一般的にゲームをプレイするには、視覚情報がもっとも重要になることが多い。音を消してゲームをプレイすることはさほど難しくなくても、画面を消してプレイすることは非常に難しい傾向にある。狙って撃つことが中心となるFPSやTPSといったシュータージャンルは、特に視覚情報が重要になるゲームだ。
しかし、ここにその視覚情報なしにゲームを楽しむ人物が現れた。SightlessKombat氏は全盲でありながら、『Gears of War 4』(以下、Gears 4)のホードモードを音だけでどうやって楽しむか、チュートリアル動画をアップロードした。
『Gears 4』のホードモードはアリーナ形式のマップで、襲いかかってくる敵の集団と戦うゲームモードだ。本作に搭載された「Hord 3.0」はシリーズで初めてクラスとスキルを導入し、ストーリーでも重要なアイテムであった「ファブリケーター」も登場する。敵を倒し、ドロップするパワーをファブリケーターで使用し、戦闘に役立つアイテムや武器を手に入れてさらなる敵の大軍を相手にするのが基本的な流れとなる。
SightlessKombat氏が遊ぶのは、ホードモードの中でも接近戦を行う敵が多く登場する「Juvie Madness」だ。
SightlessKombat氏が選んだクラスはスカウト。このクラスは敵がドロップしたパワーを通常の2倍手に入れることができるクラスで、用意されているスキルは近接戦と生存重視のものが多いのが特徴となっている。
SightlessKombat氏のスカウトは最大となるレベル10まで育成されており、スキルカードが5枚選択できるようになっている。スキル構成は近接攻撃のダメージアップのほか、HPを2倍にし、回復速度を高め、パワーを拾うとHPが回復するという生存能力を高める構成になっている。
ホードモードが始まると、「Tac-Com」ボタンを押して「FABRICATOR PING」を有効にする。これは『Gears 4』の2018年6月のアップデートで追加された機能で、重要なアイテムであるファブリケーターの位置を音で知らせるという機能だ。SightlessKombat氏自身が開発元のThe Coalitionに提案し、採用されたものである。
ファブリケーターの近くまで到達したと思ったら、一度Yボタンを押す。ファブリケーターがすぐそばにあればキャラクターが装置の端を持って、専用のセリフを発する。このセリフが再生されたということは、ファブリケーターがそこにあるということになる。
ホードの序盤は小さくてすばしこい「ジュビー」と、プレイヤーの近くまでやってきて自爆する「トラッカー」が登場する。SightlessKombat氏は、この2種類の敵の接近を足音で判別している。
トラッカーは接近すると特徴的なカウントダウン音とともに自爆するので、その音を聞いたらすぐに蹴飛ばしている。ある程度敵が多いときは近接攻撃も当たりやすいが、最後の1体になったときは敵の攻撃のダメージ音を合図に近接攻撃を放って倒している。
3Wave目ではショットガンを使って敵を倒す離れ業も披露している。近接戦とほぼ同じ要領で攻撃しているとはいえ、目が見えないとは思えないほど、シューターとしてこのゲームをプレイしている姿を見ることができる。
危なげなく進んでいくが、Wave5からはガトリングガンを装備した「DR-1」や空を飛ぶ「ガーディアン」が登場する。特にシールドを張り、空を飛ぶガーディアンは銃を撃てなければ対抗しようがない。SightlessKombat氏は、このWaveで初めて防衛施設であるセントリーガンなどを使用する。音だけを頼りに敵の位置を把握しながら、ファブリケーターで防衛施設を購入し設置する。これがどれほど難しいことかは、モニタを消したまま音だけでゲームを遊んで見ればすぐに分かるだろう。
映像では最終的にガーディアンの攻撃が散発的になり、セントリーガンの射線に敵をおびき寄せようとマップを移動するものの失敗。クリアーを諦めることとなる。
「FABRICATOR PING」のおかげで『Gears 4』のホードモードは全盲であっても遊びやすくなっている。しかし、まだまだ課題は残っている。特に重要な敵の落とすパワーは、どこにあるか視覚情報以外では探しようが無く、近接攻撃で敵を倒した場合に限り、前に進めば取得できるものになっている。激戦の後にパワーを探すことは難しく、マップを歩きながらたまたま拾えることを祈らなければならない。
他にも、防衛施設の購入も障害になっている。激しい戦闘中ではこういった施設を置く暇などほとんど無い。これは『Gears 4』のアクセシビリティは向上しているが、まだまだ完全ではないことを示している。しかしマイクロソフトは2018年にアクセシビリティを追求したコントローラー「Xbox Adaptive Controller」を発表している。今後もどのような背景を持つプレイヤーでもゲームを楽しめるような取り組みは続いていくだろう。
なおSightlessKombat氏は以前『Killer Instinct』で、同様のチュートリアル動画をアップロードして話題となり、海外メディアEurogamerは氏にインタビューを行っている。氏は全盲として生まれ、これまでは格闘ゲームや音楽ゲームを主にプレイしていた。以前は『Halo』や『NINJA GAIDEN』、『Heavenly Sword ~ヘブンリーソード~』も遊んだそうだが、あまりにも視覚情報による部分が大きすぎて諦めざるをえなかったという。
特に音響設定については良く質問を受けるそうだが、一般的に購入できるステレオヘッドセットでプレイしている。
氏は今年に入ってから『Halo 5』のチュートリアルも公開しており、『Gears 4』とともに本格的にシュータータイトルを楽しんでいるようだ。
近年では色覚異常を抱えるプレイヤー向けのオプションは多くのゲームでも取り入れられており、ビデオゲームのアクセシビリティも向上し続けている。しかし、こういった取り組みはまだ発展途上であることがわかる。だが、SightlessKombat氏のようなプレイヤーや企業の取り組みによって、今後もさらにプレイヤーに優しいゲームづくりが発展していくことが期待できる。
【更新 2019/2/4 18:10】 記事タイトルの誤字を修正しました。
ライター/古嶋誉幸