砂漠のど真ん中で水がなくなった……。
そんな大ピンチに、あなたならどうする?
オアシスを探す? それとも、商人を探して飲料水を売ってもらう?
いやいや、敵をブッ殺して血を抜いて水に変えて飲めばいいんスよ!
今回紹介する『デューン:アウェイクニング(Dune: Awakening)』は、“水”に関しては常軌を逸しているゲームだ。
本作は、2021年と2024年に劇場公開されたSF映画『デューン 砂の惑星 PART1/PART2』が原作なのだが、この舞台となる惑星には水が全然ない。そんな映画を題材とした本作もまた、上記の設定にめちゃくちゃ忠実なのである。
映画の世界観をそのまま画面上に再現した過酷な環境下で、殺人的な日差しを避けながら日陰を渡り歩き、巨大なサンドワームに恐怖しつつ、スカベンジャーをぶち殺して、水を確保する。
もし本作のプレイヤーの「脳内マップ」を描いたら、おそらく「水」の文字で埋め尽くされているだろう。それほどまでに水が手に入らない世界だ。
水を巡る攻防は他の作品とは一線を画しており、そのガチのサバイバルが「死ぬほど(文字通り)楽しい」作品に仕上がっている。ヒリヒリとした本気の命の駆け引きに飢えている人には、まさにうってつけのゲームだ。
「血で血を洗う」ならぬ「血で喉を潤す」くらい水不足な世界
『デューン:アウェイクニング』は、前述の映画2作品をベースにした、MMO&オープンワールド&サバイバル&クラフトをミックスさせたゲームだ。映画の世界観を踏襲した惑星を舞台に、生き残りを賭けた冒険を繰り広げる。
基本的なシステムは他のサバイバルゲームと同様で、マップを探索して素材を集め、拠点を建設しつつ、敵を倒してマップの最深部へと歩を進めるというもの。それに加えて、映画の設定である「あり得ないほど水がない」という設定を強烈なスパイスとして盛り込むことで、他作品との差別化が図られているのだ。
画面左下には「水分ゲージ」が常に表示されているのだが、ちょっとその辺を探索するだけで、みるみる減っていく。スポーツ飲料のCMかよ! ってツッコみたくなるくらい、喉がカラッカラになるのだ。
部活帰りの女子高生でも、そこまで喉は渇かないだろう。筆者のキャラはおっさんで、彼女たちより代謝が悪いはずなのに、この渇きっぷりとは……。いや、おっさんでも喉は渇くか。
ともあれプレイヤーは、ゲーム開始直後から水の確保に奔走することとなる。
水分ゲージには段階があって、多くなるほどスタミナにバフが付いて、より長くダッシュしたり、壁をよじ登ったりできる。逆にゲージが3分の1以下になるとスタミナの最大値が下がり、無くなるとHPが減少し始め、そのまま放置すると死んでしまう。
これほどまで水が大事な世界にもかかわらず、これといった水源と呼べるものはない。
では、どうやって水分を補給するのか。
その方法は……。
「たまに生えている露草にしゃぶりついて、わずかな水分を得る」
「敵を襲撃して、死体から抜き取った血を、“血液浄化器”にかけて水分を抽出する」
の2つだけだ。
前者はまだわかる。でも、後者はどうなのよ!?
ゲーム内では「血を飲みますがなにか?」と、ごく自然にティップスを表示してくるが、筆者は最初に目にしたとき、いったい何の説明をされているのかしばらく理解が追いつかなかった。

つまり本作のゲームプレイのサイクルをまとめるとこうだ。
「あー、もう100メートルくらいは探索したな」
「喉がカラカラんなってもうた」
「お、あそこにスカベンジャーがおるやん」
「ぶっ倒して血吸うたろ」
……ほぼ吸血鬼じゃん!
超危険なオープンスペースに仕掛けられた、悩ましいジレンマ
舞台となる惑星は、灼熱の太陽が照りつける砂漠に覆われている。
本作では、こうした過酷な環境を「日陰」や「熱射病」のシステムとして組み込み、悩ましくも楽しいサバイバル生活を実現している。
日中は殺人的な日差しがジャンジャン降り注ぐ。しばらく日なたに留まっていようものなら、すかさず画面上部に「日射病ゲージ」が現れてグングン上昇し、水分ゲージを奪っていく。そしてゲージがなくなるとHPをゴリゴリ削り、やがては死に至る。
そうならないために重要となるのが日陰だ。日射病ゲージが上昇しきる前に日陰に移動できればHPは減らず、ほっと一息できるのだ。日中に出歩く場合は、日陰から日陰を渡り歩いて、日差しを避けるルート・ファインディングが超重要となる。
また、夜間は日差しがないため探索がはかどりまくりだ。
本作では日が沈んでからがゴールデンタイムである。
ただし砂漠には、原作ではおなじみ&この世界観を象徴するモンスターである、巨大なサンドワームも生息している。砂漠をドタバタと騒がしく渡ると、その振動でサンドワームを呼び寄せてしまうのだ。
サンドワームは倒すことができないうえ、もし食べられてしまうとインベントリー内のアイテムを全ロストしてしまう。しかも食べられたアイテムは回収できないハードコア仕様だ。
このサンドワームに追いかけられるときの恐怖感たるや……。

要するに、本作における日中のオープンスペースは、死を意味する超危険エリアなのである。
日射病を避けるため急いで日陰に駆け込みたいのに、走るとドラムロールのような騒音が地面に鳴り響き、無敵のサンドワームを呼び寄せる……。まさに負のループだ。

壮大なSF映画の要素を緻密に精査して水に集約させたスマートさ
本作の行動原理はすべて水に起因する。
熱射病は日陰にいれば避けられるし、サンドワームの脅威は砂漠においてのみだ。しかし水は常に消費し続ける。「水がなくなったら死ぬ」という枯渇感が、本作ではプレイヤーを突き動かすエンジンとなる。
本作最大の特徴は、原作映画でも印象的に描かれていた水を、ゲームシステムの根幹に据えて、そのほかのサバイバルゲームでお馴染みの各要素をすべて切り捨てた潔さにある。水に対してはこんなにシビアなのに、“食べ物”に関しては、その概念すらないほど徹底している。
原作映画では、涙さえ「もったいない」と言いながらすくい取って舐めていたくらいである。本作の容赦ないシステムは、映画を観た人なら絶対に納得するし、たとえ観ていなかったとしても、砂漠における水がいかに貴重なものか強く実感できるはず。
とかく煩雑になりがちな原作の壮大なSF設定を、極限まで削り落として「水」を取り巻くジレンマに集約しているのは、本当にすごいと思えた。ただ理不尽なシステムを仕組むだけでは、ここまで巧妙なシステムにはならなかっただろう。
本作の開発者は決してマゾではない……、はずだ。
むしろ、水を求めて探索し続ける「水至上主義ゲーム」を極めた、原作付きゲームのひとつの到達点だと個人的には感じている。
吹き荒れる砂嵐をやり過ごしつつ、崖をよじ登った先にあるスカベンジャーの拠点を襲撃。そして全員を張り倒したあとに、お宝には目もくれず血を抜き取る。
映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」くらい頭のネジが2、3本ブッ飛んだようなプレイングが、この世界ではふさわしい。
このように本作は、実にスマートに映画とゲームをリンクさせて、面白さへと昇華している。ちょっとびっくりするぐらいよくできたシステムである。
まるで血液から水を精製するのと同じくらいの、狂気に満ちた魔法を見ているような気分だ。
とてもじゃないけど語りつくせないボリューム
生死を賭けた水の確保が強烈なインパクトを与えてくれる本作だが、ゲーム内で研究を進めて拠点に設備を建設することで、死体から直接水分を抽出したり、水密容器と露刈り器で露草から水を採取できるようになったりする。

これまでの“死体から血を抜き取る”よりも直接的な描写ではなくなっており、これは楽になったのか、ひどさがいっそう増したのかは判断に悩むが、とにかく冒険は進めやすくなるのは確かだ。
また、そのほかのお助けグッズやアイテムを得ることで、サバイバルゲームとしての行動範囲も徐々に広がっていく。
さらに、本作はMMOでもある。他のプレイヤーと血みどろの戦いを繰り広げるPvPや、協力して水ならぬお宝をゲットしたり、オープンワールドを探索したりするPvE系のコンテンツも楽しめるのだ。
そのほかにも多数の要素がてんこ盛りなのだが、今回の1~2週間程度のプレイでは、とてもじゃないが全貌を網羅しきれないボリュームだ。ここから先は、ぜひみなさんの目で確かめていただきたい。
「楽しそうだけど、映画を観ていないんだよね」
という人も安心してほしい。
実は本作の舞台は、原作の主人公であるポール・アトレイデスが登場しない、if世界を描いたアナザーワールドなのである。そのため映画を観てなくても、「血で喉を潤す」過酷な世界に遠慮なく飛び込んでいけるのだ。
本作のゲームプレイにおいて生死を分けるのは、原作映画の予備知識ではなく、一杯の水に対してどれだけ貪欲……、いや、鬼畜になれるかだ。

数多くある映画原作ゲームのなかで、本作のように設定の根幹をゲームプレイに見事に反映させた例は珍しい。それを確かめるという意味でも、映画を観ておくと、より深く本作を楽しめるはずだ。
映画「デューン 砂の惑星 PART1/PART2」は、かつては「映画化は無理」とまで言われていたほど壮大な物語である。その壮大な物語を「水をめぐる攻防」に集約し、ゲームに落とし込んだ開発者の手腕は狂気、いや、お見事というほかない。
そんな本作の面白さを、ぜひ、あなたの喉で味わってみてほしい。