“80~90年代のPCゲーム”には、得も言われぬロマンがある。90年代も終わり際になってから生まれた筆者にとって、それはどこか遠くの景色のようであり、同時に不思議と懐かしい情景のようでもあるのだ。
そんな「レトロPCゲーム風味」を完璧なまでに表現した作品が『機動戦艦ガンドッグ 太陽系物語』(以下、機動戦艦ガンドッグ)。まだ未発売の作品ではあるが、そのビジュアルのカッコよさ、設定からあふれ出す“80~90年代感”が多くのゲーマーの心を打ち、発表時から日本でも広く話題を呼んだ。
このたび試遊の機会にあずかった筆者だが、確かにその“レトロなロマン”は本物だったように思える。何をもって本物というかは難しいところだが……不思議な「懐かしさ」のような感触は抱いたのは間違いない。
本稿では中国・上海で行われた大規模インディーゲームイベント「WePlay Expo 2023」で体験できた試遊の内容をベースに『機動戦艦ガンドッグ』の作り込みをご紹介していく。なお本作は日本語版の発売も予定されており、今回の試遊でも日本語でのプレイが可能だった。
取材・文/久田晴
レトロPC風のビジュアル、UIがカッコよすぎてタイムスリップ気分が味わえる
『機動戦艦ガンドッグ』の何よりの魅力は、その“レトロっぽさ”あふれるアートの部分だろう。ゲームをプレイしているときはまるでタイムスリップしたかのような感触を抱いたし、画面右側にコマンドがずらりと並ぶユーザーインターフェースも雰囲気抜群。80年代にはまだ生まれてもいない筆者だが、謎の懐かしさに襲われる何とも言えない体験を味わった。
特にキャラクタービジュアルについてはオリジナルと、より80~90年代っぽさがきわだつ「ショウワ オマージュ」モードを搭載しているのもこだわりポイントのひとつだろう。同じキャラクターでも見た目の印象が大きく変化するので、新しい登場人物に出会うたびにチェックしてみたくなる。
ちなみに「ショウワ オマージュ」モードとオリジナルモードはゲーム中のいつでも設定から切り替えられ、いちいちメインメニューに戻る必要はない。
ゲームの進行はザ・アドベンチャーゲームといった具合で、宇宙船「ガンドッグ」の中を動き回りながらさまざまなキャラクターと会話したり、アイテムを見つけたりして進んでいく。
ビジュアルは徹底してレトロながら、ゲームプレイは現代的で親切な設計となっているのも特徴のひとつ。次にどこで何をすればいいかは明確にされているし、船内は部屋ごとにマップからテレポートできる仕様となっている。いちいち部屋を出て、廊下から次の部屋を選んで……といっためんどくさい操作は不要だ。また、試遊の範囲内では道にも進め方にも、ほぼ迷うことはなかった。
あまりにもしっかりしたキャラクター造形。ローカライズもキレイで世界に没入できる
さて、本作の主人公(名前は設定可能な模様)は宇宙船「ガンドッグ」に配置されたばかりの警備士官だ。要するに宇宙船内の刑事のようなポジションで、非殺傷とはいえ武器の形態も許されている。
ゲームは赴任された初日からスタートするので“あいさつ回り”からやっていくことになるのだが……ここで出会うキャラクターがものすごく濃い。
まず主人公の恋人であるヒロイン・カサンドラは驚くほどよく喋るし、何かとテキトーな性格で前の船からも降ろされた模様。さらにコネを使って主人公を無理やりガンドッグへ転属させたというのだから、もうめちゃくちゃである。とはいえ主人公に対する愛情は本物らしく、ゲーム最序盤では船内の案内人も務めてくれた。
あとは部屋の散らかり具合がすごかったり、チョコレートバーを大量に要求してきたりと、まさに天真爛漫系ヒロインの最たるもの……といったイメージだった。このちょっとオールドなキャラクター造形も、ビジュアルと相まってレトロな雰囲気を作り上げるのに一役買っていると言えるだろう。
このほかにも、やたらと迫力ある超メカオタクの女性整備主任やダウナーな雰囲気の艦長、渋カッコいい医師など、見た目も内面も強烈なキャラクターたちが次々に現れる。
ガンドッグは“小規模な宇宙船”という設定なのでキャラクター数が多すぎることもなく、ひとりひとりの個性が鮮烈なことも相まって、1日目のあいさつ回りを終えるころにはだいたいのキャラクター性を把握できたように思える。
中でも印象強いのが、赴任してきたばかりの主人公に突っかかってくる男・ハンセンの存在だった。
見るからにガラが悪そうでもある彼だが、その背景はいたってシリアスなもの。実は主人公はかつての戦争中に機体の不具合で出撃できず、その戦闘で部隊が壊滅した……という過去の持ち主なのだが、ハンセンはそのときのチームの生き残りなのである。
彼は部隊が壊滅したのは主人公が出撃しなかったせいだと考えており、赴任して早々に突っかかってきたというわけだ。
このように物語中における活躍に注目したいキャラクターが続々と現れてきた『ガンドッグ』だが、その魅力を引き立たせるためのローカライズが非常に丁寧であったことにも触れておきたい。本作のテキストボリュームは20万文字にも達するそうだが、キャラクターの口調やSF的な固有名詞もふくめ、かなり自然な翻訳が成されていた。
レトロPCゲーム風のビジュアルが目を引き、たびたび日本でも話題を呼んできた『機動戦艦ガンドッグ』。今回の試遊を経て感じたのは、本作がレトロな雰囲気づくりに本気であることはもちろん、同時に現代のゲームとしての作り込みも決して怠ってはいないということだ。
試遊の範囲内では本格的にストーリーが動き出すことはなかったものの、キャラクターの造形などから「面白い話が展開しそう」な感はたっぷりと漂ってきた。壮大なSF的世界設定を背景に持つ本作が、いったいどのような物語を紡いでいくのかにも期待したい。
『機動戦艦ガンドッグ 太陽系物語』はPC(Steam)向けの発売を予定しており、記事執筆時点では詳細なリリース日などは明らかにされていない。気になる方はウィッシュリストに登録して続報に備えよう。