うことによって、各スキルのカラーに対応した「エフェクトコード」なるゲージがたまり、「ミュージカルエフェクト」なる必殺技が使えるようになるため。デフォルメされたキャラが飛び跳ねたりと特殊な演出が入り、流れる楽曲もムジカートの名前に冠される楽曲へと変化する。ムジカートによって発動条件や効果も異なるが、やはり運命で敵を撃滅するのが気分が良い。
育成要素については今回は割愛しよう。なぜなら詳細にこれを解説すると、育成だけで記事が1本出来上がってしまうからである。いくつかポイントを紹介すると
・レベルアップには育成素材を投入するのが手っ取り早い(素材は気づくと手に入っている)。レベル上限はコンダクターレベル(プレイヤーレベル)に依存する。
・「ランク」はミュージカルエフェクトの強化。キャラクターごとの覚醒材料を消費する。
・「スコア」はスキルツリーのようなもの。ステータスを上昇させるほか、固有スキルのアンロックにも必要になる。レベルとは異なる素材を消費する。
・「音源楽装」は装備アイテム。装備することでムジカートのステータスが上がる。
といった感じである。序盤はひとまずレベルを上げつつ、スコアのアンロックを目指していくのが良さそう。
我が欲すものは勝利の二文字のみ。いざ、尋常に──ババ抜き
さて、プレイヤーの拠点(ロビー画面)となるベルリン・シンフォニカの内部では、ムジカートとのコミュニケーションなどが行える。
その中で用意されているミニゲームが「ムータカード」。早い話がババ抜きである。たかがババ抜き、されどババ抜き。運によっては本当に延々と勝てないので、“勝利”の字にしか興味がない人間にとっては地獄の関門となる。
正直に言うが、ストーリーや育成そっちのけで、ひたすらムータカードをプレイしていたことをここに告白しよう。笑ってほしい。だが、意味はないと分かっていても、それが何の成果に繋がらなかったとしても、引けない時があるのも事実だ。そして、一つの結論にたどり着いた。
スタート時、カードの手持ちにババがあった場合はほぼ敗北する
ムジカートは驚異的なセンスを披露し、冗談抜きにこちらのババを引かない。よって、開幕の段階で手札にババがあると、基本的に敗北するということである(たまに情けで引いてくれる)。ムジカートにはD2との戦闘で鍛え上げられた戦術眼もあるのだろう。もしかすると透視能力が備わっている可能性もある。
それを踏まえた上でも、このセンスには羨望を超え、ジェラシーを感じるほどだ。この強さがあれば、間違いなく幼稚園の年長クラスのヒーローになれた。この世界でババ抜き最強決定戦があったならば、恐らく人類は排他され、ムジカートによるムジカートのための熾烈な争いが起こる──と言いたいのだが、ムジカート達には致命的な弱点がある。
ムジカートはマジで顔に出やすい
一部、パッと見では分かりにくいムジカートもいるが、基本的にめっちゃ顔に出る。よって、逆にムジカートがババを持っていた場合は、こちらの勝利がほぼ確定する。戦術眼にステータスを全振りしており、どうも勝負事には表情が重要という概念がないらしい。
兵器としてより効率的な運用のために、そのようなセッティングがされているのかもしれない……などと考察もできるわけである。
D2による人間を模したスパイなどが送り込まれてきた際にはかなりの痛手を受けそうだ。いや、その時こそ戦術眼を通り越した千里眼で見破ってほしい。……あれ、私は何の話をしていたんだっけ?
といった感じで最後はただの考察になってしまったが、バトルの難易度は高めであるし、イラストは2Dで綺麗に動く。育成やミニゲームなど、要素をモリモリに詰め込んだ“フルアーマー”なモバイルRPGだということは間違いない。
筆者のように時折ログインしてはニマニマするタイプには少し不向きかもしれないが、コマンドバトル系のモバイルRPGをガッツリ遊びたいという層にはかなり刺さるのではなかろうか。先にも紹介したが、正式なリリースは2023年春を予定しているとのことなので、それまでにゲームへ先立ち放送されたアニメーション作品『takt op.Destiny』をチェックしておく、なんてのもいいかもしれない。
最後にもう一つだけお伝えしておくことがある。それはドリンク作りだ。ムジカートとの絆(好感度)を深めるティーブレイクを楽しむのに必要なドリンクを作るミニゲームだが、これが操作の関係上、意外と難しい。そして試行錯誤していると、このような表示がされる。
はい。がんばります。