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『メトロイド フュージョン』こそ、『メトロイド』のシリーズとしての始まりだった。『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』への追加を機に振り返る、あの頃と今の『メトロイド』

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 『メトロイド フュージョン』は、9年ぶりの完全新作として発売された。
 それまでの『メトロイド』”終わったゲーム”だった。 

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 2021年10月、Nintendo Switch向けに発売されたのが記憶に新しい『メトロイド5』こと『メトロイド ドレッド』は、19年ぶりの完全新作を売り文句に掲げていた。

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 その19年前に出た前作、『メトロイド4』こと『メトロイド フュージョン』は、売り文句には掲げていないものの、9年ぶりの完全新作として、20年前の2003年2月14日にゲームボーイアドバンス用ゲームソフトとして発売された。【※】

※なので、「『メトロイド ドレッド』の掲げる19年ぶりは間違ってないか?」となるが、これは2002年11月15日、日本に先んじて発売された海外版『メトロイド フュージョン』を基準としているためと思われる。

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 9年前に発売された『メトロイド3』は、スーパーファミコンの『スーパーメトロイド』だ。その発売から『メトロイド』は新作を1本も出さず、長きに渡って沈黙したままとなっていた。

 2023年現在は前述の『メトロイド ドレッド』に限らず、長期に渡って開発中にある『メトロイドプライム4』の存在、そしてプライムシリーズ第1作目のHDリマスター版『メトロイドプライム リマスタード』の発売で、健在ぶりを見せている『メトロイド』。

 だが、20年前の『メトロイド フュージョン』、その直後の『メトロイド プライム』が発売される前まで、『メトロイド』にはシリーズ展開の兆しすらなかった

 むしろ、既に終わったゲームも同然だったのである。

 「待望のメトロイドシリーズ最新作が、ついにゲームボーイアドバンスに登場!!」と、パッケージ裏面に書かれるほど、久しぶりの新作として発売された『メトロイド フュージョン』。

 2023年2月14日で発売から20年を迎え、3月9日よりNintendo Switchの『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』(※「Nintendo Switch Online + 追加パック」への加入が必要)でも遊べるようになった今、改めて当時の『メトロイド』が置かれていた状況を振り返りつつ、『メトロイド フュージョン』を機に『メトロイド』がどう変化していったのか、その軌跡を辿りたい。

文/シェループ

※本記事で掲載している『メトロイド フュージョン』のスクリーンショットは、WiiUバーチャルコンソール版のものとなります。


前作『スーパーメトロイド』で『メトロイド』は完結していた

 そもそも、なぜ『メトロイド』は”終わったゲーム”だったのか。
 理由は単純だ。『スーパーメトロイド』が完結作だったからである。

 『スーパーメトロイド』を最後に、シリーズの象徴的な敵「メトロイド」は絶滅してしまったのだ。

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 「メトロイド」だけではない。主人公「サムス・アラン」(以下、サムス)と敵対する「宇宙海賊(スペースパイレーツ)」、その幹部にして宿敵「リドリー」、機械生命体「マザーブレイン」、そして彼らの拠点にしてサムスが幼少期を過ごした「惑星ゼーベス」。
 それらもすべて、文字通り”宇宙のチリ”となってしまった。

 もう続きは不可能、と言える程度に終わらせてしまったのである。

 他の任天堂のゲーム、『マリオ』シリーズで例えるなら、大ボス「クッパ」とその配下たちが全員居なくなり、ヒロインの「ピーチ姫」が二度とさらわれなくなったようなものだ。

 なぜ『スーパーメトロイド』が完結作になったのか? 2023年現在、『メトロイド』シリーズを統括するプロデューサーで、『スーパーメトロイド』ではディレクターを務めた任天堂の坂本賀勇氏は、当時発売された攻略本で次のようにコメントしている。

 「今回は「メトロイド」シリーズを完結させたいというのがあったんです。それでやはり宿敵っぽいものをもってきたかった。その宿敵が復活し、サムスと対決するというイメージを作るためには、やはり惑星ゼーベスをもってくるしかないんじゃないか。マザーブレインとサムスには決着をつけてもらう。メトロイドが最後にどうなるかということを見せてあげたかった。」

(任天堂公式ガイドブック『スーパーメトロイド サムス・アランの2時間59分』(小学館刊、現在絶版):90~91ページより引用)

 さらに今後の『メトロイド』がどうなるかについても、次のようにコメントしている。

 「シリーズは基本的にもう終わったと考えています。メトロイドはそもそも絶滅させられる運命にあったわけです。まあ、それがいちばん美しい形で、終わるようにしたかったわけです。」

 (「サムスはどうなるんですか?」という質問に対し)
 「いまははっきりしたことは言えないんですが、彼女を主人公にしたアクションゲームを作っていきたいという考えはあります。」

(任天堂公式ガイドブック『スーパーメトロイド サムス・アランの2時間59分』(小学館刊、現在絶版):95ページより引用)

 まさにメトロイドの決められた運命を描く意図からだったようだ。

 そして、メトロイドが絶滅してもサムスは生き続けるとの思いを踏まえてか、『スーパーメトロイド』の締めくくりは「THE END」ではなく、「SEE YOU NEXT MISSION」のメッセージを添えたものになっていた。

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 なので、たとえ完結しても、サムスが主人公の新しいゲームが誕生する可能性は残されていたのである。

 ところが、新作は出なかった。『スーパーマリオRPG』(1996年、スーパーファミコン)、『星のカービィ スーパーデラックス』(1996年、スーパーファミコン)、『星のカービィ3』(1998年、スーパーファミコン)などにサムス、メトロイドがゲストで出演するということはあったが、肝心の主演作は全く音沙汰なし。

 加えて1996年6月、スーパーファミコンの後継機となるNINTENDO64(ニンテンドウ64)が出て以降、『メトロイド』シリーズの開発を担う任天堂開発第一部は、本来の専門であるゲームボーイ(ゲームボーイカラー)と、スーパーファミコン向けのゲーム開発【※】に特化していくようになった。

※1997年12月より、コンビニエンスストア「ローソン」で展開されたスーパーファミコンのゲームソフト書き換えサービス『NINTENDO POWER』(ニンテンドーパワー)向けの一部新作タイトル(『ファミコン探偵倶楽部PARTII うしろに立つ少女』『ファイアーエムブレム トラキア776』など)を手がけている。

 NINTENDO64向けのゲーム開発には、ほとんど取り組まなかったのである。これが結果として開発第一部生まれの『メトロイド』の展開を難しくすることに繋がった。

開発部署の事情と表現力という大きな壁。そんな中での『スマブラ』出演

 とはいえ、2000年以降には開発第一部が関わったNINTENDO64向けのゲームが出ている。そのひとつが『罪と罰 地球(ほし)の継承者』(以下、罪と罰)だ【※】

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 しかし、開発したのは『ガンスターヒーローズ』『エイリアンソルジャー』などで知られる株式会社トレジャー。開発第一部は監修としての参加である。

※ほかに海外専売の『Dr Mario 64』、『Pokemon Puzzle League』があり、これらも外部の会社が手がけている。この2作は2003年、『メトロイド フュージョン』の1週間前に発売されたニンテンドーゲームキューブ用ゲームソフト『NINTENDO パズルコレクション』の収録タイトルのひとつとして日本では展開された。(ただし、後者はシステム上の原作に当たる『パネルでポン』の続編に改められている)

 このことからも、開発第一部がNINTENDO64のゲーム開発を専門外としていたのが分かる。ただ、『罪と罰』のように外部の会社に任せる形なら行けたのでは、と考えられる。

 事実、『スーパーメトロイド』も開発には外部の会社、『ファイアーエムブレム』シリーズなどで知られる株式会社インテリジェントシステムズが参加している。
さらに言えば、かつての『メトロイドII RETURN OF SAMUS』(以下、メトロイド2)のように、ゲームボーイ(ゲームボーイカラー)で新作を作る選択肢もあったはずである。

 これに関しては『メトロイド フュージョン』発売当時、坂本氏が『スーパーメトロイド』でストーリーが完結している事情と共に「表現力の面で少し厳しかった」とコメントしている。

 「理由はいくつかあるのですが、ひとつには『スーパーメトロイド』でストーリーとしては一応完結しているからなんですね。それから、もうひとつは開発第一部は携帯ゲーム機の部署ですから、内部で64のソフトを開発するのは難しかったんですよ。ライセンシーさんからのお話もあったんですが、なかなかいい形でまとまらなかったんです。それから、やはりリアリティのあるゲームなので、表現力という点で64では少し厳しかったんですね。ゲームボーイカラーのほうは、出すとすればファミコンの絵柄になってしまうし、そうするとスーパーファミコン版より見劣りがしてしまう。そういういくつかの理由があって、結果的には9年間のブランクが空いてしまったんですね。」

(「ニンテンドウオンラインマガジン2003年3月号(No.56)宇宙を舞台にサムスが大活躍! 注目シリーズ「メトロイド」大特集」:「「メトロイド」に託す思い 坂本賀勇インタビュー」より引用)

 事実『スーパーメトロイド』は、前2作から圧倒的な進化を遂げたグラフィックを実現していた。中でもボスはその極みで、筋肉に鱗、果ては体液に至るまで(若干やりすぎなぐらい)”生っぽく”描いている。

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 2023年現在の技術水準で見れば、3DCGでもこの種の表現は可能だ。

 だが、NINTENDO64に限らず、PlayStation、セガサターンが現役だった当時は3Dの黎明期。人体モデルを組み立てても、制約の関係から”ポリゴン感”……別の言い方をすれば、おもちゃの人形っぽさが出てしまう。そのため、技術的には進化していても、表現的には前作から後退しているように見えかねない所があった。

 また、NINTENDO64では質感、キャラクターの違いを出すために3Dモデルへと貼り付ける画像「テクスチャー」にも厳しい制約があり、工夫が必要だったという。前述の『罪と罰』の続編、『罪と罰 宇宙(そら)の後継者』(2009年、Wii)の企画特集「社長が訊く」において、当時の任天堂社長である岩田聡氏が述懐している。

 それが『メトロイド』にとっては大きな課題だったのだろう。

 ゲームボーイでの開発も、坂本氏は当時、『トレード&バトル カードヒーロー』なる新作カードゲームの開発に取り組んでいた。そのような事情もまた、『メトロイド』の新作の開発を難しくしていたのではと推察されるところである。

 そう『メトロイド』の新展開が行き詰まる中、サムスは1999年1月発売のNINTENDO64向け対戦アクションゲーム『ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ』(以下、スマブラ)にプレイヤーキャラクターのひとりとして参加。

 前述の状況もあり、これが彼女初の3D進出となった。

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 だが、サムスは『スマブラ』の参加キャラクターの中で、(日本国内から見れば)知名度の低いキャラクターのひとりだった。1999年当時から数えて、『スーパーメトロイド』から約5年も主演の新作が出ていなかったのだ。ほかの参戦キャラクターたちの多くは直近に新作を発売していたり、控えるなりしていた。

 2023年現在は当時のサムスと同じ……否、(こんな言い方で申し訳ない限りだが)それ以上の知名度低下に直面している「キャプテン・ファルコン」も、『F-ZERO X』という完全新作を発売して間もなかったのである。
 そのため、当時小学校低学年だった『スマブラ』を遊んだ世代の中には、彼女のことを『スマブラ』のオリジナルキャラクターと見なしていた人も少なからずいるだろう。

 しかし、この『スマブラ』が100万本以上を売り上げる大ヒットを記録したことにより、サムスの認知度は大きく上昇した。人気の高い海外でも彼女の復活は大きく注目され、ついに『メトロイド』の再始動が本格化。次世代ゲームボーイこと『ゲームボーイアドバンス』向けの新作として、2001年初頭に開発中であることが発表される。
 そして同年5月、アメリカ・ロサンゼルスで開催された「E3 2001」に『Metroid IV』の仮題でお披露目。(※2001年当時の海外報道

 これが後の『メトロイド フュージョン』となったのである。

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『メトロイド4』の名は『スーパーメトロイド』同様、オープニングで使われている。

 前述の「「メトロイド」に託す思い 坂本賀勇インタビュー」によれば、再始動のきっかけのひとつが『スマブラ』だったという。また、『メトロイド フュージョン』と並ぶようにこの頃、NINTENDO64の後継機、ニンテンドーゲームキューブ向けの新作『メトロイドプライム』の企画および開発も始動している。ただ、インタビューでの坂本氏の発言によれば、先行して進んでいたのは『メトロイド フュージョン』であったようだ。

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 『メトロイドプライム』も『メトロイド』シリーズ再始動の一翼を担う重要な新作だった。
 その内容と特徴諸々については、『メトロイドプライム リマスタード』の話題も交えた同作の特集記事を参照いただきたい(後日掲載予定)。

9年という空白期間が『メトロイド』の”当たり前”を変えた

 かくして発売された『メトロイド フュージョン』は、様々な面で過去の『メトロイド』3作からの変化と脱却が現れた新作になった。

 坂本氏は発売後、「ほぼ日刊イトイ新聞」掲載の作家・宮部みゆき氏とのスペシャル対談において、「あのころの厳しさをそのまま持ってくると、単に頑固おやじが意地を張ってるだけみたいなことになってしまう。」と発言しているが、まさにその言葉通りの抜本的な改革が図られたのである。

 特に象徴的な変更点をピックアップするなら、以下の2つだろう。
 その中には2023年現在から見ても興味深い試みが存在している。

(1)過去3作の”禁じ手”、言葉による説明(文章による表現)の解禁

 過去の『メトロイド』3作は、言葉による説明を”禁じ手”としていた。

 ストーリーはあっても言葉では語らず、プレイヤーが状況から読み取ってもらうというスタイルを基本としていたのである。『スーパーメトロイド』ではオープニングなど、一部で言葉による説明がされているが、ゲーム本編でそのような表現はほとんどなし。まさにゲームプレイを通したストーリー体験を徹底していたのだ。
 その象徴が同作の最終決戦における一連のイベントでもあった。

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 『メトロイド フュージョン』ではこのスタイルを撤廃し、言葉でストーリーが語られるようになった。また、アイテムを手に入れた時のメッセージ文もそれまでは非表示、あるいは英語だったが、これも日本語表示に変更。それぞれの使い方が分かりやすくなった。

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 2023年現在の『メトロイド』シリーズでは当たり前になっている言葉による説明だが、その本格的な始まりは『メトロイド フュージョン』からだったのだ。

 ちなみに同時期に発売された『メトロイドプライム』でも、アイテム獲得時のメッセージは日本語で記されている。(さらに付け加えれば、『メトロイドプライム』は『メトロイド』シリーズの中でも群を抜いて文章の量が多い)

 また、この『メトロイド フュージョン』には言葉による説明を「オトナむき」「コドモむき」のどちらかに設定する機能も備わっている。

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 「オトナむき」なら漢字が使われた文章に、「コドモむき」ならひらがな中心の文章になる……というものだ。
 だがこの機能、特に「コドモむき」には2023年現在から見てもすごい特徴がある。

 それは単にひらがなになるだけで終わらないこと。

 子供には分かりにくい単語・表現を別の分かりやすいものに置き換える工夫が施されているのだ。さながら日本語をやさしい日本語へと翻訳するような感じである。

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上が「オトナむき」下が「コドモむき」。このように文章をひらがなにするだけで終わらせず、表現まで変えている。

 そのため、1周目を「オトナむき」でクリアした後、2周目を「コドモむき」で始めれば、全く違う言葉と表現を用いたストーリーを楽しめる。しかも、「コドモむき」独自のクリア特典もあり、やり込み要素のひとつにもなっているのである。

 この機能は海外版にはない日本語版独自のもので、次作の初代『メトロイド』のリメイク、『メトロイド ゼロミッション』にも引き継がれた。残念ながら、以降の『メトロイド』シリーズでは無くなってしまっている。

 ただ、坂本氏がプロデューサーを担当した『高速カードバトル カードヒーロー』(2007年、ニンテンドーDS)で、カード解説文のひらがな化という形で引き継がれている(ちなみに任天堂公式サイト掲載の同作のインタビューによれば、ひらがなの解説文はすべて坂本氏が執筆しているとのこと)。

 また、全く同じ機能を採用した例で、『メトロイド フュージョン』より先に発売された『ピクミン』シリーズもある。こちらも設定を切り替えると異なる表現によるストーリーが楽しめるので、興味があれば確かめてみて欲しい。

(2)難易度選択と目的地案内(ナビゲーション)機能の実装

 過去3作の『メトロイド』では難易度を選べなかった。

 『メトロイド フュージョン』では、このお約束を廃し、難易度選択機能を搭載。「EASY」「NORMAL」「HARD」の3種類の中から、好みの難易度を選んでゲームを進めていけるようになった。

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 なお、一番難しい「HARD」は「NORMAL」の難易度クリア後に解禁されるもので、初回起動時は選択できない。また、「EASY」は先行して発売された海外版には存在しない、日本語版だけの追加要素である。

 「METROID OFFICIAL SITE」および「Nintendo DREAM 2003年3月21日号 Vol.85」掲載の開発スタッフインタビューによれば、前述の「オトナむき」「コドモむき」の選択も含め、小さな子供が遊ぶことの想定、色んな層にプレイしてもらえるようにとの思いから、追加に至ったようだ。(言及されているページはこちら

 さらにゲーム本編でも、サムスの任務をサポートするAI「アダム」のナビゲーション……目的地案内に沿って進めていくスタイルが採用されている。

 過去の『メトロイド』はプレイヤーが自主的にマップを探索し、進むべき道を切り開いていくスタイルだったが、これも本作で撤廃。常にマップ画面に目的地が示され、Aボタンを押せば、その詳細も教えてくれるという親切設計に改められた。

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 自力で道を開拓していく面白さこそが『メトロイド』と豪語する人には賛否が分かれるのも否めないが、あくまでも表示されるのは目的地。さらに一部、目的地がどこか教えてくれないパターンもあり、自力で見つけることも求められる。そのため、従来の面白さはある程度ながら保たれている。また、こういう仕組み特有の”裏切り”が発生するようになったのも大きな見所だろう。

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 ちなみに『メトロイドプライム』にも、「リモートスキャン」という名称のナビゲーション機能が導入されている。ただ、長いこと道に迷っていた際に発動、オプションでOFFにできるなど、仕組みは大きく異なる。
 さらに『メトロイド フュージョン』以降のシリーズでは、ごく一部のみを表示、代替手段を設けるといった措置が取られている。『メトロイド フュージョン』並に教えてくれる例は『メトロイド アザーエム』ぐらいとなっている。

 ほかにも「ミサイル」の操作簡略化、タイムアタックによるクリア特典の充実化も『メトロイド フュージョン』を皮切りに始まっている。足場の淵に捕まる「グラップル」のアクションが登場したのもここからである。

これからの『メトロイド』を見据えた施策も

 さらに『メトロイド』という作品をより柔軟に展開しやすくするため、次のような試みも実施されている。

(1)「メトロイド」の新たな定義と絶滅前後を踏まえた新展開

 「メトロイド」と言えば、クラゲみたいな容姿、こちらにまとわりついて生命エネルギーを吸い取る能力を特徴とする浮遊生命体だ。

 『メトロイド2』(およびリメイクの『メトロイド サムスリターンズ』、以下『サムスリターンズ』)では、「アルファ(α)」、「ガンマ(γ)」、「ゼータ(Ζ)」、成体「オメガ(Ω)」へと成長・変貌する様子が描かれている。

 『メトロイド フュージョン』はそんな「メトロイド」の絶滅後が舞台だが、本作にて新たに「メトロイド」には鳥人族の言葉で「最強なる戦士」という意味が込められているという設定が追加された。ゲーム本編では一切言及されないのだが、取扱説明書の41ページにその情報が記されている。

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 また、本作のオープニングでサムスは『メトロイド2』(サムスリターンズ)でのメトロイド駆逐後の「惑星SR388」に降り立ち、寄生生物「X(エックス)」に襲撃され、命の危機に瀕する。

 これに対処するため、医療チームは銀河連邦が保管していた「ベビーメトロイド」【※】の細胞組織から「メトロイドワクチン」を開発。それを投与したことでサムスは一命を取りとめると同時に、「メトロイド」のDNAを持つ唯一無二の存在となった。(これにより、Xに寄生されることもなくなっている)

※『メトロイド2(メトロイド サムスリターンズ)』、『スーパーメトロイド』に登場する特別な幼生メトロイド。以降のシリーズに大きな影響を及ぼしたキーキャラクターでもある。

 過去、主人公サムスのことを「メトロイド」と勘違いしていた人は少なくないのではないだろう。同時にそう誤認している人に対して「主人公の名前はサムスですよ」と物申した(ツッコミを入れた)ことも。

 本作より、サムスのことをメトロイドと呼称するのは間違いとは言いにくくなったのだ。

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 そして、この設定は最新作『メトロイド ドレッド』で決定的なレベルにまで深められている。未だ『メトロイド』の主人公は「メトロイド」ではないとの認識がおありなら、ぜひ『メトロイド フュージョン』と『メトロイド ドレッド』を確かめていただきたい。存分に思い知らされるだろう。「時代は変わってしまった!」……と。

 これ以外で「メトロイド」に関しては、絶滅後と絶滅前という2つの時系列が設定されたのも『メトロイド フュージョン』および『メトロイドプライム』からである。
なお、『メトロイドプライム』は全てのシリーズ作品が絶滅前、初代『メトロイド』と続編『メトロイド2』(メトロイド サムスリターンズ)』の狭間という設定になっている。

 絶滅後の新作では『メトロイド フュージョン』以外で『メトロイド アザーエム』、最新作の『メトロイド ドレッド』がある。2023年現在、最も時系列の中で未来を描いているのは『メトロイド ドレッド』だ。(それゆえの『メトロイド5』でもある)

(2)世界観の広がりとサムスを取り巻く人物の登場

 前述のサポートAI「アダム」に象徴される通り、『メトロイド フュージョン』からはサムス以外の人物がストーリーに本格的に参加する展開が生まれた。

 『スーパーメトロイド』の海外向けコミカライズのように、既に登場させていた例もあったが、『メトロイド フュージョン』以降はゲーム側でもそれを導入。これによって、『メトロイド』シリーズの世界観も広がりを見せていくことになった。

 また、これまでサムスに任務を依頼する政府機関として、設定上登場していた「銀河連邦」も、『メトロイド フュージョン』からは内部事情などが描かれたり、連邦に属する軍の兵士たちなどが登場するようになっていった。(なお、科学者たちに関しては『スーパーメトロイド』の時点で既に登場している)

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 こうした広がりにより、サムスが最後までただひとり、孤独に戦うというそれまでのストーリー全体のイメージにも変化が生まれることになった。

 ちなみに「アダム」の名の由来であるサムスの上官「アダム・マルコビッチ」は、後発の『メトロイド アザーエム』で登場を果たしている。

 この『メトロイド アザーエム』は『メトロイド フュージョン』の前、『スーパーメトロイド』のエンディング直後という設定。サムスがアダム、黒人男性の「アンソニー・ヒッグス」を始めとする彼の部下たちと共同で任務に当たる様子が描かれる。

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「アダム・マルコビッチ」その人。ちなみに『メトロイド アザーエム』では日本語音声が採用され、アダム役には『名探偵コナン』の毛利小五郎(2代目)、『Fate』シリーズの衛宮切嗣などで知られる小山力也氏が起用されている。

 『メトロイドプライム』でも、『メトロイドプライム2 ダークエコーズ』『メトロイドプライム3 コラプション』『メトロイドプライム ハンターズ』において、サムス以外の人物が登場。これまでにないパターンのストーリーが描かれている。
 銀河連邦の兵士が主役を務める『メトロイドプライム フェデレーションフォース』なる外伝作も、そうして広がりがあってこそ実現したものといってもいいだろう。

 ただ、孤独感こそ『メトロイド』の醍醐味とする人には賛否の分かれやすい要素ではある。また共闘とは言え、基本的にサムスが単独行動するというパターンも多い。

(3)”素顔のサムス”というトップシークレットの解禁

 『メトロイド』においてはトップシークレット同然だった”素顔のサムス”。『スーパーメトロイド』の時にもそこそこ明かされていた姿だが、『メトロイド フュージョン』以降は、より積極的に公にする方向へと舵をきるようになった。

 最も象徴的なのは、『メトロイド フュージョン』発売当時に講談社の月刊漫画誌『月刊マガジンZ』『コミックボンボン』で連載された2作の漫画だろう。

 特に前者、題名もそのままの『メトロイド』は原作のゲーム版の設定を継承した公式コミカライズで、素顔のサムスが堂々と登場している。しかも、今まで本編では語られなかった幼少期、彼女を育てた鳥人族たちとの交流、そしてリドリーが宿敵になった経緯が明らかになったファン垂涎の内容である。
 
 これ以降には、ゲーム本編でも次作『メトロイド ゼロミッション』、『メトロイド アザーエム』でパワードスーツを身にまとわないサムスを操作するパートが導入。トップシークレット扱いだった過去の設定を取っ払う試みが相次いでいる。
 まさに長年続いていた秘密の終わりがここから始まったのである。

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(画像は『メトロイド 全2巻(任天堂株式会社 原作 / 田沢孔治 脚本 / 石川堅士 漫画)』 投票ページ | 復刊ドットコムより)

 余談だが、漫画版『メトロイド』は全2巻の単行本も発売されたのだが、2023年現在は絶版。残念ながら、電子化も実施されていない。絶版本の復刻リクエストを募っている「復刊ドットコム」でも、この漫画版の投票は受付中である。

 実は最新作『メトロイド ドレッド』にも、この漫画由来の場面が存在する。詳しく知りたい方はこちらのページから投票に参加してみてはいかがだろうか。

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(画像はメトロイド サムス&ジョイ(1) (コミックボンボンコミックス) | 出月こーじ, 任天堂 | 少年マンガ | Kindleストア | Amazonより)

 また、『コミックボンボン』に連載されたもう一作、『メトロイド サムス&ジョイ』は2022年に電子化を果たしている。こちらはゲームとは異なる完全オリジナルストーリーで、『ロックマン8 メタルヒーローズ』『ロックマン&フォルテ』のコミカライズ(そして、原作ゲーム版の一部ボスのデザイン)を手がけた出月こーじ氏が執筆している。
 少年漫画のツボを押さえた熱い展開、原作とは異なるカッコよさが表現されたサムスなど、この設定ならではの独自の見所が多い。電子化により、2023年現在も手軽に購入できるようになっている。興味があればお確かめいただきたい。

 ほかにも前述の『模倣犯』『ブレイブ・ストーリー』などで知られる作家の宮部みゆき氏が実は『メトロイド』のファンであったことが明かされ、その対談(ほぼ日刊イトイ新聞)インタビュー(METROID OFFICIAL SITE)が組まれるなど、長らく根付いていたマニアックなイメージを払しょくする試みも僅かながら実施された。
 
 これら様々な工夫と取り組みによって、『メトロイド』は今まで以上に門戸を開いたゲームとして再登場(再始動)を果たしたのである。

 前作までが渋く、コアなゲーマーを対象にしていた作品が久しぶりに新作を出すことになった際、どんな工夫を施せばいいのか。『メトロイドフュージョン』は、そうした新たなプレイヤーを招くための施策のモデルケースのひとつと言えるかもしれない。

『メトロイド フュージョン』以降の『メトロイド』が辿った軌跡と今

 『メトロイドフュージョン』の見所は、一連の工夫の数々に留まらない。”恐怖”に焦点を当てたゲームデザイン、それを煽り立てる演出は、20年以上が経った今もなお、ひとつのアクションゲームとしても稀有な魅力を放ち続けている。

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 特に最強状態のサムスに擬態した強敵「SA-X(エスエーエックス)」は、こちらをほぼ即死へと追い込む圧倒的な攻撃力、突然背後から現れては迫ってくる不意打ちの数々などで、プレイヤーに深刻なトラウマを植え付けるほどの存在感がある。

 「SA-X」に限らず、突発的に発生するイベント、不気味な姿へと変貌していく一部ボスなど、思わず”ドキリ”としてしまう要素は満載だ。

 一連の演出に合わせて曲調が変化する音楽も、プレイヤーの恐怖心を大いに煽る。会話イベントでも話題に応じ、無音になるといった音楽で空気を変化させる演出があり、その辺りは坂本氏の十八番が発揮されている。

 そうしたストーリー性の高さ、「SA-X」という恐怖の存在から、本作は坂本氏がその演出手法を確立させた名作、『ファミコン探偵倶楽部PARTII うしろに立つ少女』のアクションゲーム版に等しい仕上がりになっているのも面白いところだ。

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プレイヤーの見えない所で何かが暗躍している……という雰囲気作りは『うしろの少女』に近い。

 こうして初めて『メトロイド』を遊ぶ人を想定しながら作られた『メトロイド フュージョン』。だが、ストーリーが前作『スーパーメトロイド』の続きであること、ボス戦の多さと被ダメージ量の大きさから「EASY」でも手ごわい難易度であること、そして元々の個性でもあるダークな世界観もあって、若干のハードルの高さはあった。
 『スーパーメトロイド』の自由度の高い探索にほれ込んだプレイヤーからも、ナビゲーションによる”縛り”の強い設計は、否定寄りに見られやすかったのも事実だ。

 それらの事柄が響いたためか、日本国内では小規模なヒットに終わっている。

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 しかし、本作と『メトロイドプライム』を皮切りに『メトロイド』シリーズは本格的な再始動を果たし、以降、定期的に新作が供給されていくようになった。その意味でも『メトロイドフュージョン』(と、同時期の『メトロイドプライム』)は、本当の意味でシリーズ作品としての第一歩を踏み出した『メトロイド』だったと言えるだろう。
 実際、2003年から2010年までに、1990年代を遥かに上回る新作『メトロイド』が発売されている。まさに黄金期と表しても過言ではない盛り上がりぶりだ。

 ただ、2010年発売の『メトロイド アザーエム』発売後は、再びシリーズ展開が中断。5年の沈黙後、ようやく新作『メトロイドプライム フェデレーションフォース』が発表されるも、ファンの待ち望む新作ではなかった反発と銀河連邦への不信感(?)から、(特に海外で)炎上するほどの事件になってしまった。しかし、2017年の『サムスリターンズ』発売、『メトロイドプライム4』の開発発表によって挽回。

 そして、2021年に発売された完全新作『メトロイド ドレッド』で、改めて探索型アクションゲームの金字塔としての底力と根強い人気を見せつけるに至っている。

『メトロイド フュージョン』こそ、『メトロイド』のシリーズとしての始まりだった_028

 2023年現在も『メトロイドプライム4』の発売は一向に見えてこないが、『メトロイド』自体は現役のシリーズ作品として健在。また、2月9日には前述の『メトロイドプライム リマスタード』が発売された。(3月3日からはパッケージ版も発売中)

 『メトロイド フュージョン』も、同日から配信を開始した『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』への追加が予告され、3月9日より遊べるようになった。

 9年に渡って沈黙し続けていた『メトロイド』が本格的に歩み出すきっかけになった『メトロイド フュージョン』。「Nintendo Switch Online + 追加パック」への加入が必須になるが、今回の追加を機に遊んでみてはいかがだろうか。

『メトロイド フュージョン』こそ、『メトロイド』のシリーズとしての始まりだった_029

 とりわけ『メトロイド ドレッド』は遊んだが、『メトロイドフュージョン』はまだという方には強くお薦めしたい。プレイすることで、『メトロイド ドレッド』のストーリーがさらに面白い方向へと変化するからだ。

 可能であれば、HDリマスター版『メトロイドプライム』こと『メトロイドプライム リマスタード』も遊んで「メトロイド オモロイド」の真髄を堪能しよう。

 「異論はないな?レディー」(わかったな?レディー) 

ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop

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