Unity Technologiesは3月20日(月)から24日(金)にかけて、アメリカ・サンフランシスコで開催される「Game Developers Conference」(ゲーム開発者会議:以下、GDC)のセッションに先駆け、「Unity ゲーミングレポート 2023」を公開した。
本稿ではこちらのレポートに基づき、以下に記述する5つのトレンドを軸にその内容を紐解いていく。なお、日本語版のレポートは後日に公開となるため、記事中の図表などが英語版のものとなることはご容赦いただきたい。
1.小規模スタジオはより速く、短い期間でゲームを開発している
2.モバイル専用ゲームの開発数は2021年と比較して増加した
3.大規模スタジオはゲームのマルチプラットフォーム化に力を入れつつある
4.2021年よりも多くのユーザーがモバイルゲームをプレイしている
5.ひとつのゲームのライフスパンは年々増加傾向にある
本レポートの作成に用いられている資料は、いずれもUnity のリアルタイム開発プラットフォームと、Unity ゲーミングサービスの製品ポートフォリオから得られたもの。また、一部にはironSourceの電子書籍「The 2022 modern mobile consumer: App discovery and monetization」のデータも含まれている。
1.小規模スタジオはより速く、短い期間でゲームを開発している
まずひとつ目の大きな傾向が、小規模ゲーム開発スタジオの間ではリリースまでの期間が短くなりつつあるといったものだ。2022年にはインディースタジオの62%、中規模スタジオの58%が制作開始から1年未満で出荷にいたっているという。
そのうえで、小規模スタジオの開発者の労働時間は1.2%減少している。つまり、開発期間の短縮は長時間労働に起因するものではないというわけだ。この効率化の背景にはDevOps【※】ツールによるワークフローの合理化や、多岐にわたるアセットの活用があるとされる。
※DevOpsとは、開発チームと運用チームが協力して迅速かつハイクオリティなサービス提供を行うための考え方や仕組みを指す。
特にアセットの面について言えば、小規模スタジオの62%が5〜14種類のアセットパッケージを運用している。58%のスタジオが制作開始から最初の2週間以内にアセットを使用しており、これはゲーム制作にあたって必要な素材を用意するのに開発チームのリソースを割く必要性が薄れつつあることを意味する。その分、開発チームはゲームプレイの調整や改善に集中できるというわけだ。
また、小規模スタジオの46%がプロトタイプにかける期間を1か月以内に抑えていることからも、アセットを活用することで効率よくさまざまなアイデアを実験できていることが読み取れる。Unity Asset Storeを活用するスタジオは、利用しないスタジオと比較して約20%も早く出荷におよんでいるという。
現代のゲーム業界全体のクリエイターにとって最大の課題のひとつが、プロジェクトが当初の目的から肥大化しないようコントロールし、期限内にリリースを達成すること。こうした課題を乗り越えるため、多くのスタジオが「Unity Cloud Build」や「Unity Version Control」といったDevOpsツールを採用し、チーム内でのやり取りの効率化とエラーの防止に役立てている。こうしたツールの採用について、69%のスタジオがリリースまでの期間短縮のために運用していると回答した。
2.モバイル専用ゲームの開発数は2021年と比較して増加した
ふたつ目の大きな流れがモバイルゲームの発展だ。2022年にはほぼあらゆる規模のスタジオがモバイル専用ゲームの制作により力を入れており、特に大規模スタジオの成長が目立つ。開発元のスケールごとに2021年からの成長率を示した以下のデータでは、大規模スタジオの成長率は44%ともっとも高くなっている。
こうした背景には、モバイル端末自体の性能向上もあり、さらにハイクオリティなゲームを制作することも可能になってきていることがあるという。またモバイルゲーム市場の認知度の高まりによって、すでに成功しているIPをモバイルゲームプラットフォームに持ち込むことで新たな収益源とする動きも見られるようだ。
経済的な逆風の中でもゲーム開発の勢いは衰えず、全スタジオを累計した制作本数は2021年と比較して15.7%増えている。特に欧州を中心とした中規模スタジオの成長率はいちじるしく、トルコでは260%、ノルウェーでは200%、フランスでは196%(それぞれ前年同期比)といった大きな発展を見せている。
スタジオの規模を問わずアクションゲームとアドベンチャーゲーム、RPGは数多く制作されており、小規模スタジオの間ではパズルゲームも人気が高い。一方で50人を超える大規模なスタジオでは、レースゲームやスポーツゲーム、大規模なマルチプレイヤーゲームやバトルアリーナといったジャンルを手がける傾向が強いようだ。
3.大規模スタジオはゲームのマルチプラットフォーム化に力を入れつつある
3つ目の傾向は、大手のスタジオでは作品をマルチプラットフォームで展開する傾向が強まっているというもの。反対に、小規模なスタジオは単一プラットフォーム戦略へ傾きつつあるという。
マルチプラットフォームゲームの利点として、まずユーザー数の増加が挙げられる。他のプラットフォームで成功したコンテンツをほかのプラットフォームで再リリースすることは新コンテンツを作るよりもコストが低く、そのうえ新たなユーザー層を開拓し、さらなる利益を得られるようになるというわけだ。
また、異なる機種間でもマルチプレイを遊べるクロスプレイ機能を導入することにより、単一プラットフォームと比べて総合したユーザー数の増加が見込め、これはオンラインゲームにおけるマッチメイキングの改善につながる。
こうした理由から、大規模なスタジオではマルチプラットフォーム戦略にさらに力を注いでおり、2022年に制作されたマルチプラットフォームのゲーム数は2021年と比較して16%、2019年と比較して110%増加している。また、大規模スタジオの実に88%がクロスプラットフォームゲームを制作しているという。
マルチプラットフォーム化にはさまざまなハードウェアに向けた最適化などの作業が不可欠であるが、現在では「Game Server Hosting」や「Matchmaker」、「Cloud Content Delivery」といったツールが提供され、こうした課題の解決に活躍している。
またゲームを複数のプラットフォームに導入する場合、最初にどこのプラットフォームを選ぶかが、次なるプラットフォームの選択に関わっている可能性があるとレポートでは主張されている。例えば、家庭用ゲーム機向けに開発を行っているスタジオは、PCやVRゲームも手がける可能性が非常に高いそうだ。
下の表は、おもに家庭用ゲーム機向けのゲームを開発しているスタジオの、70%がPCを、51%がVRデバイスを副次的なターゲットとして選んでいることを示している。
なお、マルチプラットフォームのゲームの開発元は、最初のプラットフォームにデスクトップPCを選ぶ割合が高い。PCは、マルチプラットフォームタイトルの開発者の76%にとって第一のプラットフォームとなっている。
このように大規模スタジオの間ではマルチプラットフォーム戦略がトレンドとなっているが、その一方で中規模以下のスタジオは多くが単一のプラットフォームでのみローンチする方式を採用している。下の表は、小規模なスタジオの約90%がひとつのプラットフォームでのみリリースしていることを示したものだ。
こうしたプラットフォームの選択は、開発するゲームそのものがシングルプレイか、マルチプレイかという点とも関連しているようだ。例を挙げるとVRデバイス向けに開発するスタジオの84%がシングルプレイヤーとマルチプレイヤーの両方のゲームを開発しているが、その一方でブラウザ向けのウェブゲームを制作するスタジオでは37%がマルチプレイヤーのゲームのみを制作している。
4.2021年よりも多くのユーザーがモバイルゲームをプレイしている
4つ目のトピックは、2022年では2021年以上にモバイルゲームのユーザーが増加しているということ。モバイルゲームの世界的なデイリーアクティブユーザーは、中央値で8%増加したという。
ただし全体的な傾向としてプレイヤー数は増えつつあるものの、有料アクティブユーザーの割合は2021年から2%減少。この流れには、モバイルゲームプレイヤーが直接料金を支払ったり、サブスクリプションサービスに加入することよりも、広告やアプリ内購入の形態を好む傾向にあることが背景にあるようだ。
広告収入とアプリ内購入による収益のバランスはジャンルごとに異なる。ワードゲームでは広告からの収益が占める割合が2021年と比較して48%以上増加し、全ジャンルの中でも特に広告収益に傾いた形となった。その一方でシミュレーションゲームはアプリ内購入の収益に大きく依存していたりと、ジャンルにあわせたマネタイズの戦略を考えることも重要となることがうかがえる。
また広告を活用したゲームは、アプリ内購入のみのタイトルよりも維持率が高いことも示されている。中でも、プレイヤーがゲームを進めるのに役立つアイテムを提供したり、動画を視聴して追加のライフを獲得したりといった「リワード広告」と呼ばれる類のものは、プレイヤーをゲームに引き留め続ける力を持つ。特にモバイルゲームでは、プレイヤーを維持することは収益に密接に関係しているのだ。
5.ひとつのゲームのライフスパンは年々増加傾向にある
最後のキーワードとして取り上げられているのは、ゲームの「ライフスパン」だ。2022年の1年間でゲームの寿命は33%延びており、特に50人以上におよぶ大規模なスタジオの約84%がひとつの作品を半年以上にわたって更新し続けている。一方で小規模スタジオにおいては、ゲームを半年以上アップデートし続ける割合は55%程度にとどまる。
プレイヤーベースの維持のため、もっとも広くとられている手段が実績とチャレンジ機能だ。以下の図では、調査対象となったスタジオの68%が実績・チャレンジ機能を導入していることが示されている。次いで、67%がゲームの中心となるコンテンツのアップデートを行い、48%がリーダーボード機能を採用している形である。
中規模以上のスタジオではこうしたプレイヤーの保持の取り組みを重要視する傾向が強く、さまざまな手法が併用されている。近年では特に、バトルパス制の採用が目立っているようだ。
本レポートでは2022年をゲーム業界にとって“変化の年”と称している。経済的な逆風の中でも、ゲーム開発者と業界全体は新鮮なアイデアを活かした魅力的なコンテンツを提供し、ビジネスを維持し続ける方法を見出してきたとされる。
モバイルゲームの発展もいちじるしく、プレイヤーの側もモバイル端末を通じた没入感の高いゲームプレイに慣れつつあり、参入するスタジオも増えているため、この先も革新的なタイトルの登場が予想できるとのこと。将来的にも経済的な圧力は増加することが予期されているが、プレイヤーベースの維持や収益化といった課題に対する解決法と素晴らしい作品が登場することを期待する、と締めくくられた。
また、ゲーム開発におけるAIの活用にも注目が集まっており、すでに画像や音楽、映像、コーディングを行うAIは開発の中で活躍をはじめている。UnityではAIの目標を「単純作業をAIが請け負うことで開発者の生産性を向上させ、ビジュアルやストーリー、ゲームプレイの洗練にもっと時間をかけられるようにすること」と定め、今後もコンテンツ開発において役立つようなものを作り続けていく姿勢を示している。
プレスリリースの全文は以下のとおり。
Unity ゲーミングレポート 2023公開 ゲーム産業の回復力が明らかに
ゲームスタジオは開発の最適化とゲームの長期継続のための機会を見出していることが明らかに
リアルタイム3D(RT3D)コンテンツの制作・運用のための世界有数のプラットフォームであるUnity(NYSE:U)(本社:サンフランシスコ)は2023年3月14日、「Unityゲーミングレポート2023」を発表し、2022年は経済の逆風にさらされたものの、ゲーム業界の創造性と革新性は堅調であったことを明らかにしました。本レポートは、あらゆる規模のスタジオがゲーム制作の複雑さを乗り越えられるようサポートするためにゲーム開発の現状に関する新鮮で実用的な洞察を提供します。データはリアルタイム開発プラットフォーム「Unity」と、モバイル、PC、コンソールゲームまでを一貫してカバーするソリューションである「Unityゲーミングサービス」から取得されたものを用いて、ゲーム業界全体に関する独自の見解を示しています。今年のレポートでは、世界中で非常に人気のあるソーシャルゲームの大手開発会社であるZynga、人気のモバイルヒット作「マーベル・スナップ」を開発した受賞歴のあるスタジオSecond Dinner、高い評価を受けたMMO VRゲーム「Zenith: The Last City」を開発したRamen VRなど、複数の著名スタジオからの見解やアドバイスを新たに掲載しました。
Unityゲーミングレポート2023は、2022年に経済的な変化や課題が発生した一方で、ゲーム開発者やゲーム業界全体が回復力と強さを見せたことを紹介しています。開発者は、効率化、最適化、発売後の取り組みに注力しました。ほとんどの小規模スタジオは、12ヶ月以内にゲームをリリースしており、なおかつ労働時間を短縮しながらそれを実現しています。
また、スタジオはその規模に応じて、異なるプラットフォーム投資戦略を取っていました。大規模スタジオでは、マルチプラットフォームやクロスプラットフォームの開発が前年比で増加しましたが、小中規模のスタジオの大部分(90%)は単一プラットフォームでの開発を選択しました。すべての規模のスタジオで一貫しているのは、発売後のサポートを優先することであり、開発者は既存のプレイヤーベースをより長く維持するために注力し、ゲームの寿命は33%延長されています。将来について、Unityゲーミングレポート2023では、クリエイターの生産性を高め、ゲーム制作に必要な時間とリソースを節約するために、ジェネレーティブ AIが開発プロセスにさらに関与するようになると予測しています。
UnityのCreate部門担当SVP兼GMであるMarc Whittenは、以下のように述べています。「厳しいマクロ経済環境の中で、素晴らしいゲームを作り続ける開発者コミュニティの情熱、創意工夫、執念を目の当たりにして、感動しています。Unityでは、この不確実な時代において、クリエイターがビジョンを実現するためのサポートを続けていきます。トラブルシューティングに費やす時間を減らし、ゲームの開発、運用、拡大にもっと時間をかけられるよう、開発プロセスの効率化と最適化を支援する最高クラスのツールやソリューションを備えたプラットフォームを提供することに全力を尽くします。
Unityゲーミングレポート2023の主要な調査結果:
●小中規模のスタジオでは、ゲームのリリースまでの期間が早く、労働時間が短いため、効率性が重要である
– インディーズの62%が1年以内にゲームを出荷し、小中規模のスタジオ全体で、労働時間が平均で1.2%短縮されている(短縮分は開発者1 人当たりの5年分の総労働時間に相当)。
●投資を最適化するため、スタジオはその規模に応じて、開発するプラットフォームの数を戦略的に決めている
–小規模スタジオの90%近くが単一プラットフォームでリリースしている一方、大規模スタジオは2022年に制作したマルチプラットフォームのゲーム数を2021年と比較して16%増加させている。また、大規模スタジオの88% はクロスプラットフォームに投資している。
●開発者は既存ゲームの寿命延長とプレイヤーの囲い込みに注力している
–モバイルゲームの寿命は昨年比で33%増加した。50人以上のスタジオの約84%が、6ヶ月以上ゲームを更新しています。
Unityは、2023年のGame Developers Conferenceにおいて、ゲーミングレポート2023 に掲載された開発者によるクリエイターラウンドテーブルを開催し、エンドツーエンドのゲーム開発、マネタイズ、運営の現状と将来について業界リーダーが業界動向について議論する予定です。このラウンドテーブルやその他のUnity GDCセッションの詳細については、 https://unity.com/events/gdc2023をご覧ください。
本レポートは以下より無償でダウンロード・閲覧できます。現在は英語版のみ公開しています。後日、日本語版を公開予定です。
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社について
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社は、リアルタイム3D(RT3D)コンテンツを制作・運用するための世界的にリードするプラットフォームである「Unity」の日本国内における販売、サポート、コミュニティ活動、研究開発、教育支援を行っています。ゲーム開発者からアーティスト、建築家、自動車デザイナー、映画製作者など、さまざまなクリエイターがUnityを使い想像力を発揮しています。Unityのプラットフォームは、携帯電話、タブレット、PC、コンソールゲーム機、VR・ARデバイス向けのインタラクティブなリアルタイム2Dおよび3Dコンテンツを作成、実行、収益化するための包括的なソフトウェアソリューションを提供しています。1,800人以上在籍するUnityのR&Dチームは、外部パートナーと協力して最新リリースやプラットフォームのために最適化されたサポートを保証することで、Unityをコンテンツ制作の最先端であるようにし続けています。Unityのクリエイターが開発したアプリは、2020年で月50億回以上ダウンロードされました。
※Unityおよび関連の製品名はUnity Technologiesまたはその子会社の商標です。