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ゼルダ新作を海外オープンワールド名作群と徹底比較。“洋ゲー”通のベテランライターが任天堂の「職人技」を解説してみた

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 3月3日に発売された『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、『BotW』)の評判は、ひと月以上経ったいまでもあちこちで語られ、『ゼルダ』をオープンワールドゲームとして見事に昇華させた作品だという賛辞が止まないでいる。

 一方、発売日にニンテンドースイッチを購入し、『ゼルダ』にワーッとのめり込んだプレイヤーには、おそらく従来からの『ゼルダ』ファンや任天堂ファンが多いのも事実だろう。なかにはオープンワールド的なゲームに初めて触れるプレイヤーもいると思われる。では、この『BotW』は、オープンワールドゲームの中にあってどんな存在なのか?

ゼルダ新作を海外オープンワールド名作群と徹底比較。“洋ゲー”通のベテランライターが任天堂の「職人技」を解説してみた_001
(C)Nintendo

 この素朴な疑問を解消すべく、今回はファミ通.com4Gamer.netで、FPSやオープンワールドゲームなどの、いわゆる“洋ゲー”やハードウェアレビューを中心に活躍しているBRZRK氏に登場いただいた。オープンワールドという分野で先行している“洋ゲー”を浴びるほどプレイしている彼の目に、『BotW』はどう映ったのか?

著者
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「親を質に入れてでもFPS」がモットーの、自称ボンクラフリーライター。BRZRKは“バーサーク”と読む。過去には『QUAKE』や『カウンターストライク』といったタイトルで日本代表選手としても活躍。現在は番組のMCや大会の実況・解説をしたりと、よろず屋的なことをしつつ、日々ゲームを遊んでいる。
Twitter:@BRZRK

オープンワールドの文法を踏襲しつつ「早く遊びたい」欲求に応える

 本作『BotW』を「オープンワールドのゲームとして見るとどういう評価になるのか?」という内容で原稿を書かないか? という話をもらい、スイッチ本体は購入していたもののソフトを持っていなかった筆者は量販店へと出向き、レジでの精算を済ませて家路に着いた。

 そんな感じでゲームはいままさにプレイしている最中だが、洋ゲーを年間何本プレイしているかわからない洋ゲー好きとして、オープンワールドを採用した『BotW』がどういうタイトルであるか稚拙ながら書き出していこうと思う。

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海外オープンワールド作品と『BotW』の違いとは?

 オープンワールドのゲームをプレイヤーに遊ばせるとき、とくに大事だと思うのがプレイヤーに“世界の広がり”を早い段階で感じさせることだ。
 これは「エルダースクロールズ」(以下、「TES」)シリーズ【※】や「フォールアウト」(以下、「FO」)シリーズ【※】など、著名なオープンワールドのシリーズでも顕著で、最初に前者であれば地下牢、後者であれば核シェルターという閉鎖空間から物語が始まる手法を取ったりしている。なぜなら、最初に狭い空間の中で行動させることでプレイヤーに世界がミクロであるかのように印象づけるためだ。その後、いざフィールドに出たときに突然世界を広げることで、その広大さを目の当たりにして、プレイヤーはこれから始まる冒険への期待を高めるのだ。

※「エルダースクロールズ」シリーズ
1994年に第1作が発売。ベセスダ・ソフトワークスが開発。オープンワールド型のファンタジーRPGで、高い自由度が特徴。

※「フォールアウト」シリーズ
1997年に第1作が発売。ブラックアイル・スタジオおよびベセスダ・ソフトワークスが制作。22世紀から23世紀にかけての時期を舞台としたオープンワールド型RPG。

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『The Elder Scrolls V: Skyrim』(写真左)と、『Fallout 4』(写真右)。
(画像はそれぞれ公式Steamより)

 本作『BotW』でも同様、物語の最初に“回生の祠”という狭い場所でリンクが目を覚ます。この時点では窮屈さしか感じられないのだが、祠から出ると眼前には開けたハイラルの大地が広がり、これから始まる長い(楽しい)冒険をプレイヤーは予感することになる。

 このようにオーソドックスなオープンワールドの文法を踏まえた始まりながら、さらに『BotW』では、そこに至るまでのプロセスにも任天堂らしい丁寧な配慮がなされている。

 前述の『TES』や『FO』だと、地上に出るまでに小一時間ほど、キャラクターエディットやチュートリアル要素を含めたプレイを要求されることがほとんどだ。だが『BotW』は、主人公がリンクという「ゼルダ」シリーズのアイコンに定まっているため、キャラクターのエディットが当然不要。また、リンクが目覚めてから祠を出るまでにかかる時間も最小に留められている。つまり、プレイヤーはほかのゲームと比較しても、かなり早い段階でハイラルの大地に降り立つことができるのだ。これによって冒険に臨むまで、つまり世界の広さを感じるまでにプレイヤーのモチベーションが低下してくことがない。

 あ、念のために書いておくけど、早いから偉いという訳でもないよ。素早く世界に飛び込めるという配慮はめずらしいし、「早くこの世界で遊びたい」という欲求に答えてくれる配慮がなされているということなだけね。

「祠」に見る、世界を壊さずにさりげなく行われる「誘導」

 こうして崖の上からハイラルの大地を見回していると、火山や廃墟となった建物、丘の上にある木製の櫓……といったオブジェクトが視界に入る。この時点でプレイヤーは「あそこに何かありそうだ、行ってみたと、見えるものに対しての探求心が植え付けられるというわけだ。

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“回生の祠”の外に広がる広大な大地。

 「TES」シリーズの最新作(2011年リリース)の『TES V: Skyrim』なら、リバーウッドという人が集まる場所、つまり最初の村を目指すことになる。そこで情報を収集し、これから自分がなすべきことを考えるためだ。しかし『BotW』の場合は、繁栄を極めたハイラル王国が壊滅し、人々がどうなったかもリンクにはわからないような状態。そのためプレイヤーは文字どおり手探りで歩みを進めるしかない。

 そうなると「どこに行って何をすればいいのか?」とプレイヤーは歩みを止めてしまいがちだが、前述したように「何かありそうだ」と思わせておくことで、おのずと気になる場所へ移動するようになる誘導がなされている。回生の祠から出て、早々に目的を与えてくれる人物が登場し、方向を見失わないのだ……これ、意外とシンプルだけどプレイヤーのモチベーション維持にも繋がっているので、すげぇ重要だと思う。

 海外産オープンワールドゲームの場合だと、こんなときはプレイヤーが移動すべき方向を見失わないように、獣道や砂利道などを導線として最初の町まで敷き、合間に小規模な戦闘を挟みながら行動することになる。だが、この段階でプレイヤー自身は世界に対してとくにコレといった動機がないというケースもままある。そこを『BotW』は表面上最小限の手数でプレイヤーを誘導する。ほかのオープンワールド作品と比較しても、行ってみたい場所や目的が提示されるのがかなり早い構成と言っていいだろう。

 こうして、なんだかんだしていると物語が進んでいくわけだが、シーカーストーン【※】が使えるようになると、今度は祠やタワーを探しつつ、移動範囲が徐々に広がっていくことになる。

※シーカーストーン
『ブレス オブ ザ ワイルド』では、過去のシリーズでアイテムごとに分けられていた便利な機能を統合した携帯アイテムとなった。マグネットや足場となる氷柱の発生などに始まり、カメラのような機能なども持つ。ここでは、各地のシーカータワー上でシーカーストーンをかざすと、周辺エリアのマップが明かされる機能を指している。

 すでにプレイしている人には釈迦に説法だが、先ほどからたびたび出てきているこの「祠」は、内部に仕掛けられた謎解きをクリアしていくことで、リンクを強化できる重要な要素。世界の隅から隅まで、さまざまな場所に祠が建っているため、必然的にプレイヤーは見晴らしのいい塔や山の上などに登り、見渡して祠を目視で探すことがほとんどとなる。このとき祠を探すと同時に、またあらためて世界の広さを意識させられるのが心憎い。

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暗闇で浮かび上がる「祠」の光。開放前は紅く妖しく、開放後は青く光り、開放したがクリアしていないと両方の色が付く点でもわかりやすい。

 そしてこの祠も発見しやすいように配慮がなされている。まず、祠自体が眩く発光しているため、遠くからでも視認しやすくなっているのだ。これは昼夜の概念がある本作では頼もしい状況で、日没後に塔の上から周囲を見渡したときでも、闇の中に祠が発光していることで発見を容易にしてくれている。さらに、リンクが手に入れるシーカーストーンは、祠がある方向を携帯電話の電波強度マークに似たアイコンでプレイヤーに知らせてくれる作りになっていて、目視で発見しきれなかった祠の存在をプレイヤーに教えてくれるのだ。祠をコンプリートしたい筆者としては、これはうれしい。

 海外産のオープンワールド作品では、つぎの目的地をこうして世界を壊さずにさりげなく誘導してくれることはあまりない。あっても目的地が妙に特徴的な地形をしていたり、世界の雰囲気にそぐわない遺構の一部が見えていたりといった感じになる。さらに町の人から「そのあたりに何かがあるらしい」と聞いて向かうことが多い。
 『BotW』ほどのレベルで目的地がひそかに、そして力強く自己主張しているようなタイトルはないと言ってもいいだろう。プレイヤー自ら見つけたという喜びと、遠くから見ていた場所に難所を乗り越えてたどり着いたという達成感。とことん「プレイヤーが何を喜ぶか」を知り抜き、考え抜いたスタッフでなければできない芸当だ。

 そういえば『BotW』で新しいエリアに訪れたとき、シーカータワーで端末を起動すると周辺の情報を入手できる。このシステムは『アサシン クリード』のビューポイントのシステムと類似していると言っていいだろう。

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『アサシン クリード』(2008・UBISOFT)
(画像はAmazonより)

 『アサシン クリード』がどういうゲームかの詳細な説明は省くが、『BotW』と同様にオープンワールドを採用したタイトルだ。ビューポイントは、尖塔の頂上部だったり大きな教会の鐘楼といった目立つ場所に設定されていて、ルートを思案しながらそこへ到達すると、それまでボヤけていたマップの一部が表示されるといったシステム。
 『BotW』の目的地に至るまでの簡単なパズル要素や、到達することでエリアが表示されるなどの点は、おそらく『アサシン クリード』にインスパイアされているだろうし、つまりはこの『BotW』を作るにあたり、開発スタッフが著名なオープンワールドゲームを研究し尽くしていることも容易に想像できる。

 『BotW』は、天才がパッと名作を思いついたわけではなく、素地のある人々が恐ろしいほどの丁寧さで作り上げたタイトルなのだ。

オープンワールドのタイトルとしてはアクション性の高さは「随一」

 一般的にオープンワールドを採用しているゲームは、世界の構築への力の入りかたに比べてアクション性が薄くなりがちな傾向がある。もちろんすべてのゲームがそういう訳ではなく、「Just Cause」シリーズ【※】のようにグラップリングフック(カギの付いた縄)を飛行機やクルマに引っ掛けて跳びついたり、飛ばした物体に跳び乗ったりなど、アクション指向のベクトルにハチ切れたタイトルもいくつかあるが、いまは脇に置いておこう。

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※「Just Cause」シリーズ……2006年に1作目が発売されたアクションゲームシリーズ。スウェーデンのAvalanche Studiosとアイドス・インタラクティブ(現在はスクウェア・エニックス傘下)が制作。最新作『Just Cause 3』は広大なマップが醍醐味。
(画像は『Just Cause 3』の公式Steamより)

 『BotW』をオープンワールドを採用したRPGのタイトルとしてみると、これほどアクション性を持ったタイトルはほかにないのではないかと思う。戦闘を見たとき、弓、剣、槍といった武器はほかのタイトルでも普通に登場する。しかし、攻撃に際して剣だけでも連打、溜め、ジャンプ攻撃と多彩かつ、これが槍やブーメラン、果ては弓を使った攻撃などまでに広がりを持つ。落下中に弓で敵を攻撃……なんてこともできたりと、懐の深いアクションが楽しめる。

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落下中に弓を引き絞ると、集中力が増し、スローエフェクトとともに狙いが定めやすくなる。いわゆるバレットタイムだ。

 防御時も、バク宙や横っ飛び、さらには敵の攻撃を弾き返して隙を作るジャストガードという、少々難度は上がるが戦況を有利に進めるためのアクションも入っている(ジャストガードで敵の攻撃を弾いて連続攻撃を当て、怯んだ隙にチャージ攻撃を当てて撃破したときの気持ちよさは、ほかのオープンワールドのタイトルでは感じたことのないレベルの爽快感だ)。

 これらは日本産のアクションゲームとして考えると、わりと見られる戦闘システムであるため見落としがちだが、オープンワールドを採用したRPGのタイトルでここまで“アクション”しているものはめずらしく、筆者はほかに知らない(見落としているだけかもしれないが)。このことが『BotW』をただのフィールド移動ゲームに貶めず、脈々と続くアクションRPGとしての『ゼルダ』らしさを受け継いでいる証だと言えるだろう。

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移動すらも楽しい冒険の一部に変えてしまう多彩なアクションも本作の魅力だ。

 戦闘ではないけれど、個人的にはアクションでは盾サーフィンやパラセールが気に入っている。ファストトラベル【※】がある程度制限された本作では、若干面倒になりがちな移動を、これらのアクティビティとして楽しめるようになっている工夫はうれしいのひとことだ。

※ファストトラベル
主にオープンワールド型のゲームで採用されている、任意の場所に瞬間移動できる機能のこと。広大なマップを移動する手間が省ける。

AIの賢さ、“生きている感”は『BotW』ならでは

 戦闘があるということは、敵となるモンスターが当然フィールド上にいる。これらのモンスターも、ただその場で突っ立っているわけではなく、生活サイクルのようなものがある。夜になれば寝ていたり、焚き火を囲んで仲間と集まって盛り上がっていたりと、離れた場所から見ているだけでもおもしろい(そんなところにバクダン樽があればよりベター)。
 特にNPCがそれらのモンスターに遭遇してしまったときの応酬は見もので、ハイラル人の多くは一方的に殴られたりしているが、ゴロン族が遭遇すると応戦し始めていたりなど、細かなところまで想像の上をいく仕掛けが施されていて、見ているだけで楽しい。

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旅人に襲いかかる青ボコブリン。リンクとは関係ないところで、人もモンスターも行動している。

 敵との戦闘に突入すると、いわゆるザコと言えども相手としてはタフ。グループで現れたときは近接攻撃系と遠距離攻撃系などきちんと役割が分かれていたり、近場に焚き火があれば木製の武器に火を点けて、文字どおり火力を増して襲いかかったりなどさまざまな工夫を凝らして攻撃を仕掛けてくる。

 「プレイヤーキャラクターを見かけたら仲間を呼び出す」……というのは洋ゲーでもわりとありがちだが、それだけに留まらず、敵が思考して動いているように見えるのは素直に驚く。
 たとえば「TES」シリーズに登場する敵キャラクターの場合、夜になればベッドに入って寝るヤツもいるし、自分で仕掛けたダンジョンのトラップに引っかかって死ぬヤツもいる。だが、攻撃を食らって武器を落としたり、焚き火を利用したりという要素は見たことがなく、この賢さというか“生きている感”は『BotW』特有のものといってもいいだろう。

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夜にボコブリンの野営地を尋ねてみると、ぐっすり眠っている様子が伺える。

 『BotW』のモンスターには、ザコのほかにボスクラスのモンスターも登場する。当然、体力や攻撃力が高めに設定されていて、正面から馬鹿正直に戦おうとすると、なかなか大変な労力を割かなければならない。
 だが、こういった敵もこれ見よがしに弱点部位が露出していて、そこに攻撃を加えると怯んだり気絶させたりが可能になり、効果的にダメージを与えられるようになる。

 このへんは非常に『ゼルダ』のシリーズを踏襲していて、神獣でのボス戦などはオープンワールドうんぬん以前に、従来の「ゼルダ」シリーズをプレイしている感覚に等しい。フィールドで出くわす凶悪な敵相手でも、上手く立ち回れば、相手が格上だろうがジャイアントキリングを成すことも可能なのだ(僕は失敗してリトライしまくるが)。 

 というようにこれらの爽快感のある高いアクション性と賢いモンスターとの駆け引きが相まって、『BotW』は戦闘ひとつとっても、全体を通してまったく飽きを感じさせない作りになっている。

天候や環境がゲームプレイに影響

 それからゲームをプレイしていると、プレイヤーにとってたびたび壁となるのが天候や気温だろう。本作には気温の概念があり、気温が低い場所に防寒対策をせずに留まっていたり、気温が高い場所で厚着をしていたりすると体力がジリジリと削られていく。少なくとも、筆者がこれまで遊んできたオープンワールドのゲームではこういった気温の寒暖による影響を受けるものは見たことがない。単純に僕がそういう要素のあるゲームを知らないだけかもしれないが、マッチョな男が鎧を身に着けただけの軽装で、吹雪いている雪山を走り回るゲームというのも不自然極まりないだろう。

 その天候はゲームのさまざまな部分に影響をもたらす。雨で手が滑るようになり、晴れに比べて崖などが登りにくくなったり、雷雨のときにリンクが鉄製の武具を装備していると、ピリッとしたエフェクトが数回発生し、装備を収めなければ最終的に落雷に撃たれてしまったり。

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空気を切り裂くように落ちる雷。ハートの器が少ないときに当たると、ひとたまりもない。

 普通のアクションゲームならこうした要素は決して目新しい訳ではないが、ことオープンワールドのゲームで天候がゲームのプレイに、しかもアクション部分にまで影響を与える例は稀有だと言えるんじゃないだろうか。『BotW』は、ゲームらしいリアルさを生み出すために、物理法則や天気までを取り込んでいる一方で、洋ゲーでときおり見かける過剰なリアルさについては徹底的にそぎ落としている。
 この取捨選択も「ゲームはどうあればもっとおもろしくなるのか」を突き詰めた、職人的な勘どころがもたらすものなのだろう。個人的には、あえて雨天時に崖を登り、滑ったりしながらヒヤヒヤとスリリングなのをわざと楽しんだりしている。

プレイ出来てよかったと思える、会心のオープンワールド作品

 このように本作について語り始めたら、正直どれくらい書けば終わるのか見通しもつかない。だが、海外のオープンワールドタイトルをいくつもプレイしてきた自分としても、この『BotW』は、「世辞抜きで丁寧さの光る凄い作品だ」という印象だ。

 海外のオープンワールド作品には、前述したとおりアクション性の高い作品もあるが、それよりもストーリーテリングやほかの要素のプライオリティが高く、アクションが二の次、三の次といった位置づけになってしまっているものも多い。この点については各々いろいろな意見があるとは思うが、筆者としては「TES」シリーズの少々薄味なアクションをプレイしていると、「せっかくゲームなんだし、現実じゃできない派手なアクションがしたいのになあ」と感じることがある。(まあ「魔法があるじゃん」と言われると何も言えないのだが)。

 というように『BotW』は、単純にアクションゲームとしてもしっかりと作られているうえ、プレイヤーへのモチベーションの提示方法、綺麗に練り上げられ隅々まで手の行き届いた世界は見事のひと言だ。いわゆる洋ゲーにありがちな魅力的に映らない多数のキャラクターたちと比較すると、『BotW』は少ない人数ではあるものの、ミファーをはじめとする「彼らのために戦いたい!」とプレイヤーに思わせるような、琴線に響く魅力的なキャラクターたちが登場する。

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「愛おしすぎる」と話題のミファー。

 これはゲームに限らず、主流が海外にあるものを国内に持ち込み、創意工夫のはてに改善を凝らして、驚くほどの完成度で世に送り直すという、この国が本来持っているお家芸が炸裂した賜物。『BotW』はそれが顕著に出たタイトルだと思う。そしてそれをストイックなまでに実行できる、ソフト開発スタジオとしての任天堂という会社の恐ろしさ!

 とにもかくにも導入部からガツンと魅入られ、いまはずーっとハイラルの世界を東奔西走している日々を追っているが、あまりに寄り道が激しいため、クリアにはまだまだ時間がかかりそうだ。かといって急いでクリアを目指すつもりもないので、この上質で希有なオープンワールドを、もっとじっくりと味わいながら少しずつ進めていこうかなと思う。

 あ、ミファーと戯れられるDLCが欲しいです(切実)。

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