ドッターが注目した『KOF』の炎の表現
小林:
『ザ・キング・オブ・ファイターズ』【※】(以下、KOF)シリーズって、他の人があまりやらないけっこうパッキリした質感の表現をされているので、1ドットがすごく重要なんですよね。1ドット打ち間違えるとキャラの表情が変わるとか、立体感が変わるくらいのギリギリのところで作っているんです。ドット絵における究極の表現の1つだと思います。
※『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズ
SNKがネオジオ向けに発売していた対戦格闘ゲームシリーズ。3人1組でチームを組み、ほかのチームと勝ち抜き戦を行う。『餓狼伝説』や『龍虎の拳』、『怒』『サイコソルジャー』などSNKの人気作品のキャラクターが登場していた。また、物語の中心的人物である草薙京やライバルの矢神庵、オロチ一族、ネスツなど、本作オリジナルキャラクターも高い人気を博した。
ーー『KOF』のドット絵というと、メタルな質感の印象がありますね。
小林:
対極にあるのは『ストリートファイターZERO』(以下、ストゼロ)シリーズだと思うんです。『ストゼロ2』はアニメーションの中割りの数も多くて、筋肉の膨張とかをすごくデフォルメしているんですよね。だから肉体の動きがすごく柔らかく見えるんです。
『KOF』って、どのコマを1つとっても人体のデッサンとして嘘がないようにかっちり描かれているので、アニメ調の誇張された動きと比べるとちょっと堅い印象を受けるかもしれません。でも、それは高度なテクニックで、キャラの動きにごまかしがきかないんです。
あと、やっぱりエフェクト寄りの話になるんですけど、草薙京の「裏百八式・大蛇薙」の炎の表現もすごかったですね。余計な色を使わずきっちり1ドットずつ丁寧に打って、飛び散る火の粉も全部計算して描かれているんですよ。しかもどのコマを見てもカッコイイんです。
池田:
あの技はシルエットや形にすごくこだわってアニメーションさせているみたいで、すごく美しいですよね。
小林:
炎の表現の革命でしたよ。あのエフェクトの描き方はゲーム業界のドッターに大きな影響を与えたんじゃないでしょうか。
池田:
ネオジオには半透明機能がないんですけれど、それでもこんな炎の表現ができるんだと驚かされました。
小林:
飛び散る火の粉の輪郭1つ1つが、ちゃんと炎のかけらを表現しているんですよね。それまでドットの炎って、アニメなどで使われるいかにも炎といった形で火の粉なんかも数ドットの点で描かれているだけだったんですよ。
ーーそういう他で発明されたドット絵の表現方法も積極的に導入されていくんですか?
池田:
マネしようとはしますけど、本当に上手い方がやられているやつってマネしたりアレンジすること自体がすごく難しいんですよ。
小林:
「今回の炎は『KOF』っぽくしてみようか」みたいな、現場では言葉としては使いますけど到底追いつけないですよね。
池田:
エフェクトはいろいろ探して参考にしています。よく見ているとメーカーさんごとにエフェクトのライブラリみたいなのがあって、シューティングの爆発が格闘ゲームの効果で使われていたりとか、いろんな使い回しが見えてきて面白いですね。
小林:
それは考えたことなかったです。よく見つけましたね。
池田:
例えば三日月状にシャキーンってなるエフェクトとかって、シューティングゲームでよく使うやつですけど、格闘ゲームでも見かけますね。そもそもそもそもエフェクトを描きたい人が少ないので、やっぱり生産数が少ないんですよ。
小林:
ドッターの募集に応募してくる人は、キャラクターのアニメーションを作れる人はけっこういるんですけど、そこにエフェクトを付けられる人はあんまりいません。なので、入社してからエフェクトの付け方を教えるというパターンが多いです。
でも、エイリムの場合みんなエフェクトを使い回そうとしないんですよね。『FFBE』で、『零式』とコラボした際に、主人公キャラが十数名いたんですが、進化したキャラクターの足元から出るエフェクトは3パターンくらいあればいいかなって思ったんですけど、『零式』のキャラクタードットを作る複数の担当者は、全員別々にエフェクトを描いてました(笑)。
ーー誰一人、エフェクトを使い回さなかったんですね。
小林:
変な意地があるんですね。「お前のエフェクトは俺のドット絵には入らせねえ」みたいな。
ーードット絵のエフェクトの付け方のコツみたいなものはありますか?
小林:
僕が使っているツール「エッジ2」の機能で、半透明化と加算っていう機能があるんですけど、その組み合わせでいろんなエフェクトが表現できるんですよね。
例えばこのキャラなんですけど、足元の下に煙が出てますよね。これって実は2コマくらいしか描いていなくて、透明度を下げながら横にゆっくり流してそれっぽく見せるんです。
『ブレフロ』ってキャラがワーッと戦って、ワーッと去っていく感じなので、キャラクターを細かく動かすよりは大きく動かして、印象で分からせることがすごく大事なんです。
だから、本来はこの煙もキレイに滑らかに動かすべきなんでしょうけど、ゲームとしての見栄えを考えて、あえてこういう動きにしていたりとかはあります。
ーーそれはスマホの画面の大きさを考えて、という話?
小林:
そうですね。
ーー日本一さんは大画面テレビで勝負することが多いと思うのですが、考え方やコンセプトに違いはありますか?
池田:
そうですね、日本一の場合はドット絵の統一感を取ろうというのがあって、必ずキャラクターやエフェクトを描く人間は1人ですね。その人が描いたものを基に全員が作画をしていく。後はタイトルごとに統一感を持たせるようにタッチを合わせていくことが大事と考えています。
ーー日本一さんはキャラ自体の質感的なところにすごくこだわっていて、よく見ると足元とか顔の表情にすごい情報量がありますよね。
池田:
ゲーム雑誌に掲載されるときに、どの瞬間が画面撮影されるかわからないので、パターン全部をキレイにしようと思って作ってたんですよ。
ーードット絵のパターンでアニメーションを効果的に見せるにはどうすればいいと思いますか?
池田:
昔はドット絵を動かす場合、半ドットずつずらしながら【※】とにかく滑らかに見せるような動きをしてきたんですね。でもアニメーションとして爽快な動きをしようとするとこれは逆効果なので、もうちょっとアニメーター的な描き方になってきますね。
※ドット絵の半ドットずらし
ドット絵は1ドットの点で表現されているため、動かすときは1ドットずつしか絵をずらせない。しかし、中間色や画面の滲みなどを利用することで、あたかも1ドット未満の範囲で絵が動いているように見せるアニメーションテクニック。
ーーアニメーター的な描き方というのは具体的にはどういうことを指すのですか?
池田:
キャラの大きいゲームだと絵をドット単位で調整するよりも、全体のアニメーションの動きを描くという技術が必要になってきます。例えば、解像度が上がった『ディスガイア4』や『5』では、紙に一度描いてからドット絵に落とし込んでみるスタッフもいました。
ーードッターは、まず紙に描くというのは普通あまりやらないんですか?
池田:
普通は最初からドットとして打ち込んでいくと思うんですけど、格闘ゲームのキャラとかになると一度トレース台で紙に描いたりするみたいですね。
ーーちなみに格闘ゲームのキャラクターのドットとかやってみたいんですか?
池田、小林:
あんまりやりたくないです。
ーー2人とも同じリアクションだ(笑)。
小林:
ただ、今のスマホゲームは解像度が上がっていて、大きなキャラクターを描くので、仕事的にはほとんど格闘ゲームのキャラクターのドット絵を作っているのと変わらないところもあるんですよね。
スマホの画面の大きさ的に、1ドット細かく動かしても実はゲームの性質上ほとんど見えないんですよ。エフェクトとかを組み合わせて、空間を大きく使うアニメーションを描くようにして、キャラが魅力的に見えるようにしています。
これとかはコマ単位で見るとそんなに滑らかではないですが、キャラが動いたときに緩急を付けたりコマを飛ばすことで、勢いを付ける演出に注力していますね。
ーーキャラクター自体を作り込むというよりは演出を重視している?
小林:
そうですね。あとはモーションアイデアとか、どこで光らせるとか、どこで残像を残すかとか。『FFBE』はキャラ同士がゴチャっと戦っていることが多いので、印象に残るような演出を心掛けています。たしか、光の戦士の画像があったと思うんですけど……。
これもただのモーションが続くとユーザーさんも飽きるだろうと思って、体をとにかく眩しいくらい光らせています。光の戦士だから。
池田:
日本一の場合はドッターと別の人がエフェクトを作ってて、あとでスクリプター【※】が組み合わせをしています。『ディスガイア5』は、どちらかと言うとエイリムさんの考え方に近いです。1枚1枚メリハリをつけて、アニメーションとして映える動きを重視して作画しています。
※スクリプター
絵とエフェクトや、シナリオと効果音など別々の作業で作られた素材を組み合わせ、ゲームとして動くように組み立てていく人。
ドッターに求められる資質とは?
ーーそういえば両社とも、ドッターを随時募集中ですよね?
池田:
ずーっと募集してます。日本一のデザイナーは、やっぱりみんな絵が上手いんです。私より上手いんですよ。最近は若手のドッターも絵が上手いんで、うらやましいですよね、あれぐらい絵が上手かったらいいんだけど。
小林:
僕もチームリーダーやってるのに、部下からダメ出し食らいますもんね。
池田:
辛いですよね、本当に。
ーーお二人はドット以外の絵は描くんですか?
池田:
最近はあまり描かないですね。
小林:
僕はイラスト一切描かないですね。開所恐怖症なので、256×256以上になると死ぬから(笑)。
池田:
古いドッターさんは、絵を描けない方がけっこういますよ。その代わりマウスで絵を描かせるとすごく上手い。
小林:
それ僕ですね。昔、ペンタブ使った方がはかどるからってやらされたんですけど、その日熱出して早退しましたから。ダメだこれって(笑)。エイリムに入社したときもペンタブ渡されましたけど、返しました。いりませんって。
池田:
業界には、アーケードの筐体のボタンとジョイスティックを使ってドットを打つ人がいるらしいんですよね。「これじゃないと打てない」って人が。
ーーそんな人いるんですか?
小林:
聞いたことありますね。
ーーで、話を戻しますけど、どんな人に来てほしいですか?
池田:
やっぱり絵が上手い人がいいですね。日本一にいるデザイナーはみんな絵が上手いから、絵が下手な人に厳しいんですよ。みんな絵が上手いことを前提に話をするので。
ーー日本一における「絵が上手い」というのは、どういうことを指すのでしょうか?
池田:
デッサンができるとか、ちゃんと人体構造が分かっているということですね。そういう人なら絵も描けるし、ドットにも落とし込めるし、当然作画も早いし。
ーーエイリムさんはどうなんですか?
小林:
絵は当然上手な方がいいんですけど、アイデアも出さなきゃいけないので、指示を受けてドットを打たされるような人は、入社しても長くもたないと思うんですよね。
「このキャラだったら、僕はこうやって動かしたい!」っていう情熱がある人がすごく欲しい。多少絵が下手でも、それは先輩たちの多少のシゴキに耐えれば上手くなっていきます。上手くなるためのシゴキに耐えるメンタルと、リテイクをいくら重ねられても大丈夫なくらい絵を描くことへのモチベーションが高い人がいいですね。
そもそもドット絵が上手くて、モーションも上手くて、エフェクトも描ける人なんていないんですよ。どれかが多少欠けていてもいいから、それを上回る情熱と吸収力を持っている人が欲しいですね。
池田:
あ、うちも同じにしておいてください(笑)。
ーー絵って個人的には教えられて上手くなるというイメージがないんですけど?
小林:
僕の持論なんですけど、絵が上手くなる要素っていくつかあると思っています。画力だけでなく、アイディアの引き出しも重要ですね、あと速度も。いろんな要素がぜんぶ組み合わさって、絵が上手いと言えるんだと思ってます。やっぱり教えられるところと教えられないところがありますよね。
ーー教えられる要素と教えられない要素の違いはどこ?
小林:
デッサンは正解があるんで教えられるんですよ。でも、アイデアって正解がないじゃないですか。だから放っておいてもアイデアが出てくる情熱がある人が欲しいんです。
例えば、「やめろ」って言ってるのに、何だかよくわからないモーション作ってくるスタッフがいるんですね。「この戦士って、普通に攻撃してもつまんないから踊らせてみました!」とか言って。いや戦士は踊らなくていいから……。
でもその情熱は認めたい。技術と画力は教えられるけど、アイデアは刺激を与えないと伸びないものなので、失敗してもいいから新しいアイデアを出してもらえるような育て方をするように心がけてます。
ーーそのスタッフのモーションは、たまには採用されたりするんですか?
小林:
たまに通しますよ、迷いながら(笑)。後から「やりすぎです」って、僕が言われるんですけどね。この前も『FFBE』では瀕死になるとガクッ崩れ落ちるんですけど、立ったままで瀕死がやりたいですって言いだしたスタッフがいたんですね。僕も面白がってやってみてもらったら、案の定瀕死に見えないって言われまして……。
でもゲーム制作って守りに入ったら負けなので、そうやってチャレンジして失敗しないと新しいものって生まれないと思うんですよ。
ーーそういえば、ドッターの女性って多いんですか?
小林:
最近はドットを打ってみたい女性が多いんじゃないかと思っているんですよね。ゲーム業界の男女比率が変わって来たのもあるし、スマホゲームはコンシューマーに比べてライトでカジュアルなイメージがあるので、スタッフにも女性の応募者が多いんですよね。
女性は繊細な仕事に向いていると思っているので、ドッターもそれに近いもんがあるんじゃないかって思うんですよ。
ーーエイリムには女性のドッターが多いんですか?
小林:
社内に普通にいますよ。
ーー日本一さんは?
池田:
女性のデザイナーはけっこう多いんですよ。でも女性のドッターは、今はいませんね。
ーーこの記事を読んでいる若い子に向けて、何か言っておきたいことはありますか?
池田:
この取材、最初に方眼紙にドットを打つ話とかしませんでしたっけ。若い子読んでくれるかな?
小林:
これ30~40代とか来るやつですよね。
池田:
最近社内ではサンドボックス系の『マインクラフト』のような、ユーザーが自作できるゲームが話題になることが多いんですよ。ドット絵を描くのは楽しいから、みんなにやってもらえるようにゲームのシステムに組み込んでみたいなんてことを言ったりしてます。
そこから「ドット絵を打つのって楽しいね」っていう盛り上りが、今後大きくなっていったらいいなと思います。
小林:
ドット絵っていうのは、すでにいっぱい資産があるものですよね。これからは過去の技術や資産にどういったアイデアを組み合わせるかが重要だと思います。そうすることで、また新しいスタイルのドット絵が出てくると思いますよ。
「懐かしい」的な文脈で語られることが多いドット絵。この対談も、当時のエピソードを中心として話は進んでいったが、スマホ画面での作り方のように、時代と共にドット絵も進化しているところも伺えた。お話を聞いたお二人は、共に「ゲームを作りたい」という動機からドッターのキャリアがスタートした。当時のゲームのグラフィック表現のことを考えると、とても納得できる動機だ。
じゃあ今、ドッターを志す人、特にプレステ以降の世代「ゲームってポリゴンでしょ」みたいな人は、どんなモチベーションでドッターの門を叩くのかにも大変興味が出てきた。機会があれば、そういった若いドッターの話も聞いてみたいところだ。……あ、あとS気質の強いドッターの方のお話しも。
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