マイクロソフトは、8月1日(日)からマイクロソフトストアで販売されるPCゲームの利益分配を「88:12」に変更すると発表した。
つまり同日以降、PCゲームの販売に限りだが、マイクロソフトストアの利用手数料が売り上げの12%となる。なお、Xboxプラットフォームでの利益配分率はそのまま、あくまでPCゲームのみの特例になる。
Xboxコンソールを販売するマイクロソフトだが、2021年以降もPCゲームに力を入れていくことをあらためて示した。PCゲーマーに向けては「デバイスではなく、ゲームを中心にコミュニティを構築する」とし、今後もクロスプレイやクロスプログレッションに力を入れていくとしている。
開発者に向けてマイクロソフトは、上記の通り12%の手数料に加え、さまざまな開発ツールで支援することを表明。DirectX 12 Ultimateや、Azureのクラウドインフラ、テクノロジー、およびサービスへの完全なアクセスをゲーム開発ツールの提供する「ID@Azure」を紹介している。
ストア手数料12%というのは、Epic Gamesが主張するプラットフォームホルダーへの適切な利益配分と同じ割合だ。これまでの商習慣として、ビデオゲームの販売において利益配分はストア側が30%、販売者が70%が一般的だった。コンソールゲームやAppStoreなどのスマートフォンストアでも、利益配分は「30:70」ほどだといわれている。
ゲームパブリッシャーのパラドックスインタラクティブによると、この「30:70」という配分の根拠の出どころは、1970年代までさかのぼれるという。当時VHS(カセットテープ)で映画を配給したワーナー・ブラザースが「30:70」の利益配分モデルを採用したと、同社の取締役会会長はgamesindusry.bizで語っている。ただし、これはあくまで物理的なVHSの販売を念頭に置いた商習慣だった。
ゲームおよびアプリ業界においては、配分率は「12:88」が適切だとするEpic Games Storeの登場で、少なくともPCゲーム販売での利益配分率については、さまざまな場所で議論されるようになった。Epic Gamesが最初にやり玉に挙げたのが、PCゲームのダウンロード販売では絶大なシェアを誇るValveのSteamだ。
Epic Games Storeはゲームの独占に積極的で、『キングダムハーツ』シリーズのPC版販売を成功させるなどの功績も残している。一方、ストア立ち上げ当初は、Steamで発売予定だったゲームを独占するなどし、一部のPCゲームファンの心象を悪くした。この件に関してEpic GamesのCEOティム・スウィニー氏は「ValveがSteamの利益配分率を“12:88”にすれば独占販売の中止を検討する」と語っている。
上記の通り、Steamも基本的な利益配分率は「30:70」だが、売り上げが大きくなるにつれて最大「20:80」まで引き下げになる。つまり、莫大な売り上げが見込めるAAAタイトルなどがより利益を得るシステムになっている。しかしSteamは5万本以上のゲームが販売されているが、その多くは小規模開発ゲームだ。このシステムを享受できるのは本当にごく一部で、多くの開発者には無関係だろう。
4月に行われたゲーム開発者会議(GDC)にて、ゲーム開発者3000人にとったアンケートで「デジタルストア利用手数料30%は正当か」という質問に、正当であると答えたのはわずか3%だった。ほとんどの開発者は、デジタルストアの利用手数料が30%であることに同意していないといえる。
マイクロソフトストアやEpic Gamesの利益配分率改善は開発者にとっては好ましいものかもしれない。一方、ユーザー目線ではSteamと比べるとどうしてもストアの貧弱な機能が目につくことは否めない。検索に便利なタグやゲーム別のフォーラムがなく、品数は多いが無数の基本無料ゲームに有料ゲームが埋もれかけている。
マイクロソフトもストアの貧弱さは自覚しているようで、ストア刷新に取り組んでいることを海外メディアWindows Centralが伝えている。正式発表ではないため未確認の情報となるが、今後に期待できる。
ライター/古嶋誉幸