ネクソンは、同社が推進する経営計画やグローバルでの展開が予定されている新作タイトルなどをプレゼンテーションする投資家・アナリスト向けのイベント「キャピタル・マーケット・ブリーフィング2026」を、3月31日に渋谷ストリームホールで開催した。
今回のイベントは、ネクソンのパイプラインの中から2006年とそれ以降のリリースに向けて開発を進めているタイトルとして、『Dungeon&Fighter:Idle RPG』と『Dungeon&Fighter Classic』、『Dungeon&Fighter:ARAD』、『NAKWON:Last Paradise』、『Vindictus:Defying Fate』、『OVERKILL』といった新作6本について紹介が行われた。
また、プレゼンセーションにはEmbark Studios AB創業者でネクソン取締役、そして今年の2月に会長に就任したばかりのパトリック・ソダーランド氏とCEOのイ・ジョンホン氏、CFOの植村士朗氏の3名が登壇。それぞれの視点から、ネクソンの強みと弱み、そして課題を解決していくためのIP戦略について詳しく語られた。こちらの記事では、その模様をレポートしていく。
昨年は過去最高の年間売上収益となる4750億円を達成
昨年ネクソンは、過去最高の年間売上収益4750億円、営業利益は1240億円を達成。営業キャッシュフローは8年連続で1000億円を超えている。22年の歴史を持つ『メイプルストーリー』は、前年比43パーセント増収という過去最高の業績を上げている。『ARC Raiders』は15週間で1400万本以上販売し、最も成功したゲームとなった。

そうしたこともあり、期末時点で8000億円強の現預金を保有しており、投資家向けに970億円相当の自社株買いも行っている。
こうした好成績を出しながらも、いまひとつネクソンの価値が市場に理解されていない部分もある。これについてパトリック氏は、アセット自体が問題視されているのではなく、それをどのように活用しているのか問われているのだと説明する。
一方で、ネクソン自身に全く問題がないわけではないという。同社が抱えているプロダクトのポートフォリオは膨大な数に上り、事業性を欠いたまま進められている案件も多すぎる状況だ。開発コストは上昇し、新作ゲームのリリースも延期されてきた。それによって、利益率も圧迫されているのである。
有望視されていた『アラド戦記モバイル』も、現在は厳しい状況であることが語られた。利益率も低く、新作タイトルの一時的な盛り上がりも続かない。その理由を突き止めなければならないが、それ以上に変革が求められているのは、ネクソンの意志決定のスピードだとパトリック氏はいう。厳しい決断をするのが遅すぎることが、こうした状況を生み出しているのだ。
今年の1月、『MapleStory: Idle RPG』のコーディングミスが修正されていたにもかかわらず、経営陣への報告が行われていなかった。その影響による返金も膨大な財務損失であったが、それよりも評判が傷付いてしまったのだ。このような事態の再発を防止するために、最高リスク責任者を新設。取締役会レベルでの監督体制も取り入れて改革を行っている。
ネクソンの経営陣は、週に1回集まり意志決定を行っている。設定された利益率基準を満たすか否かで、既存のゲームと新規プロジェクトのポートフォリオ全体を選別している。この収益予測は、現実的な前提に基づいたストレステストが行われている。
開発コストも、プロジェクトによっては追加資金が投入されることもあれば、再編や中止されることもある。ゲーム開発に直接関係ない本部の総務機能や共有サービスなども厳格に見直しを行っている。ゲーム数を減らしつつも、コスト改善のプロセスも始まっているのだ。
2024年の「キャピタル・マーケット・ブリーフィング」で設定した2027年の売上と営業利益目標については、当初のスケジュール通りに達成されない見込みだ。2024年当時は、主力フランチャイズの力強い成長や新作ゲームのパイプライン拡充、規模拡大による収益性の向上という前提のもと、こうした目標が立てられていた。
しかし、売上面では『アラド戦記モバイル』が構造的に想定を下回った。新作タイトルの投入時期も遅延したことで、利益率回復に必要な売上も計画通りに実現することができなかったのだ。
それにくわえて、ポートフォリオの拡大に伴って、コスト増加が売上の伸びを上回る状況となったのである。これはコスト比率の問題でもある。そのため、2027年の目標は当初のスケジュール通りには達成できない見込みとなっているのだ。
同社には、20年にわたってプレイヤーとの関係を築き上げてきたフランチャイズがあるが、これはどれだけ資金を投じたとしても再現できるものではない。『ARC Raiders』は欧米市場にも受け入れてもらえるタイトルの開発ができることを示している。
コストについては、単なる削減ではなく抜本的な見直しを行っている。これは、すべての機能について「優れたゲームの開発や運営に直接寄与しているか」という一点で行っている。そして、答えが明確ではないときは削減していく。当然のことながら、目的に直接結びつかない人員増強の要請も認められない。
これは利益率を改善するために全てを削減するという意味ではない。一部のタイトルには多くの投資が必要だ。もちろん、新たな機会にも投資していく方針である。また、「プレイヤーが生活の一部として関わり続ける存在となり得るか」という基準のもと、M&Aを含んだ投資も行っていき売上成長も今後実現することができると考えている。
長年蓄積してきた「CONTEXT」をAIで高速かつ大規模に活用
昨今話題になっているAIについては、多くの企業がそれぞれの計画を掲げているが、その多くは的確ではないとパトリック氏はいう。ツールへの大規模な投資が行われているものの、課題の本質を間違えて捉えているため、それだけでは十分な成果を得ることには繋がらないのだ。
勝者となるのは単純に先行した企業ではなく、課題を正しく理解した企業である。ツール自体は誰でも手に入れることができるが、それを使いこなすための知識や経験は必要だ。そして、それらを持っていることがネクソンの強みでもある。
同社では、この30年で時間を掛けなければ再現できない基盤を築いてきた。長寿タイトルにおいて、数十億回のプレイヤーセッションに基づいてフランチャイズに関する知見を蓄積している。これは単なるデータベースではなく「CONTEXT(文脈)」の蓄積だ。
「CONTEXT」は、数十年にわたる設計上の意志決定による積み重ねで、うまくいったものもあればそうでなかったものも含まれている。例を挙げると、『メイプルストーリー』でプレイヤーが5年目に継続する要因と15年目に継続する要因の違いがわかる。
『アラド戦記』では、ゲーム内の経済がマネタイズの上限に対してどのように反応するのかといったことへの理解も深まるのだ。これらのように、数百億規模のデータポイントに蓄積された「CONTEXT」が、同社に蓄積されている。そして、AIを使えばこうしたデータを高速かつ大規模に活用できるのだ。
同社のAI基盤である「Mono Lake」は、実証実験ではなく、開発プロセスとライブサービスのあらゆる段階でアクセス可能にする実運用の取り組みだ。それでは、パトリック氏が率いてきたEmbark Studiosのような新しいスタジオは、「CONTEXT」なしにどのように成功してきたのだろうか。
こちらは、人の手で行うべきことと機械のほうが効率的に行えることの切り分けをあらゆる点で見直している。その中にはAIも含まれているが、本質的にはより効率的なプロセスやツールを活用して、有効ではない習慣を手放すことだ。
その成果として生まれたのが、『THE FINALS』と『ARC Raiders』である。どちらも従来のAAAタイトルと比較して、大幅に少ない人員と想定を下回るコストで開発が行われている。そして、この成功は偶然ではなく意図的に実現したものだ。
そして、この考え方をネクソン全体にも取り入れて展開している。とはいえ、新設スタジオの手法をそのまま大きな組織に当てはめることはできない。そこで重要なのは、一律化するのではなく、すべてのリーダーチームと個々の社員がより良いツールと効率的なワークフローを使い、付加価値を生み出さない業務に費やす時間を減らしてより多くの成果を出すことを考えることだ。
これらは大企業ではあまり見られない取り組みでもある。そして、何を作るかということだけではなくて、どのように作るかという点についても見直しを行っている。これによって、思いがけない変化も起きてきた。長年アイデアを温めてきた人が声を上げるようになり、トップの指示を待つのではなくチーム自体が自主的に動くようになるのだ。
『ARC Raiders』の成功は、ネクソンの事業や今後にどのような意味を持つのだろうか? ネクソンの売上の大半や韓国や中国といったアジアで生み出されている。非常に強固な基盤ではあるが、適切に対応しなければいずれ成長が頭打ちになってしまう。
『ARC Raiders』は、ネクソンがグローバル市場に受け入れられるタイトルの開発ができることを示したものだ。そして企業の将来像に対する市場の見方も大きく変えるものでもある。ゲーム自体はまだ初期段階だが、すでにサービス提供も開始されており成長を続けている。
M&Aについては、オーガニックな成長に加えて、迅速に動くことができればチャンスとなる。その一方で、ゲーム業界ではM&Aが期待通りの成果を上げなかったという事例も数多くある。ネクソンではチャンスは探していくものの、その進め方は慎重かつ戦略的に対応していく。
ネクソンの強みのひとつは、プレイヤーコミュニティを持続的に育てていくことだ。サッカーが好きだったり野球が好きだったり、ひとによってどのようにリラックスして人生を楽しんでいるのか答えも異なる。その一方で、特定のチームを熱心に応援している人もいる。このような、特定の対象への帰属意識やコミュニティこそが、プロスポーツのビジネスモデルの基盤となっているのだ。
そうした意味で、ネクソンはゲーム業界の中でも独自の存在となっている。プロスポーツのフランチャイズモデルに近い形で、事業を展開している数少ないゲーム会社のひとつでもあるのだ。数十年にわたって何百万人の人々が『アラド戦記』や『メイプルストーリー』、『FC』をプレイしていると言い続けている。
こうしたコミュニティを築いて維持し、成長させていくことは容易なことではなく、時間と投資が必要だ。だが、こうしたコミュニティこそがレアル・マドリードやロサンゼルス・ドジャース、ボストン・セルティックス、そしてネクソンの収益性を支えて投資家にとっての価値の源泉ともなっているのである。
ネクソンの主力フランチャイズでは、長年にわたって離れずに遊び続けているユーザーやコミュニティアプリ外まで広がるコンテンツなどがある。
これまでは、こうしたものを明確な戦略として十分に生かしきれていなかった。しかし、今後はゲームの世界観をより深く進化させ、場所や時間、ライフ、ステージを問わずより多彩な形でフランチャイズが体験できる機会も増やしていく。
そして、ゲームを取り巻くコミュニティコンテンツや会話その物も製品の一部としてとらえて重視していく。それを一部のタイトルだけにとどめておくのではなく、複数のフランチャイズへと広げていく。そして、こうした考え方は、ポートフォリオにおける判断や新規投資、M&Aなどあらゆる意志決定の基準にもなっていくのだ。











