「ミステリ」が好きだ。
実行不能な殺人事件とか、犯人と一緒に閉じ込められるクローズド・サークルとか、そういうのが大好物だ。ちょっとジャンルを広げて、サスペンスやホラーが入っているのもいい。「事件が起きて、その真相を明らかにしていく過程」が好きなのだ。
けれど私は、ミステリファンなら誰もが知る名作『かまいたちの夜』シリーズをプレイしたことがない。「こんや、12じ、だれかがしぬ」という有名なフレーズ以外の情報をシャットアウトし、いつかやる時のためにネタバレを避けながら、気付けばここまで来てしまった。
そんな折、初代『かまいたちの夜』の発売30周年を記念して『かまいたちの夜×3』がPS4/Nintendo Switch/PC(Steam)に移植されることを知った。光栄なことに、先行プレイのお声掛けまで頂いてしまった。これはもう、ミステリファンを名乗る身としてはやるしかない!
と、意気揚々とゲームを始めた15分後の画面がこちら。
なになに、何事?!
ミステリ小説を読み進める感覚で気軽に選択肢を選んでいたら、開始15分で頭からエンディングに突っ込んでしまった。流石に選択肢をテキトーに選びすぎたか……?
次は真面目にやろう、と気を取り直して再挑戦。今度はうっかり変なエンディングに分岐しないように、慎重に慎重を重ねて……。
……気が付いたら大惨事になってしまっていた。一体どこで間違えた???
バッドエンドを重ねるうちに、だんだんと分かってきた。このゲームは、プレイヤーが「傍観者」でいることを許してくれないのだ。
巧妙に張り巡らされた分岐に、先の予測できないシナリオ、想像力に訴えかけてくるビジュアル……ゲームの中のすべてが、プレイヤーを事件の「当事者」にするために作られている。小説や映画のように、ただ見ているだけでは事件は解決しない。プレイヤー自ら、事件を解決するために動かなければならない。
ビジュアルノベルという古典的な形式で、もはや「ミステリ体験ゲーム」とでも呼ぶべき没入感を与えてくれた『かまいたちの夜×3』は、長く愛される理由の良く分かる名作ゲームだった。この記事では、そんな『かまいたちの夜×3』の緊張感たっぷりなプレイ体験をお伝えしたい。
※この記事は『かまいたちの夜×3』の被害者/犯人/トリックといった重大なネタバレには言及していませんが、ストーリーや内容に関するネタバレがふくまれます。
文/逆道
編集/うきゅう
事件を解決するのは主人公ではなく「プレイヤー」
『かまいたちの夜×3』には、1作目・2作目のメインストーリーと、シリーズ完結編の3部作が収録されている。おおまかな流れはいずれも共通となっており、プレイヤーはクローズド・サークル(閉鎖空間)で起こる事件に巻き込まれた主人公として、選択肢を選びながら犯人を推理し、事件の真相に迫っていく。
重要なのは、主人公は決して名探偵ではないという点だ。主人公の推理として挙げられる選択肢の多くは間違っているうえ、間違った選択肢を選ぶと主人公がおかしな認識を抱えたまま物語が進行してしまう。
つまり、「詳しいことは分からないけど主人公が説明してくれるだろう」という気持ちでよく分からないままに選択肢を選ぶだけでは、まったく事件が解決してくれないのだ。
かといって、確定的な証拠が手に入るまで推理を先延ばしにしようとすると、野放しの犯人はこちらの都合などお構いなしに犠牲者を増やしていく。
ミステリゲーム攻略の常套手段である「情報が出揃ってからじっくり考え、確信が持てたら指摘」というやり方では事件解決が間に合わない。プレイ序盤で筆者が陥った大惨事もこのパターンだった。
逃げられない閉鎖空間で起こる惨劇を防ぐには、プレイヤー自身が自分の頭でトリックを推理し、犯人を的確に当てる必要がある。推理小説のように誰かの推理を追うだけでは事件は解決せず、プレイヤー自らが探偵となって主人公を導かなければならない。
推理をしなければ犠牲者が増える。だが、推理を間違えても犠牲者が増える。登場人物たちの命運は他でもないプレイヤーの手に委ねられており、プレイヤーを否応なしに事件の「当事者」側へと引き込んでいくのだ。
ちなみに、犯人の指摘は文字入力による名指しによって行うので、とりあえず選択肢を見て怪しい人を選ぼう、なんてこともできない。そのため、大勢の前で殺人犯を名指しで告発する緊張感もひとしおとなっている。
「読みきったらエンディング」ではない、いつ終わるか分からない物語
『かまいたちの夜』シリーズの特徴のひとつが、エンディング数の多さだ。ギャグ寄りのエンドから救いのない超バッドエンドまで多彩なエンディングが用意されているが、いわゆるグッドエンドに相当するものは非常に限られている。
そして、エンディング数の多さ故に「どこでエンディングを迎えるか分からない」というのが本作の重要なポイントだ。筆者が冒頭で遭遇したエンディングのように、軽い気持ちで選んだ選択肢が思わぬ結果に繋がることもあるし、ひとつの間違いが主人公を死に至らしめることもある。
しかも、『かまいたちの夜』シリーズでは「全部読みきったらグッドエンド」とも限らない。事件が長引くということはそれだけ犯人を野放しにしているということでもあるし、最後まで生き延びたところで、犯人を当てられなければ事件が解決しないまま終わる可能性すらあるのだ。
プレイヤーに分かっているのは、ゲーム内で惨劇が起こるということ、そしてその惨劇を引き起こした犯人がキャラクターたちの中にいるということだけ。「いつ終わりが来るか分からない」という緊張感は、先の長さが分からないゲームならではのものだ。
よく考えると、プレイヤーが置かれたこの状況は「こんや、12じ、だれかがしぬ」というメッセージを受け取った登場人物たちと似ていないだろうか?この先なにか良くないことが起こるということだけは理解しつつも、どうすれば惨劇から逃げられるのか、いつ惨劇が終わるのかは誰にも分からない。
自分が行うひとつの選択が、事件を良い方にも悪い方にも終わらせてしまうかもしれない。目線は違えど、プレイヤーと主人公は同じ緊張感を抱えて閉鎖空間の惨劇に挑むことになるのだ。
3部作ならではの没入感。登場人物とプレイヤーの感情がリンクする
実は『かまいたちの夜×3』に収録された3部作は、すべて話が繋がっている。
雪山のペンションを舞台にした「ペンション“シュプール”編」、孤島を舞台にした「監獄島のわらべ唄編」、そしてシリーズの完結編となる「三日月島事件の真相編」まで、1作目の主人公を始めとした共通の人物が何人も登場するのだ。悲惨な事件とともに展開される人間関係は、テレビドラマにも引けを取らない。
各編の間には時間の経過やちょっとした関係性のギミックがあり、順番にプレイすれば関係者の変遷を追うことができる。中には驚きの変化を遂げる人物もおり、前の作品で予めキャラクターを知っているからこそ、プレイヤーも主人公と同じ目線で違和感や驚きを感じられる作りになっているのだ。
そして「三日月島事件の真相編」ではなんと主人公切り替え機能が追加され、複数のキャラクターが操作可能に。操作できる主人公はいずれも1作目から登場しているキャラクターばかりであり、様々な惨劇とその結末を見てきたうえで彼らを操作できるのには、ちょっとした感動がある。
『かまいたちの夜』は、シリーズを通してキャラクターはすべてシルエットで表現されており、細かい容姿や表情が映像として見せられることは一切ない。プレイヤーは3部作のプレイを通じて、自分なりのキャラクター像を頭の中に描いていくことになるだろう。
平和な時間から惨劇の舞台へ、様々なシーンのシルエットを繋ぎ合わせながらキャラクターの動きを想像していると、自然と彼らに対する理解が深まっていく。そうしてキャラクターへの愛着が湧くほど、自分の手で事件を解決しなければという気持ちもまた強くなる。その感情はきっと、主人公たちが物語の中でずっと抱き続けている気持ちと同じものだ。
「このキャラクターを助けたい」と思ったときにはもう、プレイヤーは事件の「当事者」のひとりなのだ。
冒頭でも語ったように、『かまいたちの夜×3』はプレイヤーを「傍観者」のままでいさせてくれないゲームだ。犠牲者が増える緊張感、いつ終わるか分からない物語への不安が画面越しに主人公とプレイヤーの立場を一致させ、プレイヤーを「傍観者」から「当事者」にしていく。
主人公と共に考えを巡らせ、バッドエンドに行き当たりながら、どこで間違えたのか? どうすれば救えたのか? それを確かめるために何度もやり直してしまう。まるで自分がその場にいるかのようにのめり込み、グッドエンドを掴むことができた時の達成感は格別だ。ぜひ実プレイで味わってみてほしい。
なお、今回はネタバレに配慮して詳細を伏せているが、『かまいたちの夜×3』はミステリ作品としてもめちゃくちゃ話が面白い。ミステリ作品や推理ゲームが好きなら絶対に大満足できる内容なので、そういったジャンルが好きな方にもおすすめだ。
『かまいたちの夜×3』はPS4/Nintendo Switch/PC(Steam)へ向けて9月19日より発売される予定だ。チャプター選択機能も搭載され、隙間時間に少しずつ進めることもできるので、「なんとなくしか知らない」と思っていた方もこの機会に遊んでみてはいかがだろうか。