モダン操作で技を出そう!
その後も、首を捻りながらソニックブームすらままならないガイルを使い続けていると、
「もうモダンでガイル使えば?」
と友人からの一言。
「いやー、モダンかー。」
さて、急な登場となってしまいましたが、“モダン” とは、本作から新たに取り入れられた“モダンタイプ” と呼ばれる操作方法のことで、これを使えば、コマンドがかなり省略され、ただボタンを押すだけでも必殺技が出せるようになります。
ちなみに、このモダンタイプに対し、コマンド入力によって必殺技を出す従来の操作方法は、“クラシックタイプ” と呼ばれます。
モダンタイプはクラシックタイプと比較して、コマンドが簡略化されただけでなく、攻撃ボタンも削減されています。その都合上、クラシックタイプで使える技の全てがモダンタイプでも使用できるというわけではありません。今回持ちキャラ候補とした新キャラたちは技が多彩で、技が削減されていそうだという懸念がありました。
それに、ただでさえ久々のストリートファイターですから、不慣れな新しい操作方法を無理に取り入れて状況をややこしくする必要はありません。
そういった考えから、これまでの対戦ではクラシックタイプでプレイを続けていました。
……というのは全て建前。これらの要素もクラシックタイプを使っている理由の一部ではあるのですが、「コマンドを使ってこその格闘ゲームじゃないんか」というのが本音。ヘタクソなくせに変な美学を持ち、そこにこだわってしまっているのが、非常によろしくないと思います。
「クラシックでやってたって技出ないんだから、モダン使うしかないっしょ。」
「でもなー、モダンって補助輪感強くてなー。」
「もうそんなプライド捨てろよ。」
「何ていうか、ゲームシステムに負けたって感じがしちゃって。」
「いや、プロでモダン使ってる人もいるよ?」
「そうなの?」
「技が出しやすいってのはシンプルに大きなメリットだからなー。」
プロのプレイヤーにも使っている人がいるということを聞き、多少こちらのプライドも氷解しつつある中、追加で友人から言われたのが、
「スマブラだと思えよ。」
──衝撃的な一言でした。
リュウやライバルのケンも参戦している大人気対戦ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズでは、Bボタン1つと方向キーの組み合わせによって、「B、横B、上B、下B」という4種類の必殺技を出すことができます。
しかし、リュウとケンはスマブラよりも複雑なコマンドが勝負のカギを握る『ストリートファイター』のキャラクター。そのため、彼らの参戦決定を最初に聞いた時には、簡潔な必殺技システムを持つスマブラと『ストリートファイター』の相性はよくないように感じられ、下手をすると双方の良さが打ち消されてしまうようなゲスト参戦になってしまうのではないだろうかという疑念がわいたのです。
しかしながら、その懸念は杞憂に終わりました。
なんと、スマブラに参戦したリュウとケンは、スマブラで使用されてきたBボタンで出す必殺技に加えて、ストリートファイターでの波動拳や昇竜拳のコマンドを入力してからBボタンを押すことでも必殺技が出せるようになっていたのです。
つまり、リュウとケンは、ストリートファイターでお馴染みのコマンドはしっかりと残したまま、必殺技そのものはストリートファイター初心者であっても簡単に出せるようなキャラクター設定だったのです。
しかも、ストリートファイターコマンドを使って出した必殺技は、通常のスマブラ必殺技よりも性能が上がるというオマケつき。これにより、ストリートファイターとスマブラのコマンドを使い分ける意味が発生しており、2つのゲームの要素を上手くかけ合わせたシステムに感動を覚えたことを覚えています。
──そうか、スマブラか。そう思えばいいのか。
不思議なもので、友人のこの一言だけで急速にモダンタイプへの抵抗感が消えうせました。単純な人間です。
……ということで、話は少々脇道に逸れてしまいましたが、ソニックブームが出ないというこの絶望的な状況を鑑みると、モダンタイプの仕様もやむなしです。気持ちを切り替えて、モダンタイプのガイルで友人との対戦に臨むことにしました。
めっちゃソニックブームが出ました。
いや、良いですね、モダンタイプ。とてもやりやすいです。コマンドを練習して技が安定して出せるようになるのはその過程を含めて楽しいものですが、簡単にかっこいい必殺技が出せるというのもまた楽しいもの。シンプルに対戦も華やぎますしね。
そして何より、スーパーアーツも簡単に出せるようになるというのが素晴らしい。ガイルのスーパーアーツは結構コマンドが複雑なのですが、モダンタイプではそこを気にする必要はほぼほぼありません。
……いや、まぁ、勝てるかどうかは別問題なんですけれども。
ソニックブームやサマーソルトキックを出せたとてという話であったことを噛み締めつつ、たっぷりと敗戦を味わい尽くします。
必殺技が出るようになったガイルに気を良くして、「どうせモダンタイプでプレイするなら、このキャラ使わせて」と次に私が選んだのはザンギエフ。
彼はコマンドを入力して繰り出す “コマンド投げ(コマ投げ)” と呼ばれる技を主体とするキャラクターで、『ストリートファイターⅣ』の頃に持ちキャラにしようと練習をしていたこともある位には好きなキャラクター。
しかし、彼の主力であるコマ投げが少々曲者でして、そのコマンドには、 “一回転コマンド” と呼ばれる文字通りレバーを一回転させるという鬼畜の所業かのようなものを筆頭に、他キャラクターと比べて複雑なものが揃っています。
一応、『ストリートファイターⅣ』での練習経験から、一回転コマンド技を安定して出せるようにはなったのですが、他のキャラクターの魅力とお手軽さに惹かれ、いつの間にか対戦で彼を使うことは無くなってしまいました。
コマンドの複雑さで使用を敬遠していたところに、簡単に必殺技が出せるモダンタイプの登場。モダンザンギを使えば、見える景色が一気に変わりそうな気がします。試してみる価値は大いにあると思います。
モダンタイプのザンギエフに操作キャラクターを切り替えると、あっという間に勝ち星を量産することができるようになりました。
これはいける……!これは勝てるぞ……!!
しかし、所詮はワンパターンな付け焼刃ザンギエフ。数戦後には動きを見切られてしまうようになり、崩れ落ちそうなほどの黒星を積み上げていくことに。
すっかり対戦というより組み手の様相を呈してくる中、気が付けば18連敗を喫していました。私の操作キャラもいつの間にかぬるっとザンギエフからディージェイに変わった時、「うん、この実力差だと絶対に勝てない」と、心が凄絶に折れました。世の中、絶対ということはあるのです。
そして、いつの間にやら対戦の張り詰めた空気感は無くなり、友人による『ストリートファイター6』講座が開講。これもまた、10年前と変わらぬ光景です。
友人曰く、キャミィのモダンタイプが初心者にもかなりオススメということで、この機会に色々と練習はさせてもらったのですが、
「差し合いで技ふりすぎだわ」
「待てないんだよ。性格的に向いてないんだよ」「俺がジャンプしたらキャノンスパイク、俺が飛び道具出したらアクセルスピン出せって言ってるだけだろ。何で出来ねぇんだこんな簡単なことが。」
「知るかよ、出ねぇんだよ技が」
「技が出ねぇことあるかよモダン操作でお前」
「問題はコマンドじゃなくて反応速度なんだよ。理論は分かってんだけどそれに指が追いつかねぇんだよ。」
……などという犬も食わないようなやりとりを繰り広げつつ、10年ぶりの友人との対戦会兼講義兼雑談会は幕を閉じました。嘘のように聞こえてしまうかもしれませんが、本当に楽しいひと時でした。いつも通り仲良く小競り合いが出来たので、私は満足です。
俺より弱いやつに会いに行く
さて、友人には完膚なきまでに叩きのめされてしまいましたが、このまま負けっぱなしで引き下がるわけにはいきません。ですが、友人との実力差はあまりにも大きく、この差を一朝一夕で埋めることは難しいでしょう。
となると、私が勝つために一番手っ取り早い方法は、私のレベルを上げることではなく、相手のレベルを下げること。つまり、私でも勝てそうな人間に対戦相手を変えてしまえばいいのです。なんとも後ろ向きな考え方ですが、これは退却ではありません。未来への進軍なのです。俺より弱いやつに会いに行く。
ということで、私が次の対戦相手として白羽の矢を立てたのが、妹です。
妹は、10年以上前から『MARVEL VS. CAPCOM 2 NEW AGE OF HEROES』などを初めとする様々な格闘ゲームでいい勝負を繰り広げ続けてきた相手。対戦相手にはもってこいです。
まずは『ストリートファイター6』の基本的なシステムのレクチャーを兼ねて、練習試合を数回行います。
しきりに「スト6、めっちゃカッコいいね」と言っている辺り、妹の気分も上々ではあるのですが、彼女もまた格ゲーコマンド苦手勢。必殺技を出すことにかなり苦戦しているように見えました。
そして、私のガイルも相変わらずソニックブームが出にくい不良品であるため、「実は今作からスマブラみたいな新しい操作方法が導入されましてね……」と、友人の言葉をそのまま拝借して妹にモダンタイプ操作をオススメ。
モダンタイプでの対戦をやり始めると、クラシックタイプで遊んでいた時よりも明らかに簡単に必殺技が繰り出せるようになり、我々兄妹のテンションは更に高揚。
特に、自由自在に投げ技が出せるようになったザンギエフを使っているときの妹の目はバッキバキ。「ザンギエフがこんなに爽快感あるキャラだったなんて」と、かなり楽しんでくれていました。
……ただ、モダンタイプに操作を切り替えて以降、妹に全く勝てなくなってしまったのが大問題。
何人にその凄さが伝わるのか分からないエピソードではありますが、妹は元々、難易度の高さで有名な激ムズアクションゲーム『GODHAND』をメッチャ楽しいと言いながら余裕でクリアしていくポテンシャルを持っている人物。
それだけアクションゲームへの素養があるわけですから、コマンドさえ単純であれば、私の動きを見切り、必殺技を的確に打ち込むなんてということは朝飯前。この連敗も必定というものでしょう。
私の操るキャラクターたちをバッタバッタをなぎ倒しながら「全ての格闘ゲームにこの操作方法を導入するべき」と語る妹の眼は、『GODHAND』をプレイしていたあの頃に戻っていました。……楽しんで対戦をしてくれているのは何よりですが、いよいよ勝てる気がしません。