「夜間の非常階段の利用を禁止する」
恐ろしく重々しい音楽を背景に、見るからに只者ではない男が、こちらを睨みつけながらそう宣言する。
彫りの深い顔には権力者の威圧感があり、その眼光からは逆らった人間を次々と闇に葬ってきたような凄みすら漂う。一体何が始まるのかと身構えていると、「夜は非常階段使うのやめようね」という提案だった。
いや、マンションの理事会かよ。
実際、マンションの理事会なのである。
『RULES OF RESIDENCE』は、35年ローンを組んで家族3人の新居を購入した主人公が、なぜか独裁的な理事長の支配するマンションへ引っ越してしまい、その管理組合の理事として住民たちの生活を変えていくシミュレーションアドベンチャーゲームだ。
本作を手がけるのは、東映アニメーションがパブリッシングした『ゲゲゲの鬼太郎』原作のホラーゲーム『ノロイカゴ ゲゲゲの夜』で、開発を担当したTOYDIUM(トイジアム)。
今回「東京ゲームショウ2026」でこの体験版を遊んできたのだが、これがもう、ホラーゲームど真ん中みたいな顔をしながら、マンションの自治について死ぬほど真剣に話し合うゲームなのだ。
しかもゲームとしても、能力値とダイスによる判定や、住民、噂、道具などを「手札」として切っていくシステムが妙におもしろい。選択とダイス運が物語に絡み、TRPGやゲームブックをプレイしているような気持ちいい手触りになっていた。今回はこちらについてお届けしていく。
絵も文章も音楽も暗くて不気味、なのにやっていることはマンション運営。コントか?
アニメのオープニングなどで、これから戦うことになる敵の幹部たちが本編に先駆けて顔見せするようなシーンがあったりするが、本作もそのようにしてゲームが始まる。
なんかみんな、やたらと顔が濃ゆい。
マンション運営に携わっている理事会の理事たちが一堂に会しているシーンなのだが、どいつもこいつもひとクセもふたクセもありそうな顔をしている。
サラリーマン風の男は伊藤潤二の漫画とかで突然顔が崩れたりしそうだし、関西弁のおっちゃんはどう見ても悪徳不動産屋か悪徳金融屋である。主人公を導いてくれる謎めいた男は、ジョニー・デップを三日三晩鍋で煮詰めたような顔をしている。【※】
【※】:本記事には不動産業界の方や金融業界の方、ジョニー・デップさんを貶める意図はありません。
不気味テイストの絵柄ではあるのだが、なんだか妙な愛嬌のようなものがあって微妙に怖がれない。主人公の夫もホラー映画ならたぶん中盤あたりで死ぬようなタイプだと思う。愛情も信頼も知性もあるけど、運だけがなかったタイプ(偏見)。
そんな濃ゆメンたちの中でもひときわ圧倒的な存在感を放っているのが、冒頭でもご紹介した人物、マンションを牛耳っている理事長だ。
どう見ても30人くらい人を殺している。というかどう見ても人間ではない。鬼とか魔王とかそういう類だろこれ。めちゃくちゃ赤いじゃん。
まあ当然ながらそんな設定はなく(少なくとも今回の試遊範囲では)、彼はただマンションを独裁的に支配している理事長であるというだけなのだが、その顔と演出にあまりにも貫禄がありすぎるのである。
そんな理事長が、体験版で最初に持ち出してくる議題が「夜間の非常階段利用を全面禁止する」。この顔と威厳で言われるとなんだかすごいことのように聞こえるのだが、正直よく考えるとどうでもよすぎる。マンションの理事会かよ。
住民にとっては困るのでどうでもよくはないのだが、不出来な部下の生き血をすすってそうな顔の男が言い出す提案としてはあまりにもスケールが小さい。しかも議題が無事に通るとまんざらではなさそうな反応をするのも正直おもろい。
本作は絵柄も音楽も文章も、基本的にはかなりダークだ。マンションの廊下は薄暗く、住民たちはみんな腹に何かを抱えていそうな顔をしており、画面全体から漂ってくる雰囲気だけならほとんど心理ホラーである。
なのにそこで繰り広げられている物語を冷静に眺めると「マンションの規則を巡って理事会と住民が揉めている」という絶妙なしょうもなさがあり、この落差がプレイ中ずっとジワジワ効いてくるのだ。
住民も噂話も「手札」になる。ダイスを振ってマンション政治を生き抜くゲームブック的システム
もちろん、『RULES OF RESIDENCE』のおもしろさは、妙にシュールな世界観だけではない。
ゲームではマンション内で発生するさまざまな出来事が「イベント」として出現し、それらを調査したり、住民に働きかけたりすることで時間が進んでいく。
1ターンは1週間。理事である主人公が行動できるのは週に一回だけで、月末には理事会が待ち構えているため、限られた時間の中で「どの住民に接触するのか」「どんな情報を集めるのか」「どの問題を解決するのか」を選んでいかなければならない。
今回の体験版では、最初の議題である「夜間の非常階段利用禁止」を巡る理事会までがひと区切りとなっており、それまでに理事長へ立ち向かうための準備をすることもできれば、逆に理事長側へついて住民たちを支配する方向へ進むこともできた。
おもしろいのが、その過程で出会った人間や手に入れた情報、道具などのほとんどが「手札」として扱われること。
たとえば「関心」「我慢」「説得」といった、相手にどのような態度を取るかを示すカードがある一方で、「○○さんについてこんな噂を聞いた」という情報もカードになるし、お金のような物資もカードになる。住民や情報は使ってもなくならないが、物品などは一度使えば失われるため、何をどこで切るのかも重要になってくる。
イベントでは「生活」や「文化」といった主人公側の能力値に応じてダイスロールが行われ、その出目に応じて成功/失敗の判定が行われる。
つまり「あの住民から聞いた噂を持って、この人に相談してみよう」「この人なら生活の能力値が高いからいけそうだ」と、手持ちのカードを組み合わせながら最適解を探していくことになる。
ひとつのイベントから得た情報が別のイベントで使えるようになり、それによって新しい住民を味方につけ、その住民が理事会では自分の意見に賛成してくれるようになり……という具合に、マンション内の人間関係がじわじわと一本につながっていく感覚も気持ちいい。
公式では「マンションの運営シミュレーション」と謳ってはいるのだが、遊んだ感触としてはむしろゲームブックやTRPGに近い。選択肢と手札を睨みながら「これをここで使ったらどうなるんだ?」と考えていく楽しさが、本作のキモのひとつだと思う。
最初に仲間になる隣のおばちゃん、どう見ても裏切りそうなのにめちゃくちゃ頼りになる
そして、そんな本作で筆者がもっとも頼りにしていた人物がこちら。
隣の部屋に住んでいるおばちゃんである。
正直に言って、最初に登場した瞬間は「絶対に光の速さで裏切るやつじゃん」と思った。
言動ではない。顔である。
あまりにも「序盤で親切にしてくれるけど中盤で正体を現す人」の顔をしている。何か怪しい宗教に勧誘されても驚かないし、家に招かれて出されたお茶には変なものが混入されていそうな気さえするのだが、実際に仲間になってみると、とんでもなく頼もしかった。
マンションの見回りでも、監視カメラの映像を調べるための手伝いでもやってくれるし、主人公が集めてきた不確かな「噂」を持っていけば、その断片的な情報から「それはたぶんこの人ね」と確度100%で住民を特定してくれる。どういう情報網なんだ。
しかも、マンション内での活動によって主人公の精神が削られているときには心のケアまでしてくれる。ま、まさか本当にただのいい人なのか……!?
筆者はあまりにも便利なのでことあるごとに頼りまくっていたのだが、その信頼は最後の理事会でも裏切られることはなかった。
この理事会、それまでの時間の中で集めた仲間や情報など、さまざまな手札を使って理事長と対決する、言ってみればボス戦のようなものなのだが、ここでまさかのダイス最大値を叩きだしたおばちゃん。マジで期待を裏切らなすぎる。
マンション住民たちはイベントをうまくこなすリソースでもあるのだけれど、「リソース」であるがゆえに生まれるドラマも出てくる。こうした妙な愛着が自然と生まれてくるところも、TRPGっぽさがあってなかなかおもしろい。
理事長を倒したと思ったら「自治会」を結成。俺たちの戦いはこれからだ!
ここまでも軽く触れたが、月末の理事会で主人公は理事長に対抗して住民の自由を守ることも、逆に理事長側に付いて住民を支配する側に回ることもできる。
とはいえ繰り返しになるのだが、ここでの議題は「夜間の非常階段利用禁止」であって、正直に言って死ぬほどどうでもいい。エレベーター使えや。

今回は隣のおばちゃん含め、愉快な仲間たちの力を借りつつ、無事に理事長の提案に反対して「夜間の非常階段の利用を許可する」細則を追加することに成功した。
そして理事会を終え、ようやくひと息つけるかと思ったところで、最初に主人公を導いた謎の男が宣言する。
「今日……これを機に『自治会』を結成する」
そんな真剣な顔で独立宣言みたいに言うことか?
本作『RULES OF RESIDENCE』は、音楽とビジュアルとテキストだけなら、かなりサイコホラーっぽい。主人公は解放者にも、圧政者にもなる道がある。
なのだが、舞台はあくまでマンションの理事会。登場人物が真面目に振る舞えば振る舞うほど、設定の根幹に漂うシュールさがボディブローのように効いていく。あまりにも「笑ってはいけないマンション運営」すぎるのである。
なんてことを書きつつ、「実は体験版以降のお話では急にゴリゴリのホラーになりました♡」とかになると恥ずかしいのでこのあたりにしておきますが、ど、どうなるかな……。
ちなみに本作、会場で配っていたチラシのセンスがサイコーに良く、これもお気に入りポイント。めっちゃ不動産情報なんですよ。(反対面はちゃんとゲーム情報になってる)
本作の体験版がプレイできるのは、東京ゲームショウのインディーコーナーになっている9-11ホールの【09-E41】、および企業ブースの集まる5番ホールの【05-C05】の2箇所だ。
なお、【05-C05】側はブースの内装が凝っており、マンションの管理人室風に。
自分のご近所の「意味不明なルール」を書いていく掲示板などもあって盛況していたので、興味があればこちらもぜひ見てみるといいだろう。





















