IGDA日本は4月17日・18日の2日間、「シリアスゲーム」に特化したイベント「東京シリアスゲームサミット」を開催した。
「シリアスゲーム」というと、なにやら耳慣れない言葉だと感じた人も少なくないだろうが、要は「ゲームで実社会の課題を解決しよう」という試みのことだ。
例えばゲームを使って企業の研修をしたり、遊ぶことで健康になるゲームを作って医療に貢献したり、そうした遊び・エンタメの範囲を超えて、社会に貢献しようとするゲームのことを指す言葉だ。
同サミットが開催されるのは、昨年7月に京都で行われた第1回に続き2回目。今回は東京に会場を移し、中野の「Red Bull Gaming Sphere Tokyo」と東京大学「福武ホール」には、2日間でのべ約260名が詰めかけ、ほぼ満席の盛況ぶりを見せた。
今回、筆者はRed bull Gaming Sphere Tokyoで行われた初日のイベントに参加。シリアスゲームのアーカイブプロジェクトの話題からゲーム研修に医療まで、幅広い分野をテーマに行われたセッションを覗いてきたので、その模様をお届けしていく。
なお、イベント2日目には場所を東京大学 情報学環・福武ホール 福武ラーニングシアターに移し、国際交流や外交手段、社会問題解決などをテーマとしたセッションが行われている。

シリアスゲーム文化を発展させるには博物館が必要
最初に行われたのが、ボードゲーム編集者でゲーミフィ・クリエイティブマネジメンツの代表でもある石神康秀氏によるキーノート「シリアスゲーム・アーカイブプロジェクトと今後の展望」だ。

エンタメを目的にしている一般的なゲームと異なり、シリアスゲームの多くは、教育や研修、社会的な課題の解決などをメインのテーマに置いている。石神氏が行っている「シリアスゲームアーカイブ」は、そうしたシリアスゲームを収集・保存していくことを目的にしたプロジェクトだ。
これは広く参照・比較できる資料を蓄積していくことで、今後のシリアスゲームの発展を目指しているのだという。というのも、石神氏によれば、「現在世の中にあるシリアスゲームはクオリティが低い」のだという。
シリアスゲームを作っている人たちの多くは独学でゲームを作りを学んでいる。文化として教える・教わるという構造がまだ出来ていないので、誰も「教え方」を知らないからだ。石神氏自身もシリアスゲームを作ってきたのだが、当然ながら、作り方を教えてくれる人は誰もいなかったという。
自然と成果物のクオリティは落ちるし、また苦労して作られたゲームの多くは、発表後一年も経てばほとんど誰にも顧みられなくなってしまう、という問題もある。これはよくできたゲームであっても例外ではない。
そのため、シリアスゲーム制作のノウハウが蓄積されず、毎年のように同じようなトラブルに見舞われる制作者が続出する。結果として、完成度の低いすごろくやカルタ形式のゲームが量産されているのが現状だという。
こうした課題を解決すべく石神氏が導き出した答えが、シリアスゲームの「博物館」を作るということだ。
シリアスゲームを収集・保存して調査研究を行い、さらにそれらを展示・公開して、教育・普及させていく。シリアスゲームという文化を発展させるためには、その歩みを記録・保管していく場所が必要だというわけだ。
また大学時代はソフトウェア工学を専攻し、その後IT業界に入ってエンジニアやコンサルを務めたという石神氏は、要件定義や欲求定義という基本の重要性を力説する。どんなものでも、目的に沿ったものを作らないと意味がないのだという。
とはいえITシステムの場合、実際に作ろうとすれば、そこには様々な人の思惑が絡み、そのためにうまくいかないことも多いという。石神氏がボードゲーム編集者へと転身したのも、ひとつには「ITシステムを作る」よりも、「ボードゲームを作る」ほうが社長やその側近など、重要なポジションの人間と直接やり取りをする機会が多かったからだという。
「サイゼリヤ店舗運営ゲーム」や「情シスすごろく」など、150以上のシリアスゲーム制作実績を持つ石神氏だが、それでも依然として分からないことは多いという。比較する対象が用意されていないので、結局のところゲームの良し悪しが主観・独断でしか判断できないのだ。
だからこそ石神氏は、誰もが作品を客観的に比較できる「博物館」のような場所を作ることで、成功・失敗の知見を共有し、業界全体の底上げを図るべきなのだという。
シリアスゲームにおけるアナログゲームとデジタルゲームの接点は?
続いて、「シリアスゲームにおけるアナログとデジタルの接点」というテーマで、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのシニア・アドボケイトを務める簗瀬洋平氏と、石神康秀氏によるクロストークが行われた。

石神氏によれば、現状、デジタルとアナログの業界間には明確な線引きがあり、交流は限定的だ。しかし、「紙」を使うデジタルゲームやコンピューター制御のアナログゲームも存在するなど、技術的な境界は曖昧でもある。シリアスゲームという共通の目的があれば、両者はより深く交われるはずだ、と石神氏は提案する。
これに対し、デジタルとアナログ双方の制作経験を持つ簗瀬氏は、「両者の層は重なっているものの、まだ『薄皮一枚』の隔たりがある」と分析する。例えば国内最大級のアナログゲームイベント「ゲームマーケット」では、デジタルのクリエイターがアナログ作品を出す例は多いが、その逆はまだ少ないという。
制作手法の根幹である「プロトタイピング」は両者に共通している。東京大学で教鞭を執る簗瀬氏は、授業で「自分の人生を伝えるゲーム」を学生に作らせる際、あえてアナログのボードゲームを指定するという。手段が限られるアナログの方が、ゲームデザインのシンプルな練習台になるからだ。
一方で、石神氏の意見は興味深い。デジタルの場合、既存の「ジャンル」や「アセット」というレールに乗ってしまいがちだが、アナログは「紙を破ろうが食べようが自由」であり、発想の自由度は高いという。もちろん、100万個のユニットを扱うようなスケールメリットや複雑な計算はデジタルの独壇場だ。
簗瀬氏は、ゲームの設計においては、リソースを絞り込んだり、既存のモデルを活かして考えることは非常に重要だと語る。選択肢が限られたことで、初めて「そこから何を作るべきか」が明確にできるからだ。たとえば「人生ゲーム」というテーマを設ければ、誰もが「すごろくのようなゲーム」を思い浮かべられるだろう。
簗瀬氏が指導する学生が制作した「人生」テーマのゲームには、「親ガチャを振る」ところから始まり、親の階層によって同じマスでもイベントが変化するといった、既存のモデルからの興味深い変化もあったという。
また、アナログは「相手の顔を見ながらプレイする」ことに長け、デジタルは体験・感情的な「疾走感」のような表現に強いといった、それぞれの得手不得手も議論された。
一方でその境界を超える方法もあり、例えば「エレメカ」【※】的なやり方であれば、アナログでもデジタルゲームに近い「疾走感」を表現できる、と簗瀬氏は語る。
※エレメカ
電子機器ではなく、機械的な機構を用いて作動するアーケードタイプのゲーム機全般を指す言葉。ピンボールマシンなど。
アナログゲームとデジタルゲームの垣根を超えた協力では、「アナログゲームの方が自由」という考え方と「デジタルゲームの方が自由」という考え方、どちらもあることが大きなポイントだと簗瀬氏は指摘する。
両者が交流することでお互いになかった視点が芽生え、そこから新しいものが生まれてくる可能性があるからだ。
石神氏はかつて「両者が融合するのはVRではないか」と考えていたという。VRであれば、アナログゲームと同じようにお互いの表情や態度を確認しつつ、ゲーム的な機構をデジタルの中で再現できるからだ。
ただし、実際に現実空間を共有するには、高い解像度とサンプリングレートが必要になるため、実際には難しいだろうと簗瀬氏は指摘する。
さらに議論は、現実世界を舞台にするARG(代替現実ゲーム)にも及んだ。
例えば『Ingress』や『Pokémon GO』に代表されるARGは、デジタルの技術を使いつつも、その本質は現実の空間や人間関係にある。簗瀬氏は、こうした仕組みにアナログゲーム的なアプローチを組み合わせることで、よりダイナミックで社会性の強い体験が生み出せると指摘する。これはまさに、シリアスゲームが目指す方向性と合致するものだ。
ただし簗瀬氏は、「『ゲーム』という言葉を安易に使わない方がいい場合もある」と釘を刺す。ユーザーが過度な期待を抱くと、実際のインタラクティビティとの乖離で満足度が下がってしまうため、正しく期待値をコントロールすることが重要なのだという。
「研修ゲーム」と「ゲーム研修」は全くの別物
続いて、カレイドソリューションズ 代表取締役の高橋興史氏から、「ゲーム研修の実像と虚像」というテーマでスピーカーセッションが行われた。

同社は2008年の創業以来、約150テーマの研修、80種類ほどのゲーム(アナログ・オンライン)を開発してきた。高橋氏は「ゲームの専門家」ではなく、あくまで「企業研修」の専門家であるという。
同社が提供しているゲームは「取得できる」「観察できる」「再現出来る」という、学習を用途にした、研修向けのもの。研修とはその文字通り「研ぐ」「修める」ということを目的としており、ワークショップやオリエンテーションとは根本から目的が違う。
もともと今回の講演について、髙橋氏は「研修ゲームの第一人者として話をしてほしい」と言われたというのだが、高橋氏自身はそもそも「研修ゲーム」という言葉自体を知らなかった。そのときに「研修ゲーム」と「ゲーム研修」は別物であるということに気づいたという
「研修ゲーム」の場合は本体がゲーム、つまり「モノ」だ。一方で「ゲーム研修」の場合は、本体は「研修」、つまりモノではなく「サービス」。アウトプットされた形は似ているが、目的と提供しようとする価値はまったくの別ものだ。
そもそも、ゲームを用いた研修を行うことのメリットはなんだろうか。高橋氏によれば、3つの利点があるという。まず、ゲームなら並べた瞬間に興味を引ける(アテンション)。次に、プレイしているうちについつい熱中してしまう(フロー)。そして最後が「終わった後に思い出せる」(ピークエンド)ことだ。
研修で一番盛り上がったところが”ピーク”で、研修の終わりが”エンド”。そして研修の評価は、この頂上と最後の部分で決まる。そのふたつがしっかりしていれば、研修が終わった後も思い出せるし、思い出せれば活用されやすくなる。これは「ピークエンドの法則」と呼ばれるものだ。
企業が求めているのは、自分たちの問題を解決するための研修であって、ゲームとしての楽しさではない。「面白さ」はさして求められていないのだ。そのため、いくら研修自体が楽しいものであっても、それを理由に企業が購入するわけではない。
あくまで研修である以上、個人の成長や組織の発展に寄与するものでなくてはダメで、「ゲームならウケがいい」という発想だけでは企業に受け入れてもらうことはできない。成長する上で楽しさもある、という2点を満たしている必要があるのだ。
いい体験ができた=学べた、というのは学習に対するよくある誤解で、実際には体験しただけでは学べない。やったことを振り返ることから、いい学びになるのである。そこがデザインされていないと、ほとんど効果も無いのだ。
「ゲームは経験学習」という宣伝文句もあるが、それを言うなら仕事自体がそもそも経験学習のはずだ。そのため、ゲームである必然性がまったくない。「ゲームを遊んで何かしらの気付きが得られればいい」というのもよく言われる言葉だが、こちらもワークショップで十分のはずである。
しかし、求められる研修の主旨から考えると、本来は気付くだけでは不十分なのである。
ゲームならすごく難しいことができると言われることがあるが、これについては必ずしも難しいことは求められていない。体験型ならば、深く学んでほしいからだ。
ひとつのゲームで何でも学べると言われることもあるが、こちらもなにがしたいのか目的がわかりにくい。それよりも、「なにかひとつ学べるようなものを提供する」ほうがいいのだという。
最後に、同社が大事にしていることとして3つのポイントが紹介された。
ひとつは、自分の表現をきちんと表現すること。ふたつ目は、企業の問題を解くための支援をすること。そして3つ目は、倫理的であり続けることだ。この3点ができていないと、業界内でリーダーシップを発揮することはできないのだと、高橋氏は語る。
具体的に同社では、ゲームを作る際にはデザイナーズノートを作っているという。ここで考えた構造をゲームに落とし込むことで、企業側もしっかりとその研修の内容を理解することが出来るのである。
学生時代の謎解きゲーム作りの知見を医療の分野でも応用
続いて、一般社団法人Dr.GAMES代表理事で総合診療専門医でもある近藤慶太氏より、「医療とゲームの関係、Dr. Gamesの活動」というテーマでスピーカーセッションが行われた。

近藤氏が取り組んでいるのは、医療分野での「謎解きゲーム」の実施だ。もともと人の「楽しい・幸せ」を作ることがモットーだという近藤氏は、学生時代から多数の謎解きイベントを指揮制作し、その数は20点以上。
大学卒業後に医師になり、医療×ゲームで人々を健康にしていこうということで立ち上げた団体が、Dr.GAMESだ。その活動は、「ゲームプレイヤーの健康への介入」と「ゲームを用いた医療への介入」、そして「ゲームによる疾患への介入」の3つだ。
もちろん、なんの実証もされていないものを提供しているわけではなく、科学的なエビデンスに基づいた論文を根拠としており、提供しているゲームもデジタルからアナログまでさまざま。それらを高いレベルで掛け合わせて提供していくことを目指しているという。
近藤氏が常に感じていることは「医療は身近ではない」ということだという。「医者」というだけでどうしても取っつきにくさがあり、患者は身構えてしまうところもある。そこで、思いついたのがゲームで医療を楽しくする、ということだ。
謎解きイベントは場所を問わずに実施でき、他のイベントとの親和性が高いほか、企業とのコラボなども絡めやすい。クイズと異なり、前提となる知識も不要だ。そのため年齢を問わずゲームに参加でき、知識のない子供でも活躍できる可能性がある、というのも特徴だ。
情報共有や役割分担など、ゲームを進めるにあたって必然的に行うことになるチームビルディングの基礎を通して、初めての人同士でも交流を生むことができる。
医師になった近藤氏が「謎解きで医療情報を届ける」ことを考えた際にまず思いついたのが、臨床医として働く中で目についた、HPVワクチン【※】の接種率の低さだった。
※HPV
ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症の原因となるウィルス。子宮頸がんをはじめ、肛門がん、膣がんなどの原因となる。日本は他の国と比較してHPVワクチンの接種率が低い。
近藤氏はHPVワクチン啓発の謎解きを制作し、つい最近その報告が論文として認められた。脱出ゲームをプレイした群と講義単独の群、何もしなかった群で、日本の女子大生を対象に知識テストと接種意向、3ヵ月後に実際に接種をしたか調査している。
ただこの結果わかったのは、脱出ゲームをプレイした群よりも講義を受けた群のほうが、スコアが高いということだった。これについて近藤氏は、「世の中を動かす大きな力にするには、謎解きだけでは足りない」と改めて感じたという。
医者の介入無しに脱出ゲーム”だけ”遊んでもらってもダメで、それだけでは結果が出ない。脱出ゲームを遊ばせるというのは低コストでできるかもしれないが、実際に医療者の講義を組み合わせるべきだ、というのが、論文の主旨らしい。
色々な人が多様な方法でアプローチしながら、少しずつ風向きを変えていくことが大事だ、と近藤氏は語った。
大腸がん検診啓発をバカバカしく広げるために「日本うんこ学会」を設立!
初日の最後に行われたのが、SQOOL代表取締役の加藤賢治氏と、omniheal CEOやエンタケア研究所CCOなど様々な肩書きを持つ、石井洋介氏によるクロストークである。今回は、「ゲームのヘルスケア分野活用の実例」をテーマに加藤氏が聞き役としてセッションが進められた。


今回のイベントでは、手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』が描かれたシャツで登壇した石井氏だが、元々同氏も外科医としてキャリアをスタートしている。そんな石井氏がゲームの活用を考えるようになったのは、大腸がんを早期発見する方法を考えてのことだったという。
病気とは、えてして自分がなってしまって初めて興味を持つようになるものだ。逆を言えば、病気であると気づいていない人は、その病気に対して興味・関心を持たないため、それが早期発見への課題になっていたという。
例えば大腸がんの場合、お腹が痛くなって「病気かも?」と気づいたときはすでに末期になっていることが多い。早期発見をするには、普段から「うんこ」の状態を見ていなければならないのだ。
そこで、大腸がん検診啓発をもっとバカバカしく広めようというコンセプトで始めたのが、「日本うんこ学会」だ。
この日本うんこ学会が大腸がん検診率向上を目指して作成したゲームが『うんコレ』だ。誤字ではない。
課金の代わりに「うんこを見たらガチャが回せる」ようにすれば、ゲーマーはうんこを見るようになるのではないか? という思いつきから生まれたというファンタジーRPGで、タイトル通り、うんこをコレクションしていくゲームになっている。
本作には腸内細菌を擬人化したキャラクターが登場する。たとえば「ハルトマン」というキャラクター名は、大腸がんの手術から取られているなど、意外にも内容もしっかり凝ったものとなっていた。また、敵キャラもポリープを連想させるようなイラストが採用されている。こちらもポリープを早期に発見して撃破するというメッセージが込められているのだ。
これによって、全く関心を持っていない人に対するアピールと、「うんこを見てもらう」という実行フェーズをゲーミフィケーションで取り入れているのだ。ちなみに、元々ボランティアで作られた『うんコレ』であったが、iOSやUnityの更新が早すぎることもあり、コロナ禍以降開発が追いつかなくなってしまい、現在は配信が終了している。
先ほども触れたように、この『うんコレ』のコンセプトは、ガチャを回すためにうんこを報告するところだ。「今日は普通の便が出ていました」というときは、「よく出ました」など占いのようなものが表示されるようになっていた。
しかし、異常がある場合は便を見る神様からアラートが出される。それによって、本当に病気が見つかったという事例も出てきたのだという。
さらに『うんコレ』は、ゲーム内のみならず、「腸内会」というコミュニティも誕生。というのも、うんこの話はかなり盛り上がるからだ。
こうした話は日常生活ではなかなか話しづらい話題でもある。だがそれゆえに「実はわたし、うんこのことで悩んでいるんです」といったところから話が広がり、元々お腹の調子が悪い人を中心にコミュニティが形成されていった、ということらしい。
また石井氏は、他にもゲーム研修の作品を開発している。
『エンディングゲーム』は、終末期の意志決定(ACP)に関するものを、ゲームで体験するというコンセプトで作られたものだ。たとえば現代では、望まない延命治療が増えていると言われているらしく、国や厚生労働省は「自分の希望を決めておいてほしい」という要望も挙げている。
自治体としても啓発することで医療費が抑制されるのだが、こちらも防災などと同じく、自分が当事者にならないとなかなか気にするきっかけがない。そこで、なんとかACPを広めたいという自治体からの公募案件で作ったのが、本作だという。
こちらは他人の人生を通してACPが追体験できるようになっており、ゲームを使った研修を通してファシリテーターの養成を行っている。
それまで自治体が行ってきたものは、エンディングノートを書きましょうといった講習が多かった。それも重要だが、自分ゴトになると、なかなか考えにくいという側面もある。そこで本作では、わざと他人の人生を追体験するようにしているのだという。
たとえば恋愛リアリティショーなどは、他人の行動についてあれこれ言い合うのが面白いが、それと同じように他人の人生ならばいいやすい。そうして自分と切り離すことができるのも、ゲームのいいところである。
実はゲームのゴールはシンプルで、「一番のお金持ちになること」だ。ゲーム性もあるため、プレイしていると最後は盛り上がる。それもゲームの参加者が増えた理由であると石井氏は言う。
また、セガと共同で高齢者施設で楽しめる『ぷよぷよトレーナー』も開発している。こちらは、色数やスピードを落としたり、特定のルールしか選べないようにしていたりするなど、簡単なルール設計にすることで高齢者でも楽しめるように調整されている。
こちらは単体で提供しているわけではなく、UFOキャッチャーなど様々なゲームとパッケージにして、サブスクのような形で回していくサービスのかたちを検討しているという。現在は実証実験の段階で、BtoBなどで高齢者施設向けに展開していくことを予定している。
続いてヘルスケアとゲームの良い関係というテーマで、加藤氏から様々な事例の紹介が行われた。まずは、歩くことがゲームになるということで、『Pokemon GO』や『ドラゴンクエストウォーク』などのゲームが登場してきた。
石井氏によると、「『Pokemon GO』は糖尿病を改善させる」という論文も出ているなど、ゲーム自体が薬の代わりになることが起き始めているという。
もちろん『Pokemon GO』自体は、糖尿病の治療のために作られたわけではない。プレイヤーはゲームを遊びたいだけなのだが、歩くことがゲームになる、というシステムがプレイヤーに自ら行動変容を促しており、それが結果として健康のためになっている、というわけだ。
「病気になりたくないからゲームを遊ぶ」のではなく、「楽しいから遊んでいると健康になる」、というのが重要なポイント。『うんコレ』も同じだが、このように、エンターテイメントファーストで、遊んでいるうちに勝手に健康になっている世界の方がいいのだ。
寝ること自体がゲームになる『Pokémon Sleep』も、同じロジックで説明できる。遊ぶために「寝て」いると、それが健康に繋がっているのだ。
『Pokémon Sleep』ではデータで睡眠を可視化することができるようになっているという点が重要で、たとえば、体重などでも毎日付けていると増えたときに気になることがある。データが可視化されて見える化されることで、健康の指標にアクセスしやすくなっているのだ。
健康に寄与した他の事例としては、『Wii Fit』なども挙げられていた。石井氏によれば、医療者側から見るとこれは「薬を作られたような感じがして悔しかった」という。
そのほか、東日本大震災の時の被災者が住んでいた仮設住宅をVRで体験するようなものや、脳波測定器を頭につけ、怖がりの子供に対して柔らかめの恐怖を与えて段階的に慣らしていく、といったゲームもあった。
これらは特殊なデバイスを使った事例だが、もっと一般的なゲームらしいタイトルもある。『Robot Hospice』は、日本のButtercup gardenが開発したゲームで、これは「ロボットたちの終末を看取る」ことがテーマ。
中国のImagine Wings Studioが開発した『With My Past 私の過去とともに』は、「過去の自分がついてくる」というコンセプトの2Dアクションゲームだが、ゲームを通じて過去のトラウマを乗り越える姿が描かれていく。
そのほか『ダレカレ』『限界OL海へ行く』など、いずれも必ずしもメンタルケアやヘルスケアを目的に作られたゲームではないのだが、人の役に立つゲームを作りたいという目的で生まれたもの。その結果として、遊ぶことで心が穏やかになれるような作品に仕上がっているのである。
良質なエンターテイメントは、自分の考え方や価値観が変わる可能性を秘めている。石井氏は、それこそゲームの強みなのだと語り、今回のクロストークを締めくくった。
終わってみればあっという間の3時間であったが、それに見合うだけのかなり濃厚な話を多数聞くことができた。今回開催された「東京シリアスゲームサミット」は2回目だが、次回はいったいどんな話を聞くことができるのか、今から楽しみである。




























