私が初めて『青鬼』に出会ったのは小学生の頃。ニコニコ生放送においてある配信者がこのゲームを遊んでいるのを見たのがきっかけだった。
なんか怖い青鬼の顔、危機感を最大限にあおるストリングの音色、そして突然現れプレイヤーを追いかけまわす恐怖……。

『青鬼』が無料で遊べることを知った私はさっそくダウンロードしたものの、当時は若くホラーゲーム耐性も無かったため、仲の良かった友達を家に集め、小さなノートパソコンの前で震えながらプレイしたのだった。
あれから十数年……紆余曲折を経て『青鬼』は非常に大きなコンテンツへと成長した。そして、そんな『青鬼』の完全新作、『青鬼 ブルーベリー温泉の怪異』が、4月25日(金)よりNintendo Swtichで発売される。公式の発表によれば、PC(Steam)版も近日発売予定とのこと。
今回、ありがたいことに私はその新作をプレイする機会を頂いた。
プレイしてみて驚いたのは、あの頃と変わらない青鬼の姿と、あの頃から少しだけ違う舞台設定だった。レガシーと新要素、その二つが混じり合った本作は、多くの懐かしさと新鮮さで溢れている。
この記事ではそんな『青鬼』最新作、『青鬼 ブルーベリー温泉の怪異』のプレイ体験について、多少の自分語りを交えながら語らせていただきたいと思う。
多量のノスタルジーを浴びた後にこの記事を書き始めているので少々おセンチになってしまっているのは否めないが、お付き合いいただけると幸いだ。
また、弊誌では本作の先行プレイ動画も公開しているので、こちらもあわせてご覧いただきたい。
プレイして確かに感じた『青鬼』の“レガシー”
本作『青鬼 ブルーベリー温泉の怪異』での体験は、筆者がかつて遊んだ初代『青鬼』とほとんど同じものだ。
謎の温泉旅館を探索しつつ謎を解き、青鬼が現れたら全力で逃げ、ときにはクローゼットに隠れる……、ゲームプレイとしてはたったこれだけ、あの頃から変わらない非常にシンプルなものだ(なんなら途中から逃げるのに慣れてきて全然怖くないのも一緒である)。
変わらないのはゲームプレイだけにとどまらない。ツクール特有の無機質なメニューUIに謎のステータス値、ほぼ一音だけで恐怖感を演出する“あの”BGM、すっかりお馴染みの青鬼のデザインなど、かつての時代のものをそのまま用いている(4桁のパスワードが頻発する謎解きも健在だ)。
このように、ともすればやや「古臭い」仕様となっている本作だが、もちろんこれは開発力の不足から来るものではなく、意図的なものである。少なくとも私はそう考えている。
その理由の一つは、間違いなく私のようなオールドユーザーのノスタルジーを喚起するためであろう。実際、私が本作を遊び始めてまず感じたのは、「懐かしい」という感情であった。
はぐれてしまったたけし・卓郎・美香を探すために廃旅館をうろつくときも、初めて青鬼に出会ってトイレに逃げ込むときも、私は常にある種の感動を享受していた。
あの頃と変わらないスピード、あの頃と変わらない操作感でドアをくぐり抜け、間違って行き止まりの部屋に辿り着き、やられる……。そこで初めて、本作にオートセーブが無いことに気づき、先ほど述べたこのゲームの「レガシー」たる部分を存分に認識するのである。
一見チープな要素が、実はゲーム体験の大きな要素を占めていたのだ。BGMやUI、あるいは歩くスピードなどが違っていたら、おそらくこのような感覚にはならなかっただろう。「あの頃の恐怖を再び」というとやや陳腐に聞こえるかもしれないが、本作を遊ぶ中で私は間違いなくあの頃の——『青鬼』を初めてプレイした時の——恐怖を思い出したのであった。

各種設定はアップデート、令和の『青鬼』爆誕!
しかしながら、本作はただの懐古ゲーにあらず。令和のこの時代にリリースするにあたって、しっかりとアップデートされている部分も存在する。
まず大きな点として、メインキャラクターのビジュアルが一新されている。『青鬼』と言えば味のある手描きのイラスト(とくにたけしの顔は秀逸)が特徴的であったが、今回はこれら登場人物のイラストが一新、凛々しい顔立ちの美男美女となった。

さらに、舞台と設定にも若干の変更が加えられている。物語が温泉旅館となったのは言わずもがな、そして美香はなんとインフルエンサーへと変貌していた。
物語の冒頭シークエンスも、人の寄り付かなくなった廃旅館で動画を撮影しバズるためにこの地を訪れたという設定となっているが、なるほど確かに今風なホラーの導入である。
そしてもっとも「現代の『青鬼』」を象徴する新要素が、スマホの登場だ。
時代設定が新しくなるにともなって、本作では物語の途中からスマホを模した画面でキャラクターとチャットを楽しむことが可能となっている。チャットと言っても選択肢を選ぶというRPGライクなものだが、『青鬼』で女の子とチャットアプリをしているのはなんだか新鮮な気分になれた。

もちろん、メインとなる敵性存在・青鬼も本作で大幅にパワーアップしており、青鬼の新しい形態である「人面犬型青鬼」や「不定形型青鬼」が登場する。人面犬は移動スピードが速く逃げるのが非常に困難で、通常の青鬼と挟まれた際にはほとんど詰みのような状況に陥る。
そして不定形型は水の中から突如現れ、これまでとは一味違ったジャンプスケアを味わわせてくれるなど、ゲーム的な性能もこれまでの青鬼とは一味違うものとなっている。
加えて、これまで登場したはんぺん型や、たけし感染型などお馴染みのメンツも登場。もはや何でもありな気がするが、ともかくも青鬼の進化は留まることを知らないようである。
その他にも、廃旅館にはこれまで(少なくとも初代にはなかったような)さまざまなデザインが登場する。青鬼風のグラフィティや青鬼を模した彫像、そして青鬼を崇拝する(?)洞窟まで……。
『青鬼』シリーズを全作プレイしているコアなファンがどれほどいるのかは分からないが、昔のファンに向けたリメイクではなくコアなファンを喜ばせる要素も多分に含まれているようだ。
限界を越えろ—―。驚異の16倍速
新しいのはキャラクターの絵や小ネタばかりではない。ゲームの売り出し方においても、本作はしっかりと今風となっている。それを象徴するのが、明らかに無茶なスピードでのプレイを可能にした「16倍速モード」だ。
この16倍速を私もちょろっとだけ触ってみたが、まず常人にはまともなプレイが不可能なレベルで速度が速く、ネタかRTAの場合を除いては、どう考えてもちゃんとゲームを遊ぶのに適していない。
【朗報】『青鬼』最新作はなんと16倍速で遊べる。小学生ぶりに『青鬼』をプレイしたら、"あの頃"の記憶があふれ出してしまった話https://t.co/11NFUOnhvS
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) April 23, 2025
遠い昔、ニコニコ生放送で知った『青鬼』。小さなノーパソを友達と囲んで、震えながらプレイした「あの頃」が、令和の世に蘇る。16倍速で pic.twitter.com/7iki8d82ss
しかし、それこそがこの16倍速を際立たせている理由だ。ネタかRTA—―配信者にとってはなんとも甘美な響きではないか。
おそらく、本作がリリースされればこの16倍速が多用されることになるであろう。ストリーマーがゲームのプロモーションに大きく寄与するこの時代にあって、『青鬼』もしっかりと業界を見据えているということである。
それに、そもそも『青鬼』はゲーム配信文化によって一躍有名になったタイトルである。あるいは、本作はゲーム体験だけに留まらず、そのゲームを取り巻く文化そのものすらもう一度リバイバルさせようと目論んでいるのかもしれない(というか誰か16倍速で「『青鬼』配信」してください!! ほんとに!)。
映画に小説、そして舞台と、これまで様々な場所で活躍を重ね一世を風靡してきた『青鬼』。
そんな『青鬼』が、かつてゲームを遊んだ層と、IPを追い続けてきたファン、そして配信者をも取り込んだ完全新作として復活を遂げた。
一つ断りを入れておくと、私は特段『青鬼』のファンというわけではないし、初代と本作以外はプレイもしていない。映画も見ていないし舞台も鑑賞していない。私と『青鬼』を繋ぐものは、小学生の頃、クーラーの効いた部屋でぼんやりとニコ生を見ていたあの時代の思い出だけである。
もしかするとこの記事は、私の自分語りと勝手に感じたノスタルジーだけで構成されている可能性もあるだろう。
しかし、わずかでも同様の記憶を持つ人が、あるいは共感していただける人がいるのであれば、『青鬼 ブルーベリー温泉の怪異』は非常におススメしたいゲームの一つである。少なくともこのゲームは、私にあの頃の懐かしい記憶を思い出させてくれた。
このタイトルのリリースを受けて「『青鬼』配信」がまた見れることを祈って、この記事を終わろうと思う。
『青鬼 ブルーベリー温泉の怪異』は4月25日(金)よりNintendo Swtichへ向けて発売される。公式の発表によれば、PC(Steam)版も近日発売予定となっている。