流派東方不敗は!
王者の風よ!
全新!系裂!
天破侠乱!
見よ!
東方は、紅く燃えている!!
……
ひどく心揺さぶられる物語に出くわしたとき、思わず人は泣いてしまう。それ自体はとても貴重な経験だし、願わくばそういう物語との出会いを、なるべく多く体験したい。
しかし、世は大情報化社会。多くの人の心を動かした名作も、その一部を切り出した「ショート動画」のような形で消化されてしまっていることも少なくないだろう。実際、作品を楽しむにも体力や時間が必要である以上、これだけエンタメが飽和していては、すべての作品を真正面から味わうのは現実的ではないかもしれない。
筆者にとっての『機動武闘伝Gガンダム』も、そういう立ち位置にいた。話はなんとなく把握しているし、登場するガンダムもだいたい分かるし、クライマックスの展開も知っている……。だから今回、ある先輩から「“Gガン初見勢”として記事書いてみて!」と言われたときは、少し困ってしまったのだ。
筆者:
「『ガンダム』は好きですけど、逆に『Gガンダム』に関しては観たことないのに、ゲームとかでお話を知っちゃってるんですよ。だから新鮮な感動とか、あんまり感じられないと思いますよ」先輩:
「いーや、関係ないね。Gガンは泣けるよ。間違いなく、ガンダム史上でもトップクラスの名作だから」
そこまで言うか。ガンダム史上って、ガンダムが映像作品だけでどれだけあると思ってんだ。
いや、先輩にとっては若いころに観た『ガンダム』だから愛着が強いんだろう……私にとっての『Gのレコンギスタ』と同じように。そんなことを思いつつ、やれやれと私は『Gガンダム』を観始めた。
…(視聴開始)
…!(12話「その名は東方不敗! マスター・アジア見参」)
……!!(24話「新たなる輝き!ゴッドガンダム誕生」)
…………ッ!(44話「ネタバレ配慮」)
…………ッッ!!(45話「ネタバレ配慮」)
──────。
なに、まだGガンを観ていない!?
だからお前はアホなのだぁっ!!!
というわけで、わずか5日足らずで全49話をイッキ見し、めでたく先輩の思う壺にハマった私のご提供でこの記事はお送りいたします。ハズレでないのは分かりきっていたんですが……ここまでとは!
文/久田晴
※この記事は『機動武闘伝Gガンダム』のストーリーの核心部分には触れていませんが、軽度のネタバレをふくみます。
俺のこの手が真っ赤に燃える!──ガンダムの常識からかけ離れた“拳”のバトルは今なお斬新
さて冒頭でも簡単にお伝えしたように、自分は『Gガンダム』の視聴前から、本作が「圧倒的に異質なガンダム」であることはなんとなく知っていました。
最初に世界設定から紹介しますと、本作で描かれるのは他のガンダム作品のような「戦争」ではなく、ガンダム同士が(基本は)一対一で戦う「ガンダムファイト」。これは世界各国のコロニー同士による代理戦争のようなもので、国を代表するガンダムが戦い、優勝した国が覇権を手にするという形になっています。これだけでもかなり異質。
さらに特殊なのが、その戦闘スタイル。ガンダムと言えばビームライフルとかバズーカとか使う印象がありますが、『Gガンダム』の戦闘の大半は格闘戦。しかもド派手な必殺技を交えた、プロレス的な“殴り合い”がガンダム同士で繰り広げられる作品です。筆者が知る限り、ここまで殴り合うガンダムは他にない。
「シャイニングフィンガー」「超級覇王電影弾」「石破天驚拳」などなどの必殺技は、どれも従来のガンダムに登場してきた“兵器”とはひと味異なるインパクトがあり、印象深いものを並べるだけでもキリがないほど。前口上も良くて、代表的なものだと「俺のこの手が真っ赤に燃える」とか、ゲームでも絶対といっていいほど使われてますからね。
今となっては『Gガンダム』の代名詞となり、受け入れられているこの戦闘スタイルですが、これをオルタナティブシリーズ【※】の一発目でやっちゃったのがすごい。私はゲーム等々で「Gガンと言えば格闘戦だよね~」というイメージが定着しているので、すんなり受け入れられましたが、果たして放送当時に観た人はどれほどの衝撃を受けたのやら……。
※オルタナティブシリーズ:正式には「ガンダム オルタナティブシリーズ」。初代『機動戦士ガンダム』をはじめとする「宇宙世紀」以外の世界設定で描かれたガンダム作品の呼称。
また「クセがある」では言い表せない一部メカの“並外れた”デザインも『Gガンダム』に欠かせない魅力のひとつでしょう。いや、さすがに主役級の「シャイニングガンダム」とか、「ドラゴンガンダム」とかはストレートにカッコいいと思うんですよ。でもさ……。
さすがにこの辺はネタに振ってないですか? と思ってしまわないでもない。
※「ネーデルガンダム」風車小屋のフリをして過酷なガンダムファイトを11か月生き延びたとか。本当にそれでいいのか??
※「マンダラガンダム」お前本当にガンダムか……? と言いたくなる見た目をしてますが、意外にも作中の活躍はなかなかカッコよかったりします。
そして何と言っても外せないのが、作中に登場する数々の名言。もちろん必殺技の口上「俺のこの手が光って唸る!」とかも入って来るんですけど、とにかく熱いモノが多い。主人公のドモン・カッシュ役を演じる関智一さんを筆頭に、声優さんの演技力がバチバチあふれたセリフが次々飛んでくるんですよね。
クロスオーバー作品をやっていても『Gガンダム』のキャラクターが登場し、喋ると、なんか「Gガンの空気」ができてしまう……。もっと言えば、他作品のキャラまで『Gガンダム』の世界に巻き込んでしまうくらいのパワーを感じていました。実際、『Gジェネ』とかだと「シャイニングフィンガー」の特殊台詞が他作品のパイロットに用意されていたりもしますし。
さて、私の視聴前の『Gガンダム』知識はこんな感じ。詳細は伏せますが、物語の結末も、一部の名シーンも知っていました。最終回のタイトルが“すんごいネタバレ”なところとかも。
その上で抱いていたイメージが、「おバカなところもありつつ、熱いガンダムなんだろうなぁ……」という感じ。主人公・ドモンにしても、熱血系と見せかけた「背負ったものが重すぎ主人公」と聞いてはいたんですが……実際に観てみると確かにこれはそうとう重い。
というわけで、ここからはいよいよ本題となる『Gガンダム』を実際に視聴した感想をお伝えしていきたいと思います。
「師匠」の登場から加速度的に面白くなるストーリー。熱血主人公かと思いきや、想像よりはるかにおツラい…
『Gガンダム』を観はじめて、何より最初に抱いた感想が「ドモン、追い詰められすぎじゃない……?」でした。というのも、私がもともとゲームを中心に『Gガンダム』を知っていたため、ドモンへのイメージが「金ピカに光りながら突撃してすべてを解決する人」だったんですよね。
だから自然と『Gガンダム』全体も「ノリと勢いでなんとかしちゃう」タイプの作品だと思っていた節がありました。あったんですけど……話が……話が……思ったより……重い……!
少なくとも、本編序盤の雰囲気はかなり暗いんです。ドモンがなんかずっーと「ムスッ」としていて、ヒロインのレインに対しては八つ当たりとかもしちゃう。とはいえ、彼がそこまで追い詰められているのも仕方のない話でありまして。
この時点のドモンは「母は死に、父は冷凍刑」、しかもその元凶が兄・キョウジの裏切りであると聞かされている状態にあります。ガンダムファイトを戦いながら彼を追う必要もあるという、実はめちゃめちゃ忙しい上、家庭が崩壊して精神的にも消耗しているという惨状。しかも20歳と、ガンダム主人公にしては高めの年齢とはいえ、背負ったものに対してはまだまだ若すぎる。
といいつつ、ムスッとしている一方で「根は良い子なんだろうなぁ……」と思わされる描写も多いのも彼の魅力。敗北覚悟で主君を守った敵を見逃したり、時には自分が汚名を被ってまで、ある男を助けたり。精神的に未熟な面もありつつ、それでも熱さと優しさがちらほら表れるタイプの主人公、好きにならずにはいられないッ!
そんな彼の見え方が大きく変わるのが、冒頭でもちょっとだけ触れた12話「その名は東方不敗! マスター・アジア見参」。タイトルを読めば何が起こるか誰でもわかりますが、ドモンの師匠・東方不敗が本格的に登場する回です。ちまたでも「12話から一気に面白くなる」みたいな声はよく聞くので、これから観る人もここまでは観て欲しい。
この回、東方不敗先生がやたらめったら強いのも良いんですけど、師匠と再会したドモンのリアクションがそれ以上に良い。「お会いしとうございました…」って泣きながら師匠の拳を包み込むのがすっごく良い。ドモン、肩に力が入りっぱなしだったんだろうな……というのが見て取れる、序盤有数の名シーンだと思います。
ま、この後もおつらい展開がいっぱいあるんですけどね……! といいつつ、仲間と出会い、成長していくドモンの姿は観ているだけでも嬉しくなり、最高のフィナーレを持って作品は幕を下ろされるのでそこはご安心を。