Production Exabilitiesが開発し、Skeleton Crew Studioより6月19日に発売が予定されているインディーゲームの『ぎるぐる』。
イディッシュ語で「輪廻」という意味が付けられたタイトルだが、作品のテーマとし、輪廻に加えて仏教の教えなどの要素が盛り込まれているところも特徴となっている。
ゲームのリリースに先駆けて本作のプレス発表会が、渋谷サクラステージ内にある404 Not Foundで開催された。今回は、ゲームを開発陣に加えて声優の伊藤ゆいなさんや主題歌を担当した中島愛さんなどもゲストとして登壇。実機を使用したプレイでゲームの紹介なども行われた。
イベント冒頭に登壇したのは、本作のパブリッシャーであるSkeleton Crew Studioの代表取締役でインディーゲームのイベント「BitSummit」の主催も行っている村上雅彦氏だ。今回のプレス発表会の会場となった404 Not Foundは、まだ世の中に出ていないクリエイターの共創や出会いの場を作ろうという思いから昨年7月にオープンした場所である。運営と管理は、村上氏が代表理事を務める一般社団法人渋谷あそびば制作委員会が行っている。
この404 Not Foundの開設に会わせてスタートしたのがSkeleton Crew Studioと東急不動産が共同で行っているインディーゲームのクリエイターを支援するプロジェクトの「Game Creator Finding」だ。そして、その第1弾タイトルとして発売されるのが、今回の『ぎるぐる』である。

続いて登壇したのは、東急不動産 都市事業ユニット 渋谷事業本部 渋谷運営事業部 広域渋谷圏価値創造グループ グループリーダの花野修平氏だ。
同社が「Game Creator Finding」を共同で行うことになった理由は、「404 Not Foundという場所を通じて新規タイトルの制作やグローバルな企業とゲームを通じて繋がり、ユーザーやファンが訪れてコミュニケーションが行われることで、街に愛着が生まれるというサイクルをゲーム通じて行っていきたい」というものだと主旨を説明。
渋谷には昔からライブハウスや音楽関連のショップがあるように、同社はゲームを通じて事業を大きくしたりゲームを育てていったりしている街だと考えている。街作りをしていくなかで、プレイヤーや企業を街の文脈に組み合わせることが重要なのだと語った。

登場人物はクズばかり!? 仏教の四苦八苦からキャラクターを構築
村上氏と花野氏の挨拶が終わった後で、今回のイベントの本編である『ぎるぐる』のプレス発表会がスタートした。こちらで登壇したのは、Production Exabilitiesのディレクターを務めた奈良輪和氏と、ビッケ役の声優・伊藤ゆいなさん、ANNULUS代表の細越啓寛氏の3名だ。
この『ぎるぐる』は、6月19日にSteamとNintendo Switchで発売されるドラマツルギーリアルタイムタクティカルアドベンチャーゲームだ。現代社会と輪廻をテーマにしており、自分らしく生きるということを考えたくなるような作品になっている。

ゲームの舞台となるのは、生と死の間に存在する宙ぶらりんな世界「間世(はざまよ)」だ。そこで、誰よりも「生」に固執する少女三津真央と死を望んだ人々が出会い、様々な物語が紡がれていく。また、ゲーム中に登場する様々な選択によって、複数の結末が用意されているマルチエンディングが採用されているところも特徴となっている。
奈良輪氏によると、本作は「今の時代を映したゲームを作りたい」ということからスタートした企画だという。そのため、自身が書いたシナリオにも現代社会に対するアンチテーゼのような要素が盛り込まれている。
人は命があって生きているが、それは必ずしも好きなことをしているというわけではない、そうしたことから生まれる疑問などを投げかけたい──そんな思いが、作品の中に込められているのである。

ゲームには7人の女の子のキャラクターが登場するが、奈良輪氏によるとひと言でいうとクズばかりだという。「クズ」にはいろいろあるが、今回登場するのは悪いことをしているわけではないのに人に迷惑をかけてしまったり、あるいは自分が思っている以上に人に影響を与えてしまったりといったことを重ねていった結果、大変なことになってしまった人たちだ。
また、この『ぎるぐる』のユニークなポイントが、仏教の要素が盛り込まれているところである。仏教には「四苦八苦」という言葉があるが、そちらを登場する各キャラクターに当てはめているのだ。また、伊藤さんが声を演じたビッケは物語の案内人のような役割だという。
一方、他のキャラクターとは少し異なる立場としてビッケを演じた伊藤さんは、「たくさんのクズに巡り会って感情がぐるぐるしながら演じた」と、収録時のことを思い出しながら振り返っていた。
物語はすこしシリアスなものに仕上がっているものの、会話自体はライトなノリになっている。各キャラクターのキャスティングについても、そうした部分を考慮して選考されたとのこと。なかでもポイントとなったのは、今回ゲストで登壇している伊藤さんの存在であった。
奈良輪氏がシナリオを書くことができずに悩んでいたときに、ふとある声が聞こえてきたのだ。なんと、それが伊藤さんの声だったという。「あれ?この声どこかで聞いたことがあるぞ」と同氏は感じながら、そちらをイメージしてビッケというキャラクターを創り上げていく。そうしてさまざまなキャラクターのイメージが固まっていき、その他のキャラクターのキャストも選び進めていったそうだ。
伊藤さんは収録を「収録するたびに内容が深くなっていく。急ピッチで台本が出来上がっていくような感じであった」と語る。また、最初は『ぎるぐる』にオドロオドロしいイメージがあったものの、奈良輪氏がひとつひとつのセリフに感想を入れていったことで、収録を楽しく過ごせたようだ。
主題歌を担当した中島愛さんがゲストで登場!
続いて、本作の主題歌『ぎるぐる Reincarnation』を担当した中島愛さんがゲストで登壇した。この楽曲は、フリーのサウンドクリエイターであるyuigot氏がメロディとトラックを制作。歌詞は、ゲームのシナリオも書いた奈良輪氏が担当している。

楽曲の歌詞は、ゲームの世界観がよくわかるような哲学的な要素を含んでいながら明るく聞けるようなものに仕上げられている。これに関して奈良輪氏はyuigot氏と相談しながら作っていったと明かす。
また、今回中島さんに主題歌を歌ってもらうことになったのは、奈良輪氏が大ファンだったからというのが理由とのこと。「俺は中島愛さんに歌ってもらえたら、もうこれでクリエイターを辞めてもいいと思う」と関係者に相談したところ、見事その夢が叶うこととなった。

主題歌『ぎるぐる Reincarnation』は、ワーナーミュージックジャパンからのリリースが決定している。また、ゲームのリリースと合わせてサブスクサービスでの配信も開始される予定だ。
ゲームはアドベンチャーパートとタクティカルパートで構成
ゲーム自体は完成しているものの、体験版などはリリースされておらず、実際のゲーム内容はまだ明らかになっていない部分が多い。そこで、今回のプレス発表会では、奈良輪氏が実際にゲームをプレイしながら解説が行われた。
『ぎるぐる』では、「ドラマツルギー リアルタイムタクティカルアドベンチャーゲーム」というジャンル名が付けられており、「アドベンチャーパート」と「タクティカルパート」のふたつで構成されている。
まず、アドベンチャーパートは、オーソドックスなスタイルであった。キャラクターが登場しその会話をフルボイスで楽しみながら、物語を読み進めていく。
頻繁に選択肢が出たり、何かのコマンドのようなものを選んで場所を移動したりといったこともないため、ドラマを楽しむパートだと思えばいいだろう。そのため、自動で再生することができるほか、ログを表示して確かめることもできるようになっている。

このアドベンチャーパートでは、ときおり選択肢が表示される。このときに、選択肢によって友好度が変わり、ストーリーも変化する。場合によっては、仲間になってくれないキャラクターも出てくるほど重要な決断だ。さらに、エンディングも変化していく。
ちなみに、このアドベンチャーパートのテキスト量は27万字ほどだという。文庫本にたとえるならば2冊半ほどのボリュームとなっている。じっくりとゲームの世界観が楽しめるような作りになっているのだ。

もうひとつのタクティカルパートもかなりユニークな作りになっている。
一般的なタクティカルゲームのイメージでいうと、ヘクスなどのマス目がありターン制で移動しながら戦闘を繰り広げていくものが多い。
しかし、本作ではマス目などはなくリアルタイムでキャラクターを動かしながらバトルが行われる。どちらかというと、アクションRPG的なゲーム性に近いかもしれない。そのため、気がついたときは敵に囲まれてしまうなんてことも……。
ゲーム自体は6章立てになっており、それぞれすごろくのようなマップを移動していくようなスタイルになっている。丸はアドベンチャーパート、ギザギザで描かれているのはタクティカルパートとなっている。

タクティカルパートに突入すると、最初に出撃するキャラクターを選択。こちらでは、最大4人のキャラクターを選ぶことができ、プレイ中はひとりのキャラクターをメインに操作するほか、好きなタイミングでほかのキャラクターに切り換えることも可能だ。出撃する前に、使用するスキルやアイテムをボタンに設定することで準備が完了となる。
スキルは、スキルツリー形式で開放していくことで強化していくことも可能だ。アドベンチャーパートをプレイすることでキャラクターが増えるほか、どんどんキャラクターを育ててより有利にゲームが進められるようにしてくというところも、このゲームの面白いところである。


このタクティカルパートは、リアルタイムの陣取りゲームのようなものだ。出てくる敵を倒すのはもちろん、マップ内に点在する敵の拠点を攻撃し、自分の陣地にしていくことも必要だ。所持している拠点にはそれぞれ効果が存在しており、対応したバフがかかる。
さらに、敵の拠点を自分の陣地にすることで、バフの効果を変えることができる。たとえば、自分の陣地にした拠点の効果「防御力UP」を「移動速度UP」に変更することができる。逆に、敵の拠点を自分の陣地にすることで、敵キャラのバフを消すこともできるのだ。



このタクティカルパートで、もうひとつユニークな要素が「倒した敵を浄化することができる」点だ。浄化した敵は、なんと自分の仲間となって活躍してくれるようになる。勝手に拠点を落としにいったり、ビームを撃ってくれたりするのだ。

タクティカルパートは、40ステージ以上用意されており、中にはボスが登場するステージも存在している。ボスは攻撃が強力なうえ、攻撃によっては火傷を負わされてしまうなど、なかなかやっかいな存在だ。仲間のキャラクターを適宜切り換えながら、効率よく戦闘を行っていかなくてはならない。

また、マップ中にはショップも用意されており、さまざまなアイテムを購入することが可能だ。こちらではHPが回復する「海苔弁」などが販売されている。中でもユニークなのは「経験のアルガ」と呼ばれるアイテムだ。こちらは、経験値が100獲得できるというもの。つまり、ゲーム内のお金を使って、キャラクターを強化することができてしまうのだ。
アドベンチャーパートに興味があっても、タクティカルパートは苦手というプレイヤーのための、お助けアイテムのようなものだろう。

ということで、ゲームの実機プレイが終わり、今回のプレス発表会は終了。アドベンチャーパートではかわいらしいビジュアルとはギャップのある「死を望む」少女たちによる物語、そして戦術的なタクティカルパート。どちらも濃厚に楽しめる作品に仕上がっていそうだ。本作が気になる方はぜひSteamのストアページからウィッシュ登録をして、6月19日の発売を心待ちにしよう。