『マインクラフト』で作られた建築物には、息を飲むほど美しいものがある。ため息が出るほど荘厳なものもある。
それらも、大自然のなかで、主人公が木を切り出して道具を作り、石や鉄などを手に入れて、まったくのゼロから作り上げたものと思えば、感銘はますます深くなる。ああ、なんという壮大なスケールか。
が、冷静に考えれば、これは驚くべき話である。
どんなにすごい建築も、木を切り出すところから始まる。当然、その時点で道具はないわけで、ではどうするかというと、素手で木を殴る!
四角い木の幹を、右手でガガガガッと叩き続けると、破片が飛び散り、原木が手に入る。それは一辺1mの立方体!
壮大な『マインクラフト』の世界で、最初に行われる「素手で木を切り出す」という行為。これは、ちょっとすごくないですか。今回はこの問題を考えてみたい。
どんなパンチ力なのか!?
この豪快な作業を、涼しい顔で繰り返す男たちの名は、スティーブ&アレックス。ここでは、キャリアの長いスティーブを例に検証しよう。
スティーブは、堂々たる体躯をしている。『マインクラフト』の世界では、木も土も鉱物も一辺1mの立方体でできており、これらと比べると、身長2mはありそうだ。
その隆々たる筋肉から、プロレスラーなどと比較すると、体重は150kgくらいじゃないかと推測される。
この立派すぎる体なら、素手で木を切り出すことも可能なのだろうか。
スティーブは、木の幹を右手で何度も殴ることで、原木を入手する。
ゲームの画面で数えてみると、14回殴った時点で、木の幹は打ち抜かれている。
いうまでもなく、奇妙な現象である。どんなに木を殴りつけても、一辺1mの立方体がスポッと手に入る……ということは起こらないだろう、普通は。
そこで本稿では「パンチ14発で樹木を破壊し、一辺1mの立方体のスペースを作る」と考えて、その威力を計算してみたい。というか、そんな計算しかできないです~。
まずは実験してみよう。
角材の先端に直径2.5mmの鋼鉄の棒を固定して、高さ1mから木の板の上に落としてみる。鋼鉄の棒は木の板に0.9mmめり込んだ。「角材+鋼鉄の棒」の重さは160g。
つまり、160gの物体が高度1mから落下するエネルギーで、体積にして4.4m㎥の木が破壊されたわけである。
では、スティーブの場合はどうか?
一辺1mの立方体の体積は1㎥。これはm㎥に直すと10億m㎥であり、4.4m㎥の2億3千万倍だ。
つまりスティーブは、14回のパンチで、上記のエネルギーの2億3千万倍を出した!
ここからパンチ1発のエネルギーを計算すると……、うおっ、車重1tの乗用車が時速810kmでぶつかるのと同じ!
これはもう、強いとか、すごいとかいうレベルではない。
男性の片腕の重さは、体重の5%だから、推定体重150kgのスティーブの場合は7.5kgだ。この腕で、車が時速810㎞で激突するのと同じエネルギーを出すとしたら、パンチのスピードは時速4万3千km=マッハ35!
わははははっ。とんでもない数値が出るだろうと思っていたけど、予想のはるか上を行った。
ものすごいな、スティーブ。こんなパンチを食らうモンスターが気の毒だ。
確かにクリーパーもすごいが
しかし『マインクラフト』の世界には、このスティーブをも脅かすモンスターがいるのだから、驚きだ。近寄ってきて、白く光ると、いきなり自爆する!
その名はクリーパー。近くで爆発されると、スティーブさえも死亡することがある。
これ、いったいどういう動物なのだろう?
現実の自然界には、爆発する動物はいない。動物の行動は「捕食」「防衛」「生殖」「巣や縄張りを守る」のいずれかと関係があり、自分が爆発してしまったら、どれもできなくなってしまうからだ。
植物界にまで目を広げれば、ホウセンカは、実が熟すと弾けて種を遠くへ飛ばす。子孫を広い範囲に広げるための仕組みだ。
ことによると、クリーパーも爆発することで、卵のようなものを遠くへ飛ばすのか……。
などと妄想の森に入ると抜け出せなくなるので、爆発する理由はともかく、その威力を考えよう。
爆薬によるビル解体では、コンクリート1㎥につき200gの爆薬を使う。これは標準的なダイナマイト1本分の薬量だ。つまりダイナマイト1本で、コンクリート1㎥が破壊できると考えていい。
ゲームのある場面では、クリーパーが爆発することで、地面が24ブロックにわたって吹き飛んでいた。地面を1㎥破壊するのにもダイナマイト1本分の爆発力が必要と考え、クリーパーが地上で爆発することを考慮すれば、エネルギーの半分は空中に逃げるから、ダイナマイト48本分の威力となる。すごいな!
こんなモノが近くで爆発したら、スティーブも無事では済まないだろう。
爆風は四方八方に広がるから、1m離れたところでクリーパーが爆発すると、スティーブは全身でダイナマイト2.6本分の爆風を浴びることになる。
ここで「2.6本? 上記の48本に比べれば大したことない」などと思ってしまったあなたは、アタマが『マインクラフト』化しています。ダイナマイト2.6本分の爆風を浴びたら、死んで当然だって。
とはいえ、実は筆者も「あれっ」と思っている。
クリーパーの爆発によるエネルギーも、スティーブのパンチに比べれば、なんということはない。パンチ1発のエネルギーは、ダイナマイト48本が爆発する分の9倍もあるのだ。
『マインクラフト』においては、すべての出発点であるスティーブのパンチ力が異様に突出している。やはり、すごい男だ。【了】