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あの『太陽のしっぽ』をいま遊んだら、“理解る” のではないか? 小学生には謎が多すぎた伝説の奇ゲーを40歳になったいま再攻略する

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原始人を操作して象牙を集める3Dアクションゲーム『太陽のしっぽ』。1996年の発売当時、小学生だった筆者にとって、このゲームは強烈な記憶とともに残っています。

オープンワールド型の広いフィールド、夜になると移動中でも急に寝てしまうスライディング入眠、原始時代なのにそこらじゅうに落ちている和菓子、唐突に佇む目や鼻のオブジェ、耳に残るテクノな音楽。

そしてなにより、原始人の「顔」が忘れられません。

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子どもが泣いてもおかしくないビジュアル(操作する原始人を選ぶ画面)

な、なんだこのゲームは!?(震)

上記もさることながら「マンモスを倒して牙の塔を作り太陽のしっぽを掴む」という目的も独特。遊べば遊ぶほど「なんだこのゲームは!?」という気持ちが強くなり、小学生には謎が多すぎるゲームでした。

でもこれ、いま遊んだら “理解る” のではないか?

当時の筆者は、このゲームの「作法」を知らなかっただけかもしれない。さまざまなゲームを経験した現在の視点なら、あのころ抱いた謎の答えを見つけられるかもしれない。

そこで本稿では、約30年の時を経て復刻リリースを果たした【※】伝説の奇ゲー『太陽のしっぽ』を40歳になったいま再攻略してみようと思います。

※復刻リリースを果たした
アートディンクのゲーム開発の歩みを記録(=ログ)として現代のゲームハードへ移植・復刻するプロジェクト「ARTDINK GAME LOG」。『太陽のしっぽ』はその第1弾に当たる。

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文/柳本マリエ


「当時のマニュアル」の情報量がすごい

さっそく起動すると、なんと「当時のマニュアル」を読むことができました。

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えっ、ちょっと待って、1ページ目の背景って……

この世界の「マップ」なのでは!?

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北に行くと雪山があり、西に行くと砂地が広がる。ああ、これぜったいマップです。当時は概念みたいなものとして見ていたので気がつきませんでした。なるほど、全体ってこんな地形をしていたのか。

ゲームを始める前から大きすぎる収穫です。

というのも本作はマップが表示されないので、山や川(海)を越えるとき、その先に陸があるのかどうか不安に駆られながら移動していました。カメラもほぼ固定されているため先があまり見えず、進むべき方向に迷うことがあります。

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西に進んで深い海が続いていた場合、溺死する可能性がある

しかし全体を把握していれば、だいたいの見当をつけることができて効率的。開拓できる場所が増えそうです。

さらに説明書を読み進めると下記のことがわかりました。

・原始人は集落にいてここから出発する
・食べものはさまざまな効果をもたらす
└疲労回復、体力・腕力・脚力の強化など
・食べたものはほかの原始人にも影響を及ぼす
・人口を増やすためには肉を集落に持ち帰る
・人口が増えると武器の開発が進む
・原始人には寿命があり炎が消えると死を迎える
・体力が少なくなると死神がやってくる
・しかし食べものを食べまくると追い払える

説明書の情報量すごすぎない……?

とくに「食べたものはほかの原始人にも影響を及ぼす」というところが興味深い。つまり、腕力を強化できる食べものを多く食べていると後世の原始人たちの腕も強化される、と。

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発達状況はメニュー画面からいつでも確認できる

もちろん当時も説明書は読んでいたものの、そのうえでなにも考えずに遊んでいました。こんなに丁寧な説明があったとは。小学生のときは闇雲に進めてしまいましたが、いまだったらこうです。

集落の近くで狩りをしてひたすら肉を持ち帰り武器を強くしてからマンモスを効率的に倒していく

これ(効率)ですよ。これが40歳ですよ。ゲームを始める前から見えちゃいましたね、“勝ち” が。ということでここからさっそく始めていきます。

操作がシビアすぎてサル1匹倒せない

先ほど見えた “勝ち” はわりと早い段階で頓挫しました。操作がシビアすぎて、サル1匹倒せないどころか食べものも満足に拾えません。

思った以上に繊細なアクションを要求されるため、反射神経が衰えたいまは分が悪い。集落の近くにいる小さなサルでも、拳を交わしたら普通に負けました。

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武器が開発されるまでは拳で戦う

ああ、だんだんと思い出してきました。『太陽のしっぽ』ってアクションの癖が強いんです。

なかでも特徴的なアクションが、法線ジャンプ(垂直ジャンプ)。ジャンプボタンを押すと地面に対して “垂直” にジャンプするため、斜面をのぼっているときにジャンプをすると進行方向と逆の方向に背中から落ちるように後退してしまいます。

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斜面をのぼっているときにジャンプをすると
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背中から落ちるように後退してしまう

しかしながら、逆に斜面をくだっているときにジャンプをすれば進行方向に大きく進むことができるためショートカットになるというもの。そのため脚力を強化していると、速さと斜面を利用して目的地までの移動がかなり快適。

また各地には石碑があり、触れると入れ墨を入れることができます。この、“墨を入れられる” ってアイディアかっこよすぎませんか?

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石碑は5種類あり、触れた石碑によって「知恵」「繁殖力」「水泳」「脚力」「飛躍力」からひとつの能力が向上します。

筆者はとにかく移動を速くしたかったので脚力の入れ墨を入れました。これは上書きしない限り(別の石碑に触れない限り)死んでしまっても後世の原始人たちに引き継がれるようです。

そうして「食べる」と「狩り」を繰り返していくと武器の開発も進み、しばらくするとあのサルは2秒くらいで倒せるくらいに強くなりました。

豪快なアクションに対して裏側は緻密

狩りをして肉を集落に持ち帰ると集落の人口が増えます。するといきなり原始人が踊り出すイベントが始まるのですが、これが本当に唐突。

それまで法線ジャンプなどけっこう大胆な動きのアクションだったのに、この踊りだけやたら動きがなめらかで、当時は本当に “謎” でした。

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民族音楽とともに踊る原始人たち

どうやらこの踊りイベントは「文化レベル」が上がると発生するらしく、要するに集落が順調に発展している証。プレイヤーへのご褒美(?)ですね。増えた原始人たちをひとりひとり眺めることができるので感慨深い。

そしてもうひとつの謎……というか、おそらく『太陽のしっぽ』で知られるいちばんの奇行といえば “スライディング入眠” ではないでしょうか。

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原始人は疲労が頂点に達すると眠り込んでしまいます。移動中であろうと、雨や雪が降っていようと、敵が目の前にいようと、どんな状況でも寝てしまうという強メンタル(というか強フィジカル)

そのため傾斜度が高い山にのぼっているときに寝るとそのままズリズリと落ちてしまうこともあります。

しかも、その睡眠時間がけっこう長い。1回寝ると30〜40秒は起きず、プレイヤーはただ見守ることしかできません。文字で見るとあまり長く感じないかもしれませんが、体感するとご理解いただけるはず。その時間で軽い筋トレくらいならできてしまうほど、原始人はよく眠る。

この「操作しているキャラクターが勝手に寝てしまう」という仕様については、本作のディレクターを務めた飯田和敏氏が以下の記事で語ってくださっています。

記事によると、テストプレイ中は単調で寝落ちしてしまうことが何度もあったそう。そこでその対策として「プレイヤーに先回りして原始人が寝てしまうのはどうだろうか」と考えたとのこと。

……どういうこと?(どういうこと?)

しかも、寝入りのタイミングが予想できないように複数のパラメーターを関連させ複雑化 → それを仕込んでいる開発側も訳がわからなくなったところで完成としたそうです。

あの豪快なアクションに対して裏側は緻密。

たしかに寝入りのタイミングは微妙にわからなくて「まだ大丈夫だろう」と思って狩りを始めたら途中で寝てしまったり、寝るのを待っていたらなかなか寝なかったり、妙な緊張感があります。

ゲームの単調さを解消するアクションとしてこれ以上ないアイディアではないでしょうか。

当時は原始人がスライディング入眠をするたびにゲラゲラ笑っていたのですが、このような実装にいたる経緯を知ると膝を打ちますね。

行動が受け継がれて進化していく生命のリレー

マンモスの牙は順調に集まり、ついにしっぽを掴むことができました。

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約30年ぶりに改めて『太陽のしっぽ』を遊んでみて感じたことは、人間のたくましさです。

原始人には寿命があり、どんなにうまく立ち回っても(まったくダメージを受けなくても)ひとりですべての牙を集めることはできません。死んだらつぎの世代の原始人がまた牙を集める。つまり、原始人たちは後世に託す前提でマンモスを狩っています。

自分が取った行動が受け継がれ、進化していく。

これってけっこう熱くないですか。自分の命は尽き果ててもそれを引き継いでくれる人がいて、人間の営みのシンプルなところにじんわり感動してしまいました。想像していたよりずっと “理解った”。

エンディングは複数あるのでまだすべてを見てはいないのですが、だいぶコツは掴めたので全エンディングを制覇したいと思います。

『太陽のしっぽ』は、12月16日よりNintendo SwitchとSteamで発売中。まさか復刻リリースしてくれるなんて、こんなにうれしいことがあるでしょうか。改めて遊ぶことができて本当によかった。

編集
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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