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TRPGシナリオ原案『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』のパイロットフィルムが完成。延べ1億円の支援を集めた情熱作、その最速上映会をレポート

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 まだら牛氏のTRPGシナリオ『狂気山脈 ~邪神の山嶺~』を原案にしたアニメーション映画『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』パイロット・フィルムの試写会イベントが、2023年2月25日に都内某所の映画館で実施された。今回のイベントは、クラウドファンディングで「最速上映会チケット・プラン」に支援した400名のファンに加えて、追加で販売されたチケットや関係者なども含めて、500人もの観客が見守る中で行われたものである。

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『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』

 知っている人は知っている話ではあるものの、知らない人にとってはややわかりにくいため、少しだけ作品の概要についてご紹介しておこう。今回のアニメ映画『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』の元になったのは、先ほども少し触れたまだら牛氏原作のTRPGシナリオ『狂気山脈 ~邪神の山嶺~』だ。

 このシナリオ自体は、のちに「クトゥルフ神話」として体系化されることになったH・P・ラヴクラフト氏の長編小説『狂気の山脈にて』の設定を元に、まだら牛氏がTRPG用に書き下ろしたものである。自身も登山愛好家であることを公言しているまだら牛氏だが、このTRPGシナリオ『狂気山脈 ~邪神の山嶺~』もそちらに焦点が当てられており、登山家の主人公たちが極限状態のなかで人類未到の狂気山脈に挑むという、冒険と開拓、そして人間ドラマが描かれている。

 TRPGというと、オフラインで愛好たちが集まって遊ぶ大人のゲームというイメージもあるが、ここ数年はYouTuberなどを中心にTRPG配信ブームが沸き起こっており、このTRPGシナリオ『狂気山脈 ~邪神の山嶺~』も人気を博している。

 そうした中、まずはアニメ映画化への第一歩としてパイロット・フィルムを作るために、2021年10月から12月にかけてCAMPFIREでクラウドファンディングが実施された。その結果、1万10000人以上の支援者から1億2000万円近い支援を集めることに成功している。ちなみに、これだけの支援を集めることができたのは、アニメジャンルとしては歴代1位だ。また、その結果を受けて「CAMPFIREアワード2022」の総合賞で第1位も獲得している。

 当初は2022年内にパイロット・フィルムの完成を目指していたが、ようやく全ての作業が完了し、今回の最速上映会へと繋がっている。こちらの記事では、そのパイロット・フィルム上映会の模様をレポートしていく。

取材・文/高島おしゃむ


ドキュメンタリー映像とパイロット・フィルムの2本立てで上映!

 映画館の上映開始は16時半からだったのだが、その1時間前の15時半から受付が開始された。そのときに並んでいた顔ぶれを見て少し驚いたのが、女性ファンの数がかなり多かったことだ。それだけTRPGというゲームジャンルが、幅広い層に広がってきているということの現れかもしれない。

 ちなみに今回の試写会来場者には、映画のキービジュアルが描かれたクリアファイルと「ネットへの写真アップ厳禁」と書かれたポストカードがプレゼントされていた。また、シアター入り口付近にはキービジュアルが描かれたパネルが飾られており、こちらも列を作って撮影している姿が見られた。

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シアター入り口付近に飾られていたパネル。

 上映開始30分前と5分前に影アナが流れた後、唐突に会場内の明かりが暗くなり、上映会がスタートした。最初に流されたのは、アニメ『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』が生まれるまでのドキュメンタリー映像である。30分ほどの映像であったが、その中でまだら牛氏をはじめパイロット・フィルムに携わったメンバーがどのような思い出作っていたかが語られていった。こちらの映像の一部は、YouTubeでも期間限定で公開されているので、ぜひチェックしてみてほしい。

 ドキュメンタリー映像の上映に続き、いよいよ今回のメインとなるパイロット・フィルムが上映された。この中では、映画版オリジナルとして、主人公の浅間いのりをはじめ、キャラクターたちが登山に挑戦する様子が細かく描写されていた。全体を通してどんなストーリーになるのだろうか? という期待を抱かせるようなものに仕上げられていた感じだ。

 今回のパイロット・フィルムでは、キャラクターたちに声は当てられておらず、映画の特報と同じように音と映像でイメージを伝えるようなものに近かった。映像自体のクォリティはかなり高かっただけに、もっと見せてほしいと思わせる欲求が高まったのかもしれない。

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プロデューサーのワタナベ氏がアニメ化を打診!? 制作メンバーによるトークショーも実施

 上映終了後、壇上に上がったまだら牛氏。会場内に大きな拍手が鳴り響く中、「ご視聴ありがとうございます。拍手の音で救われています」と語り、かなり緊張している様子であった。また、「クラウドファンディングで応援してくれた皆さんのおかげで作れました」と感謝の気持ちを述べ、前日まで吐きそうなぐらい緊張した状態であったことから、「緊張して吐きそう」というタイトルでYouTube配信を行っていたというエピソードも披露していた。

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『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』の企画・原作・製作総指揮を務めるまだら牛氏。

 ここで『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』の総合プロデューサーのワタナベミズキ氏が合流。パイロット・フィルムを作ることになった経緯についてのエピソードが紹介された。

 今回の企画がスタートしたのは、今から2年前だ。YouTubeで流行ったテーブルトークRPG『カタシロ』の舞台化プロジェクトの第1回があった頃で、その手伝いで東京に出てきていたまだら牛氏。そのとき別件で仕事をしたことがあったワタナベ氏と会う機会があり、「アニメ化したほうがいいんじゃないか?」と言われたという。

 ワタナベ氏は、まだら牛氏が作っているTRPGの『狂気山脈 ~邪神の山嶺~』は面白く、今のままではもったいないと考えていた。これだけ面白い話はTRPGという枠の中に収まるものではない。TRPG自体は、様々な人たちが配信で取り上げており、どの人がプレイしても面白くドラマチックなものになっていたのだ。これは、シナリオ自体のシステムやフレームが強固なものだからだとワタナベ氏は感じた。その上で、アニメなど作品の世界を拡張するものを作りたいと考えたのだ。

 アニメ化したいという話を聞いて、最初は「何言ってんだ?」と思ったというまだら牛氏。しかし、TRPGという文化から生まれた話は面白く、世の中に溢れているコンテンツに負けていないということを、いろいろな人に気付かされることがあった。少し時間をおいたときに、だんだんアニメ化への挑戦意欲が沸き起こってきた。

 そこで、Discordでワタナベ氏に連絡を取り、「マジでやろうと思ったら、手伝ってくれますか?」と確認。ワタナベ氏は何も考えずに、その場で「やりましょう!」と快諾し、そこからほぼ毎日やりとりが行われていったのである。

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 アニメ化にあたり、海島千本氏がキャラクターデザインを担当しているが、ワタナベ氏は特にツテはなかったものの海島氏にオファーのメールを出してみた。そのとき海島氏は、たまたま数日前に同原作者まだら牛の制作したマーダーミステリーを遊んでいたため、トントン拍子で話が進んでいった。その後、最初の打ち合わせをしたときに、すぐに主人公である浅間いのりの絵が出てきたという。

 制作裏話が続いたところで、完成版みたいですか? というまだら牛氏が会場内に問いかけたところ、大きな拍手が沸き起こった。ひとまずパイロット・フィルムができたところで感慨深くはなったものの、次の瞬間、いったいどうすれば完成まで持ち込んでいくことができるのだろうかと、考えてしまうようになったという。

 それもそのはずで、この4分半の映像を作るために1年半もの時間が掛けられているのである。そのため、実際にアニメ全編を作るには、どれだけ作業が大変なものになるのかもわかってしまったのだ。それに対してプロデューサーのワタナベ氏は、「パイロット・フィルムが完成したことは、ひとつのゴールでありスタートである」といい、これをベースにプロデューサーとしてやることがたくさんあると語っていた。

まだら牛氏の人生掛けている感が伝わり最初の打ち合わせに合わせて映像を作成

 ここで新たなゲストとして、パイロット・フィルムの監督を務めたステロタイプの熊谷友作氏と撮影監督の石見優作氏が登壇した。

 映画館の大きなスクリーンに上映されている映像を観て、主人公のいのりが失敗しないかすごくドキドキしたと感想を述べた熊谷監督。自分で作った作品であるため細部まで分かっているはずなのだが、ピッケルをちゃんと刺すことができるかな? など、すごく心配になったという。

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『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』の主人公である浅間いのり。映像を見る限り、活発そうな少女といった印象だ。

 まだら牛氏とワタナベプロデューサーは、アニメ畑の人間ではない。そのため、今回登壇した熊谷監督と石見氏らステロタイプのメンバーがコアになってアニメ化の作業が進められていった。実は初めて打ち合わせに行ったときは顔合わせのつもりだったのだが、「こういう感じで行こうと思います」と言われ、いきなり映像が出来ていることに、まだら牛氏はかなり驚いた。また、この時点で、アニメ化するために内容をかみ砕いてきてくれており、それが嬉しかったという。

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写真左から撮影監督の石見優作氏、監督の熊谷友作氏、まだら牛氏、プロデューサーのワタナベミズキ氏。

 実は、最初の打ち合わせの1週間程前に、オンラインで打ち合わせが行われていた。そのときに熊谷監督は、「いったん僕の狂気山脈を表現してみていいですか?」とまだら牛氏に聞いたところ、OKしてもらうことができた。それが、最初の打ち合わせの時に作った映像に繋がったという。ちなみにその時点では、映像制作陣には企画書と参考資料程度しか渡されていなかったのだが、その映像の時点でやたらと解像度が高いものになっていた。そこに影響を与えたのが撮影監督の石見氏である。

 石見氏は以前から映像化の話は耳にしており、まだら牛氏が人生を賭けている感じがひしひしと伝わっていた。そこで熊谷監督と相談し、手ぶらで打ち合わせするのはまずいということで、原作となるTRPGともうひとつのコンテンツであるマーダーミステリーを体験してきた。さらに、熊谷氏と石見氏のふたりでアイスクライミングにも挑戦してきたという。

 アイスクライミングについては、熊谷監督は5メートルしか登ることができなかったそうだが、そのとき感じたことが氷を目の前にすると自分の息の音がうるさいということだった。そちらはドキュメンタリー映像にもなっていたため、挑戦した意味があったと感想を述べていた。

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 最初からそうした感じであったため、その後も作りやすかったとまだら牛氏は語る。そこから詳細を突き詰めていくという作業が、半年間ほどかけて行われた。構成に関しては比較的すぐにできたものの、クライミングの部分に関しては無数に要素があったのだ。そこから、専門家の意見を聞くなど様々な人に教えてもらうという作業が始まったのである。

 ここまで一緒に映像を作ってくれてきた熊谷監督と石見氏と、今後も一緒に作品を作り上げていきたいというまだら牛氏。そこでふたりに意気込みを聞いてみたところ、石見氏は「やっと制作も終わったので、もう1回ぐらい監督とアイスクライミングに行こうと思います」と抱負を披露。

 一方の熊谷監督は「パイロット・フィルムを作り終えてようやくベースキャンプに着いたと思っていましたが、まだ整っていない状態です。パイロット・フィルムを作り終えて皆さんと一致した言葉が、“ここからだな”です。これから映画が出来るように、また整えていければなと思っています」と、これまでの苦労を振り返りながら抱負を述べていた。

 ワタナベプロデューサーも、「ここから新しい一歩を踏み出す必要があると、ひしひしとプロデューサーとして感じています。皆さん最後まで応援をお願いします」と、再度会場に訪れたファンにメッセージを語っていた。

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2度目のパイロット・フィルム上映ではカットされていたスタッフロールも流れた

 今回のパイロット・フィルムは、映像としては4分半、カット数は107と、短い時間の中にかなり濃縮されたものとなっていた。1度だけではよくわからないということで、2月28日よりYouTubeで無料公開が行われる。特に初回は配信というスタイルで公開されるため、リアルタイムに視聴して感動を多くの人たちと同時に味わうことができるようになっている。

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 トークセッションの後で、最後にもう1度パイロット・フィルムが上映されたのだが、実は初回の時はスタッフロールがあえて流されていなかった。2度目のときにスタッフロールが流れるようにしたのは、クラウドファンディングで名前が載るリターンに支援した人たちのためである。

 映画館自体の制限もあり、今回のイベントは撮影・録画がNGとなっていたのだが、このスタッフロールの部分に限り撮影とSNSでのシェアがOKとなっていたのだ。

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唯一撮影とSNSへのシェアがOKだった、パイロット・フィルムのエンドロール。

 最後にまだら牛氏は、会場に訪れたファンに向けて「この先も頑張りますので、応援よろしくお願いします!」と語り、イベントを締めくくった。今後の展開についても注目していきたいところだが、パイロット・フィルムのほうは、元のTRPGやクトゥルフ神話自体に詳しくない人でも楽しめるような作品になっている。もちろん作品のファンなら、どのように映像化されるのか気になるところだろう。

 まずは2月28日よりYouTubeで公開される映像を観て、作品の完成度の高さをご自身の目で確かめてみてほしい。

ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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