テーマ・世界観を味わう×気合いが必要:ここが沼の果て
『幼年期の終り』
巨大な宇宙船とともに地球に現れた親切で善良な異星人と、地球人類による交流の物語……というわけでは必ずしもなく、彼らがやってきた目的とは何かを探りつつ、最終的には人類が真に目指すべき幸福、人類自体が向かうべき先という壮大な話へと繋がっていきます。タイトルの意味がわかったときに訪れるのは、祝福か恐怖か。キューブリック監督作品として世界的に有名な『2001年宇宙の旅』著者アーサー・C・クラークによる傑作SFです。
『五胡十六国時代』
本のタイトルとしてこれほどまったくおもしろくなさそうな名前もなさそうなのですが、ところがどっこいこいつがおもしろい。そもそも日本人の8割くらいが「いつ?」となりそうな「五胡十六国時代」ですが、いわゆる三国志時代のあと、天下を統一した晋崩壊後の混乱の時代です。王朝が林立し、英雄豪傑が魑魅魍魎のごとく跋扈。全然知らない人名がわんさと出てきますが、著者自身が「どうせすぐ死ぬので真面目におぼえなくてOK(意訳)」と言ってくれているので、気楽に読みましょう。
『これからの「正義」の話をしよう』
ひと昔前の大学生に大流行した本なのですが、今の大学生とかってどうなんでしょう? 「正義」というと大仰ながら、本書は正しさについての問いをめぐる書籍で、それはとりもなおさず哲学が考え続けてきたこと。個人的には、本書はかなりわかりやすい哲学入門であると思います。自由、権利、美徳、功利主義など、難しい話も具体例から入ってくれるので、なんとなく「いったんわかった」気分になれるのもいいところ。広い世界の入り口にどうぞ。
『書架の探偵』(シリーズ)
未来の図書館では、亡くなった作家のクローン──しかも本人の記憶つき──を貸し出せる。そこで事件の探偵役を任されることになったのが、とあるミステリ作家の「再生体」。がっつりSFでありつつがっつり探偵小説でもあり、また主人公がクローン体であることから彼自身の権利や実存を考える一幕もあり、ほんのりディストピア風味。続編もセール対象!嬉しい!
『侍女の物語』
女性から仕事も財産も名前も奪い、ただ子どもを産む「生殖」役割だけを強いる国家・ギレアデ共和国を描くディストピア小説。『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』としてドラマ化されたことで、本書を知ったという人も多いかと思います。終始重苦しい雰囲気に包まれつつ、理不尽には抗わねばならないという意志の物語。本作の後日を描いた『誓願』もセール対象になっています。
『ファウンデーション』(シリーズ)
ひとことでまとめれば、銀河系規模の壮大な歴史ドラマの第1作目。未来を統計的に予測する「心理歴史学」を編み出したセルダン博士が、その予測から見えた銀河帝国の崩壊、そして来る暗黒の時代に備えるために「ファウンデーション」を設立し、迫る危機に立ち向かっていくという物語。派手な物語ではないものの、歴史小説などが好きな方にはぜひおすすめしたい傑作SFです。著者は「ロボット三原則」で知られるアイザック・アシモフで、人間刑事と杓子定規なアンドロイドとの凸凹バディがおもしろい『鋼鉄都市』などもぜひ。
『闇の左手』
もしもヒトに男女という性がなかったら。そうした壮大な思考実験を小説という形におさめた傑作が、本作『闇の左手』です。惑星・ゲセンの人々は太古の昔に枝分かれした人間と同じ祖をもつ人種ながら、性の区別がなく、それゆえ誰でも妊娠の可能性がある人々。星間連盟の使者としてこの星を訪れた地球人の主人公は、この違いすぎる社会の中で翻弄されつつも、異星人のひとりと固い絆でむすびついてゆく。
著者は日本では『ゲド戦記』などのファンタジー作品でも知られるアーシュラ・K・ル=グィン。SFでもさまざまな作品を遺しており、長編であれば『所有せざる人々』、短編であれば『風の十二方位』に含まれる「オメラスから歩み去る人々」などはぜひ一度読んでみていただきたい名作です。
『闇の精神史』
なにぶん、胡乱なタイトルである。本書では宇宙の話もすれば思想や宗教、サイバースペースの話などがいろいろと展開されるものの、本質的にはユートピアについての話と言ってよいだろうと思います。筆者の浅い理解でたいへん恐縮ながら、噛み砕けば「我々の文明はこのまま進んでいっていいのだろうか?」という問いです。本書では、この答えを積み重ねられた過去の失敗の中から探そうとしていきます。──が、正直書きながら自信がなくなってきたので、この要約は違うかも知れません。本当かよ?という方は読んで確かめてみよう。
『デューン 砂の惑星』(シリーズ)
宇宙でもっとも貴重な物質「スパイス」を産する砂漠の惑星アラキスを舞台に、主人公たちが皇帝や貴族の権力闘争に巻き込まれてゆくSFの古典的名作。『スター・ウォーズ』を始め、のちの作品に多大な影響を与えたとも指摘されており、2021年からはじまった新たな映画3部作によって再び注目を浴びました。半世紀以上前の小説ながら、映画化を期に訳が新しくなったこともあってか、文章自体はかなりよみやすいです。とはいえ政治や宗教、生態系にいたるまで作り込まれた世界観に入っていくには気合も必要。読むならぜひ長い休みの間に。
『ニューロマンサー』(シリーズ)
ご存知「サイバーパンク」というジャンルを確立させた傑作SFです。なのですが、読むのにはなかなかガッツが必要なうえ、いま読むとテキストの端々からどこぞのニンジャ殺しを感じてしまうという由々しき問題が起こる可能性があります。ザイバツ?!ヤクザ!?ストリートサムライ!? 逆に言えば、そのあたりで十分に素養を積み重ねている人にとっては実家のように読みやすい本かもしれません。念のため申し添えておくと、かなりシリアスな本です。
『流浪蒼穹』
火星が独立戦争を経て地球から独立したあとの時代を描く、中国発の長編SF。スケールは大きいものの、SF的な派手さというよりも、静かで不可避的な変化と内省を描くジュブナイル小説という所感です。火星から地球へ留学した若者が、火星と地球、どちらの文化にも馴染めなくなってしまっている自分に気づく……という物語で、個人的にはル・グィン作品に近さを覚えます。こうした物語が中国のSF作家によって書かれたことも興味深いです。なお、本作の著者・郝景芳氏は別所で紹介した『折りたたみ北京』表題作の著者で、そちらでヒューゴー賞を受賞しています。
『ソラリス』
惑星ソラリスを覆う、「知性をもった」巨大な海を題材にしたSF大作。といっても、はっきりした未知とのファーストコンタクトみたいなものを期待して読むと、出てくるものとの温度差に驚くかも。全体的にかなり観念的で難解。理解不可能なものを理解しようとする試みそれ自体を嘲笑うかのような、茫洋とした感触が手元に残っています。
『百億の昼と千億の夜』
プラトン、シッタータ(釈迦)、イエス、阿修羅が、アトランティスから宇宙の彼方まで、宇宙の創造と終末の謎を追う物語。何を言われているのかよくわからないかも知れませんが、正直私にもよくわかっていません。とにかくスケールが壮大で、全体としては仏教的宇宙観がベースになっているという印象を受けつつ、さまざまな神話や哲学もごった煮されているようで、かなり難解です。
萩尾望都氏のマンガ版が非常に有名なのですが、これは早川書房関係ないしな……と思っていたらなぜかKindle版は同タイミングで半額セール中。マジ!?なんでかわかんないけどありがとう河出書房!とりあえず気になる方はこっちから読んでみることもおすすめします!
『無限病院』(シリーズ)
かっこいい表紙とかっこいいタイトルに惹かれて読んでみたら大変なことになった。大宇宙に仏陀を探すところから物語が始まったかと思うと、永遠に診察と検査ばかりが続く病院での悪夢のような物語に……。率直に難解で、実をいうと筆者は通読できていません。その状態でこれを人に薦めるのどうなん……?とは思うんだけど文章はすごいしなんかおもしろい雰囲気はあって……! 理解できればおもしろそうで……! 中国ではしばしばカフカなどが引き合いに出されて論じられているらしく、たしかにそうした陰鬱な不条理さを感じます。
おまけ:セールに関係ないSFとか
以下は完全に蛇足です。セールとかはもうまったく関係ありませんが、「せっかくたくさんSF並べたし、これも紹介しておくか……」と思いついたものをとりあえず置いておきます。
安くはなってないし、そもそも電子化されてないものもありますが、おもしろさだけは保証します。
果しなき流れの果に
『日本沈没』を始め数々の大作で有名な日本SFの巨人、小松左京による傑作SF。はるか古代・恐竜時代の地層から、無限に砂が落ち続ける奇怪な砂時計が発掘される……というあらすじだけで既におもしろい小説。このあとも謎が謎を呼ぶ展開が続くのですが、そうした物語的な助走を経て、後半には哲学的・観念的な宇宙論のような話が展開されるので、読み切るには勢いも大事。早川から刊行されている文庫版があるのですが、電子版は角川版しかなく、セール対象外。残念。
ホーキング、宇宙を語る
2018年に亡くなった世界的な理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士が、市井の一般読者に向けて、物理学や宇宙の話を語ってくれた、たいへんありがたい本。たぶんものすごくわかりやすく説明されているのですが、だとしても難しい。途中からまったく理解が追いつかなくなる人もいる(筆者はなった)と思うのですが、だとしても「宇宙すげーっ!」になります。既に30年以上前の書籍なので、研究が進んで現在では異なる説明がされていることも含まれると思うのですが、宇宙に興味をもつきっかけとしてはかなりおすすめです。ちなみに、より新しい「最後に語る」は電子化済み&セール対象でした。いま読むならこっちかも?
渚にて
第三次世界大戦によって世界の大半が放射能にのまれ、まさに滅亡の淵にある人類を描いた傑作終末SF。映画でも有名な小松左京の『復活の日』にも強い影響を与えたとされています。邦訳された海外SFには優れたタイトルの名作が多々存在していますが、本作も間違いなくそのひとつでしょう(原題は“On the Beach”)。刊行は創元社から。
マーダーボット・ダイアリー(シリーズ)
手軽に読めてとにかく楽しい作品としてまっさきに人に勧めたいシリーズで、一人称「弊機」、自称「欠陥品のマーダーボット」の警備ロボットを主人公にしたSF活劇。「お前のような機械がいるか!?」とツッコミたくなるような主人公の一人称の語り口はかなり独特でめっぽうおもしろく、物語展開も痛快な活劇モノ。なんとなくSFっぽいものが読みたければとりあえず読んでみて欲しいです。
