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【新連載:空想科学ゲーム読本】実は卵より弱かった!『スペランカー』の死ぬほど死にやすい虚弱っぷりを柳田理科雄が検証してみた

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 マンガやアニメの世界を科学的に検証し、世代を超えて楽しまれるベストセラー『空想科学読本』でおなじみの“空想科学研究所”が、電ファミニコゲーマーで連載開始! 主任研究員・柳田理科雄氏が、ゲームを“科学”して“空想”します。
 記念すべき第一回は、“虚弱体質”の代名詞・『スペランカー』がテーマ。主人公キャラの虚弱っぷりに迫ります。

文/柳田理科雄
イラスト/近藤ゆたか


※画像はWiiUバーチャルコンソール版です。任天堂ホームページより。

 すぐ死ぬことで有名な『スペランカー』。ゲームにおいて、特徴が際立っていることは、とても大切なのだろうけど、いくら何でも死に過ぎだと思う。

 小さな窪みに落ちただけで死ぬ!
 ロープやハシゴやエレベーターから降りるとき、ちょっと落差があったら死ぬ!
 下り坂でジャンプすると死ぬ!
 自分が仕掛けた爆弾の爆風で死ぬ!
 ブラスター(マシンガンみたいな武器)を撃ち過ぎるとエネルギーが切れて死ぬ!
 コウモリの糞が当たっただけで死ぬ!

 こういうことになったのは、もともと1983年にアメリカで作られた『スペランカー』を、1985年に日本のファミコンに移植するとき、難易度を上げようとしたため……らしい。難しい=すぐ死ぬ。まっすぐな発想をしたものですなあ。

【新連載:空想科学ゲーム読本】実は卵より弱かった!『スペランカー』の死ぬほど死にやすい虚弱っぷりを柳田理科雄が検証してみた_001

 「スペランカー」とは「無謀な洞窟探検家」という意味らしいが、このゲームの浸透によって「スペランカー=虚弱体質」というイメージが定着し、今季引退したプロ野球の多村仁志選手など、ケガが多かったことから「スペランカー多村」というあんまりなニックネームをつけられていた。外国人が聞いたら、いったいどんな選手かと思うだろう。

 だが、人間がこんなカンタンに死ぬのは、いかがなものか。呼称がなくては不便なので、ここでは主人公キャラを「Mr.スペランカー」と呼ぶことにして、彼の死亡まみれの人生に、科学で迫ってみよう

車の屋根から飛んだら死ぬ!?

 まず、落下による死亡から。Mr.スペランカーは、身長が16ドットで、落下高度が14ドットを超えると、死ぬように設定されているという。
 死にやすいにもホドがある。16ドットの身長を、現実の人間の160cmに置き換えると、死亡高度の14ドットとは140cmである。乗用車の屋根ぐらいの高さであり、ここから飛び降りた程度で、いちいち律儀に死んでいたら、文字どおり身がもたないだろう。

車の屋根のイメージ
乗用車の屋根。

 そもそも人間という生物は、どのくらいの高さから落ちたら死ぬものなのか。もちろんそれは、打ちどころや、落下地点の状況次第。転んだだけでも頭を打てば死ぬことがあるし、アメリカには、39階から落ちたにもかかわらず、車に足から着地したおかげで、両足の骨折だけで済んだ例があるらしい。
 アメリカの医師が『ニューヨークポスト』紙で「4階か5階からの落下で50%の人が死亡する。10階、11階の高さになれば、ほぼ100%助からない」と発言している。医者の言うことは聞いたほうがいいので、ここは10階から落ちたら100%死ぬと仮定しよう。1階あたりの高さを3mとすれば、人間は高度30mから落ちたら、よほど運がよくない限り、死ぬということだ。
 それに対して、Mr.スペランカーの100%致死高度は、たったの1.4m通常の人間の21倍も死にやすい!

卵より虚弱!

 これは由々しき事態である。1972年の日米大学野球で、二塁に滑り込んだ選手が、ショートからの送球を頭部に受けて、死亡するという痛ましい事故が起きた。
 ボールのエネルギーは速度の2乗に比例するから、エネルギーが21分の1なら、速度は4.6分の1になる。送球が時速80kmだったとすれば、その4.6分の1は時速17km
 これは、最大飛距離が2.3mというムチャクチャ緩いボールだ。それが頭にコン、と当たっただけで、Mr.スペランカーはお亡くなりになる!

ムチャクチャ緩いボールのイメージ
ムチャクチャ緩いボールのイメージ

 死なないまでも、日常生活が危険に満ちているだろう。たとえば、一般的な住宅の階段は一段あたりの高さが20cm程度だが、Mr.スペランカーがそこをトントンと下るのは、一般人が高さ4.2mからドスンドスンと落ちるのと同じ。大ケガするだろうなあ。

 それにしてもこれは、どれほどの虚弱さなのか。そこで、豆腐プリンを、それぞれの厚さや長径の16分の14という高度からテーブルに落とす実験をしてみた。
 なんと豆腐もプリンもまったく平気だった。Mr.スペランカーは、この柔弱な食品群より虚弱ということだ!
 卵は、パチッと音がして底の部分が小さく陥没し、テーブルの上に立った。おお、まさに「コロンブスの卵」状態。しかし、内側の卵膜に損傷はない模様で、白身が漏れ出したりはしていない。有精卵だったら、このまま温めればヒヨコに孵りそうだ。これは、卵としては「死んだ」とは言えず、「軽傷」と診断したいレベル
 同様の衝撃でアッサリ死んじゃうMr.スペランカーは、卵より虚弱だ!

【新連載:空想科学ゲーム読本】実は卵より弱かった!『スペランカー』の死ぬほど死にやすい虚弱っぷりを柳田理科雄が検証してみた_002

 ここまで虚弱な体質だと、たぶんドアに頭をぶつけたり、人とぶつかったりしただけで、死んで死んで死にまくるだろう。幸いゲームのキャラなので、何度死んでも生き返るけれど、生きているヒマなど、まったくない

コウモリの糞で死ぬ!?

 Mr.スペランカーには、さらに「その死に方は、あんまりでは?」と思われる死亡パターンもある。コウモリの糞を浴びただけで死んでしまうのだ!
 どういうことだろうか? コウモリは翼を羽ばたいて空を飛ぶ唯一の哺乳類で、それだけに体重が軽い。日本に多いアブラコウモリは体重5~11g。世界最大で、羽を広げた幅が2mに達するオオコウモリでも、体重2kgほど。その糞なんて、オオコウモリでも一かたまり10gほどではないだろうか。これが高さ3mから落ちてくる衝撃は、時速17kmの野球ボールの6分の1。そのうえ糞だから柔らかい。これでなぜ死ぬの!?
 ひょっとして、コウモリの糞が死ぬほど嫌いで、心因性のストレスで落命するのだろうか。だとしたら、さすがに生活スタイルを考え直したほうがいいと思うなあ。

エジプトルーセットオオコウモリ(画像はWikipediaより)

 洞窟に住むコウモリは、夜間は外へ出て餌を食べ、朝になると戻ってきて眠りながら糞をする。洞窟には、その糞に含まれる有機物を餌にするハエやゴキブリなどが住んでいて、さらにそれらを食べるクモなども生息している。それらの死骸を分解する細菌もいる。洞窟の生態系は、コウモリが外から持ち込む有機物をスタートにしているのだ。
 つまり洞窟にコウモリはなくてはならない存在。コウモリは洞窟の恵みの母。そのコウモリの糞に当たって死ぬような人は、洞窟に行くべきではありません。

 健康のためにも、Mr.スペランカーには、どうか家でじっとしといていただきたい。【了】

プロフィール
理系作家。空想科学研究所の主任研究員として、書籍の執筆を続ける一方で、各地での講演、ラジオ・TV番組への出演など精力的に活動。2007年には『空想科学 図書館通信』の無料配信を始め、現在も継続中。代表作『空想科学読本』シリーズは、現在17巻まで刊行。明治大学理工学部の非常勤講師。
空想科学研究所公式サイト:www.kusokagaku.co.jp
Twitter:@KUSOLAB



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